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August 31, 2007

朝青龍と「グローバリゼーション」の苦み

■ この数週間、かなり不愉快な気分で眺めていたのが、横綱・朝青龍に絡む騒動である。
 この朝青龍騒動の浮上には、白鵬という「もう一人の横綱」の登場が関わっていよう。それにしても、相撲協会の対応の見苦しさと朝青龍叩きに走るメディアの浅ましさには、呆れるばかりである。

 世界から力士を迎えることで活性化を図るということで、相撲協会は、「グローバリゼーション」の恩恵を受けてきた。もはや、日本の若者は、相撲の稽古などという「きつい」ことはしない。また、一人や二人しかいない自分の息子を相撲の世界に入れることは、大概の親にとってもリスキーなものであろう。十歳代後半から二十歳後半に至る歳月を費やし、それで三役にも辿りつけなかったら、これほど割に合わない選択はないであろう。もはや、日本の若者を相撲界に引き入れようとしても、難しい。そうした環境があればこそ、モンゴルの若者が日本の相撲を目指してくれたのは、ありがたいものであったはずである。
 こうしてみると、此度の騒動の背景には、「朝青龍に日本人であることを要求した」相撲協会と「自分はモンゴルの英雄であると自負した」朝青龍の認識の違いにあったと推測される。朝青龍が「モンゴルの英雄」ならば、彼がモンゴル政府の依頼を出来るだけ受けようとしていたとしても、不思議ではない。騒動の発端となったらしいサッカーもまた、モンゴル政府の催事であったと聞く。「モンゴルの英雄」であれば、当然、参加するのではないであろうか。
 だから、相撲協会も日本社会も、朝青龍が「従来の日本人横綱と同じ横綱」であることを期待してはいけないのである。彼は、「身内」ではなく「客人」なのである。彼は、日本人と同じ身なりをし、日本人と同じ生活をし、日本語を流暢に話し、しかも強い相撲を取ることで、本来の「客人」以上のことをしたのである。何故、バッシングされるいわれがあるというのであろうか。
 もし、この騒動の扱いがモンゴル国民の対日印象を悪化させ、今後、モンゴルから若者を寄越さないと声が挙がったら、相撲協会はどうするのであろうか。おそらく、現在の相撲興行の体制は崩れるであろう。「モンゴルが駄目なら他を…」というのは、姑息な発想である。責められるべきは、相撲協会が「グローバリゼーション」の時代の恩恵を充分に受けながら、その「グローバリゼーション」の時代に相応しい制度設計を怠ったことである。大体、日本企業が外資に乗っ取られるのが嫌だから外資を追い出せなどという馬鹿なことを唱える人々は、いない。そういうことをすれば、日本経済は直ちに奈落の底に落ちる。だから、東京証券取引所みたいなところは、外国の「カネ」を呼び込み続けるために努力を続けている。相撲協会も同じ立場に置かれている。モンゴルを初めとして外国の「ヒト」に頼るのであれば、その「ヒトを取り込み、あるいは逃がさないために何をしなければならないかを今こそ考えていなければならない。此度の騒動の収拾は、そのテスト・ケースであろう。
 故に、相撲協会の「時代感覚」、「政治感覚」の欠落は、相撲という国技の将来をも壊すことにならないであろうか。。
 加えて、雪斎は、相撲協会の面子などというのは無視してもいいと思うけれども、モンゴルとの関係がおかしくなる事態は憂慮している。対中戦略の観点からしても、モンゴルの貴重な地位は、長い間、変らないであろう。
こうしたことを顧慮せずに「モンゴルの英雄」である朝青龍を叩いている御仁たちの感覚は、理解に苦しむ。やはり、吉田茂が語ったように、「外交感覚なき国民は滅ぶ」というのは、本当のことのようである。


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「学者生活」カテゴリの記事

Comments

雪斎先生
私も同じ意見です。少し前に書いた記事をトラックバックさせていただきました。

Posted by: 珈琲 | August 31, 2007 at 08:18 AM

マスコミが、事件報道で被害者家族や加害者家族を追いかけ回すのと同じ流れでしょう。
何か対策がないものですかね。

このような報道姿勢を、良く思っていない国民が多いと信じます。

Posted by: K | August 31, 2007 at 12:54 PM

 どの国でも、自分たちの文化に参加してくれた人に好意を持つ。メジャーリーグのイチローや松井に対する米国もしかり。だけど、参加者が、その国の空気に逆らったことをやると、とたんにバッシングとなる。特に、わが国ではそれがひどい。裏切られた、日本を馬鹿にしていると。騒いでる人は、正義のつもりかもしれないが、これでは単なるいじめじゃあないですか。イチローや松井が、大リーグ文化に逆らったことをやっても、こんなバッシングされますかな。スポーツ後進日本。

Posted by: M.N.生 | August 31, 2007 at 02:59 PM

アメリカもスポーツ後進国ですよ。
オリンピックなどの国際大会では、自国の選手しか応援しない。他国の選手にはブーイング。

Posted by: K | August 31, 2007 at 04:52 PM

先生の記事はとてもわかりやすいです。
私は朝青龍が大好きです。

彼が日本人の報道に集団暴行されたを見て
とても心苦しい。

先生の記事を読むと、すこし、楽になりました。

Posted by: タイ人です | August 31, 2007 at 11:24 PM

うーん・・・
その論法はちょっと違うのではないかと。
と言うのは、問題を「相撲協会の対応」と「朝青龍を叩いているメディアの対応」とに分けて考える必要があります。
まず、協会にとって「巡業」と言うのは本場所と並ぶ重要な「柱」です。
にもかかわらずそれを「怪我を理由に欠場」した横綱がモンゴルでサッカーをやっていたら、これは処分せざるを得ないでしょう。
「巡業軽視」を認めていたら、どっちみち協会の体制は崩壊するのですから。
また、雪斎さんの書き方だと、まるで「モンゴルの英雄」たる朝青龍とっては「モンゴル政府の依頼」が大事だから
そちらを優先して巡業を欠場したみたいですが、
実際には、欠場して無断帰国した際、たまたまモンゴルでサッカーのイベントがあったから出場したと言う、
場当たり的なものに過ぎません。
これまでも朝青龍は無断帰国して協会の催しを欠場することが多く、しかもそれは単なる個人的な理由によるものです。
別に「モンゴルの英雄」として欠場していたわけではありませんね。たまたま今回の無断帰国にモンゴル政府絡みのイベントがあったという話です。
つまり単なることは朝青龍個人の問題に過ぎないことを、やれ「モンゴルの英雄」とかにまで絡めてしまうと、
ちょっと話の道筋がずれてしまう気がするのですが、いかがでしょうか。
(とは言え、メディアのバッシングが常軌を逸して過剰過ぎるというのは同感です)

Posted by: who | September 01, 2007 at 12:29 AM

>これまでも朝青龍は無断帰国して協会の催しを欠場することが多く、しかもそれは単なる個人的な理由によるものです。

具体的にはよく知りませんが、でもきっとそうなんだと思います。で、今回の一件での処分は当然ですけど、だけどそれならもっと早くに処分しておけばいい。にもかかわらず、相撲協会は白鴎という新横綱が出来たところで一挙に朝青龍叩きに出たわけで、彼からすれば今まで大丈夫だったものが何で急にこんな言われなきゃならないの、という話になってしまう。相撲協会のあまりにもご都合主義な対応が問題だと思います。モンゴルの野生児だけに、この手の日本らしいムラ社会的ご都合主義というか政治的な反応が強烈なほど、ショックも大きくてわけが分からなくなって当然でしょう。私は横綱に同情的です。

さらに、日本文化や伝統を都合よく振り回して外国人叩きをしているって、これからの日本にとっていいことなんてちっともない。日本人と日本人にあらざるものの間で適当に線引きして、外国人を差別している意識がちらほら見える。「出る杭は打たれる」も度が過ぎます。横綱の叩かれっぷりをみて、日本在住のモンゴル人だけでなく、その他の国の方々も萎縮するようなことがなければいいんですが。

Posted by: 由良 | September 01, 2007 at 09:20 AM

>>
責められるべきは、相撲協会が「グローバリゼーション」の時代の恩恵を充分に受けながら、その「グローバリゼーション」の時代に相応しい制度設計を怠ったことである。
<<

朝青龍の態度に問題なしとは思えませんが、
そもそも人材を広く世界に求めておきながら、
より透明性と普遍性の高いシステムへの再構築・脱皮をしなかった点には、相撲業界の構造的矛盾があると言えると思いますね。

相撲は日本の伝統でなければいけませんが、
世界に対して「日本の相撲」をブランド化しようとするならば
伝統と「普遍化」の両立について真剣に悩まなければなりますまいて。

Posted by: 妖怪 | September 01, 2007 at 05:07 PM

相撲をスポーツとして捉えるなら、雪斎先生のおっしゃる通りだと思います。そして、妖怪さんが上記で言うように、ルールを整備すべきだろうと思います。

ただ、これを単なる国技として捉えるなら外国人排斥でも良いと思うんですよね。完全に外国人を閉め出して伝統芸能化する。いま歌舞伎や落語なんてのは、ごく狭い層に取ってだけ芸能として認知されているし、相撲もそうしてしまえば良いんではないかと思います。

方向性を打ち出さないままだんだんとなし崩し的に外国人力士の数や地位が向上してきたことの矛盾がいまになって表れているんでしょう。

海外在住の私としては日本人のいやなところをまざまざと見せつけられているようでどうも厭になります。

>自国の選手しか応援しない
あなたの、定義だとどこの国が先進国になりますか?

Posted by: akira | September 02, 2007 at 03:32 AM

朝青龍問題とグローバル経済は別に論じるべきだと思います。午後のワイドショー、この朝青龍のことばかり流して、ほんと、くだらない・・・

Posted by: うみおくれクラブ・ゆみ | September 02, 2007 at 12:43 PM

雪斎さん

こんばんは。

この件ですが、ご存じの通り、相撲協会はじめ、部屋に入り、親方ー弟子に限らず、その位ごとに、扱いが異なる大変厳しい世界です。朝青龍ははじめ、外国人力士と呼ばれる方々は、大変、頑張っていると思います。

この問題の難しさは、相撲という日本の伝統・文化を象徴する、国技である。それゆえ、外国人力士も、そのしきたりに応じるべきであるという感情の強さでしょうか、そこから飛躍して、ある種の日本人としてみなしてしまう神話が根強いよいように思います。これは、相撲協会の説明不足、制度改革のなさという怠慢と、それを、バッシングする、我々側の認識の傲慢さにあります。

御説ある通り、外国人力士の恩恵を受け、今や、彼らなしでは、成り立たないのが、相撲です。

文化広報戦略としての、説明・説得がまったく足りませんし、伝統だの文化だのを持ち出して、なんら、改革をしないようでは、その伝統、文化も廃れていくでしょう。

結局、このようなことが、日本のイメージを下げることになるのではないでしょうか。

必要以上に持ち上げることもないですが、広報して集めれば終わりではなく、彼れらがさらに、広報になるような新たな、制度設計、そのためのベネフィットを考え、より、多様で、柔軟な相撲協会になったうえで、相手側に、説明をきちんと果たしいく。また、私たちも、日本にいるのだから、日本的にそまならなければならないという、その海外の方のプライドや、アイデンティティまで刺激するのではなく、尊重していくよう認識の変化が必要ですね。

長くなりました。すいません。

Posted by: forrestal | September 02, 2007 at 06:07 PM

>あなたの、定義だとどこの国が先進国になりますか?

完全な先進国など存在していないように見えます。
ヨーロッパでも、フーリガンや競技場での暴動など問題がある。
逆に、日本では観戦マナーは優等生ですが、プロスポーツ選手の受け入れは完全自由化されていない。
現在、ホークスの元大リーグ選手がAP記者を兼任していますが、待遇では大リーグより良い点があるようです。

Posted by: K | September 02, 2007 at 11:14 PM

「1976年のアントニオ猪木 柳澤健」を読むと、日本の格闘家への待遇はかなり良いように思います。現在はわかりませんが、海外では酒場の用心棒ぐらいみたいな例が書かれている。
現在の外国人力士にも、前職用心棒がいるようですし。

Posted by: K | September 02, 2007 at 11:52 PM

以下、変わったことをいろいろ発表している方のページですが、
日本相撲協会が朝青龍を処分する理由が「仮病」ではない、
という点については興味深い視点だとおもいます。

http://www.akashic-record.com/y2007/asamon.html

Posted by: MUTI | September 03, 2007 at 02:39 AM

この問題に「モンゴルの英雄」だの、「従来の日本人横綱と同じ横綱」だの、「身内」だの、「客人」だのと二分法的なことなど持ち出す必要ありません。冤罪の朝青龍を裁判所でもない日本相撲協会が世間体を考えて人権侵害し、マスメディアも視聴率稼げるものだから悪乗りしてストーカー行為しているというだけの情けない話に過ぎません。

Posted by: 佐藤秀 | September 03, 2007 at 08:32 AM

>冤罪の朝青龍を裁判所でもない日本相撲協会が世間体を考えて人権侵害し、マスメディアも視聴率稼げるものだから悪乗りしてストーカー行為しているというだけの情けない話に過ぎません。

全く同感で、もう一つ勘繰りするなら、朝青龍を徹底的に悪役に仕立て上げておいて体よく追い出している間に、あら不思議「八百長疑惑」が消えている・・・という参段ではないでしょうか。トカゲのの尻尾役に横綱があてがわれたようにしか私には見えません。

Posted by: 由良 | September 03, 2007 at 11:34 PM

時々読ませてもらってます。

さてグローバリゼイシンについてですが。

●将来、日本の外国人と日本人の割合はどのくらいがいいのでしょうか?
私の住んでいる博多は今は韓国からの観光客がいっぱい来ています。因みに13世紀はモンゴルの襲来がありました。当時は運よく博多上陸はありませんでした、が、歴史に興味があれば防塁などを見ることが出来ます。

今日のデイリーヨミウリのシカゴトリビューにvanishing englandに興味深い記事が載っていました。

2005年~2006年の一年間に20万人近く外国へ脱出する人がいたそうです。

理由は:life in britain has become unbearable for them.
They fear lawlessness and the threat of more terrorism from a growing musulim population and the loss of a sense of Britishness,,などなど。

イギルスは世界を殖民地にした結果こうなったということができますが。
アメリカはどうでしょう、移民の国ですが(もともとインディアンの土地を奪った)もし、ヒスパニック系の住民が多数派になると、英国系アメリカ人は黙ってよその国へ脱出するのでしょうか?アメリカ的民主主義も世界の人たちは懐疑的ですが?

ところで去年博多で開かれた世界政治大会には参加されたんでしょうか?私はそこで語学ボランティアをやっていました。

Posted by: 健 高下駄 | September 04, 2007 at 11:16 PM

何が不愉快かといえば、精神療養の為出国した朝青龍を執拗に追い回し、そのことをモンゴルメディアに聞かれたマスコミ関係者が、”自分たちもここまでやるのは心苦しいが、日本国民の要請だから厭々やっている”とこたえた事。

そんな心積もりでやっているんだろうとは思っていたが、言葉に出されるとやはり不愉快なものです。

日本の一般人はそんな卑しく、浅ましい了見は持っていません。

まったく最近はテレビなんぞ見ても不愉快なことばかりです。
自分らはそんなに堕落してはいないつもりなんですが、見るもの聞くこと下卑た事ばかりで、日本はそこまで劣化が進んでいるのかと。

Posted by: horten | September 05, 2007 at 05:03 PM

仮に日本人横綱が同じ行動をとっても、同様の騒ぎが起こったと思いますがね。
引退まで追い込まれたかもしれない。

これだけ大きな騒ぎになる事自体、逆に横綱の地位の大きさを表している。
相撲界としては、イメージダウンで騒がれなくなる方を心配すべきかもしれない。

Posted by: K | September 07, 2007 at 11:05 PM

はじめまして。けちゃっぷと申します。
貴殿の記事に感激して、時々拝見していました。
今回下記の自分のブログに引用、トラックバックさせていただきたかったのですが、うまくできなくて・・・すみません。
ブログ初心者でまだルールがよくわからず、もしもマナー違反でしたら、どうかお許しとご指導よろしくお願いいたします。
http://blogs.yahoo.co.jp/ketchup_pp

Posted by: けちゃっぷ | January 15, 2008 at 11:49 AM

上記の件、リンクを張らせていただきます。
もしご迷惑でしたらお手数で恐縮ですがご連絡願います。
http://blogs.yahoo.co.jp/ketchup_pp/1135228.html

Posted by: けちゃっぷ | January 16, 2008 at 02:34 PM

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