誰が「杭打ち桟橋+徳之島移転」案を吹き込んだのか。
■ 案の定というべきかもしれないけれども、国際政治・安全保障研究に手を染めてきた政治学徒としては、「無力感」、「虚脱感」を覚えさせる展開である。
□ 鳩山首相の記者団への発言要旨 (読売新聞)
鳩山首相の記者団への発言要旨は次の通り――
◆仲井真沖縄県知事との会談後
日米同盟の関係の中で抑止力を維持する必要性から、国外あるいは県外に普天間の機能すべてを移設することは難しい。沖縄県民のご理解を賜って、沖縄の中に一部機能を移設せざるを得ない。具体的な地域に関しては知事とは話していない。◆稲嶺名護市長との会談後
大変厳しい1日だった。これからも住民、仲井真知事と意見交換しながら解決していきたい。
公約というのは選挙の時の党の考え方ということになる。(私が移設先について「最低でも県外」と発言したのは)党としては、という発言ではなく、私自身の(民主党)代表としての発言ということである。自分の発言の重みは感じている。どうしても(沖縄に)一部の負担をお願いせざるを得ない。
辺野古の海は大変きれいだ。移設先を決めている訳ではないが、環境に最大の配慮をしていく必要がある。桟橋(方式)という話が新聞紙上に載っているが、まだこれが確実になった話ではない。環境を守りながら平和を維持するための解決策を、国民全員で考えていかなければならない。その先頭に立って考えていくく。
一度(の沖縄訪問)で十分に伝わったとは思っていない。また意見交換できるような機会を持ちたい。前政権がやったということで昨年のうちに結論を出せたかも知れないが、私は、それをやるという思いにはならなかった。
(昨年「最低でも県外」と発言した際)私は、海兵隊が必ずしも抑止力として沖縄に存在しなければならない理由にはならないと思っていた。ただ、学ぶにつけ、沖縄に存在する米軍全体の中で海兵隊は、抑止力が維持できるという思いに至った。(認識が)浅かったと言われればその通りかもしれない。
何らかの形で徳之島の皆さんに負担をお願いしたい。沖縄の負担を和らげるための徳之島の活用にご協力を願
えないか。徳之島の町長にお目にかかる機会があるので、申し上げたい。
「最低でも県外」と発言した際)私は、海兵隊が必ずしも抑止力として沖縄に存在しなければならない理由にはならないと思っていた。ただ、学ぶにつけ、沖縄に存在する米軍全体の中で海兵隊は、抑止力が維持できるという思いに至った」。
鳩山総理は、在沖米軍の意義を本当に「知らなかった」のであろうか。昔、1990年以降に、雪斎の「親方」であった愛知和男代議士が、自民党竹下派の代議士であった頃に、自宅マンションの一室を使って勉強会を続けていたことがある。その勉強会は、愛知代議士の自民党離脱後も、しばらくは続いていた。当時、まだ当選一、二回の最若手であった鳩山総理も、メンバーであったはずである。そこでは、当然のことながら、外交・安保を含む様々な政策領域の研究がおこなわれていた。往時の「政権政党・自民党の政治家」の育成プロセスを垣間見られる風景であった。だから、鳩山総理が海兵隊を含む在沖米軍の意義に関して全く知見を有していなかったというのは、率直に不思議な気がする。
それにしても、「杭打ち桟橋建設+徳之島移転」案というのは、どこから、ひねり出されてきた案なのか。多分、それを鳩山総理に入れ知恵した御仁がいるのであろう。外務・防衛両省から、そうした知恵が出されるとは考えにくい。過去に検討して実効性の観点から潰れた案を出してくるのは、行政官の姿勢からしておかしい。だとすれば、鳩山総理に個人的に近い人物で、安全保障に精通すると自称する誰かが、その案を出したのであろう。鳩山総理は、「溺れる者は…」の理屈で、その案の実現性を検討しないままに乗ったのではないかと気がする。
こうして考えると、雪斎のような「政治の周辺で活動した知識人」の立場からすれば、「総理に入れ知恵した奴は出て来い」と絶叫したくもなる。雪斎は、初めから民主党内閣には批判的であったから、その執政には何の責任も負わないけれども、少なくとも民主党内閣に入れ知恵して影響力を及ぼそうとした御仁には、いまさら掌を返すような見苦しい真似は止めて、最後まで伴走して責任を取ってもらう必要があろうかと思う。
組閣当日、「北澤大臣―長島政務官」の防衛省政務ラインを観て、「おかしなことには、なるまい…」と思っていたが、彼らのような安保スペシャリストの意見が反映されず、「怪しげな御仁」の意見が、「政治主導」の間隙を突いて、政府中枢に届いているとすれば、その弊害は、かなり大きかろう。
鳩山総理の発言は、一国の宰相が「兵は国の大事なり」を心得ていなかった唖然とする事例として長く記憶されるのであろう。だが、安全保障政策に関する「常識」が出来上がっていない状態が放置されたことの付けが、一挙に回ってきている。
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Comments
徳之島については、地元議会の大物と民主党議員のラインらしいことが明らかになっているようです。
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20100411ddm001010069000c.html
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20100411ddm003010108000c.html
読む限り、怪しげな人脈と情報に希望を託してしまった感あり。そもそも徳之島は「県外」の面子にこだわるだけに持ち出されているようです。
杭打ちについては、嘉手納統合やシュワブ陸上部など、過去の有力案が何度も出てきたのと同じような流れですから、単に党内で以前の検討案を勉強し直していて、最後に残ったというだけなんでしょうねえ。
Posted by: KYY | May 06, 2010 02:49 PM
安部元総理以来、わが国の宰相には「勝負勘」「戦略観」が決定的に欠如している気がしています。この点、小泉さんは個人としても「チーム官邸」としても大局観、ココ一番の勝負どころはキチッと抑えていました。
一流の棋士は10手先まで瞬時に読む、制限時間内ではさらに先までも、といわれます。
普天間問題は「沖縄の基地移設問題」と解釈した政治家は落第。日米交渉として俎上に上ったのは「沖縄の海兵隊ヘリコプター基地の移設問題」。海兵隊へりの役割、機能制約、周辺国の情勢を認識すれば正解はすぐにわかるはず。これが嘉手納基地や米軍の保養施設なら違う展開もありえたのですが。このテーマの戦略的枠組み、環境を理解すれば「名護市の沖でやむなし」という体裁で着地させるのが妥当、と気づくはず。グァム、テニアンとかオスプレーが配備されたらとか、佐世保との連携とかは「局面読み」とは無関係と見切る頭脳が必要です(経済政策、外交、社会保障も然り。ポイントを外さないことが大事)。長島政務官も昨年秋の段階で「サジをなげた」感があったので日本迷走は目に見えていました。元三井物産のテラシマ(日本総研)さんは何を鳩山さんにレクしてたんでしょうか?他にもたーくさんの取り巻きがいても百害あって一利なしとは。皆さんに一言づつ「敗軍の将、兵を語る」をしてほしいものです。
Posted by: お伊勢参り | May 06, 2010 03:07 PM
元防衛審議官の太田述正という方は、沖縄における米軍海兵隊の抑止力に関して、鳩山総理と「同じ」ように、「海兵隊が必ずしも抑止力として沖縄に存在しなければならない理由にはならない」とお考えのようです。米軍の海兵隊が、沖縄に存在しなければならない軍事的合理性が、本当にあるのでしょうか。
「防衛省OB 太田述正 アングロサクソンと軍事研究ブログ」
http://blog.ohtan.net/archives/51974973.html
http://blog.ohtan.net/archives/51424724.html
http://blog.ohtan.net/archives/51970617.html
http://blog.ohtan.net/archives/51970034.html
ご参考にしていただければ、幸いです。
Posted by: 「雪斎の随想録」愛読者 | May 06, 2010 10:12 PM
鳩山さんがやるべきだったことは、普天間で地雷踏むようなことではなく、リーマン以降の世界経済の混乱の収拾だったはず。さらには昨年から崩壊の煙が挙がっていたユーロへの対応です。中国だって上海バブル以降の措置もあったはず。いくら貿易依存度が低下していても日本は製造業で喰っていくしかなく、世界が一体化する以上、高品質高価格だけでは生き残れないのです。つまり・・賃下げを覚悟しなければならないのです。
小さな政府というと脊髄反射「でけしからん」と怒る人が多いですが、では大きな政府で日本が本当に生き残れるのか考えてもらいたいものです。郵便貯金の預け入れ限度額拡大でその預金はどう運用されるか?それで田舎の農協や信用組合が危機的状況になるのも容易に予測がつきます。
普天間、日米同盟以上に、日本の足元の危機をなんとウォール街の投資組合の連中が心配しているんです。本当に情けないです。
もう日本で新たな設備投資をしようなって事業者は世界にも日本にも激減です。
杭打ち桟橋なんて羽田空港を見て考えたのでしょうけど、巨大な川のない沖縄じゃ最強の自然破壊です。情けないのひとこと・・です。
Posted by: SAKAKI | May 07, 2010 07:05 AM