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August 08, 2007

破釜沈舟

■ 安倍晋三総理の「続投」には、自民党内外からブーイングが浴びせかけられているようである。
 「破釜沈舟」という言葉がある。「退路を断つ」とか「ルビコンを渡る」というものに似た趣きの言葉である。項羽が秦の軍隊と戦った折に使った戦術から来た言葉である。小泉純一郎前総理の「郵政解散」を決めた「8・8演説」には、そういう「破釜沈舟」の趣きが濃厚に漂っていた。安倍総理も、「続投」宣言によって、その「破釜沈舟」の決意を示した心算であろう。だが、どうにも、「熱」が伝わってこない。「構造改革」路線は、貫徹しなければならないけれども、それを伝える安倍総理の言葉には、「定型」的な趣きが濃い。もっと規格外のことをやってもいいと思うのだが…。
 もっとも、安倍総理は、どうにも政権運営が苦しいということになれば、辞めるタイミングは二つしかない。
 第一は、来年の予算案が成立した段階である。その段階で辞めてもらえれば、格好が付く。「洞爺湖サミット」は、「どうせ辞める人物」がホストを務めてはならない。そいうことをすれば、諸国の指導者に対しても失礼であるし、日本国の国益を毀損する。第二は、そのまま総選挙に突入して敗北した時点である。

■ 自民党機関紙『週刊自由民主』に寄せた「自民党に『喝』」原稿である。昔、1930年代の英国において、ハロルド・ラスキは、「労働党のパンフレット・ライター」と呼ばれたことがあったけれども、雪斎も、さながら、その趣きである。それにしても、前に『週刊自由民主』に書いたのは、安倍内閣発足時点であった。ここまで雰囲気が変わるとは…と思う。
 □ 自民党への「喝」
 吉田茂は、「負けるときは負けっぷりをよくしなければならない」と語った。此度の参議院議員選挙における自民党の敗北は、この吉田の言葉に倣えば、「負けっぷりのよい負け」であったと評すべきであろう。故に、そこには救いがある。もし、此度の敗北が、他党の協力を得れば過半数を制することができるといった程度のものであれば、その敗北の検証は充分に行われないままに終わったであろう。此度の「誰にでも判る負け」は、自民党に自省の機会を与えたのであるから、自民党は、その機会を逸してはなるまい。
 自民党に要請されることの第一は、安倍晋三総理の「内治」路線の基本線は誤っていないということを確認し、その路線に沿った政策を愚直に打ち出すということである。小泉純一郎前総理以来の「構造改革」路線には、「格差」拡大という批判が投げ掛けられ、その批判が安倍総理の失速を機に一挙に噴出したわけであるけれども、そもそも、「格差」批判それ自体が順調な経済情勢を前提にしてこそ意味を持つものであるということは、この際、強調に値しよう。「冷戦の終結」以後の「グローバリゼーション」の趨勢に対する適応を進めた「構造改革」路線は、「いざなぎ」越え景気の実現という点で確かに成果を挙げているけれども、その成果が全国津々浦々に行き渡るまでには、相応の時間が要る。現下の自民党には、その現実を国民各層に懇切に説明する努力が要請されている。
 無論、参議院第一党の立場を得た民主党とは、国政の様々な案件で「協調」を模索することが必要である。民主党は、此度の躍進を機に「政権交代」に向けて気勢を挙げるかもしれないけれども、参議院第一党として従来とは比べるべくもない重い責任を負うに至ったのは、間違いない。もし、今後の民主党が「党争」の都合によって従来のような無意味な対決姿勢を続けるならば、それは、国民各層の受け容れるものとはならないであろう。此度の選挙の結果は、実態としては、「自民党の敗北」であっても、「民主党の勝利」ではないからである。逆にいえば、自民党は、此度の敗北に伴う衝撃に幻惑される形で、民主党との「党争」に走ることになれば、それは、国民各層の更なる幻滅を招くであろう。前に触れたように、自民党の「内治」の基本線は誤っていないし、国政全般に対して責任を果たしてきた歳月という点では、自民党には他党に対して「一日の長」があるのであるから、それに相応しい振る舞いを続ければよろしい。
 自民党の「敵」は、「永田町」に存在する特定の勢力を指すわけではない。自民党の「敵」は、日本国民の「隆昌」を妨げる一切の存在のことであり、その存在が何かを見極めるのを阻む自らの思考の惰性や予断といったものである。自民党にとっては、今は、自省の時である。ただし、自信を喪失してはならない。
  『週刊自由民主』(2007年8月6日付)掲載

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