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November 21, 2007

「せこい正義」の害悪

■ ちょっと気懸かりな話である。
 □ 強まる増税色 政府税調答申、実施時期など不透明
               11月20日21時6分配信 産経新聞
 20日に取りまとめられた政府税調答申は増税色の濃い内容となったが、政治状況などで実現時期が不透明なものが多く、すぐに国民生活を変えることにはならないとの見方が強い。答申の焦点となった消費税や証券優遇税制、格差是正に向けた税制について、答申から実現の見通しを占った。
 ○ 増税
 消費税増税については、社会保障制度維持のために必要と明示したが、増税時期や上げ幅には踏み込まなかった。一方で、今後増税する際に検討課題となる仕組みについても意見を示した。
 食品や日用品に関する軽減税率について「事業者の事務負担、税務執行コストなどを考えれば単一税率が望ましい」とした。このほかの大きな理由として、「我が国の税率水準が欧州諸国と比べて低い」としたが、引き上げるべき税率を示していないため、説得力を欠く記述となった。「10%以上になれば軽減税率が必要になる」(学識経験者)という声が強い。後略。
 □ 証券優遇税制
 上場株式の譲渡益、配当などの税率を本来の20%から10%に引き下げている証券優遇税制については、香西泰会長が以前から表明していたように廃止を打ち出した。しかし、「昨年度の答申の方向に沿って対応すべき」と、表現は弱かった。
 譲渡益は平成20年末、配当は20年3月末が廃止の期限。政府税調は昨年度も廃止を提言したが、自民税調が延長を決めた経緯がある。後略。

 漢籍を読めば、佳き執政の第一は、「税を取らない」ということである。雪斎は、反「福祉国家」路線の線で言論活動を出発させたので、「社会保障目的なら増税も容認される」という論理には、「嘘だろ」と突っ込みを入れたくなる。
 証券優遇税制でいえば、国際的に受け容れられる様態や水準に合わせることが大事である。現在、日本株を多く買っているのは、外国人投資家である。八月末以降、日経平均株価が急落している理由は、第一に「外国人投資家が売っている」からである。雪斎保有の鉄鋼株は、ピーク時から40%近く下落し、株価収益率10倍を割り込むレベルになっている。「借金してでも買え」というレベルである。しかし、もし、証券税制が諸外国に比べても不利だという認識が広がれば、外国人投資家は日本株を買わなくなるのではないであろうか,現在、どこの国でも、世界を流れる「カネ」を呼び込む努力を必死になって行っているときに、わざわざ「カネ」が逃げていくような選択を敢えてする意味がどこにあるだろうか。
 そういえば、次のような記事も配信されている。
 □ <証券優遇税制>廃止でGDP25兆円減少と試算 大和総研
                11月20日19時45分配信 毎日新聞
 大和総研は20日、08年度中に期限が切れる証券優遇税制が廃止された場合、優遇が継続された場合に比べて、今後5年間で実質GDP(国内総生産)が累計25兆円も減少するとの試算を公表した。増税効果や取引減による株価下落などで、民間消費のほか設備投資などの企業活動も低下するという。今後5年間で、延べ34万5000人が雇用を失い、平均賃金も0.8%下がると試算している。後略。
 
 なるほど、「優遇税制」廃止とは、実際には「増税」であるから、「景気失速」のほうに一歩を踏み出す効果を持つのである。雪斎は大学准教授であるので、学生が無事に就職できるためにも、「景気維持」が「格差是正」よりも大事だと思っている。「金持ち優遇」云々で判った気分になってはいけないということであろう。
 この頃、巷に流行るものはなにか。それは、「せこい正義」である。「清く正しく美しく」、「名もなく貧しく美しくの世界は、雪斎には率直にぞっとさせられるものであるけれども、「せこい正義」を振り回す人々は、そういう世界がお好きであるらしい。

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「学者生活」カテゴリの記事

Comments

呆れますね。
貧富の格差は当然だという考えで到底ついてゆけない。
せこい正義とわめく前に正義とはせこいものでそれなくして人間は生きてゆけないという事を忘れている。

正直「パンがなければお菓子を食べればよいではないか」という考えと同じでグローバリズムの聖戦貫徹を叫ぶ雪斎さんのお言葉は原理主義を非難しながら自らは原理主義を叫ぶ愚を冒していると何故お分かりにならないのですか。またそういう発言はグローバリズムへの憎悪を煽る発言で安易極まりないといわざるを得ない。

「柔よく剛を制する」と発言した人のお言葉とも思えない。
付け加えれば昔、「柔よく剛を制する」を使った人に後漢の
光武帝がいましたが、班超を起用した北方・西方への軍事進出もどんどん行っていたからこそ使えた考えで、従軍慰安婦問題やいよいよ捕鯨問題でオーストラリア・アメリカから戦争でも仕掛けられかねない情勢でも震えるしなかない我が国には何の価値もない言葉です。雪斎さんの唱える「柔」は都合のよい「柔」で、「柔」のもつ怖さを考えたすえのものではない。

海外からの資本を呼ぶ呼び水などといいながら、その実、日本人の富を外国に売り渡す(だからこそ向こうも投資してくる。日本人が得るなどという事は一億年たってもない)だけで、株などというものは暴落の果てに一般投資家からむしりとるものでしかない。景気回復か格差是正かなどと叫ぶ事自体、外ばかり見ていて、内を省みないグローバリズムの問題が露呈している。

Posted by: ペルゼウス | November 21, 2007 at 07:17 AM

今増税を唱えている人たちの中心には、こんな発言をしている人がいますからねえ。

「名目成長率をあげていけばいいというインフレ政策、悪魔的な政策は国民には迷惑な話だろうと思う。」(与謝野前官房長官の発言)

諸外国では当たり前の高々2~3%のインフレを「悪魔的」と罵る人が今の増税論議の中心にいるわけですから、巷に「せこい正義」が流行ってしまうのも無理ないですね。

Posted by: Baatarism | November 21, 2007 at 12:32 PM

日本の航空会社が、自社系列のホテルを外資に売却した時、その金額の凄さに驚きましたが、これに対し「日本の富を外人に売るな」のような意見が来たことも驚きでした。航空会社がこの売却で財務内容が楽になった事実はまったく無視されており、リターンが欲しければリスクを取るのは鎖国時代の日本でも同様だったはずです。せこい正義の象徴だった「攘夷志士」が、グローバリズムと出会い、明治国家へと進みましたが、今の日本は彼らの目にはどう映るのでしょうか?

Posted by: パットメセニー | November 21, 2007 at 03:32 PM

はじめまして。せっさい氏のブログをいつも拝見させてもらっている㏍と申します。
感覚的なものですが、社会保障費の大半は無駄遣いなのではないでしょうか。例えは悪いですが、クレジットカードの枠がまだまだあるから使ってしまえという感じがします。溜まった付けを払うのは下の世代なのに。
政治家はいい加減に福祉を売りにするのは卒業して、育児支援や教育、安全保障など日本の未来に投資して欲しい。現状で子供を生めといわれても。
それと、証券優遇税制とか変な名前を止めて貰いたいです。
努力の結果得た利益から10%も税金を取っておきながら優遇とはおかしいと思うのです。政治家や役人はいつまでも日本人が国を捨てないと思っているのでしょう。
個人が自己責任で投資して利益を得る事がそんなに悪いことなんでしょうか。あえて優遇税制と名づけて悪意を感じてしまいます。
長々とすみません。

Posted by: けいけい | November 21, 2007 at 03:54 PM

>それは、「せこい正義」である。
おっしゃるとおりで。木村剛さんはコンプライアンス不況なる概念を提唱されていますが、せこい正義が実態に合わない変なルール改正を促した結果でしょう。

「地獄の路は善意で敷き詰められている」あるいは「白河の清きに魚も住みかねて、もとの濁りの田沼恋しき」と言ったところでしょうか。

Posted by: あかさたな | November 21, 2007 at 07:02 PM

地獄「へ」の路は善意で敷き詰められているですね。
にしても、地獄への道路を今の日本はF1カーで爆走しているようにしか思えない。

Posted by: あかさたな | November 21, 2007 at 07:07 PM

下敷きにしておられる大和総研の資料自体が、シミュレーションよりも軽減税率の正義を謳うことに重きを置いている形なので、資料としてはあまり意味がありませんね。

そもそも、増税自体にGDPの押し下げ効果があるのは当たり前の話です。
では、何故それにも関わらず、政府与党で増税論が噴出しているかと言えば、増税による経済悪化と財政悪化の悪影響のトレードオフの結果、前者を選好しているからです。
ならば、そういう相手に「増税は経済に悪影響を与える」と当たり前のことを説いたところで、効果は期待できないでしょう。

もし、意味のある資料を作成するのであれば、例えば「軽減税率を維持しても、金融緩和で経済成長を維持すれば税収は確保できる」だとか、「軽減税率の廃止で経済が悪化すれば、逆に税収は低下する」のように、軽減税率廃止による税収増と軽減税率維持による景気効果のトレードオフの関係を示したうえで、後者の方が有益であることを示す形にするべきでしょう。
そうした視点を欠いて「増税は良くない」と言っているだけの資料では、政府与党から「対案がない」と批判されても仕方ありません。

ですから、せこい正義云々の観念論より、「財政再建路線はデフレ脱却まで封印すべきだ」等の具体論を主張しないと意味がないと思うのですよ、実際。

Posted by: sirouto | November 22, 2007 at 01:32 AM

>siroutoさん
横レス失礼します。

与謝野馨氏の最大の論敵である竹中平蔵氏が、増税論議に関して次のような発言をしてます。
このような発言を考えると、具体論を避けているのは、雪斎さんが批判している増税推進派ではないのかという疑いも出てきますね。
ちなみに「財政再建路線はデフレ脱却まで封印すべきだ」という意見には僕は大賛成です。

> 例えば、財革研のトップである与謝野馨会長が「消費税なしでやっていけると言う人は物事を知らない人だ」と挑発的な発言をしたのが伝えられている。しかし、安易な増税に反対する議論のどこがどう間違っているのか、経済の中身の議論は一切ない。経済論議である以上、例えば経済成長はこの程度だから税収はどれだけ、歳出はこうなるから抑制は難しい‐‐などなど。財源不足がどうなるかの説明がいるはずだ。しかしその部分を実質的に財政当局へ丸投げし(もちろんその試算には極端なバイアスがかかっている)、「物事を知らない人」という文学的表現だけを返してくる。私たちの批判に対する経済的反論は一切ないのだ。また民間のエコノミストも財政当局を気遣ってか、ほとんど政策議論に入ってこないというのが実情である。

日経ネットPLUSより
http://netplus.nikkei.co.jp/forum/academy/t_70/e_803.php
(このページにアクセスするにはユーザー登録が必要です)

Posted by: Baatarism | November 22, 2007 at 12:35 PM

>Baatarismさん

もともと正体の見えにくい人だけに、具体論がないとなるとわかりませんね(笑)

実際、本気で増税に反対するなら、増税派の中心にいる与謝野氏を討ち、その論拠を打ち崩す必要があります。与謝野氏さえ何とかすれば、あとは烏合の衆ということで(笑)

そのためには、大和総研のような試算ではなく、橋本内閣の経済失政を持ち出すのが一番でしょう。橋本内閣の経済失政を徹底分析した資料を作り、デフレ下での増税が景気を冷え込ませ、逆に税収を低下させ、財政再建すら不可能にしたという事実を明らかにするのです。この資料を前面に出し、竹中氏・高橋洋一氏らを論客に据え、与謝野氏の反論は「また同じ失敗を繰り返すつもりか」で封じてしまう。
一方、具体策を問われたら、安倍内閣時代の財政の改善データを示し、デフレ脱却こそが財政改善の早道であることを示す。さらに、デフレ脱却後であれば、クリントン政権時代のアメリカのような思い切った財政再建を行うことも可とする。

とやれば、増税派を論破することも可能ではないか、などと妄想してみるのですが(笑)

Posted by: sirouto | November 23, 2007 at 11:47 PM

>siroutoさん

きわめて真っ当な戦略だと思います。(笑)
僕のブログではさんざん与謝野氏を批判しているのですが、やはり彼が増税派の総元締めだと思うんですよね。彼がリフレ派や上げ潮派を「悪魔的」と呼ぶのであれば、僕は増税派のことを、自分の主張を正義と信じ込み、批判する者を悪魔と決めつけ、高橋氏の時のように手段を選ばず政権から追放しようとする、「増税十字軍」とでも呼びたいです。w

Posted by: Baatarism | November 24, 2007 at 09:03 PM

>Baatarismさん

その点では、僕は上げ潮派にも不満を感じています。
今のところ、増税論議は与謝野氏を中心とした増税派が攻勢をかけ、上げ潮派はどちらかといえば反論中心で守勢に回っている形です。守っているだけでは勝てないというのは、戦いにおける鉄則です。
今の上げ潮派が迫力不足なのはそのあたりでしょう。
本気で勝つつもりなら、目標を与謝野氏に定め、全力を集中してそこを叩かねばなりません。

また、理論で与謝野氏と勝負しても、良くて五分に持ち込めるかどうかでしょう。もともと、この手の議論は理論上の決着はつけにくいものですし。
ですから、ここは過去の実績を持ち出して勝負すべきです。実績でもって批判すれば、与謝野氏の理論は「机上の空論」と一蹴できますし。

と、誰か上げ潮派にご助言いただけないものでしょうか(笑)

Posted by: sirouto | November 25, 2007 at 01:08 AM

>siroutoさん
確かに今の上げ潮派は守勢ですね。
本来ならば塩崎氏あたりが理論的な中心になって反転攻勢すべきなのでしょうが、リフレに及び腰であるため、成長優先の理論を固められず、増税派に対抗できないのでしょう。
橋本政権時代を持ち出しても、それだけでは単なる批判に終わってしまうので、それに代わるストーリーを用意できなければいけませんから。

Posted by: Baatarism | November 25, 2007 at 12:08 PM

>Baatarismさん

本来は、それに代わるストーリーというのが安倍政権時代の財政改善だった筈です。
実際、安倍政権時代は橋本政権以降では最も財政が改善し、公債発行額も年30兆円を下回っていたのですから。
しかし、上げ潮を政権の特色にできないまま、全くの別件で足を引っ張られて終わってしまったのは残念なことです。
ただ、塩崎氏が官房長官であれば、参院選で負けなかったとしても、デフレ脱却前に金融引き締めが行われ、結果としてデフレ脱却に失敗、となった可能性は確かに否定できませんね(笑)

Posted by: sirouto | November 25, 2007 at 05:01 PM

>siroutoさん
ここのコメント欄を2人のやりとりだけで使い続けるのもどうかと思うので、この話はこのくらいで切り上げましょう。
僕のブログで興味のあるエントリーがありましたら、またよろしくお願いします。

雪斎さん、コメント欄をこのような形で使ってしまい、すいませんでした。

Posted by: Baatarism | November 25, 2007 at 07:55 PM

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