« 中国の「孤立」 | Main | 中国との「距離感」 »

April 18, 2008

古色蒼然とした判決

■ 誠に面白い判決が出たものである。
 □  自衛隊イラク派遣に違憲=兵士空輸「武力行使と一体」-名古屋高裁
                         4月17日19時41分配信 時事通信
 自衛隊のイラク派遣は違憲として、愛知県などの弁護士と各地の住民らが国を相手に、派遣差し止めと慰謝料などを求めた訴訟の控訴審判決が17日、名古屋高裁であり、青山邦夫裁判長(高田健一裁判長代読)は「米兵らを空輸した航空自衛隊の活動は戦争放棄を規定した憲法9条1項に違反する」との判断を示した。派遣差し止めと慰謝料請求の訴えは認めなかった。
 自衛隊イラク派遣をめぐる同様訴訟は全国で起こされているが、違憲判断は初。国側は勝訴のため上告できず、確定する見通し。1審名古屋地裁は憲法判断をせずに訴えを退けていた。
 原告側弁護士によると、9条違反を認めたのは1973年の札幌地裁・長沼ナイキ基地訴訟判決以来35年ぶり。高裁では初めて。
 青山裁判長は、イラクの現況について「国際的な武力紛争が行われ、特にバグダッドは戦闘地域に該当する」と認定。その上で空自が2006年7月以降、米国の要請を受け、クウェートからバグダッド空港に多国籍軍の兵士を輸送している点について「多国籍軍の戦闘行為に必要不可欠な軍事上の後方支援」と指摘し、「他国による武力行使と一体化した行動で、自らも武力行使を行ったとの評価を受けざるを得ず、イラク特措法や憲法に違反する」と述べた。 

 「面白い判決だ」ということの意味は、この判決には、「テロリズム対応」と「国家間戦争」の区別は、全然、考慮されていないようであるということである。
 日本国憲法や国連憲章で禁止されている戦争とは、「国家間戦争」のことである。主権国家が他の主権国家に対して武力の行使、武力による威嚇を行う事態を禁止するというのが、「戦争違法化」の流れの中で定着した話である。
 故に、もし、自衛隊がイラク戦争における米英両軍を支援したというのであれば、この判決は「正しい判決」になっていたかもしれない。しかし、自衛隊が派遣されたのは、イラク戦争終結以後であり、戦争後の多国籍軍が相手にしているのは、主権国家の軍隊ならざる「武装勢力」なのである。イラク戦争開戦支持とイラク自衛隊派遣は、どちらも小泉純一郎内閣下の選択であった故に、同一の性格のものであるという印象があるけれども、実際には異なる政策対応である。
 国連憲章や憲法第九条は、そうした「テロリスト・グループ」や「武装勢力」の扱いを全く想定していない時代の法律文書である。名古屋高裁判決が「古色蒼然」としたものになったのは、六十年前の「戦争」のイメージで二十一世紀の安全保障課題を裁こうとしたからである。
 ところで、こうした「国家間戦争」と「テロリズム・武装勢力への対応」の違いへの顧慮は、安全保障研究の常識である。。しかも、この判決が「画期的な判決」と語られるに至っては、安全保障研究を手がけている一人として、「オヨヨ…」と反応せざるを得ない。
 そういえば、過日、日本の裁判所は、企業買収のような案件でも奇妙な判決を出したはずである。「安全保障」(SECURITY)も企業買収で使われる「証券」(SECURITIES)も、日進月歩の情勢変化と研究が進んでいる世界である。だから。こうした世界こそ、専門家の担う責任が大きくなるのである。この「古色蒼然とした判決」を下した判事は、安全保障専門家からきちんとしたヒアリングを行ったのであろうか。

|

« 中国の「孤立」 | Main | 中国との「距離感」 »

「国内政治」カテゴリの記事

Comments

細かく言えば傍論で違憲を主張しつつ、訴え自体は認めてないので違憲判断で違憲「判決」ではありません。
国側は形式的には勝訴なので上告できず、左翼運動家側は主文や他の敗訴判決を無視して違憲判断の部分だけアピールするという、裁判制度の隙間を悪用した例だといえると思います。

Posted by: 足軽 | April 18, 2008 at 11:35 AM

司法は法の番人なわけだから、この判決は妥当なのではないですか?

司法は、新しかろうが古かろうが、現在有効な法に照らし合わせて裁かざるを得ないわけで。司法からしてみれば「法が古いことへの文句は立法に言ってくれ」という事ではないでしょうか。

このエントリは法の研究を手がけている人が読んだら「オヨヨ…」と反応せざるを得ないものだったりしませんか。

Posted by: どーも | April 18, 2008 at 12:47 PM

 まず、戦争が、「武器商人の、武器商人による、武器商人のための戦争」になってしまっている現在、国家とテロを区別する必然性は、存在するのであろうか。
 裁判所の判断でも、最高裁でないので、さして重くも感じないのだが、
伝えられてくるイラクの状況は、合衆国が終結宣言を出しただけで、
戦争状態である。
  有事の際、相手国の核が合衆国本土に届くなら、米国は動かないと考え、
安全保障を構築すべきであろう。

Posted by: heibay | April 18, 2008 at 02:44 PM

 そもそも日本が攻め込んだ時の支那というのは今のイラクと同じで部族だか軍閥だかわからん連中が割拠している無秩序な世界で、日本が日華事変に突入したのも、どこに中央政府があるかわからなくて、いくら治安回復を中華民国に要請しても効果がなく、その地域で強そうな軍閥に邦人保護を頼んでも、その軍閥と敵対する軍閥がテロを起こしたりと、どうしようもない状態だったので、自分自身で治安維持に乗り出さざるを得なくなったからだ、という面があるんだけれど、それを指摘する人は少ない。

 政府がなくなれば、民衆が自然と集まってコミューンを作るみたいな事を信じている人がいますけれど、そりゃただの力が支配する部族集団と一緒で、そのコミューンとやらは自分を守るために近隣在郷と殺し合いを始める碌でもない集団です。

 ロシアで革命が成功したのは、共産主義者があらかじめ全土で連絡を取り合っていたからだし、そのロシアにしたって、政府が潰れたあとは村と村が戦うような凄惨な内乱が続いて、ドイツとの戦争よりも被害が出たくらいらしいし。

Posted by: べっちゃん | April 18, 2008 at 06:49 PM

この判決に関して、こんな発言があったそうです。

asahi.com:イラク違憲判断、空幕長が「そんなの関係ねえ」
http://www.asahi.com/national/update/0419/TKY200804180390.html

>航空自衛隊のイラクでの空輸活動をめぐり、活動の一部が憲法9条に違反するという判断を含んだ名古屋高裁判決に対し、田母神(たもがみ)俊雄・航空幕僚長は18日の定例会見で、隊員らの心情を代弁するとして、お笑い芸人の流行のフレーズを使い、「『そんなのかんけえねえ』という状況」などと述べた。判決が隊員の活動に影響がないことを強調した。

やはりこれはイラクでアメリカに協力することが、「オッパッピー(Ocean Pacific Peace)」を守ることになるという意味なのでしょうか?w

Posted by: Baatarism | April 19, 2008 at 09:55 PM

勉強になるのでいつも拝見しております。僭越ながら、あえてコメント致します。
仮に桜田先生のご指摘のように、国家間の戦闘ではなく武装勢力を相手にした活動である、ということで、憲法の想定外の事態である、よって違法性は問う事ができないという主張をするのであれば、被告である国がその立論を行えばいいだけの話です。何故それができなかったのか?何故それをしなかったのか?
その責めを負うのは被告側であって、裁判所ではありません。その立論にあたり、安全保障の専門家の意見が必要なのであれば、証人申請をしたり論文を証拠として提出したりすれば済むことであり、それができなかったはずはありません。つまりは、法務省がしくじっただけなのではありませんか?その落ち度を裁判官に着せるというのは、筋違いな話ではないでしょうか。

また、国連憲章が時代の実情にそぐわないのであれば、憲章改正を行えばいいのであって、現実にはそんな話が進んでいるとは寡聞にして存じておりませんが、たとえば常任理事国からそうした提案がなされているといった具体的対策が出されたりしているのでしょうか?現実には安保理決議などの策定によって、実態に即した運用というものがなされているのではなかろうかと思えますが、その程度では違法性を回避できないのでしょうか?素人考えですが、外見的にはそのようには見えないわけです。

憲章や憲法の問題なのではなく、国側の立論が不十分かつ原告側主張を潰せるだけの論理的正当性のなさ、それが判決に出ただけではないか、と思いますがいかがでしょうか。

Posted by: まさくに | April 20, 2008 at 11:05 PM

この判決は、イラクへの航空自衛隊の空輸活動が違憲とは言っていませんですね。活動の一部に戦闘地帯が含まれていた、従って、一部の活動に憲法違反があった、という(裁判長の)判断です。日本では裁判は事実究明の場とみなす傾向が非常に強いですが、裁判とは、原告被告の言い分をめぐる裁判官の心証ですから、こういう判断が出ることもありうるし、原告がはしゃぐのも、被告が憤慨することもないでしょう。この戦闘地域かどうかという状況判断は、、自衛隊の行為そのものが違憲かどうかという行為判断と異なり、非常に微妙なものだと思います。つまり、現在は、違憲でない可能性も大いにあると考えます。そういう意味では、この判決(重ねて言うと判決そのものは違憲とは言っていない)にかかわらず、イラクにおける自衛隊の行動を継続するという政府判断は、非難されるべきところは無いと思います。妥当です。

ちなみに、政府の立論が不充分で論理的正当性が無いとのご指摘がありましたが、政府勝訴で、充分と思います。

Posted by: M.N.生 | April 21, 2008 at 03:35 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/71618/40909595

Listed below are links to weblogs that reference 古色蒼然とした判決:

« 中国の「孤立」 | Main | 中国との「距離感」 »