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October 13, 2008

テロ支援国家指定解除?

■ 『インターナショナル・ヘラルド・トリビューン』紙に掲載されたAP通信記事「政府筋、米国は北朝鮮をテロ・リストから外す模様」(U.S. dropping North Korea from terror list, officials say)には、次のような文面がある。
 米国政府による北朝鮮のテロ支援国家指定解除を伝える記事である。

 The removal from the U.S. list of state sponsors of terrorism, is only provisional, the officials said. North Korea would return to the list if it failed to comply with inspections of its nuclear facilities as part of the effort to get it to abandon atomic weapons.

 「政府筋によれば、テロ支援国家リストからの削除は、暫定的なものでしかなく、原子兵器廃絶に向けた努力の一環としての核施設査察に万全を期すことができなければ、北朝鮮は、リストに戻されるであろう」。

 米国政府の対応は、要するに、「査察の完全な実行」と「指定解除」が抱き合わせであるということでは、全然、変わっていない。拉致案件がテロ支援国家指定の事由ではないこともまた、何ら変わっていないのである。
 「ちゃんとやってくれないと、また元に戻すよ。まあ、ちゃんとやるかは、怪しいけどな…」。
 これが、今の米国政府の気分であろう。
 然るに、麻生太郎総理は、「指定解除に理解を示した」と報じられているけれども、そもそも、米国の方針が変わっていないのであるから、「理解を示す」以上の先走った対応などは、不要である。
 メディアは、拉致被害者家族のインタビューとして、「失望した」などという言葉を伝えているけれども、こういう人々には、此度の指定解除が「暫定的である」ということが正確に伝えられているのであろうか。こうしたことをしないで、「ジョージ・ブッシュが裏切った」などという空気が醸成されるとすれば、それは、まことに有害なことである。
 むしろ、北朝鮮が核査察プロセスを真面目に進めず、テロ支援国家指定復活という事態になった後のことを考えたほうがいい。三ヵ月後に発足する米国新政権が、現行の「宥和的に見える対北朝鮮政策」を引き継ぐとは、断言できまい。北朝鮮政府は、指定解除を「外交上の勝利」などと考えないほうがいいのであろう。それは、単に三ヵ月の猶予を得たというほどのことでしかないのであろう。
 今後、最も懸念されるのは、米国が「逆ギレ」する事態である。「折角、今まで北朝鮮に配慮したのに…」という論理で、次期政権が北朝鮮の不実に業を煮やして、武力行使による解決を模索し始めたら、日本は、どうするつもりであろうか。米国は、民主党政権であれ共和党政権であれ、必要が生じれば「武力行使」というオプションを選ぶことを躊躇うまい。加えて、このところの金融混乱で米国の覇権の終わりを論ずる向きが増えているけれども、軍事という点からは米国に対抗できる国は現在の世界では皆無である。
 そうした暁に、日本は、米国の「武力行使」をl制止するのか。それとも、米国に加勢するのか。どちらにせよ、途方もない緊張度を持った選択になるであろう。
 ジョージ・F・ケナンの名著『アメリカ外交50年』には、次のように記されている。
 「「民主主義というものは、平和を愛する。それは戦争に訴えることを好まない。……だが……、民主主義は、忿怒に狂って戦う――それは、戦争に訴えることを強制されたということだけのために、戦うのである」。
 「折角、今まで北朝鮮に配慮したのに…」という米国の怒りに火が点いたら、止めるのは難しいであろう。朝鮮半島で動乱が起これば、日本もまた無傷ではいられまい。「米国に失望した、裏切られた」という空気を煽っている人々には、この意味が判っているであろうか。

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Comments

>朝鮮半島で動乱が起これば、日本もまた無傷ではいられまい。

日本はすでに無傷ではないと思います。これだけ国家主権を侵害され、軽んじられて我慢に我慢を重ねている日本人の怒りに火が点いたときがもっと恐ろしいですよ。これは雪斎先生に言わせれば政治的に愚かであるとおっしゃるのでしょうが、われわれ愚民には愚民なりの理があります。これを見下すような態度を取られることが火に油を注ぐ行為であるということも、考慮されたほうがいいと思います。

Posted by: jtake | October 13, 2008 at 07:27 AM

雪斎殿の仰るとおり最近のメディアやこの種類の煽りをする方々は危機意識が乏しいのでしょうか?安倍さんが頑張ってた頃とは事情が違う様に思うのですが、気付いてない方も多いかもしれません。雪斎殿の仰る忿兵には大変感銘を受けました。忿兵には少なからず国民が関与している事があるという認識を日本人は自らの歴史で学ぶ事が出来ると思うのですが残念です。 歴史特に近代史においては解釈の違いもあるのか、あまり掘り下げて文章にしている教科書は少ないと思います。歴史は起こった出来事を覚える物というイメージがあり、自らが意欲的にはたらかなければ、その出来事の背景はなかなか見えて来ないと思います。
戦争の映像を流して『戦争は良くない』という感情を持たせるより何故戦争をおこすのか?どのような背景があったのか?を考える機会が増える事の方が重要なのではないかと思います。実際に体験して辛い想いをした方も多く中には思い出したくない方もおられますが、歴史を受け継ぐ世代としては、今の平和の意味や背景も考えず個人の生活や利益だけを考えている状態ではまた同じ過ちを繰り返すかもしれない危険をはらんでいると思います。広島の記念公園のあの言葉や沖縄の碑にはそういった意味で僕は捉えています。
決して後ろ向きにならず前向きに考える事が出来る筈だと信じています。

Posted by: へきぽこ | October 13, 2008 at 10:19 AM

色々な見方がありますが、少なくとも現担当者は再指定はしない方向のようです。

ヒル次官補「テロ支援国家再指定せず」
http://www.47news.jp/CN/200810/CN2008101401000833.html

純粋に手続き的な要件からいえば、よど号などの文字通りのテロ活動が一番大きな要素ですから拉致はおろか核すら関係ないとも言えるのでしょうが、こうはっきり言われると、これまで働きかけてきた政府の失望は大きい気がします。
結局はアメリカも自国の国益で動くのであり、日本は限られた資源で働きかけていくしかないでしょうね。拉致の扱いは難しい。核とは別に、ある程度柔軟に扱うのも手でしょうね。

Posted by: ナビン | October 16, 2008 at 02:14 PM

初めまして、雪斎様

私はIEEPAが継続中ですので、実際には何も変わらないのではと思うのですが(むしろ管轄が国務省から財務省とWHにシフトして更に厳しくなったという味方も出来るかも知れません)。

Posted by: GtM | October 17, 2008 at 03:13 AM

指定解除は北朝鮮による廃絶の格段の努力により為されたのではなく、逆に努力の放棄を恐れて為されました。
このような流れの中で、解除はあくまで暫定的で、米政府の考えは変わらないという判断には疑問が生じます。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20081010-00000006-voice-pol
等により、米国は経済的にモンロー主義的傾向が強くなるとの観測が多くなっています。
軍事でも戦線の拡大は望まず、アフガンではカルザイ政府が存続すれば良く、極東では北朝鮮が六カ国協議の枠から離脱しなければ良いと判断するのではないでしょうか。また、ロシアとベネズエラの接近のほうがアメリカの安全保障には重要で、北朝鮮への武力行使などは短中期的には考えられないように思えます。

Posted by: まぐ | October 20, 2008 at 12:58 PM

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