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December 23, 2008

「カネ」と「女」、そして「統治」

■ 岡本喜八監督の映画『吶喊』を観た。タイトルは、「とっかん」と読む。「突撃」と叫んで突入していく時の雄たけびを指す言葉である。雪斎が割合、好きなATG配給映画の一策で、1975年に制作されたものである。
 何故、ATG系の映画が好きかといえば、その多くからは、「人間の体臭」が伝わってくるからである。少なくとも、それは、1980年代後半の「バブル経済」の後には、消えてしまった世界である。この映画には、仲代達矢さんや田中邦衛さんのようなクラスも出ている。つくづく、「この時代の日本には、無茶なエネルギーがあった」とおもう。
 


 物語の舞台は、戊辰戦争時の奥州である。粗筋は、こちらを参照されたい。「官軍の暴虐」ぶりをまともに描いている点では、珍しい映画であろう。
 主人公となるのは、二人の若者である。岡田裕也さん演じる万次郎は、「スマートで抜け目ない若者」である。官軍の密偵という立場であるけれども、官軍には距離を置き、自分の「利」のために、こちらに付きあちらに付くという振る舞いをする。方や、伊藤敏孝さん演じる千太は、「不細工にして馬鹿」というキャラクターとして描かれる。「下半身にその気を催したら、女の尻を追いかけずにはいられない」という性分である。万次郎が稼いだカネをもらって、遊郭で一夜を過ごした遊女、テルを身請けしたりする。このテルを演じた女優は、千波恵美子さんであり、この『吶喊』での演技が唯一、目立ったもののようである。大概の男にとっては、情欲の対象になるのは、「美し過ぎる女性」では決してなく、こうした「素朴な可愛らしさをもった女」かもしれない。
 閑話休題、「不細工でカネのない男でも、パワーさえあれば、彼女はゲットできる」。そうしたことを教えるために、この映画を教材として使ってみたいと思うことがある。多分、無理だとは思うが…。
 ところで、この映画の締めは、「砲弾が飛び交う下で、再会した千太とテルが裸で睦みあう」シーンである。これは、映画史上では、かなり有名なシーンであるらしい。雪斎も、「こんなところで、やらんでも…」と思う。だが、考えてみれば、人間は、そうしたものではないか。
 要するに、普通の庶民は、戦争のような非常時の最中でも、「カネ」と「女」のことを考えているのである。ナショナリズム、国家の威信、理念…。普通の庶民には、そのようなものなどは、どうでもいいのではないか。そういえば、西武グループの創始者であった堤康次郎は、戦時中、空襲で焼失中の家屋の土地を必死に買い漁っていたのだそうである。戦後に地価が高騰することを見越してのことであった。堤の域に達していなくても、自分だけはいい想いをしたいと振る舞うのが、民衆の常である。戦時中の日本でも、表向きは「贅沢は敵だ…」とは口にしながら、裏では、手を尽くして食糧や色々な物資を確保していた人々の例などは、珍しくはない。戦時中は、「鬼畜米英」というスローガンを叫んでも、戦後には、進駐米兵に向かって「ギブ・ミーチョコレート」と呼びかけた。節操がない振る舞いには、違いないけれども、そうした「したたかさ」が民衆の本質なのである。
 逆にいえば、統治の基本も、「カネ」と「女」(伴侶)なのである。この二つさえ、きちんと民衆に行き渡らせることができれば、その統治は成功である。もし、為政者が、権力に飽かせて、民衆の「カネ」を税金という形で過度に取り上げたり、他人の妻や娘に手を出したりすれば、それは後々までの怨恨の元になる。故に、ニコロ・マキアヴェッリも、そうしたことを君主の避けるべき振る舞いとしていたのである。もっとも、他国の「カネ」や「女」を奪って自国に持ってくるというのは、自国の民衆からは歓迎されたことである。実際、古代ローマが最初に仕掛けた戦争も、若き兵士にあてがう妻を確保するのを目的としたものであった。これは、人間の世界では、数千年も変わっていないのである。
 だから、現下の日本の「内治」の二本柱は、「経済危機」への対処と「少子化」の克服である。今だけではなく、これからも、そうであろう。
 この映画を最初に観たのは、高校生くらいの頃であった。大仰な「観念」を振り回すことの阿呆らしさを暗に教えてくれた映画でもある。大概の人間は、そうしたものでは動いていないということである。折しも、トヨタは、実に58年ぶりの営業赤字である。こうした時勢であればこそ、「統治」の意味をきちんと考えるべきかもしれない。

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Comments

いつも興味深く拝読させていただいています。

今回のエントリーを読んで、「世界中の男に性的充足を与えれば戦争は起きない」という話を思い出しました。
暴論ですが、妙に納得できる話でもあります。

複雑にこんがらがった社会を統治するのに、一度そういう「カネ」と「女」という原則に立ち返ってみるのはたしかに有益だと思います。

Posted by: ponta | December 23, 2008 at 09:45 AM

いや、ごもっとも。喜八監督と言うと「殺人狂時代」や「ああ爆弾」の路線の方が好きですが、「吶喊」も「赤毛」も素晴らしい。明治政府の成立についてなら森一生監督の「博徒さむらい」が凄いけど、喜八監督みたいに執念深くあの問題を取り上げた人はいない。「戦中派の感慨」を掲げる彼にしてみれば第二次大戦での日本の挫折が明治維新が民衆の革命にならなかった事と重なるのでしょうな。
でもね、民衆から「カネと女」を取り上げているのは「新自由主義」や「グローバリズム」を唱えた人たちで、公共事業をなくせとか雇用の流動化で「国際競争力をつける」などといっていた人はその結果そのおこぼれに預かる消費者を弱らせてしまい、挙句の果てには自動車が売れないなどと自ら首を絞めてしまった。公共事業も無駄遣いだと言いながら、そこにいる方向転換がまったく効かない労働者の事を無視して構造改革だと叫び、この無残な状況を迎えているのではないですか。たしかにマキャべりは正しい。しかしマキャべりの知恵を生かすべき人間が生かせなかった。この総括が行われなければ未来は開けませんよ。

Posted by: ペルゼウス | December 23, 2008 at 10:46 AM

こんにちは
本エントリーを読み、ハルピンから嫁を迎えて5年の従兄が、しあわせな毎日を「アハハンheart」と過ごしていることを思い出しました。
少子化はまさに裸banで睦みあう機会の創出であります。みなで知恵を絞りましょう。sign02

Posted by: SAKAKI | December 23, 2008 at 01:26 PM

今週号の週刊ポストで、「平成の救国札」という、恐らく高橋洋一氏が出所と思われる政府紙幣の話が出てますが、この政策だと少なくとも民衆の「カネ」の面を満足させることはできそうですね。
この大不況下で最後に支持される政策は、このようなものなのでしょうね。経済学的に考えてもこれは真っ当な政策ですから、民衆の直感も本当にぎりぎりの状況では正しくなるのでしょう。これだから、民主主義は捨てられないんですよね。

Posted by: Baatarism | December 23, 2008 at 10:29 PM

少子化がいわれて久しい年月が経ちますが、本気でこの対策はとられてきたんでしょうか?
移民を徐々に入れて...というのは簡単・確実に見えるけれども、文化摩擦、安全保障、教育や社会保障コストを真面目に考えると、とてもじゃないけれど解決策とは思えません。
小泉さんの頃に教育に関して、一俵の米俵(?)とかという言葉が出てましたが、保育園・幼稚園の強化はもちろん、出産費用、義務教育費用(公立校の機能立て直しも当然含まれますね)についても負担の見直しを行うといった、子育ての社会インフラの整備も急ぐべきではないでしょうか。勤労世帯の負担軽減の財源を、将来の消費税増税に盛り込むことも考えてみる必要がありますね。これに加えて、働きながらも子育てが出来る、子育て後に再度職場に戻れる両道制度の2つ、これらをもっと真面目にやってほしいですね。

Posted by: 蜻蛉 | December 24, 2008 at 06:33 AM

 上の自動車に書き込めませんのでこちらに書き込みなど。
 実用に供するならモデルが必要です。
 この場合はモデル地域となりますでしょうか。
 上の提言は試験場でどれほどテストしても、実用にはならないたぐいのものです。ハードルが高すぎて事業としては二の足を踏まれてしまうでしょう。
 ゆえにこれは政治と行政の領分になります。
 パイプがある企画者が道筋をつける事が望まれます。なにせ山ほど問題点が出るでしょうから。
 問題点を出すためにテストをするのですから当然ですが。
 雪斎さんなどはまさに適任ですから、いろいろな意味で。今すぐ動くべきでしょう。
 今の自動車業界は内部留保はあるが、先の展望が無い状態です。
 必要なのはパイプと、荒唐無稽を埋めるだけの展望と企画と説得性です。氏には全部ある。

 モデル地域にはお台場がよろしいでしょう。
 日本ですら珍しい水素スタンドがある、道路や区画が整備されており、そのくせ高速道以外の一般道の交通量が比較的少ない場所が多い、処理バッファに余裕がある、施設の立地にも余裕がある、話題や活性化策を未だ必要としている、なおかつショールーム的なものの立地にも良い。

Posted by: 丸々 | December 25, 2008 at 12:58 AM

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