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March 21, 2008

政治評論の宿命

■ 『吉野作造評論集』(岩波文庫)を読む。巻末に付された岡義武教授の解説を引用しよう。
 □ 吉野は述べて、医学に臨床講義があり、法学には判例研究がある。同じ意味で政治の学問においては「政論」が考えられるべきである。…自分(吉野)が政治評論においてひそかに期したところは、「政治の学問に於ける臨床講義の開設」にあった、としている。
 □ 吉野は…記して、わが国の「政論界」には二派あり、一つは「純粋な理想的標準」から現状を論評し、その説の実行が果たして可能かどうかについては意に介しないものである。なお一つのものは、「与へられたる政界の実勢を基とし、之を如何に運転すべきやを説くもの」である。この後者の方の評論は時に「因循姑息な微温的議論」のようにみえることもあるが、もともと政治は白紙に字を書くようなものではない。「実際的政論」は、どこまでも所与の現実に拘泥せざるを得ないとして、自分としては第二のタイプの政治評論を行う旨を示唆している。

 この辺りの記述に触れると、吉野作造の政治評論のスタンスは、雪斎のそれに明々白々な影響を与えているのだと得心する。否、正確にいえば、吉野のスタイルを継いだ政治学者の言論の影響を強く受けた故に、雪斎もまた、政論における「吉野の流派」の末席に連なったということである。「因循姑息な微温的議論」か。それに近いことを、よくいわれるような気がする。前に産経「正論」に出した民主党批判は、その点では雪斎らしくはないものであったかもしれないけれども・・・。かの「2ちゃんねる」に、雪斎の論稿を扱った独立したスレッドが立ったのだそうである。おお、怖っ。
 ところで、吉野は、「臨時議会を顧みて」という論稿で次のように書いている。
 「議員の内には、例えば物価問題などを論じて、六千万の生活をいかにせんなど、目を剥く者はあっても、吾々は更に吾々の要求が彼らによって十二分に代表されたとは毛頭思わない。これ彼らが『国民生活のため』に叫ぶことを知って、国民生活の何たるやを未だ嘗て研究せないからであろう。見物人が相撲の手捌きに口角泡を飛ばす類で、畢竟するところは彼らの遊戯気分を満足せしむるに過ぎないからである。この感は、特に貴族院に著しいと思うが、衆議院に至っては、更に政権争奪の利己的動機が加わるから、彼らの討論の色彩は、ますます国民的要求から遠ざかる」。
 吉野は、大正九年に、この論稿を発表した。議員の討論は「遊戯気分の満足」に過ぎぬという記述に接して、雪斎はさすがに顔が引きつった。現在の「永田町」の風景も、往時と大差あるまい。もしかしたら、あの民主党の「日銀総裁案連続不同意」も、政府・与党に一泡吹かせたという「遊戯気分の満足」であったのか。嗚呼。

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Comments

その吉野作造の言葉は、僕が以前取り上げた石橋湛山の言葉にも通じる考え方ですね。

「記者の観るところを以てすれば、日本人の一つの欠点は、余りに根本問題のみに執着する癖だと思う。この根本病患者には二つの弊害が伴う。第一には根本を改革しない以上は、何をやっても駄目だと考え勝ちなことだ。目前になすべきことが山積して居るにかかわらず、その眼は常に一つの根本問題にのみ囚われている。第二には根本問題のみに重点を置くが故に、改革を考えうる場合にはその機構の打倒乃至は変改のみに意を用うることになる。そこに危険があるのである。

 これは右翼と左翼とに通有した心構えである。左翼の華やかなりし頃は、総ての社会悪を資本主義の余弊に持っていったものだ。この左翼の理論と戦術を拒否しながら、現在の右翼は何時の間にかこれが感化を受けている。資本主義は変改されねばならぬであろう。しかしながら忘れてはならぬことは資本主義の下においても、充分に社会をよりよくする方法が存在する事、そして根本的問題を目がけながら、国民は漸進的努力をたえず払わねばならぬことこれだ」

社説「改革いじりに空費する勿れ」(@東洋経済昭和11年4月25日付)

これは石橋湛山が二・二六事件を受けて語った言葉でした。

今の民主党の日銀総裁問題に対する態度を、戦前の統帥権干犯問題における政友会の態度に例える向きもありますが、こういうのを「歴史は繰り返す」というのでしょうか?

Posted by: Baatarism | March 21, 2008 at 11:05 AM

ご訪問感謝です。
リンクの件了解しました。ありがとうございます。ただ、来月末に独自ドメインを取得して、ホームページとブログを統合しますので、その時でどうでしょう?木の城の件、波及も大きく頭痛のタネです。

Posted by: かね国 | March 23, 2008 at 02:24 PM

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