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January 22, 2009

バラク・オバマの「醒めた演説」

■ 「次期大統領」という言葉が、この二ヵ月ほど、矢鱈に眼についたこともない。たすきを受けてから走りはじめる駅伝ではなく、バトンを渡される前から既に走り出しているリレー短距離競走のように、バラク・H・オバマは、その仕事を「次期大統領」として既に始めていた。
 オバマの執政に要請されることの第一は、『孫子』にある「兵は拙速なるを聞くも、未だ巧久なるを睹ざるなり」なのである。現下の危機が、それを要請したのである。

 雪斎も、オバマの就任演説には、注目していた。確かに、米国が難局にあることが濃厚に漂ってくる演説である。演説中、雪斎が気に入ったのは、下の件である。
 In reaffirming the greatness of our nation, we understand that greatness is never a given. It must be earned. Our journey has never been one of short-cuts or settling for less. It has not been the path for the faint-hearted - for those who prefer leisure over work, or seek only the pleasures of riches and fame. Rather, it has been the risk-takers, the doers, the makers of things - some celebrated but more often men and women obscure in their labor, who have carried us up the long, rugged path towards prosperity and freedom.
 「われわれの国の偉大さを再確認するとき、われわれは、その偉大さというものが天から与えられたものでは決してないということを理解する。それは、稼ぎ出さなければならないものである…」。
 要するに、地道な「現在進行形の努力」が大事であることを説いているのである。民衆の熱狂の中でも、オバマは、醒めていた。オバマは、既に「次期大統領」として既に仕事を始めていたことが垣間見られるような文言である。
 政治は、結局は、美辞麗句ではなく、「実践と行動」を旨とする営みである。オバマは、言論家・知識人ではなく、実際の権力を持った「実践と行動」の世界の人物なのであるから、美辞麗句を並べた結果、それに実際の「実践と行動」が縛られることもまた、彼にとっては避けるべきことである。政治家にとっては、言葉とは、自らの「実践と行動」を後押しするもためのものである。オバマは、その点では、マーチン・ルーサー・キングやジェシー・ジャクソンのような「政治活動家」とは異なる使命を請け負っている。故に、就任演説よりも一般教書演説のほうが、政治家の意志の方向性を占う上では、大事なものになるであろう。
 オバマは、雪斎には、ある意味においては、「自分の足跡の正しさを証明してくれた人物」である。オバマを語る折に枕詞のように使われるのは、「黒人初」という言葉であるけれども、彼が「アフリカ系(黒人)」であることを強調していたならば、ホワイトハウスにたどり着くことはなかったであろう。雪斎も、少なくとも表のメディアでは「障害者であること」を封印して言論活動を続けてきた。一つの立場に寄りかかろうとすれば、必ずやその立場に縛られる。政治家にとって大事なのは、「選択の幅」や「支持層の幅」だが、言論家・知識人にとって大事なのは、「思考の幅」である。そうした共通性の故に、雪斎は、オバマがホワイトハウスにたどり着けたところまでは内心、意を強くする。
 さて、宴は終わった。これから、「現在進行形の努力」を続ける地味で気苦労の多い時間が続くだけである。


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