対中ネガティブ・イメージの拡散
■ 尖閣に関して、中国が南沙諸島・西沙諸島でも騒動を引き起こしている「問題児」である実態が頻繁に伝えられているのは、結構なことである。しかも、それが、「欲深な中国」というイメージの拡散と重なり合っているのだから、中国の被るダメージは、かなりのものになるであろう。
何分、日本人の価値意識からは、「欲深い」というのは、最も嫌われる性向である。
『花咲か爺』『舌切り雀』『鶴の恩返し』『金の斧 銀の斧』・…。
日本の昔話で戒められているのは、この「欲深い」という性向なのである。
一旦、ついたネガティブ・イメージの払拭は難しい。
「ソフト・パワー」軽視の帰結であろう、
ところで、前のエントリーで、検察審査会のことを書いたら、早速、動きがあったようである。
□ 【尖閣衝突事件】検審に審査申し立て 福岡県内の男性
産経新聞 2010.9.27 19:35
27日、故郷に戻り歓迎を受ける中国船船長(中央)=AP 沖縄県尖閣諸島周辺での中国漁船衝突事件で、公務執行妨害容疑で逮捕、送検された中国人船長を那覇地検が処分保留で釈放したことについて、福岡県内の男性会社役員(52)と男性医師(62)が27日、検察審査会に審査開始を申し立てた。
会社役員は「犯罪構成要件を満たしていながら起訴しないことは、司法としての責務を放棄したことになる」とし、医師も「釈放の理由で計画性がないことを挙げたが、船長は帰国後に再び尖閣領域に漁に出ることを公言し、反省の色がまったくない」としている。
検察審査会は検察が起訴しなかった事件を審査するため、処分保留の現段階では申し立てが却下される可能性もあるが、会社役員は「却下される可能性は分かっているが、日本人の誇りを傷つけられ我慢できなかった」としている。
なるほど、現時点の那覇地検の判断は、「処分保留」であって、「不起訴処分」ではないのである。それならば、検察は、正式の処分というオプションも残っているわけである。
「レアアース禁輸」も、実際の産業上の影響はともかくとして、中国が日本に対して誠に敵対的な対応しているという象徴的な意味合いを考えるべきであろう。そもそも、日本が他の国から狙い撃ちにされる形で禁輸措置を食らったというのは、日米開戦直前の米国による「石油・屑鉄」禁輸ぐらいしかない。1973年の石油輸出国機構による石油禁輸も、その対象は「米国と同盟国」であって、日本ではなかった。レアアースが、本当にレアなのかはともかく、そうした象徴的な意味合いの重さを考えるべきであろう。「日本に対してだけは眼が曇る」のが、中国にも韓国にも共通した習性であるけれども、この習性が実は彼らの振る舞いを狂わせる。雪斎ならば、その習性を利用して、中国を国際孤立に追い込むような手順を考える。前のエントリーで、「いいぞ、もっとやれ」と書いたのは、そうした趣旨である。
案の定、こういう記事が出ている。
□ アジア諸国で広がる中国脅威論 「尖閣問題」に疑念、懸念、警戒 (J-CAST)
尖閣諸島沖の漁船衝突事件に端を発した日中両国の関係悪化は、周辺諸国にも影響を与えている。各国の報道で「中国脅威論」を唱える国が出てきたのだ。
中国と並ぶアジアの大国インドの新聞では、中国を「安全保障上の心配の種」と呼ぶ。近年、中国と雪解けが進む台湾のメディアも、「目的を果たすためには武力すらいとわないのでは」と疑いの目を隠さない。中国との領土問題を抱える東南アジアでも、日中、さらには米国の関係がこじれて火の粉が降りかかることに懸念を示している。
インドの「ヒンドゥスタン・タイムズ」(電子版)は2010年9月25日の社説で、中国の日本に対する強硬な対応を取り上げた。中国の台頭はアジアの安全保障に懸念を抱かせるもので、尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に衝突した中国漁船の船長を日本側が拘束したことについて、同紙は「中国側はほとんど狂乱ともいえる反応」をとったと表現。将来大国となる中国の成熟度は、その急成長ぶりに反比例していると断じた。一部のメディアでは、問題解決に向けた日本の政府高官との会談を拒否した中国を「やりすぎ」と伝えたところもある。後略。
期待通りの展開である。こうした中国観をコンセンサスにしていく必要がある。じわりじわりと…。
そして、日本としては、何の感情も交えず、前のエントリーでも書いたような対応をとるべきである。もうすでに、「何をすべきか」は、出尽くしている。
雪斎は、日本の「「ナショナリズム」に火がつけば、それは、手がつけられないものになるとみている。軽薄な日本のナショナリスト連中ならば、そうしたことを期待するかもしれないけれども、ナショナリズムは、世俗宗教のようなものであるから、それが激化した結果は、かなり危険なものになるであろう。だからこそ、政治指導層は、自国の国民が対外関係において明白な屈辱を覚えるような対応を避けなければならない。民主党内閣は、もしかしら、「日本のナショナリズム」をたきつけるのを目指しているのか。
他国との一触即発の風景がリアルで体験できそうだというのも、「思いもよららぬこと」である。「ナショナリズム」を等閑視し、その制御に熱心に取り組もうとしない姿勢は、結局は、「ナショナリズム」の暴走に手を貸すのである。民主党内閣の失態は、そうした方向でも悪しき影響を及ぼす。
付記、中国政府は、「軟化の兆し」を示したと報じられている。一時期的な「軟化の兆し」などには、幻惑されてはならない。折角、「普通の国」への脱皮にむけた機会を、中国政府が、用意してくれたのだら、この機会に乗ずべきである。
「国際情勢」カテゴリの記事
- 「外交青書」と韓国の抗議(2012.04.07)
- 「想定外」の話(2011.03.02)
- 「国後」の仇を「尖閣」で討つ。(2010.11.03)
- 罵倒を切り返す感性―「ひのもと おにこ」(2010.11.01)
- 日本鬼子(ひのもと おにこ)(2010.10.30)
The comments to this entry are closed.
Comments
よくリベラル系から「中国政府は大人で理性的で穏健に進めたいと思ってるが、中国国内の過激な大衆の突き上げがあるから、仕方なくガス抜きのポーズとして強硬姿勢を取るのだ。こちらも冷静に」という言説が流されて、自分自身そういうものかなと中国政府に期待してもいたんですが、中国政府が大人なんて大嘘でしたね。
反中ではないと自認していた者ですが、中国政府も中国人もともにもう駄目だという考えに至りました。
左系の人も今回の件では中国に対して相当怒っていました。
これが覚醒ですかね。
Posted by: 昔 | September 29, 2010 06:29 AM
中国政府にとって更に悪いのは、中国からの観光客が各国にもたらす悪印象も、チャイナリスクを加速しているのではないでしょうか? 日本でも郷に入って郷に従わない彼らに対して悪印象を抱く事が増えてきている様に思えます。
戦前の日本と今の中国は「自分にとって不本意な現状の変更を望み、実力を持って変えようとしている国」という点で共通しています。かつての欧米列強と同じく「現状維持、もしくは権勢を維持できる緩やかな変更なら受容できる」になっている所に歴史の皮肉を感じますが。
ナショナリズムについてはそれほど心配しなくても良いのではないかとも思えます。皮肉ですがいわゆる「自虐史観」というマイナスのナショナリズムが日本を席巻していましたから。軽薄なナショナリストと雪斎先生が評する人達が、マイナスをプラスにしようとしても、今までのマイナスの蓄積から考えて差し引きゼロの辺りで落ち着くと思えます。何しろ、中朝韓の様に半世紀前の事を拠り所とする必要が無いくらい、自国の誇りの根拠を色々持ち合わせているのですから。政治ジョークで、日本があまりに恵まれた条件だから神が中国と韓国を隣に置いたというのがありますけど、事実かもなぁと思える国ですしね。
Posted by: almanos | September 29, 2010 11:23 AM
フジタの社員3名が解放されましたが、彼らは中国から次のように脅迫されていることでしょう。一つは、軍事施設に入った事実を認め、拘束には違法性がないことを自ら認めて話すこと(中国の拘束に違法性がないことを人質自身に証明させる)。二つは、一つ目のことを確実に実行しなければ、残る社員の命は保証されないこと、またフジタは中国国内でいかなる事業も出来ないこと…まさに、中国は「ヤクザ」そのものと言えるでしょう。
また、これまでの民主党の政権運営を見てきて「沖縄をこれほど馬鹿にした政党もないだろう…」と思っています。成算もないのに普天間基地の「県外移転・国外移転」を唱えて、期待をあれだけ煽っておきながら、県民を失望させ怒らせたばかりでなく、尖閣諸島の事件では中国の脅しに慌てふためき、沖縄の八重山地方を中国の侵略から守る意思も準備もないことを明らかにしました。
沖縄では民主党を支持する方が多いそうですが、民主党の思考や行動を見ていると「地獄への道は善意で敷き詰められている」という言葉しか思いうかびません。沖縄が中国という「遅れてきた帝国主義国」の脅威に曝されているというのに、なんてお気楽な政党なのだろうか…と暗澹たる気分になります。
Posted by: いしかわ | October 01, 2010 08:17 AM
あのなあ、どう考えても表紙の肖像画をマキャベリからアメリカの大統領に代えた方がいいと思うな。
この史上最大の戦略家にたいへん失礼なことだよ。
これまで一千兆円を超える日本の富を宗主国に搾取されていながらまだ属国であり続けたいと願うお前や大手メディアの主張は、俺の理解を遙かに超えている。
Posted by: 属国の一奴隷 | October 01, 2010 01:00 PM
今回『対中ネガティブ・イメージの拡散』のブログをWEBRONZAテーマページにリンクさせていただきました。
不都合な場合、WEBRONZA@asahi.comにご連絡ください。
宜しくお願い致します。
WEBRONZA編集部
Posted by: WEBRONZA編集部 | October 01, 2010 08:23 PM
>これまで一千兆円を超える日本の富を宗主国に搾取されていながら
確かに米国債は、帰ってくる事の無いお金かもしれません。ですが、資産は資産ですし、IMFへ米国債貸し出し等も行っており、完璧な使い方とは思いませんが、ある程度意味の有る物だと思います。
http://info.hd-station.net/data/jp/gaika.pdfを見ればわかるけど、外貨準備(米国債)が大きく増加したのはプラザ合意後で、米国債の保有が無ければ、為替がどうなっていたかとか、考えてみた方が良いと思いますよ?日本は可能な範囲で米国を助ける事が国益だと思います。シーレーンを日本だけで守る事は不可能ですし、(米国のやり方が完全だとはまったく思いませんが)世界の安定が自由貿易で国を成り立たせている日本の国益だと思います。
Posted by: 学生さん | October 02, 2010 04:01 PM
ぐっちーさん曰く
中国が、なんと外交声明で発したCore Interest とは、外務省的訳では核心的利益でその意味とロクに解説していませんが、本来は、この利権の獲得のためならあらゆる手段を講じる=戦争も辞さない・・という意味だそうですね。
ちと 吾らは平和ボケしすぎています。
まー 尖閣を中国軍に占領させるのも手でしょう。補給を断ってミサイルで全滅させるのは難しいことではありません。
むしろその武力を用いる覚悟があるか否かが、国家の在り方を決めるように思えます。中東から帰ってくるアメリカ軍にとっては、その存在価値を示す最良の場かもしれません。
Posted by: SAKAKI | October 05, 2010 08:58 PM