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November 01, 2009

『井上成美』を読む。

■ 「アメリカがよくあれまで我慢したものだと思う。資金の凍結や油の禁輸などは窮余の策で、まだまだおとなしい方だ。日本のやり方は傍若無人と云うの外はない」。
 井上成美は、戦前、日独伊三国同盟の締結や日米開戦への動きには頑強な抵抗を示し、米内光政や山本五十六と並んで、「海軍左派三羽烏」と称された。井上は、戦時中には海軍兵学校校長、海軍次官を務め、帝国海軍最後の大将に昇任した。井上が海軍兵学校校長に在任していた時、英語が敵性語として扱われた時節にもかかわらず、兵学校での英語教育が続行された。「英語ができない海軍士官など要らない」というのが、井上の意向であった。
 『井上成美』(井上成美伝記刊行会、昭和57年)を古書店から購入して、読んでいる途中である。巻末資料を含んで900ページ近い書である。

 前に触れたのは、戦後、昭和三十年代後半に、井上が日米開戦に至る過程を回顧して語った言葉の一節である。一九四〇年九月の北部仏印進駐から翌年七月の南部仏印進駐を経て日米開戦に至る過程に関して、日本で頻繁に語られる解釈は、米国が資産凍結、石油・屑鉄禁輸といった様々な対日圧力を加え、それが日本を真珠湾攻撃に追い込んだというものである。これは、日本人のメンタリティーからすれば受け入れやすい。それは、自分が、『忠臣蔵』における浅野内匠頭のような立場だと主張できるからである。だから。ローズヴェルト陰謀説などを採っている日本人も、そうした心理が反映されている。「ボクは、何も悪くなかったもん」という幼児的な心理である。
 しかし、井上は、第二次世界大戦序盤、フランスがドイツに占領される状況に乗じて日本が北部仏印進駐に踏み切ることには反対したし、南部仏印進駐に至っては、それを「火事場泥棒」と評した。井上は、当時の米国が加えた様々な対日圧力を呼び込んだのは、実は、そうした「国際慣例」にも違背した日本の「火事場泥棒」的対応に他ならなかったと指摘し、それ故にこそ、その過程で「我慢をした」のは米国であったと認めたのである。
 今、バラク・H・オバマ来日前の日米関係を眺めると、井上が語ったように、「我慢をしているのは米国だ」というような感想が強くなってくる。そもそも、普天間基地に関すjる従来の合意案は、米国では共和党から民主党に政権交代が成っても見直しの対象にされたわけではない。日本が、一方的に、これまでの議論の積み上げを無視して、「見直しだ…」と云い始めたのである。往時の井上の怜悧なところは、日本の官僚組織の一員でありながら、日本の無理を冷静に見ていたことであろう。井上ならば、そのように反応したのではなかろうか。
 岡田克也外務大臣は、今週、訪米するようであるけれども何を決められるのか。「日本に大統領は行かないよ…」と申し渡されたら、眼もあてられまい。先刻、とある外務省関係者に、「今秋の日米関係のビッグ・イヴェントは、オバマではなくジョージ・ブッシュが来日して、日本シリーズで始球式をやることだろう」と吠えてみたら、、その方は、「それは…」と思いっきり浮かない表情をしていた。
 因みに、井上は、主観的には「対等な日米関係」を目指して日独伊三国同盟を樹立しようとした松岡洋右の構想を「痴人の夢」と評した。一方で、「緊密で対等な日米同盟」を唱えながら、他方では、具体的な対応を示さず、「東アジア共同体」構想に耽っている現政権の姿を見ていると、雪斎は、井上と同じ言葉を使いたくなる衝動に襲われる。11月は、試練の歳月である。それは、民主党政権が自ら呼び込んだ試練である。誠に無駄なところにエネルギーを使っていないか。

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Comments

はじめまして。いつも興味深くブログを拝見させてもらってます。
 自分の専門は歴史学ですが、その「歴史的」見地から言って、日米同盟の基本理念は「先の大戦であれだけコテンパンにやられたアメリカを、けして敵には回さない。できれば味方にして自国に有利なようにする」という事だと思っています。日米安保も冷静に考えてみれば明らかに日本有利な内容ですし、これもアメリカが我慢したものであると「普通に」考えれば思うことでしょう。
 民主党の対米認識は島国根性の表れと言ったらそれまでかもしれませんが、イギリスの諺である「英仏海峡に嵐が吹けば、大陸が孤立する」を笑えない自国中心主義的思考なのかもしれません。

Posted by: carbon monoxide | November 01, 2009 at 10:36 PM

アメリカの、ハワイやフィリピンへの行為を見れば、大差ない。
日本が進駐しなければ、そのまま空白だったのでしょうか?

Posted by: K | November 02, 2009 at 08:05 PM

 先の対戦前は・・アジアの火事場泥棒と列強から蔑まれていたことを・・若い人は信じたくないでしょうね。
 戦後のアメリカはブ、ロック経済が先の大戦を招いたと真摯に反省、その市場を世界に対して開放しようと努力してきたことも、僕らは忘れがちだと思います。
 それでアジア共同体って・・・ちょっと違うように思えます。

Posted by: SAKAKI | November 03, 2009 at 03:14 PM

貴方(櫻田)は日本が宗主国によって今まで第二の敗戦(バブル破綻)そして第三の敗戦(サブプライム問題)によって一千兆円を超える資産の収奪にあったことをご存じないの?        更に国際社会ではアメリカのマッチポンプのポンプの役割ばかりさせられ面目を失せられられ、また国連常任委員会入りや敵国条項廃止には裏で反対されている。FRB地下金庫にある日本所有の金塊や米国債500兆円は永久に日本に戻ってこないことがわからないの?
あなたの尊敬するマキャベリが君主論で述べている「自分の国は自分で守れ、他者の力で勝利するよりは、むしろ自己の力で敗北せよ、そして自分より優勢な者と同盟することは避けなくてはならぬ。なんとなれば、たとえ勝利を得たとしても自分は彼の虜にならざるをえないのだ」と       元日本駐在米国大使が笑ってこう宣ったそうだ。「日本は取り放題の国だ。我々がどんな無理を強要しても政治家や官僚はすぐ降参する。絶対、他国ではあり得ぬことだ。]と                            追伸 私はこのことを30年前から言ってきたが事はあなたの主張するように進み、正に日本は史上、稀にみる奴隷国家になり果てた。

Posted by: 第四の敗戦 | November 04, 2009 at 10:30 AM

「歴史的見地」から言うと永遠の友邦国もなければ、永遠の敵国も存在しないというのが現実ではないでしょうか。

日米安保条約が米中の接近や9・11以後の変化の中でその意味が変動し、日米の国益にもみぞが出てきた以上、敵国にならないまでも(とうに日本など敵になる資格もない)、一同盟国どうしの関係になるのは当然で、いちいちアメリカの大統領が日本に来ないからとおたおたする「親米派」の人たちにこそ「将軍たちは常にひとつ前の戦争を戦う」という言葉がふさわしいのではないでしょうか。

とうにアメリカ人が日本人のために血を流す事など無い事が明らかなのに、それでもなおかつ敵に回してならぬなどと言えば言うほどアメリカ人から軽蔑を招くかもしれないとはお思いになりませんか。

「自助努力」を国是にするアメリカが「われわれの真の友人とは誰か」を考える時に親米派のそういう態度はどう映るか。もはや自明の理です。

Posted by: 竹内です | November 05, 2009 at 02:08 PM

鳩山さんは理念と善意と正義感の人で学者ならともかく、マキャベリストとしては最低だと思います

Posted by: ポン太 | November 05, 2009 at 09:46 PM

びっくりしました。産経新聞「正論」の記事でしたので。

Posted by: なかじー | November 10, 2009 at 01:52 PM

東アジア共同体、って言うのはやめて「第二次大東亜共栄圏」って言った方が良いと思います。
日本は左翼政権の時にこそ、侵略的になる傾向があるように思われるからです。

Posted by: 阿弥陀の使徒 | November 11, 2009 at 01:28 PM

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