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February 06, 2009

「セルフ・メイド・マン」の信条

■ 暫く時間が空いた。異例のことであるけれども、芸能ネタで話を始める。
 □ 嵐の二宮 脳性まひセールスマン演じる
        2月1日9時56分配信 デイリースポーツ
 嵐・二宮和也(25)が、TBS系のスペシャルドラマ「DOOR TO DOOR」(今春放送)に主演し、脳性まひによる障害を抱えながらもセールスマンとして活躍する青年を演じることが31日、分かった。二宮は、2006年3月放送の「少しは、恩返しができたかな」で難病と闘いながらも大学受験に挑む青年を、07年9月放送の「マラソン」で自閉症に負けずフルマラソンに挑戦した青年を熱演。今回が、感動ドラマ3部作の最終章となる。
  ◇  ◇
 シリーズ最終章となる「DOOR-」は、アメリカでの実話を基にしたベストセラー「Ten Things I Learned from Bill Porter」(邦題・きっと「イエス」と言ってもらえる)が原作。脳性まひのため、手足が不自由で、言葉もうまく話せなかったが、決してあきらめずに米・北西部でトップセールスマンとなったビル・ポーターさんの物語だ。
 ドラマは、舞台を日本に移し、脳性まひの障害を持つセールスマン・倉沢英雄が、持ち前の熱意と人柄で、次第に人々の信頼を勝ち得ていく姿を描いている。母親役を樋口可南子、同僚役を加藤ローサが演じている。
 「3作品目ですが、ライフワークみたいになっています」と語る二宮は「『脳性まひの役は難しくないですか?』と言われますが、脳性まひはひとつの“個性”としてとらえています。苦労されている部分はあるのでしょうが、それでずっと生きている男の子の役なので」と、熱演を誓った。モデルとなったビルさんも「みなさん、自分が何ができないかを考えるのではなく、何ができるかを考えましょう」とメッセージを寄せた。
 第2弾の「マラソン」では、文化庁芸術祭賞テレビ部門「放送個人賞」を俳優として初めて受賞するなど、二宮の演技は高い評価を受けており、シリーズ最終章でも深い感動を呼びそうだ。

 この話の元々のドラマは、『ビル・ポーターの鞄』という米国のテレビ・ドラマである。最近まで、日本でも、CS放送で放映されていたはずである。
 TBSがどのような味付けのドラマに翻案するのかは判らないけれども、このビル・ポーターの話は、完全なアメリカ的価値観の反映なのである。
 米国における障害者への一切の差別を禁じた法律、「米国障害者法」が通ったのは、1990年で当時はジョージ・H・W・ブッシュの執政期である。この法律の制定を主導した人物というのが、共和党全国大会でも顔を映されていたほどの共和党支持者である。要するに、これは、ロナルド・レーガン以来の新自由主義潮流の上に成立した法律なのである。「弱者保護」という思想の片鱗もない法律である。
 ビル・ポーターも、「政府が何とかしろ」とは、言わなかった人物である。そこには、「セルフ・メイド・マン」の世界がある。ビル・ポーターが脳性麻痺による障害を抱えた人物であればこそ、その「セルフ・メイド・マン」としての姿が際立つわけである。
 こうした話がバック・グラウンドにあるドラマを、現下のご時勢に放映するのも、ちょっとした驚きである。「ワープア」だの「派遣切り」だのということで、「政府が何とかしろ」というご時勢に、「セルフ・メイド・マン」の話を流すわけである。TBSは、果たして、そこまで考えたか。
 けれども、日本のテレビ局が放映するのだから、結局、「よく頑張った。感動した」というレベルのものに終わらないかと懸念する。二宮和也さんの演技は、映画『硫黄島からの手紙』で観て唸ったことがあったので、彼の演技だけに期待してドラマを観るのも、いいとは思うが…。脳性麻痺の人間を演じるなどは、俳優としては、最も難度の高いものであろう。同じような例でいえば、映画『マイ・レフト・フット』に出演したダニエル・ディ・ルイスの怪演が忘れられないのだが…。
 雪斎は、自助努力が称揚された1980年代以降の思潮の中で人格を形成してきた。前に触れた「米国障害者法」の制定は、雪斎に、目指すべき道を教えてくれた。最近の不況で宗旨替えをする人々が相次いでいるようであるけれども、雪斎にとっては、自分の思考は生き様と分かち難く結び付いているので、この点での宗旨替えなど簡単にはできない。今、政府の役割が強調されていたとしても、それは、共和制ローマにおける「独裁官」と同じように、危機に対応するための「非常措置」だということである。市場経済システムを含む「自由な社会」の条件を守るためには、普段は前面に出てくるべきではない「政府の役割」の発揮が要請される局面がある。今は、その局面なのである。故に、今は、「政府の役割」としては、考慮されるべき全ての施策を「禁じ手」も含めて適宜、打たなければならない。「市場か政府か」などという論の設定の仕方自体が、そもそもナンセンスなのである。
 閑話休題、雪斎も数年後には教授に昇格するはずである。そうなれば、雪斎は、「脳性小児麻痺を患って大学教授になった日本で最初の男」.になるはずである。もっとも、ビル・ポーターと異なり、雪斎の半生が、ドラマのネタになるとは思えない。雪斎は、本質的に人徳のない男であるので、どのように描かれても、『白い巨塔』の「財前五郎」のキャラクターにしかなるまい。「障害者+財前五郎」…。日本では。間違いなくドラマにするのが無理なキャラクターである。

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Comments

 私は、あなたのこのブログをずーっと以前から毎回読んでます。小泉総理のころから、さくらちゃんやぐっちーくんや、あなたのお友達のものを含めてです。で、大変ためになる話ばっかりだなとは思っていましたが、なぜか、あなたは、うさんくさいなぁ~と感じていました。今もです。それはきっと、あなたが、自分は障碍者だと、自分は不幸に生まれ育ったと、自分は健常者が思い浮かばないほど苦労して今に至ったと、自分はやっと地位も金も掴んだと、このブログで表明していた(る)からです。これは私の美学の問題なのであなたにとやかく言うことではないでしょうが、世間に意思表示をした以上、障碍者だとか何とかそんなこと言っても始まらないし、誰も気にもとめないでしょうし、むしろ、写真と一緒にゲテモノ扱いで便利に使われるのがせいぜい。共産党の話に肯定的でないコメントが付いたのも、あなとのうさんくささの故だと思う。書こうか書くまいか迷ったけれども、参考になったら幸いです。

Posted by: fix01 | February 06, 2009 at 09:17 AM

雪斎先生、お久しぶりです。やすゆきです。覚えていらっしゃいますか?

もちろんそのドラマは「アメリカの精神」が抜けたものになると思います。きっと日本に舞台設定を移すと思いますので、仕方ないことかも知れません。
ところで自助の精神って、アメリカのリベラルな人たちにもあるんでしょうか?

景気対策などについて。「カンフル剤である」という認識が必要です。あるいは輸血と言い換えても良い。緊急時にやるものであり常用するものではありません。後は企業・家計の自助努力です。エルピーダメモリが公的資金をほしがってるようですが、こういうのはダメですね。
但し、経済を立ち直らせる「きっかけ」を与えられるのは政府と中央銀行しかあり得ません。
きっかけを与える決断するのは政治の仕事です。どういうきっかけを与えるのか?これは技術論です。手段の問題です。経済学者の仕事です(笑)

そして政治のやるべき次の仕事は「不況脱出への強いコミットメント」でしょう。ガッツを国民に見せることです。ちょうどオバマの如く。

Posted by: やすゆき | February 08, 2009 at 04:41 AM

「障害者+財前五郎」なんてメチャクチャ面白いと思うんですが。

Posted by: とろろいも | February 08, 2009 at 11:48 PM

コメントは赤木颱輔(akakiTysqe)によって為されました。

Posted by: 映画「おそいひと」に言及される方がいませんね | February 11, 2009 at 12:48 AM

>とろろいもさん
そうですねぇ。竹中直人級の怪優で演じて頂ければインパクトあるドラマになると妄想・・・。

Posted by: やすゆき | February 11, 2009 at 04:04 PM

小児麻痺をわずらわれた教授というとノーベル物理学賞の小柴昌俊さんを思い出します。
小柴さんが脳性だったのかどうなのかわかりませんが、彼も小児麻痺を克服した教授ということになると思います。

Posted by: つかもと | February 12, 2009 at 02:09 AM

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