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March 20, 2008

財務官僚と政権運営

■ 東京帝国大学を「近代国家の配電盤」と呼んだのは司馬遼太郎であった。
 要するに、東京大学は、発足当初から、「近代国家」の運営に携わる人材の養成を期待されたのである。
 そして、往時、東京帝国大学出身の最も優秀な人材は、内務、外務、大蔵の各省に進んだ。
 戦後、内務省が解体された後では、大蔵省が「官庁の中の官庁」と呼ばれるようになった。
 因みに、山崎豊子著「華麗なる一族」の中で、長女の夫となっているのは、大蔵官僚である。
 国家の中心に「経済・カネ」が置かれるようになれば、確かに財務担当官庁の影響力が大きくなるのである。
 この点は、日本は、英国と様相が似ている。
 「永田町」で仕事をしてみて判ることは、「最も機嫌を損ねてはいけない官僚」とは、大蔵・財務官僚だということである。農政にせよ地方振興にせよ福祉にせよ、この国の政策を遂行するためには、総て「予算」の裏付けが必要とされる。予算策定の細かい話を知っている財務官僚に味方として頑張ってもらわなければ、特に政権与党の政治家は仕事にならない。福田総理が何故、財務次官経験者の起用に執着したのかということを推測すれば、そうした政権運営に際しての財務官僚の存在感を指摘しておくことは、決して無意味ではない。
 そういえば、小沢一郎氏も、細川護煕内閣のときには、大蔵省に思いっきり配慮する形で、「国民福祉税」などというのを打ち出しているのである。おそらく、民主党の中でも、自民党議員として政権に関与した経験を持つ政治家は、政権運営における「財務官僚の協力」の決定的に大事であることを諒解しているはずである。だから、「財政・金融」分離などという理屈で財務官僚に抵抗しているような演出を見せられれば、「野党だから気楽にいえるのか、それとも政権を取った後のことを考えていないのか、はたまた政権を本当は取る気がないのか、そのどれかであろう」と思ってしまうのである。
 …と、ここまで書いて、読者の人々には、警鐘を発しておこう。
 雪斎も、一応は東京大学(大学院法学政治学研究科)OBである。
 雪斎にとって最も大事な友人の一人は、財務官僚である。
 雪斎は、五体満足だったら、外務官僚になりたかった。
 雪斎が「官僚」に対する姿勢は、彼らと協力して何らかの政策を進めることに興味はあるけれども、彼らと喧嘩して何かをする気はない。彼らとは、「役割」が違うだけである。もっとも、ここでいう「官僚」は、財務、外務、防衛という領域の官僚である。他の領域の官僚の事は、ここでは議論しない。
 こうしたバイアスを含み置いて、このエントリーをお読みいただきたい。

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Comments

個人的バイアスというより、よって立つ思想の違いでしょう。どちらが正しいとは一概にいえない。与野党問わず、官僚にものすごく不信感を持つ政治家というのは多いんですよね(与党だと塩崎、河野、渡辺氏らか)。「SIGHT」でまさにその急先鋒かもしれぬ田中秀征さんが、そういったことを論じていました。安倍総理にはそういう感覚があったが、福田総理はやはり弱いのではないかと。小泉総理は中間だそうです。

横田由美子の官僚ルポ本でも、財務省出身の木原議員が、政治家になり、官僚に情報もなにもかも握られている現状に直面してはじめて、政治家が官僚に抱く不信感が理解できた、と言っていて、妙な感慨を覚えたものです。

官僚バッシングのような風潮には相当疑問を感じることが多いですが、他方で政治家が官僚機構に依存しすぎるのを是正しようというのが大きな流れですから、役所の機嫌を損ねるから、というのでは逆に政治家も頼りない気もする。政党の政策能力強化とか課題は多いですし、もちろん官僚機構を上手に使うのは大切だが、最終的には政治家のビジョン、意志力にかかっている気がします。(これは財務省との関係ではややこしいですけど)ともかく郵政民営化も政治家の執念で実現したわけですからねえ。

Posted by: TA | March 20, 2008 at 02:03 AM

ただ今の民主党は、政権を追い込むためならなんでもやるって感じですからね。政権取ったあとのことを考えてないってのは、本当にその通り。なにしろ小沢氏は「責任ある対応は政権を取ってからでいい」といったわけですから。でも「反自民政権」だけなら93年に実現済みですし。その先のビジョンが問われるのに、それがない。これでは万一政権とっても、細川政権並みにごたごたして終わりでしょう。連投大変失礼しました。

Posted by: TA | March 20, 2008 at 03:46 AM

民主党の対応はいわずもがなですが、政府もどうかしているとしか思えません。

そもそも、東大法学部から財務省という、これまではエリートといわれていた学歴とキャリアパスが、実は全く国際的には通用しない人材ばかりであることが今回の日銀総裁の件で
はっきりしました。

同じ東大の経済学研究科教授によれば東大法卒は低学歴であり、そもそもまともに筋道だった議論もできないと見下されています。
http://fhayashi.fc2web.com/BOJ.html

ロースクールもできたことですし、そもそもディシプリンのない法学部など(政治学は政治学部になりばよい)、大学教育から無くしてしまうのがよいのではないかと思います。

Posted by: Jijiga | March 20, 2008 at 06:04 AM

こんばんは。
民主党さんですが、どうやら嫌がらせでなくて本気で国民のために霞ヶ関と戦ってくれておられるようなのですが、陰謀論に基づくロジックは理解し難いものがありますね。
昔と違って、今は圧倒的に政治優位で、官僚機構は国会対策に忙殺されて疲弊していますから、官僚支配という指摘は全く当たっていないと思います。
小沢さんも少しは悩んでくれてもよさそうなものを、「マルだな、バツだな」とか自民党総裁候補を面接した時のようにノリノリなようで、これはこれで頭痛いです。

武藤氏の代替案が田波氏ってのも「誰それ?」って感じで驚きましたが・・・。
これは推測ですが、ケチがつきまくってなり手がいないという悲惨な状況下で、財務省のベタでつまんない(けど切実な)組織の都合が前面に出てしまった結果ではないかと思います。
つまり、エリート中のエリートである財務次官クラスともなると、その高すぎるプライドを満たしてくれる押しつけ・・・もとい再就職先は限られてくるわけで、また財務省に入った官僚は「将来日銀総裁になれるかも」と思って出世競争していたのでしょうから、日銀総裁の「たすきがけ人事」の復活は悲願だったのでしょう。
一方で、民主党から名前の挙がった候補については、黒田東彦氏の現職であるアジア開銀総裁というポストも死守したいし、5年後・10年後のことを考えると、渡辺博史氏や白川氏といった50代の人による日銀総裁若返りも阻止したい。
そういう人事秩序の維持という流れで、武藤氏の先輩次官の田波氏が押し出されてきたのかなと。

ただもう今となっては、民主党の意中の人(本命は榊原英資氏でしょう)を政府・与党が受け入れるしかないような気がするのですが、面子が邪魔して決断がつかないんでしょうね。

Posted by: 板倉丈浩 | March 20, 2008 at 11:07 AM

産経がこんな記事を載せてますが、もしこれが本当なら、福田首相と額賀財務相、町村官房長官の政治オンチは深刻ですね。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/080318/plc0803182204020-n1.htm

板倉さんがおっしゃるような「ケチがつきまくってなり手がいない」という状況もあったんでしょうが、こういうときに財務官僚を説得できなくてどうするんだという気はしますね。それでも政治家かと言いたくなります。

今回の状況を見てると、このブログで言われている「自民党は無能に見えるが民主党は気がふれているように見える。」という言葉に賛同してしまいます。
http://d.hatena.ne.jp/svnseeds/20080318#p1

民主党についても、そこまで反財務省を貫くのであれば、この人を日銀総裁にしたらどうかと、皮肉の一つでも言いたくなります。w
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4062145944

まあ、「金利を上げて景気回復」などというマクロ経済学に反した主張をしている政党なので、諸外国の中央銀行総裁にいるような、まともなマクロ経済学者は支持できないんでしょうね。財務官僚とはほとんど関係がない伊藤隆敏氏にも反対したくらいですから。

Posted by: Baatarism | March 20, 2008 at 12:15 PM

雪斎さん

こんばんは。辻清明先生がかつて述べたように、日本は大規模な官僚組織(フランス的)をもつ、官僚国家です。ここまで書くと既存の利権を政官癒着を肯定するのかという的外れな批判がきそうですが、ここでいう官僚国家というのは、どちらにイニシアチブがある云々の話ではなく、「役割」の違いですね。喧嘩をする相手ではありません。国民のために働いてもらうためにいるのです。

民主党さん、少し方法論としてどうなのかと思いますね。仮に政権をとっても、大変ではないでしょうか。

Posted by: forrestal | March 20, 2008 at 11:48 PM

3月19日夜にサンプロのパーティーがありまして、民主党の某S先生と立ち話しましたが、「やったやった」モードであったのであきれました。「民主党からもっと造反者が出てくれればよかったのに」と言ったら、「ふーん」と言って去っていきました。
みずからが政権担当能力がないことをさらすことで、与党を追い詰めるという野党戦略はいかがなものでしょうかな。

Posted by: かんべえ | March 21, 2008 at 09:32 AM

3月19日夜にサンプロのパーティーがありまして、民主党の某S先生と立ち話しましたが、「やったやった」モードであったのであきれました。「民主党からもっと造反者が出てくれればよかったのに」と言ったら、「ふーん」と言って去っていきました。
みずからが政権担当能力がないことをさらすことで、与党を追い詰めるという野党戦略はいかがなものでしょうかな。

Posted by: かんべえ | March 21, 2008 at 09:32 AM

>かんべえさん
この問題で「民主党の某S先生」というと、どうしてもこの人を連想してしまいます。
もしこの人であれば、心の底から「してやったり」と思ってるのでしょうね。orz

http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK007146320080214

Posted by: Baatarism | March 21, 2008 at 11:46 AM

最も機嫌を損ねてはいけない官僚。。。
この、「ひとつまみの日本人」が日本を動かしているって聞いております。
他の方達は、この方々のコマでしかないと。。。

Posted by: nao | March 21, 2008 at 02:43 PM

「最も機嫌を損ねてはいけない官僚」って。。。

なぜ国民が投票で選んだ政治家が、国民が選んだわけでもない官僚の機嫌を損ねないようにしなくてはいけないのでしょう?
政治家は(基本的には)有権者の意思に沿って政治決断すべきで、そこに官僚が介入するのは国民主権ではないと思いますが。

雪斎さんの書いていることは現実(パワーポリティクス)を見つめればそうなのだろうけど、(こうあるべきという理想主義的観点がない)現実主義だけでは政治はよくならないのでは?
官僚と喧嘩してでも政策を通すっていうのは間違っているんですかね?そうでもしないと現実を打破する政策ってでてこないと思うんですけど。

Posted by: ○ | March 21, 2008 at 06:11 PM

 雪斎さんやかんべえさんには申し訳ないのですが,民主党が飲めそうにない人物を日銀総裁候補に推挙し続けることによって,日銀総裁という人事問題を政局に仕立て上げたのは,政府の側ですよね。要するに,日銀総裁が空位となるという事態を避けたかったら,それまで表明してきた理念(たすきがけ人事の撤廃)を曲げるように政府が民主党に迫っただけの話です。
  「その人ではいけない理由が明確に述べられなければ,役所が提示する人事案に反対しないのが政権担当能力の証」だとすれば,天下り人事を排除することは未来永劫無理な話です。例えば,JASRACの理事長に元文化庁長官が就任していたときですら,その人物には,理事長に就任してはいけないというほどの資質的な欠陥はないのと同様に,特定の省庁の元トップには,特定の特殊法人のトップに就任すべきではないというほどの資質的欠陥はないのが通常ですから。

Posted by: 小倉秀夫 | March 22, 2008 at 10:13 AM

いや、実際のところ「民主党が飲めそうにない人物を日銀総裁候補に推挙し続け」たのかどうかはかなり微妙で、たしかに2回目の提示は福田総理の無茶だとは思いましたけど、武藤さんについては裏でどの程度の交渉があり、また民主党側の反応がどうだったのか、よく分からない。少なくとも政局に持っていく意志が強固に働いていたのは民主党側であることだけは間違いないですよ。そこまで政府与党の責任にするのはちょっと無理です。どっちがいい悪いって、もうそういう議論さえバカバカしい次元の政治を見せられちゃいましたから、そこは抜きにしても。

ただ、「その人ではいけない理由が明確に述べられなければ」ってのは片手落ちだとは私も考えます。その人でなければならない理由の説明が、政府与党はやはり不足だった。他方で、民主党の反対意見はあまりにもトンデモだった。トンデモ過ぎて、あれでは政権担当能力を疑われても仕方がない。いずれにせよ、日銀総裁としてどういう政策を実行することを期待しているかとか、もっと実質的で中身のある議論が全くなされなかった。今回は日本の政治の低レベルさ、ひいては有権者の低レベルさを痛感させられました。正直言って。

Posted by: 由良 | March 25, 2008 at 03:11 AM

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