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June 09, 2010

「社会主義プロジェ」の亡霊

■ 1980年代初頭、フランソワ・ミッテラン時代のフランス社会党政権が断行しようとした政策パッケージに、「社会主義プロジェ」というのがある。
 どういう中身の政策か。
 大体、下のごとくである。
 1 主要基幹企業、金融機関の国有化
 2 富裕層への課税強化、
 3 低所得層への所得穂展
 4 雇用対策
 5 財政の膨張を伴う大型予算
 ただし、この「社会主義プロジェ」は無残な失敗に帰した。株価低迷と景気失速、インフレーション加速、失業率上昇という結果に相成った。
 雪斎が読んだ限り、、「社会主義プロジェ」に関して最も詳細な説明をしているのが、吉田徹著『ミッテラン社会党の転換』(法政大学出版会、2008年)である。これは、面白き書である。
 この書によれば、1980年代、マーガレット・サッチャーやロナルド・レーガンらの「新自由主義」路線の展開は、この「社会主義プロジェ」の失敗によって、劇的に促された。今に至る「新自由主義」路線にとって、ミッテランの失敗は、揮発剤としての役割を果たしたのである。
 ミッテランは、「社会主義プロジェ」の失敗の後、それまでの信条を捨てて、「自由主義」路線への「転回」に踏み切った。首相をローラン・ファビウスに任じて、所得税や法人税の軽減、社会保障関係費の国民・企業負担の軽減、社会保障支出の削減が打ち出されたのである。結果として、1981年を底にした経済の復調が実現されたのである。現在、ミッテランがシャルル・ド・ゴールに並ぶ「偉大な政治家」として語られるのは、その「転回」の故である。

 ところで、「民主党マニフェスト」に示されたような民主党内閣の志向が「社会主義プロジェ」と酷似しているという指摘がある。
 確かに似ている。^
 1 主要基幹企業、金融機関の国有化
  → 「日本郵政」の実質。再国有化
 2 富裕層への課税強化、企業・金融機関への課税
  → 所得税率の累進性強化、環境税の導入
 3 低所得層への所得補填
  →  農家個別所得補償、「子供手当」、生活保護母子加算復活
 4 雇用対策
  → 若年雇用の推進
 5 財政膨張予算 
  → 92兆円規模2010年度予算
 つまり、1980年代前半のフランスで失敗した「社会主義プロジェ」と同じことをやろうとしているのが、民主党内閣だということになる。早速、「金持ちに課税して、子供手当に…」ということを菅総理が語ったはずである。これで、「富裕層への課税強化」という方向も出てきた。環境税というのも、企業に負担を課す政策志向である。
 だとすれば、この「民主党マニフェスト」も、「社会主義プロジェ」と同じ運命をたどりそうである。往時のフランスと今の日本とでは、条件は異なるであろうけれども、「社会福祉を軸とした財政支出により経済を復調させる」という議論の仕方は余り変わらない。そうしたスタイルの政策も…。
 結局、日本の将来にむけて推し進めるべきは、「小泉・竹中」路線と呼ばれるものの貫徹しかない。「小泉・竹中」とはいうけれども、昔の小沢一郎氏や「日本新党」出身の多くの議員は、同じ政策志向だったはずである。
 ・ 所得税、法人税の劇的な軽減
 ・ 消費税の引き上げ
 ・ 社会保障支出の抑制
 「転回」以後のミッテランよろしく、こういうことをやってもらう必要がある。加えて、ミッテランが「社会主義」よりも「欧州統合」に関心を移ししたのと同じ理屈で、世界の「新興国」市場の獲得に本腰を入れた対応を加速させる必要もあろう。国民の「日々の糧」を提供するのは、国家(政府)ではなく企業であるということは、厳然たる事実として確認されるべきものであろう。
 何故、口蹄疫対応が阿呆らしかかったといえば、「輸出産業」としての「和牛」にダメージを与えたことにある。赤松農水相は、慙愧の言葉も残さぬままで退任か。赤松氏の同類に、「世界・食の祭典」の大失敗のように、北海道知事としての失政を反省しないまま国政に戻った方が、過去にもいたような気がするが…。誰だったろうか。最近は、若い時の頭脳の酷使が祟り年をとったせいか、「ど忘れ」がひどいもので…(苦笑)。
 ということで、是非、民主党、特に菅総理には、ミッテランのような「転回」を期待しよう。とても、できないであろうとは、思うが…。できないのであれば、さっさと政権を返上してもらおう。

 話は替わる。安倍晋三元総理が菅内閣を「左翼内閣だ」と批判しているそうである。批判の焦点が、おかしくないか。こういう批判を聴くと、、自民党の再建に途方もなく不安を感じるのだが…。「今の民主党は、30年前のフランスで行われて失敗したものと同じことをやろうとしている…。それでいいのか…」と突っ込めば、よさそうだが…。

 …このエントリーのアクセス数は、少なそうである。「どうでもよい」エントリーには、アクセス数が増えるものだと判った。くわばら、くわばら。

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Comments

民主党主流の政策の指向は「社会主義プロジェの復活」というような、大陸欧州の社民主義的発想、というより、ポスト冷戦期のモデルを構築し得ない中での「昭和への郷愁」的な発想のように感じられます。小野氏のようなニューケインジアンの産んだ成果を無視する(現在では異端的な)オールドケインジアンの政策を採用するあたり、非常に時代錯誤的な香ばしさを感じます。
『昭和日本は政官財トライアングルの下、冷戦環境下で「共産主義の脅威」をはね除けるために「世界で最も成功した社会主義国」とまで言われるほど、野党にさえ先取りして「社会主義のいいとこ取り」を進める政策指向で成功した』
とする時代認識は概ね正しい、と私は思っております。そして、昭和の味を知る大多数の有権者が、ポスト冷戦モデルが構築できない中での長引く経済的低迷に対するいらだちとして、潜在的に「昭和に帰りたい・・・」との意識を持ってしまうのは、成功体験にしがみつく人間の性からして、それはそれで無理もないわけで(私個人としては『国際環境が違う中、昭和と同じことをやっても昭和と同じ効果が出るはずは無い』という意見の方に賛同しますが)。元市民運動家ならではの大衆迎合への独特の嗅覚を持つ管氏のこの方向への舵の切りよう、あるいは選挙師として民意に敏感な小沢氏の新自由主義からの転向、共にこのような「大衆の郷愁」に敏感に反応できる両者の政治家としての「体質」に起因した判断であって、元北海道知事の方のような「社民主義的発想」とは根本は異なると観察しています。結果的に「大陸欧州の社民主義的発想」と似た政策となっただけで、根幹は「昭和日本の政策が表面上、多分に社会主義的であったこと」「民主党主流の指導的立場にある政治家にポピュリスト的体質があること」という両者が結びついたがゆえの帰結かと。

ポスト冷戦に対応しないままずるずる来たこの20年の経済が悪すぎたために、小泉内閣に期待した「今までとは違う仕組みが必要」が、いつのまにか「昭和に帰りたい」との郷愁になってしまっているのが現在の日本の姿なんだと思います。
「ポスト冷戦はこれ!」というのがあれば、模倣による「追いつき追い越せ」には絶大な能力を発揮し、良い意味で付和雷同的な国民性を持つ日本も進む道を決められるんでしょうけど・・・ポスト冷戦モデルを明確に確立した国がないのも日本にとっては厳しいところで、今のところポスト冷戦モデルというと
・中国:トウ小平復活以降の改革開放路線(実は結果的にポスト冷戦への取組が
  一番早かったのかも)
・大陸欧州:理念もへったくれもなく否応なしにポスト冷戦に取り組まざるを
 得なかった統一ドイツを筆頭とする拡大EU路線
・米国:冷戦勝者の実績を背景とした新自由主義路線
といったところでしょうか。
このうち中国は出発点が違うので真似ができない、EU路線は(現在のユーロ危機は別にしても)成功しているのか微妙な上、東アジア(あるいは太平洋)共同体を目指すには周辺国との環境が整っていない(鳩山氏は最終的にはこの路線を睨んでいたのでしょうけど)と考えれば、新自由主義路線しかないのだろうな、とは私も思います。
ただ、新自由主義への転換は、元々、個人の自由が根付いているアングロサクソン発の発想であるだけに日本の文化的土壌と相性が悪い上、マキャベリの喝破以来、未だに解決困難な「改革に支持を得る」という難題を含んでいます。民意を汲む限り、政治での「一見、社民主義的な」政策への回帰への流れは止め難いと思います・・・

ちなみに安部氏の「左批判」発言は(これが宣伝用でない本気の発言なら、ですが)、
「大衆の閉塞感、そしてそこからくる「昭和への郷愁」感覚を捉えていない」
「左だ、右だ、という古いパラダイムの物差しで評価していればこと足りる、という冷戦頭」
という二重の意味で、お粗末な発言と感じます。

Posted by: Shin | June 09, 2010 04:06 AM

結局・・誰に投票してよいのか・・。

Posted by: SAKAKI | June 09, 2010 06:37 AM

こんにちは。

安陪さんですか?

自分の野心実現のために事前には健康問題をひた隠しにし、挙句のはてにはそれを理由に(命もかけられずに)総理の職を投げ出された方に政治を語る資格はもはやない。

未だに国会議員であること自体、血税の無駄遣いだと思います。先祖の遺産を全部国家に納付してゼロからやり直してもらえんだろうか?ついでに麻生さんも。

本当にそう思います。

Posted by: チャーリー | June 09, 2010 06:48 AM

このブログの一時的な低調をやや心配していた比較的古株の読者としては、このエントリーとそれへのShin氏のコメントは、感激ものでした。民主党の政策が、「昭和への郷愁」に出たものだという指摘は、Shin氏のおっしゃるとおりかと思いますが、雪斎氏の狙いは「ミッテランの転向」の訓話を引き出すことに重きがあったではないでしょうか?
ある意味で「敵に塩を贈る」ようなエントリーですが、雪斎氏の度量の大きさを示すものと愚察しました。

Posted by: Korekiyo | June 09, 2010 10:10 AM

全くもって同意です。安倍さんや麻生さんの「イデオロギー批判」は一部の人に受けるだけで、日本の深刻な病状(財政破綻の危機、異常な自殺率)を理解しているとは思えない。

私は雪斎さんと違って自民党を支持しているわけではないが、「保守」を標榜する政党が間違いなく必要だと思う。
「右」か「左」といったイデオロギー論争ではなく、「規制緩和」「民営化」「雇用の流動化」「財政再建」といった、既得権を打ち破る、真の意味での「小さな政府」を実現しなければ、日本はいよいよ終末を迎えるのではないか。
今の日本には、民主党の「巨大な政府」か自民党の「大きな政府」しかない。

「保守するために、改革する」
この言葉を、雪斎さんから自民党執行部にお伝えして頂きたい。
民主党の「バラマキ福祉」に絶望した今なら、正しい政策に共感する国民は多いのではないか。
自民党は「イデオロギー論争」ではなく、徹底した改革を断行してください。

Posted by: 大学生・ぼうし | June 09, 2010 01:15 PM

大きな政府はうまくいかないという指摘ですが、菅さんという人間に着目すると、そもそもこの人に実現したい政策があるのかという疑問がわきます。

いくつか例を挙げると、
・彼の出自は市民運動家でエイズ問題で名をはせました。当然、沖縄問題も沖縄の市民(運動家)よりの立場を取らねばならないのですが、無視するようです。
・高速道路無料化は彼が言い出した事ですが、この1年まるで他人事です。
・あらゆる運動家達は増税を嫌い、官僚達を締め上げる事を好みますが、昨年からあっさり増税を口にするようになりました。
・大きな政府を標榜しているのに、今年の国債発行額は増やさないそうです。

とはいえ、首相になってから彼の下した決定は、現在の国民感情にマッチしたものです。ですから、上記の妙な点は彼の本質が大衆迎合政治家と考えればつじつまがあいます。そういえば、小泉元首相もポピュリストでしたが、彼は郵政民営化を掲げるワンイッシューポリティシャンがその本質で、そこを足がかりにして構造改革や小さな政府に取り組みました。劇場型政治家の側面は彼の政治手法であり、本質ではありませんでした。

鳩山さんだってやりたい事ははっきりしていました。もっとも、彼の政策はどれも実現不可能であり真っ正直に問題に取り組み無残に砕け散ったのですが。

大体、彼のお遍路だって2006年から2008年までに半分終わらせたのに、途中で放り投げてます。メディアに取り上げられなくなったからではないんでしょうか。

そういうわけで、先生の指摘した5つの政策方向性を彼が完結するかどうかは疑問です。メディアで問題が指摘される度に、ふにゃふにゃと政策を変更していくのではないでしょうか

Posted by: stratosphere | June 09, 2010 03:06 PM

雪斎さん
 
いつも拝読しております。今日のエントリー、「ミッテラン、社会主義プロジェの失政」に関し、素朴な疑問なのですが…。

以前、知人との政談、「東京都・美濃部都政」についての話題を思い出しました。曰く、「美濃部都政は迎合的な政策を打ち、結果、財政難に陥った」と。幸い、その後の鈴木都政で持ち直したから良かったものの、と付け加えてくれました。
私は全くの政治音痴なのですが、ご指摘の「ミッテラン失政」、近代の日本の例のなかでは、この美濃部例が近似例でしょうか?

もう一つ疑問なのは、今日のエントリーを拝読するに、「社会主義プロジェ」的政策は失敗と相場が決まっている、そんな読後感を持ってしまいました。そうなのでしょうか? いかなる時代でも、いかなる国・地域でも、いかなる為政者でも、「失政」となる、のでしょうか…?

Posted by: 4da8 | June 09, 2010 10:16 PM

結局のところ民主主義国家では
・所得税、法人税の劇的な軽減
・消費税の引き上げ
・社会保障支出の抑制
を正面に打ち出して、選挙に勝つのは非常に難しいということでしょう。たしかに、経済の活性化には「新自由主義」の考え方が利に適っているかもしれないが、有権者は「政治」に対して「経済」のみを求めているわけではないということです。

Posted by: 政治家は政治屋にあらず | June 09, 2010 11:19 PM

私には小泉竹中路線がいいとは、どうも思いません。
所得税、法人税に関しては、諸外国と歩調を合わせる必要があると思います。
消費税も同様に引き上げる必要があると思います。しかしながら、社会保障費の抑制は明らかに間違いかと思います。
大企業などへの課税強化といった社会主義的なものの考え方は嫌いです。しかし国民一律のさらなる負担による社会保障の充実は、これからの日本の生産性をあげるには必須です。
たとえば、介護に関しても本来なら施設介護が一番効率的で負担も少ないのに、お金を削るあまり自宅介護にして、結果自宅介護の人手と計算できない費用が、計上されない損失となって、生産性の足を引っ張っています。
自殺者の多くも、労働環境の改善の努力を怠り、国際競争力の確保の名目で、経営側の効率化や経営側の改善をないがしろにして、旧態依然の経営や間違った成果主義を入れて、労働者を毀損した結果だと思われます。
さらに公務員も全く持って充足していません。自衛隊員も不足していますが、キャリアの国家公務員は過重労働過ぎて、他の業界を勉強する余裕もなくなってきています。病気退職者、自殺者も少なくありません
これらの計算されないロスこそ、日本を本当に損なっていっているものではないかと思います。

人間がもっとも有力な資産である日本で、どうして公務員を始め、社会保障の削減ありきで生き残れると思うのかまったくもってわかりません。
適正化の余地はあると思いますが、低福祉低負担はなりたちません。米国の低福祉は、結局GMからgoogleまで国家の福祉を一部企業が肩代わりにするだけであり、そこからゆくゆくは労働組合運動の活発化と失業者の増加による生産性の低下や治安の悪化を招き、結局は巡り巡って企業のコストを増やすだけと思います。社会保障という儲からないところを国がしっかりと担わないと、多少の法人税減税をしたところで、企業に魅力的な国とならないわけで、本末転倒ではないかと思います。

私自身は、小泉竹中ラインの政策ではなく、現在のかなり健全な野党となった自民党の政策を支持します。

Posted by: 小児科医 | June 13, 2010 01:12 PM

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