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November 19, 2007

日本外交の「難局」

■ 先刻、病院から首と肩の痛みを抑える薬剤をもらってきて使い、ようやく状態が好転の兆しを見せている。二週間、大変な想いをした。今週一杯は、休むことにしている。状況が少しでも好転すると動きたくなるのは、雪斎の習性であるけれども、此度は抑えることにしよう。来年以降も稼働率を下げて、少しでも「長く」活動する構えを築く必要がある。雪斎の国家に対する貢献は、「太く短く」よりも、「細く長く」のほうが適切であろう。そうしたことを再確認した此度の「身体不調」であった。

■ 日米首脳会談で福田康夫総理が米国政府に「拉致対応」を強く迫らなかったとして批判する声があるようである。
 厳然たる事実を指摘すれば、こうした案件では、現在の日本は、強い対米要求を出すことはできない。
 「洋上給油」からも手を引いた日本は、対米同盟の文脈では、「やることをやっていない」状態に等しい。普天間移転に絡む話も、全然、進展していない。現時点での日本の「対米説得力」を測れば、「直近の最低値」を付けているのは、間違いあるまい。野党第一党党首が「どうせブッシュなど米国国内でも支持されていない」と発言したことは、AFPが既に海外に伝えているようである。当然、その発言は米国政府関係者の耳に入っていることであろう。政府・与党は「結果を出さない」、野党は「反米気分に漬かる」というのでは、米国政府が本気になって日本の「拉致」案件に対する要求を聞く気になるかは、率直に疑問である。これで実際に「対北朝鮮テロ国家指定」が解除された段階で、「米国が裏切った」などという声を上げる御仁が日本国内に現れるとすれば、それは、日本の「外交音痴」を曝け出すだけの意味しか持たないであろう。
 ところで、この案件を判断する指標は、「拉致案件未解決を事由にした対北朝鮮テロ支援国家指定の維持によって、米国が得られる利益は何か」ということである。本来、米国の対北朝鮮テロ支援国家指定は、「よど号」犯隠匿を事由としたものであり、「拉致」案件云々とは直接に関連がない。「拉致はテロである」という説明にしても、それは、既に広く合意された国際常識として定着しているわけではない。米国にとっては、「指定維持」によって得られる利益は、「一部の日本国民の満足」である。片や、「指定解除」によって得られる利益は、短期的には北朝鮮の懐柔であり、長期的には朝鮮半島「非核化」を通じた安定の実現である。このことは、日本にも直接の利益を及ぼすものである故に、日本には、現下の米国の対朝外交の足を引っぱるわけにもいかない。
 日本にとっては、「拉致」案件は専ら「国家の威信」に関するものになっているけれども、「核」案件は安全の確保といった「国民の福祉」に関するものである。現在の日本国民の大勢は、「威信」価値よりも「福祉」価値を優先するであろう。「拉致被害者家族には同情するけれども、北朝鮮の関係で自分の生活に悪しき影響が生ずるのは勘弁願いたい」。これが日本国民の大勢の感情であろう。こうした本音を背景にする限り、日本の「拉致」案件での対米説得力も限定されたものになっていかざるを得ない。民主党にも、「拉致」案件に熱心に取り組んでいる人々は多いかもしれないけれども、彼らは、自らの「給油活動」反対姿勢が、どれだけ対米説得力を削ぎ落としているかに気付いているであろうか。その意味では、インド洋「給油活動」案件と北朝鮮「拉致」案件は、一つの線でつながっているのである。
 無論、この話には前提がある。北朝鮮の「核」無力化が確実に実行されるということである。もし、北朝鮮政府が
現下の朝鮮半島「非核化」プロセスに対する背信行為を行ったり、「核」技術の拡散に加担していることが明らかになったりすれば、現下の米国の対朝「宥和」姿勢は、一転して強硬なものになるであろう。
 イラン核開発だけならまだしも、今度はヴェネズエラのウーゴ・チャべス反米左派政権が核開発の意向を表明したようである。「西半球」にも核開発の動きが始まれば、米国も、かなり苛立ちを深めることになるであろう。チャベスは、スペインのファン・カルロス国王から一喝されたり、スペイン企業に対する締め付けを示唆したりして、その意気軒昂(増長)ぶりが注目されている。
 案外、チャベスの増長が眼に余るようになれば、米国は、チャベスを潰すことで、イランや北朝鮮に対するメッセージを送るのではないかと想像する。「西半球」の国々が相手であれば、米国は割合、簡単に「介入」してきた歴史がある。グレナダ然り、パナマ然りである。「ヴェネズエラ・ファクター」というのも、今後の米国の対外姿勢を占う上で見落とせないものになりそうである。

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Comments

だいぶひどかったんですね。処方された薬は何でしょう。私は痛み止め(最強のボルタレン)も常用して効力がなくなったので、医者から匙を投げられました。後はもう最悪の悪化まで進んで手術するか、普段から安静に過ごすか、その選択しかないようです。今はひどい痛みのときは筋肉弛緩剤と精神安定剤で痛みをまぎらわし、後は寝るだけです。私もここのところ息子の七五三祝いで無理をし、今日は背中の筋肉が激しい炎症を起こしているので、今からひたすら寝ます。退屈ですが。

Posted by: うみおくれクラブ・ゆみ | November 19, 2007 at 09:01 AM

>もっとも、雪斎は、別に、「障害者は結婚して家庭を持てるのか」という近代日本特有の問題をクリアしなければならないけれども…。

結婚して家庭をもっている障害者はたくさんいます。雪斎さん、こんなこと書くと、障害者からブーイングが来ますよ。

Posted by: うみおくれクラブ・ゆみ | November 22, 2007 at 04:11 PM

>>
片や、「指定解除」によって得られる利益は、短期的には北朝鮮の懐柔であり、長期的には朝鮮半島「非核化」を通じた安定の実現である。
<<

根本的な問題は、これが米国の単に願望に終わり、北朝鮮は「時間稼ぎ」をした結果、より大きな脅威となるというシナリオの危険性でしょうね。北朝鮮に対する懐柔は、ごく短期的には意味があっても、長期的には脅威を大きくする結果にしかならないと思います。
もっとも米政府が「主観的に」はどうみなしているか、ということであれば別問題ですが。
アメリカとしてどうするべきか?という観点からテロ国家指定解除することに反対する方針で、日本側から「説得」できればいいのですが、そのような振る舞いは「信用」がないと逆効果になってしまう。
給油中断は痛かった、というか今も痛いですね。

Posted by: 妖怪 | November 23, 2007 at 02:02 PM

どうやら、その絶好のチャンスを自分から棒に振ることを
何かやらかしたようです。

テロ支援国指定解除、米が北朝鮮に追加3条件(読売新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071201-00000001-yom-int

>「核爆弾の材料となるプルトニウムの抽出量」
>「ウラン濃縮計画の実態」
>「シリアなど外国への核移転の状況」

本当に吐ければ大したものですがそれができるんなら
そもそも今の徳俵に足がかかったような状態には
なってませんわな…。

Posted by: あっとさせぼ | December 01, 2007 at 07:54 PM

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