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September 07, 2007

金曜の朝、午前4時

■ 三つの四方山話である。台風襲来最中のエントリーである。
 ① 『狼と香辛料』(支倉凍砂著)を読む。
  / ライト・ノベルというものを読んだことはなかったけれども、「こういうものがあるのか…」という感想が先に来た。読者層は、高校生ぐらいを設定しているのであろうか。西洋中世史と「商売」の基本的な知識があれば、彼らには、それなりに楽しめそうな作品ではある。主人公は、二十歳代半ばの行商人で、その連れ合いが十代半ばくらいの少女に化けた「狼神」である。この主人公の「大商人への夢」が物語の軸である。
  / 多分、このライト・ノベルを読んだ後に、コーエーのPCゲーム『大航海時代』をやると、若い人々には、食いつきやすいかもしれない。「ビジネス・マインド」を養う最初の一歩としては、使えるものではないかと思う。
  / 余談であるけれども、今にして思えば、『大航海時代』シリーズは、よくできたPCゲームだった。最初の内は、中古の小船で、ちまちまとカネを稼いでいるのであるけれども、コスト・パフォーマンスの高い交易ルートを見つければ、かなり効率的にリターンを得られるようになってくる。そして、晴れて大型帆船団を組んで世界に乗り出せるようになれば、桁違いの「富」が入り込んでくる。無論、外洋では嵐に巻き込まれたり海賊に襲われるリスクも、高くなるのであるけれども…。たんなるゲームにしては、リターンとリスクに絡む「現実」が反映されていた。
  / 日本は、アテネ、カルタゴ、ヴェネツィア、英国の系譜に連なる「海洋国家」であるというのが、広く受け容れられた話である。だが、こういう「海洋国家」が「交易による富」に立脚した国家であることに、どれだけの留意が払われているであろうか。「清く、正しく、美しく」、「名もなく、貧しく、美しく」では、国は持たない。

② 「投資」に関する書の紹介である。
   ● 『投資 4つの黄金則』 (ウィリアム・バーンスタイン著)
    / これは、「入門書」である。最初から、「証券会社は友達ではない」という趣旨の記述がある。「儲かりますよという話を誰かがしてきたら相手にするな。本当に儲かる話なら、誰にも教えないはずだ…」という趣旨の記述は、いまだに日本では後を絶たぬ「投資詐欺」のことを考えれば、確かに大事な指摘である。「自分の頭を使わないで儲けようと思ってはいけない」というのが、「投資」の基本なのであろう。
   ● 『株式投資―長期投資で成功するための完全ガイド』
      (ジェレミー・シーゲル、石川 由美子・鍋井里依・林康史共訳)
   ● 『株式投資の未来―永続する会社が本当の利益をもたらす』       (ジェレミー・シーゲル著、瑞穂のりこ訳)
    / 要するに、「長期投資」の意味を説明している書である。結構、有益な書である。
  こういう書は、英米系の学者やジャーナリストが書く場合が多いけれども、日本の場合はどうなのであろうか。シーゲルは、MITで経済学博士号を取得し、ペンシルベニア大学教授として金融論を講じる生粋の学者である。
日本では、生粋の経済学者が「投資」本を書くという事例は、余りないようである。案外、こうしたところにこそ、日本の「金融異本主義」の底の浅さが反映されていると思われる。「郵政民営化で日本の富が米国に吸い上げられる」といった被害者意識丸出しの議論に走るよりは、「闘える金融資本主義」の土壌を定着させる方途を考えることのほうが、余程、日本のためにはなる。

 ③ 雪斎の投資の目標は、三つである。
    ⅰ 「重度身体障害を持っていても、ミリオネアにはなれる」という命題を証明する。
    ⅱ 諸々の意味での「自由」を手にする。
    ⅲ 「ランティエ」生活を実現させる。
  / ⅰ、ⅱはともかくとして、ⅲは結構、難しいような気がする。精進あるのみである。

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学者生活」カテゴリの記事

Comments

> 『狼と香辛料』(支倉凍砂著)を読む。
これは、良いものを読まれましたね。
「ライトノベル」にもいろいろありますが、
中世的な社会と来れば、「剣と魔法」の作品があまたある中で、
そんな社会での商業を話の種にした独自性、
媚びないヒロインの描写の潔さ、
会話の駆け引きのおもしろさといった点で、この作品に匹敵するものは早々ありません。
(もちろん私の読んだ狭い範囲内でのものですが。)
最新の五巻では、ジェーン・オースティンの良作を連想してしまうような会話の駆け引きを楽しんだ次第です。

Posted by: MUTI | September 07, 2007 07:23 AM

経済学者が投資の話を書くことは、日本ではめったに無いですね。学者の側にも読者の側にも抵抗があるのでしょう。
(日本で有名な投資本の著者は証券会社の人が多い様に見受けられます)。

そういった問題も含めて、日本の「学者」の中で一番改革が必要なのは経済学の分野では無いかと思われます。
日本では経済学は「文系」としてくくられ、比較的数学を重視せずに選抜されますが、そのあたりに問題があるのかもしれません。ノーベル賞に限っても日本人では経済学賞の受賞者もいませんし、ほかの分野と違って候補として名前を取りざたされる人もいませんよね。

Posted by: SE | September 07, 2007 09:30 AM

>『狼と香辛料』
確かにこれは最近のライトノベルでは出色の出来だと思います。まあ、大人が手に取るのはちょっと恥ずかしいですが。w

>投資と経済学
僕がよく知っている人はリフレ派の方が多いのですが、自分が儲けることにはあまり関心はなく、世の中がどう動いているのか(動いてきたのか)に関心がある方が多いように思います。
お金よりも知識がインセンティブになっている人が多いのでしょう。

Posted by: Baatarism | September 07, 2007 12:23 PM

先週の金曜日、私はとうとう厚労省の前で、ハンストを決行しました。ぜひ拙ブログをお読みください。
また30年前の横浜での米軍機墜落、母子3人死亡の事故についての記事を貴ブログにトラックバックしましたが反映されません。これも政治的問題かと思います。私はこの事故で政治に目覚めました。雪斎さん12歳、私18歳のときの事故です。米軍・防衛庁(当時)の責任について雪斎さんのご意見をお聞かせ願えれば幸いです。

Posted by: うみおくれクラブ・ゆみ | September 07, 2007 04:23 PM

以前、紹介した『狼と香辛料』を読まれたとの事ですが
面白かったでしょうか?
ライトノベルの魅力は、書き手の新陳代謝と競争の激しさと
「何でもあり」の題材の幅広さでありまして、新しい才能が
ひょっこりと顔を出すところが、沈滞が続く文壇との違いでしょうか?
『狼と香辛料』ですが、二巻は私には一口で説明できませんが、三巻は「バブル」を題材にしています。
よろしければ、続刊も楽しんで下さい。

ちなみに、この話は小学生から社会人に至るまで
読み手の幅が広いそうです。
読者の中から、未来の投資家・金融家が出るかもしれません(笑)

Posted by: TOR | September 07, 2007 09:17 PM

「狼と香辛料」読んでいる人結構多いですね。
ヒロインのセリフの言い回しは遊郭からひねってあるらしいですが妙にマッチしています。
続巻のほうが世界観も堅牢な出来なのでお薦めですね。宗教権威の描写をここまで砕いてそれなりに中身を維持出来ているのは大したものだと思いました。
それにしても、若い作者がどのような経緯を経てこのセンスを身に付けたのかと、むしろそれに関心がありますね。

本題の経済学の話ですが、日本の現状を考えると大方は海外の書籍に頼らざるを得ないのが現状と思います。ここに至った経緯は色々とあり、日本は国民の多数派が株式への投資を長期に渡って信頼するための土壌がないのはやむを得ないのでしょう。

それにしても、全くの嘘を大真面目で語る人間が排除されないのは、経済に限らず日本のアカデミズム全般の病と称するべきでしょうか。テレビどころか大学でも大手を振っている始末ですから。時間が経過すれば良くはなるのでしょうが、遅々とした歩みかもしれません。

Posted by: カワセミ | September 08, 2007 03:21 AM

”経済に限らず日本のアカデミズム全般の病”
唐突な一般化はいただけないですね。日本のアカデミズムで、数学、物理学、化学、生物学など、少なくとも基礎科学に近い分野ではは、違う意味で病はありますが、上記の点ではそれなりに機能していますよ。(例えば最近のT大でのRNA関連やO大など)

問題なのはむしろ社会科学と言われている分野ではないでしょうか。なにせ、まともな”アカデミック”なJournalに(真の意味でろくにサイテーションされていないという点は目をつぶっても)一本しか論文かいてない元大臣でも立派な学者扱いですから。(政治家あるいは解説者としての力量は別ですよ、とりあえず)

Posted by: ぷらなりあ | September 08, 2007 03:53 AM

ああ、自然科学系はあんまり頭にありませんでした。そちらの分野では大方の場合全くの嘘を語った時に否定することは可能ですので。
社会科学に関してはその通りで、恐らく「科学」と思わずに活動する人が多過ぎるのでしょう。

Posted by: カワセミ | September 08, 2007 12:40 PM

「ラノベ」より「大航海時代」が雪齋さんのブログに出てきた方がびっくりしました。確かにあのゲームは交易の楽しさを学ぶにはうってつけだと思います。
コーエー系のゲームで歴史に触れることを軽蔑する向きもありますが、そういう所から「世界」を知り「文化」を知るきっかけになればいいと思うのです。

「狼と香辛料」は売れているようで、4~5件めぐってやっと初巻をゲットしました。コミック化やアニメ化もされるとか・・・。

Posted by: さのよいよい | September 08, 2007 11:59 PM

雪斎さん

こんばんは

『狼と香辛料』は、「ラノベ」では、私も詳しいわけではないですが、非常におもしろいですね。経済系ライトノベルと言われてますけど。こういうのに、続いて、学園モノ、世界系だけでなく、歴史系や、政治系など、出て来ても、今の、小・中・高生には、馴染みやすいのかも知れません。

又、コーエーのシュミレーションゲームは、みな、それぞれに、面白みがあって、よくやりましたね。『三国志』『信長の野望』など、人気があったと思います。よくやりましたw
良くも悪くも、アメリカの全てではないですが、地政戦略系を教えたりする場合など、各々のPCと教室のスクリーン画像を繋いで、世界地図を出して、まるで、パワーポイントでゲームをするように、やる大学、研究者もいますね。

それで学問の話ですが、政治学や国際政治学に関しては、やはり、経済学へのあこがれみたいのがあるでしょう。今では、計量化(数量化)モデルが使われます。もちろん、無理に使う必要はないのですが、経済数式ぐらいは、統計手法ぐらいは、身につけておかないといけないというのが、私の知る英米では、ほぼ常識ではないでしょうか。英米の大学院で、M.Aを取るには、こういった、統計や数学が必要単位になっています。

それでいてまた、経済学となるとやはり、自然科学へのあこがれみたいなものがあるんじゃないでしょうか。私は、経済専門ではないのですが、聞いた話では、日本のバブル前の非常に経済の調子がよかった頃には、日本型モデルの研究や、そのもの自体がサンプルとしての有効性があったようですが、その後は、まるでダメみたいですね。

まあ、自然科学から見れば、社会科学は、サイエンスなのかと思われてる、自然科学の研究者は多いと思いますよ。

Posted by: forrestal | September 09, 2007 01:18 AM

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