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February 20, 2008

コソヴォ雑感

■ 少し前、オーストリア・ハプスブルク家の当主という人物がインタビューに答えて、「私は、ヨーロッパ人だ」語っていたのを視たことがある。そういえば、今の欧州連合というのも、見方によっては、多様な民族を包み込んだ「帝国」であるといえなくもない。このハプスブルク家当主の幼少時には、まだオーストリア・ハンガリー帝国の枠組は存在していたのであるから、彼にしてみれば、欧州連合の枠組は、「結局、昔に戻っただけのこと」なのかもしれない。
 ところで、こうした「帝国」の枠組に最も激しく反発しているのが、セルビアであり、そのセルビアに肩入れしているのがロシアであるという構図は、百年前と今とでは、さほど変わっていないようである。サライェヴォ事件の折、オーストリア「帝国」皇太子夫妻の暗殺に及んだのは、セルビアの民族主義者であった。
 コソヴォ独立は、セルビアにいわせれば、「米国とEUの陰謀」らしいし、ロシアにとっては、「法的根拠はない」ものであるらしい。EUの中でも民族独立運動の火種を抱えるスペインやルーマニアは、コソヴォ承認に難色を示したようであるけれども、結局、「オーストリア帝国・西欧 vs セルビア+ロシア」という構図が復活している。これで、セルビア民族主義者が騒動を起こそうものならば…。ちょっと考えたくない話ではある。
 案外、こういうコソヴォ絡みの西欧とロシアの対立というのは、日本で議論されている以上に根が深い。欧州連合の拡大なるものは、西欧「帝国」の版図が東方に広がったものであるという側面があるので、西欧世界に対する「劣等意識」を抱えるロシアにとっては、それ自体は気分のよくないものであるのは間違いないであろう。だから、今後、米国にせよ欧州連合にせよ、あまりロシアを刺激しない手を打てるかということが大事になるであろう。

 日本政府は、コソヴォ独立支持を打ち出すようである。それは賢明な選択である。さらにいえば、日本は、コソヴォの国家建設には、ある程度まで積極的に関わったほうがいい思われる。コソヴォの課題は、経済再建であるので、こうしたことを支援するのは、日本の「お家芸」である。もし、コソヴォの支援に米国やEUが前面に出れば、セルビアやロシアとの関係上、具合が悪そうなので、日本が米国やEUの代役を買って出るのは、決して悪くない選択である。コソヴォは、アルバニア(イスラム教徒が大多数)系主体の国家なので、イスラム社会とヨーロッパに対する一つの確かな日本の痕跡を残す上でも、これは一考である。無論、これは、ロシアと中国が嫌がりそうなことであるけれども、「復興支援」の実績を前面に出せば決して声高な批判を浴びることもあるまい。加えて、コソヴォのような国家に遠いアジアの国である日本が何らかの野心を抱くというのは、考えられない話であろう。このように、一見して野心を持たず善意だけで振舞っているようような立場であればこそ、結構、「嫌らしい」ことができるのである。因みに、コソヴォのナショナル・オーケストラ(コソヴォ・フィル)の首席指揮者は、三十代半ばの日本人だそうである。色々なところに、日本人が居るのである。
 話は換わる。雪斎がタイムマシンがあったら味わってみたいと思うのが、十九世紀末の「ベル・エポック」と呼ばれた時期のパリやウィーンの生活である。学術や芸術の世界に生きる人物には、「帝国」であろうとなかろうと、精神の自由が保証されれば、どちらでもいいというところがある。ハプスブルク帝国末期のウィーンは、さぞかし「いいところ」であったのではないかと想像する。
 というわけで、グスタフ・マーラーの交響曲を聴く。
 聴いたのは、次の二枚である。
 ① マーラー  交響曲第5番嬰ハ短調
   レナード・バーンスタイン/ニューヨーク・フィルハーモニック
   録音:1963年1月、ニューヨーク
 ② マーラー  交響曲第4番ト長調
    ベルナルド・ハイティンク/ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団
    クリスティーネ・シェーファー(S)
    録音:2006年11月7日、アムステルダム、コンセルトへボウ(ライヴ)
 マーラーの音楽、グスタフ・クリムトの絵画は、近年の雪斎には誠に心惹かれるものがある。雪斎が「質実剛健」と呼ばれたのも、今となっては昔のことである。

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Comments

お久しぶりですね。
コソヴォ独立は、現代であっても「火薬庫」の様相とは不気味ですね。
小生・・
マラ4はアバド、ウィーンフィル、マラ5はショルティのラストコンサート盤で涙しています(笑)。
ベルエポック時代のロマンチズムを凝縮した逸品をマーラーからならば、7番も外せません。よろしければ明日のワインの友に

Posted by: SAKAKI | February 21, 2008 at 10:48 PM

バルカン半島には、近寄らない方が良い様な気がします。
欧州連合が弱すぎても困りますが、強すぎても、また困る・・・と考えると、あそこらへんとか移民社会とかが「適度に」足を引っ張ってくれることを期待してしまいます。
日本がいくらか衰退しても、同じ階層に住人たちが、それ以上に衰退すれば、「列強」であり続けることができるのです。

Posted by: TOR | February 22, 2008 at 12:31 AM

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