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January 05, 2012

「引用」のリスク

■ 学者もそうであるけれども、政治家も言葉の「引用」を日常とする商売である。
 政治家にとっては、演説で、何を引用するかは、かなり大事である。
 この点、近年の政治家では、小泉純一郎は図抜けていた。
 「米百俵」演説は、その一例だった。

 ところで、野田佳彦が年頭会見でウィンストン・チャーチルの言葉を引用したと報じられた。
 「どじょう」と「正心誠意」に次ぐ引用である。
 だから、雪斎は、「チャーチルのどの言葉を引っ張ってきたのか…」と反応したのである。
 事情は、次のようなものであったらしい。 
 □ ネバー、ネバー、ネバー、ネバー・ギブアップ
 野田首相は4日午前の年頭記者会見で、第2次世界大戦でドイツとの攻防に勝利した英国のチャーチル首相の言葉を引き合いに、消費税率引き上げの実現にかける決意を強調した。
 首相は、チャーチル首相が1941年に語った言葉にならい、「『ネバー、ネバー、ネバー、ネバー・ギブアップ』(決してあきらめない)。大義のあることをあきらめないでしっかりと伝えていけば、局面は変わると確信している」と強調した。
 首相は消費税増税をめぐり、党内に反対派を抱え、野党の協力を得られるメドは立っていない。劣勢をはね返して勝利をつかんだチャーチル首相に重ね合わせて自らを鼓舞したようだ。
                       (2012年1月4日12時29分 読売新聞)
 
 この記事を読んだ際、雪斎は、このチャーチルの引用が却って野田の「底の浅さ」を暴露することになるであろうと直感した。誠に引用が平板だったからである。
 野田が引用したと思ったのは、1941年10月、チャーチルが母校であるハロー校で行った演説である。これは、英語圏では、「決して降伏しない("Never Give In" Speech)」演説として有名なものである。この「降伏しない」演説には、次のような一節がある。

 Never give in. Never give in. Never, never, never, never--in nothing, great or small, large or petty--never give in, except to convictions of honor and good sense. Never yield to force. Never yield to the apparently overwhelming might of the enemy.

 案の定、チャーチルは、野田が引用したように「決して諦めない」と語ったのではく、「決して降伏しない」と語ったのである。故に、野田の引用も、それ自体としては正確ではない。1941年10月というのは、米国の参戦の手前の時期、「バトル・オブ・ブリテン」のもっとも困難な時節である。チャーチルが「決して降伏しない」と語ったたことからは、時代の切迫感が伝わってくる。
 しかも、チャーチルは、対独戦継続のために、蛇蝎のごとく嫌った社会主義者(労働党)を閣内に入れていたし、「もっとも堕落した」ソヴィエト共産主義体制とも手を結んでいた。野田の言葉は、こうした政策オプションを考慮に入れているのか。
 野田の「言葉の番人」は、いないのか。雪斎のような一介の学者が酔っぱらってブログで並べている言葉とは違うのである。

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Comments

英語の専門的な話ですが、give up と give in では、かなりニュアンスが違っていて、「もうダメでお手上げ」と「不本意に屈する」になります。
ネバーギブアップを使うようだと、チャーチルの言葉の琴線に触れもぜず、浅薄な言葉取りに終始した感が否めません。
ここは日本人ですから「不退転の覚悟」とか、「不倒翁の如く」とか、言えば良かったんじゃないですかね。
ただ、前向きに政治を進める印象を強く押し出したかったのなら、否定的な言葉は避けるべきでして、ならば、ここで政治家としては一巻の終わりでしょう。
貴乃花が言った「不惜身命」はすばらしいので、これがよかったのにと思いました。

Posted by: 山田博永 | January 05, 2012 at 12:08 PM

お久しぶりです。
 田舎の疲弊を地方の富の流出とするなら、なんと電気・ガス等のエネルギー支出がいちばん大きいのだそうですね。
 年始のTV番組で見たのですが・・
 バクテリアが作った油での自動車走行実験が成功したそうですし、田舎の山の間伐材をチップとすることで、灯油より安い暖房用の燃料が流通し始めているとのことです。
 ある意味、耕作放棄地や里山に富を生み出す仕組みがたくさん埋もれているのですから、消費税増税に躍起にならなくても、エネルギー革命による内需拡大を図るって、いいアイデアだと思うのですが・・・。

Posted by: SAKAKI | January 06, 2012 at 10:53 PM

我が連立は、血、労苦、涙、そして汗以外の何も提供するものはない。我々はどんな犠牲を払おうとこの権力を守る。我々は海岸に税を科すだろう。我々は水際に税を科するだろう。我々は野に、街頭に、丘に税を科すだろう ネバー、ネバー、ネバー、ネバー・ギブアップ! 

Posted by: うおずみ | January 14, 2012 at 09:08 AM

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