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March 04, 2008

「JAPAIN 」記事と保守主義

■ 二月中は、「朝日新書」から出す著作を校正する作業に、総てのエネルギーがとられていた。
 「一冊の書」を仕上げるのも大変である。今月半ばまでは、この調子であろう。
 さて、今だから告白するけれども、雪斎が保守論壇から離れた理由のひとつは、その「安心感」の欠如であった。「何故、これほどjまでに余裕を感じさせないのか…」という想いがあったわけである。
 高坂正堯先生の『宰相吉田茂』の中に、先生の「保守主義者」観を示す記述がある。
 ● 自分は過去において相当な実績を挙げたきたのだという安らぎの感情は、社会の現在や未来に自信を与える。
 ● この自信の有無が保守主義者と反動家を区別する。
 ● 自信と心の安らぎがなければ、社会の進歩を取り入れることができない。
 ● 戦後の保守主義の基盤は、焦土の中から復興してきたという「実績」に求めるしかない。

 こうして考えれば、保守主義者は、自ら築き上げて来た実績の裏付けを伴わない限りは、たとえ「保守」を自称していても、「保守主義者」ではないということである。現在、世間で保守論客と呼ばれる御仁の中で、こうした裏付けを持って語れる人々は、意外に多くない。だから、頭の中で「あるべき日本」を描き出して、それに近づくというスタンスになる。「観念」論に走る姿勢は、自ら拠るべき実績を持っていないことの証左でくある。そうした状況におかれた人々の言論に、「安らぎ」が感じられないのは、当然であろう。
 ところで、かんべえ殿が紹介した「エコノミスト」紙の「JAPAIN」記事は、色々なところで紹介されている。要するに、「日本の政治の質が劣悪だ」という趣旨の記述である。ただし、この記事は、日本を「経済大国」と認識した上でのものである。この意味は、見落とすわけにはいかないのではないか。
 現在、新興国と呼ばれているのは、中国、ロシア、インド、ブラジルであろうけれども、これらの国々には、元々、広大な国土も資源もある。だから、これらの国々がある程度発展しても、何ら驚くにあたいしない。
 だが、日本は、違う。
 「これだけ国土も狭く資源のない国が、まだ世界第二の経済大国といわれているのだから、本当は凄いことに違いない…」。この感覚は、結構、大事な気がする。近年は、これに、料理やアニーメーションの領域の「ジャパン・クール」が加わっている。こうした点をきちんと評価できるかが、現代の「保守主義者」の条件であろう。
 これを、たとえば雪斎の個人的事情に置き換えると次のようになる。
 「これだけ身体的な条件が良くないのに、学者ができているのだから、本当は大したものかもしれない。暫く後には、六冊目の書を出せる…」。
 …ということである。
 「自信と心の安らぎ」を感じさせる言論かどうか。こうした点を指して、雪斎が「保守主義者」と呼ばれるのであれば、雪斎は、そのことを歓迎したい。
 とはいえ、こうした保守主義が可能なのは、まともな「統治」が行われるという前提がある。
 故に、「エコノミスト」紙の「JAPAIN」記事の趣旨には賛成する。
 塩野七生さんの『海の都の物語』の中の次の記述を思い出す。
 「資源に恵まれないヴェネチアのような国家には、失政は許されない。それはただちに、彼らの存亡につながってくるからである」。
 この国の政治家には、「失政は許されない」という切迫感は、働いているであろうか。「ガソリン値下げ」云々という誠にスケールの小さい議論からは、そうした「切迫感」は伝わってこない。「エコノミスト」誌も、「元々、失政の許されない国」の一つであった英国の雑誌である。

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「学者生活」カテゴリの記事

Comments

> 「これだけ国土も狭く資源のない国が、まだ世界第二の経済大国といわれているのだから、本当は凄いことに違いない…」。この感覚は、結構、大事な気がする。近年は、これに、料理やアニーメーションの領域の「ジャパン・クール」が加わっている。こうした点をきちんと評価できるかが、現代の「保守主義者」の条件であろう。

となると、麻生太郎を評価することになってしまいますね。彼はアニメばかりでなく、この文章全体が意味するような感覚を持つ人ですから。w


あと、僕はリフレ政策の支持者ですが、リフレ政策の思想的な背景を見ると、石橋湛山や高橋是清、池田勇人といった人々の、戦後の繁栄の礎となった思想を受け継いでいるように思うんですよ。逆に戦前戦後の左右の観念主義者とは明らかに一線を引いてるように思います。それも僕がリフレ政策を支持する理由の一つです。
外交では吉田茂が「保守主義者」の代表でしょうが、経済政策では先に名前を挙げた人々が「保守主義者」の代表であると考えて良いと思います。

Posted by: Baatarism | March 04, 2008 at 12:37 PM

何となくずっと持ち続けていた違和感に、得心の行く回答を得た感じでした。
右でも左でもとかく急進的な人は現在の否定から始まりますからね。
その先にあるのが各人のイデオロギーみたいなわけでして。

Posted by: ぬねね | March 04, 2008 at 10:49 PM

「保守」も世代によって、かなり「考え方」や「所持しているもの」に違いがあると思います。その境は”バブル期”ではないかと。あの時代の前後で”外国人・海外”に対する捉えかたと考え方が激変したように感じています。・・・と、言うか不要な重石が無くなったのでは無いかと(あの時代に基本思考を構築した以降の世代に限りますが)
とにかく、「これからの世代」以降が、海外に対して妙な気合いやバイアスを持たなくなったのは、先の大戦で敗北したこの国にとって結構なことだと思います。
そして、重しを下ろした後の世代が世界を魅了するソフトパワーの担い手として、無数の「趣味人」を苗床に、ある方向の「最先端」を開拓している現状が、これから「世界」にどう影響を与えていくのか、小生、大変興味を持っております。

補足
前世紀から、その存在を予言されていた「仮想アイドル」の実現は、「緩さと豊穣」を許す奥行きが深いオタク文化を許容す日本社会だからこそ励起したようです。
雪斎先生にこそ、15分のこの映像を見て欲しいと願っています。ちなみに、製作者は「趣味人」で、海外での視聴が凄まじいと聞いております。http://www.nicovideo.jp/watch/sm1454554

Posted by: TOR | March 05, 2008 at 03:47 AM

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