« 「雪斎の随想録」の三年 | Main | クリスマス・イブの「第九」 »

December 24, 2007

政治という技芸

■ 「なるほど…」と膝を打った対応である。
 □ 福田首相「一律救済」を決断=議員立法で対応、今国会成立目指す-薬害C型肝炎
                   12月23日19時1分配信 時事通信
 福田康夫首相は23日、薬害C型肝炎の被害者について「全員一律救済ということで、議員立法とすることを党との相談の結果、決めた」と表明した。与党はそのための法案を今国会に提出、成立を目指す。民主党など野党にも協力を呼び掛ける。一律救済を求める薬害肝炎訴訟の原告側の主張を踏まえ、首相が血液製剤の投与時期などで救済対象を決める政府方針を転換した。これに対し、東京都内などで記者会見した各地の訴訟原告・弁護団は「大きな一歩だ」と評価。首相に対し被害者らと面談し実情を聞くよう重ねて訴えた。
 首相は、大阪高裁和解骨子案を踏み出して、原告側の要望に応えるには行政府としては限界があることから、自民党総裁として決断した。最近の内閣支持率の急落を受け、指導力を示す必要があると判断したとみられる。自民、公明両党は25日に幹事長ら党幹部が法案の内容を協議する。
 首相は23日午前、首相官邸で記者団に対し、被害者一律救済の議員立法について「一刻も早く作業を進めてほしい」と与党側に指示したことを明らかにした。その上で「可及的速やかに国会審議をし、問題解決に当たってほしい」と、野党側の協力も求めた。さらに「法案作成に参加してもらってもいい」と、野党との共同提案も視野に対応する考えを示した。
 また、「行政の責任は免れることはできないように思う」と政府の責任を認める一方、議員立法とする理由を「(一律救済は)司法、行政の枠を超える」と説明した。方針転換した経緯については「自民党総裁として1昨日、議員立法で対応できないかと相談を始めた。公明党の了解も得た」と述べた。 

  薬害肝炎患者にしてみれば、自分の望む「一律救済」の方向で落着できれば、それ以上のことは要求しないはずである。政府の決定による落着であれ、議員立法という体裁であれ、物事が動くことには変わりがないからである。
 議員立法で落着を図るという手法は、少なくとも二つの意味がある。
 ① 問題の早期落着を図る。
 ② 問題対応の責任を野党にも負わせる。
 第一に、これで少なくとも問題の落着が図られるならば、福田康夫総理には内治の上での実績になる。
 第二に、これによって、野党も「逃げられない」状態になる。民主党をを含む野党は、この議員立法による落着とという手法を内心は歓迎してないであろう。政府・与党を追い込むのに使えると思っていた案件が、何時の間にか、自分の具体的な対応を求める案件に変質したからである。この救済立法の制定には、野党も反対できないであろう。この救済立法制定の過程で、野党がごねるようならば、世の指弾が一挙に野党に向かうのは、必定であるからである。また、この救済立法が後の何らかの「負」の帰結をもたらした場合には、野党もまた、その結果責任から逃げることはできないであろう。この案件に関する限りは、「政府を批判していればいい…」という姿勢を封じ込める意味を持つのが、議員立法による落着という手法の「肝」ということになるであろう。加えて、こうした救済立法には、相応の財政支出を伴う。野党もまた、こうした財政支出の理を説く責任からも無縁ではいられない。野党は、こうした案件では割合、安易な財政支出を要求するところがあるけれども、野党にも財政規律の感覚を持ってもらうためには、議員立法という手法は決して悪くない方策であるといえるであろう。
 福田康夫総理は、行政府の長であるけれども、自民党総裁という「衆議院最大勢力の長」でもある。こうした二面性を利用した結果であろう。
 「ねじれ国会」を読み解く一つのキーワードは、「責任の分担」である。おそらく、この議員立法という手法は、今後も折に触れて使われることになるであろう。少なくとも、野党にも表向き反対できない案件であれば、特にそうである。もしかしたら、こうしたことの積み重ねによって、「実質、大連立」の土壌が出来上がっていくのであろう。
 福田総理も、確かに、「いやらしいひと」である。だが、雪斎は、そういう「いやらしさ」を歓迎する。

|

« 「雪斎の随想録」の三年 | Main | クリスマス・イブの「第九」 »

国内政治」カテゴリの記事

Comments

アフターの話ですが、
安倍さん・小泉さんは厚生族だったので解体できなかったのでしょうが、
独法の民営化よりも厚労省の解体を進めるべきでしょう。
せめて医薬品関係の部署を公取委みたく内閣府傘下の独立した機関にすべきです。

できれば業界と業界と地理的な距離を置くように、
東京以外の地方。大阪じゃタケダとか塩野義があるからダメだから、
札幌とか福岡に本部を置けばなお良いです。

Posted by: あかさたな | December 24, 2007 10:01 AM

ご無沙汰しました。
いつも楽しみに読ませていただいております。
本日のエントリーをリンクさせていただきました。

Posted by: 橘 江里夫 | December 24, 2007 12:53 PM

年明け22日の思想地図シンポジウム合わせでもう少し突っ込んだ事を書きますが、一連の雪斎様のやられていることは「言論」ではありません。
薬害肝炎禍について云えば、政治が為すべきことの重要度は
1.このような事態を繰り返さない為の制度の改変
2.(1.の重要な一環である)加害当事者の刑事責任の追及
3.被害者の救済
の順であり、被害者が3.を最優先するのは当事者である以上当然であり、
そしてこの度の自民党総裁の政治決断なるものは1.2.(取分2.)をしないための方策であり
野党は当事者が重きを置けない1.2.を問題として幾らでも攻め所が在るのです。
田中宏和氏のエントリーから挙げます。田中宏和の論考はこれから何度でも挙げる事になるでしょう。
薬害肝炎禍の悲痛と暗澹 - 今村泰一と宮島彰を刑事告訴せよ
http://critic3.exblog.jp/7846617/

Posted by: 赤木大介(akakiTaisqe) | December 24, 2007 09:25 PM

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 政治という技芸:

» 福田総裁の決断 薬害C型肝炎 [橘 江里夫のブログ]
薬害C型肝炎被害者救済について、首相が一律救済を表明し、原告団は「大きな一歩」と評価しました。 司法でも、行政でも解決できなかったことを立法府が解決するという教科書通りのことですが、どうしてこのような回りくどいことをするのか、頭を捻っていました。 しかし、雪斎の随想録さんのエントリー「政治という技芸」を読んで、福田さんはとても優れたポリティックスで大儀を実現しようとしていることが読めました。 中途半端なご紹介は避けます。ご興味のある方は直接雪斎さんのブログを訪問していただきたいと思います。 ... [Read More]

Tracked on December 24, 2007 12:44 PM

» 薬害肝炎訴訟 [albert_hateの日記]
asahi.com:福田首相「議員立法で一律救済」表明 薬害肝炎問題 - 政治 福田さん、結局折れてしまいましたね。耐震偽装のときもそうですが、無し崩し的に被害者の要求を呑んでしまいました。この決断がよかったかどうかはさておき、国民の大部分がそれを望んだのだからこう... [Read More]

Tracked on December 25, 2007 05:37 PM

« 「雪斎の随想録」の三年 | Main | クリスマス・イブの「第九」 »