ロバート・ピールの三つの言葉
■ 『オックスフォード政治引用句辞典』からの引用である。先ごろ、邦訳版が出た。
● 「われわれは人々の意向に従うためではなく、人々の利益を調整するためにここにいる。意向が利益に反するのであれば、従わない」。―1831年、英国議会庶民院での演説
● 「政府は国民感情の監督と抑制なしに存在できない」。 1831年、英国議会庶民院での演説
● 「断言はできないが、大声で叫ぶ者が一番害をもたらす」。― 1834年、英国議会庶民院での演説
この三つは、総てサー・ロバート・ピールの言葉として紹介されている。
なるほど、英国保守党の最初の宰相の言葉らしい。これが「保守主義」の統治感覚である。
目下、「反原発」デモが繰り返されている。
だが、ロバート・ピールの言葉に従えば、こういうデモは、盛り上がれば盛り上がるほど、政治上は敬遠される運命になる。デモに参加した人々は、「反原発という自分の意向を尊重せよ」と表明しているのかもしれないけれども、欺瞞的な政治家を除けば、こういう「意向には、従うことはない。政治家が手掛けられるのは、エネルギー需給にかかる関係各所の「利益」を調整するということでしかない。昨日のデモには、とある音楽家が加わっていたらしいけれども、彼には、「反原発は貴殿の利益に、どのように具体的に関わるのか」と問いかけられなければならないであろう。また、「大声で叫ぶ者が一番害をもたらす」という言葉に従えば、デモ参加による「声」が大きくなればなるほど、その「害」も大きくなるということである。加えて、こういうデモが、人々の「感情」に足場を置くかぎりは、それを抑えるのが政府の存在証明になる。「デモで何かが決まる」ということはないのである。
それにしても、こういう辞典は、日本版は成立しないのであろうか。
「オックスフォード版」は出典が西洋偏重になるのは仕方がない。
「耳を傾ける」趣旨でいえば、こういうものを「日本政治家言行録」として東京大学出版会辺りが用意することが大事なのであろう。
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Comments
ロバート・ピールの三つの言葉ですが、我が国では、天草・島原の乱以降の文治政治への転換により、同じような系譜を歩んできたかのように感じてしまいます。
統治する側とされる側が、大流血の惨事を避けるべく、お互いの距離感を適度に保ち、大声を出さず、利害調整を進める知恵が確立していったように思えます。
江戸時代における政治家たちの言葉も引用句時点に加えられればと味わい深いものがあるのでは・・如何でしょうか。
Posted by: SAKAKI | July 22, 2012 07:51 PM