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August 21, 2007

稽古不足を幕は待たない…。

■ 安倍晋三総理は、インドネシアで経済連携協定に調印したそうである。財界関係者を同行させた此度の外遊は、経済利得を増進させることを目指したものであるけれれども、安倍総理は、こういう経済絡みの対外政策のほうが却って業績を積み重ねることができるのではないかと思う。こういう領域では、「美しい国」にい象徴される安倍総理一流の「思い入れ」は通用しないのだから、安倍総理も、慎重に事を運ぶことができるであろう。
 昔、池田勇人総理が訪欧した折、シャルル・ド・ゴールから「トランジスターのールスマン」と揶揄されたという挿話は、まことしやかに語られている。しかし、ド・ゴールは、決して池田を馬鹿にするつもりで、そうした言辞を吐いたわけではないというのが真相のようである。
 ところで、内閣改造に向けて色々な話が伝わっている。注目点は四つである。
 1 官房長官  塩崎長官留任は、もはやあるまい。
 2 外務大臣  町村信孝氏と高村正彦氏が後任として浮上しているけれども、このポストは、安倍総理の執政の「色合い」を占う上では、誠に大事である。
 3 防衛大臣  小池大臣は、留任なのであろうか。
 4 農水大臣  実質、「呪われたポスト」である。このポストは、「構造改革」路線が続くか続かないかを占うものになるでああろう。
 雪斎は、この際、閣僚ポストは総て、「閣僚経験者」で固めてもよいのではないかと思う。いまさら、新しいことをして政権の浮揚を図ろうとすることに、いかほどの意味があるというのであろうか。
 総理補佐官は、ひとりだけを残すようである。正しい方針である。補佐官は、総理大臣に「意見を具申する」官職であって、何らかの権限を持って官僚組織に相対する官職ではない。故に、このポストに五人も政治家を充てたのは、制度の趣旨が理解されていなかったことの証左である。もし、五人の枠を使いたければ、総て「学者・民間人」を起用するのが、常道である。「財政・金融」、「外交・安全保障」、「社会福祉」といった各領域の専門家は、総理の判断を支えるためだけに活動するのである。

■ もう二週間前になるけれども、『共同通信』から依頼されて下の原稿を書いた。全国の多くの地方紙に載ったはずである。この文面は、『中国新聞』(8月6日付)のものである。安倍晋三という宰相は、「利」の人か「義」の人か。もし、「利」の人ならば、雪斎には、安倍総理の対外政策に期待を寄せる意味がある。

 □ 識者評論 参院選後を読む <4> 対外政策 過剰な「民族主義」不安

 安倍晋三首相は、その執政の「中間試験」とも呼ぶべき今回の参議院議員選挙に大敗を喫した。もっとも、年金制度の扱いや地域格差の是正といった「内治」の政策領域はともかくとして、安全保障政策・対外政策の領域における安倍首相の執政には、特段の失敗はない。むしろ数々の業績を挙げているというのが、正確な評である。

特筆すべき業績

 まず、安全保障領域に関しては、防衛庁の「省」昇格と憲法改正国民投票法案の成立を実現させたのは、特筆すべき業績である。こうした施策は、安倍晋三という政治家における「右派傾向」の表れと評する向きもあるかもしれないけれども、実際には十余年前に小沢一郎氏(現民主党代表)が打ち出した「普通の国」路線を加速させたものである。

 安倍首相は、一九九〇年代以降の歴代自民党内閣が進めた「普通の国」への歩みを着実に継いでいるのである。
 次に、対外政策に関しては、安倍首相が就任直後に中国と韓国を相次いで訪問し、小泉純一郎前首相の靖国神社参拝で手詰まり状態となっていた両国との関係の修復に努めたのは、明白な業績である。^_
 また、昨年十月の北朝鮮による核実験実施発表の後、国連憲章第七章第四一条に基づく制裁発動を趣旨とする安全保障理事会決議の全会一致での採択を主導できたのは、日本外交の可能性を予感させるものであった。
 加えて、この六月の主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)の折、「美しい星50」構想を示し、温室効果ガス半減に向けた議論に影響力を発揮したのは、来年の「洞爺湖サミット」においても地球温暖化防止が主要議題として設定されるであろうという観測を前にすれば、確かに意義深いことであった。
 ニコラ・サルコジ・フランス大統領にせよ、アンゲラ・メルケル・ドイツ首相にせよ、特に先進諸国の政治指導層は、五十歳代前半に世代交代が進みつつあるのであれば、安倍首相の「若さ」は、こうした指導層との意思疎通を図る上では利点を意味しよう。

  対北朝鮮で硬直

 ただし、安倍首相の対外政策展開における不安は、首相自身の「民族主義」の性向が過剰に反映されることである。
 従軍慰安婦の問題に関連して「狭義の強制性」を否定する発言をした安倍首相が、訪米時に発言の真意を説明する羽目になったのは、記憶に新しい。
 また、米国と北朝鮮の雪解け機運が高まりつつある現下の東アジア情勢を踏まえれば、北朝鮮に対し強硬一辺倒で来た安倍首相の姿勢が、日本の対応を硬直したものにしないとも限らない。
 たとえば、北朝鮮の核開発をめぐる「六カ国協議」の議論において、日本の影響力が限られたものであるように映るのは、対外政策展開におけるそうした硬直性の兆候を反映していよう。
 振り返れば、今回の選挙戦最中に「自民党が負ければ北朝鮮が喜ぶ」という言辞が政府・与党内から聞かれたことがあった。しかし、このような対外敵意を刺激するような言辞は、その政治運営の「質」の劣化を示すものでしかない。それは、確かに今回の自民党の敗北を暗示させるものであった。(おわり)

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Comments

安倍総理は「美しい国」を言う前に
まず、総理ご自身が、日本人の精神文化に照らし合わせてみて、国民から尊敬の気持ちをもって受けとめられるような、(アッパレな)人物でなければ説得力がありません。
国民だって「美しい国」にしたいという気持ちは大きいのですけれども、「お前にはそれを言われたくないよ」ということがあるわけでございます。
そういうわけで、総理が「美しい国」と言うことがなくなったのは良いことでございす。

このたびのインドネシア訪問は成功でしたね。
とはいえ、これはさほどハードルが高くない、といいますか、成功して普通という程度の外交ですので、あんまり高く評価することもできませんけども。

>>
今回の選挙戦最中に「自民党が負ければ北朝鮮が喜ぶ」という言辞が政府・与党内から聞かれたことがあった。しかし、このような対外敵意を刺激するような言辞は、その政治運営の「質」の劣化を示すものでしかない。それは、確かに今回の自民党の敗北を暗示させるものであった
<<

これと同様なのは「安倍さんと小沢さんとどっちがいいですか?」というセリフですね。
「それとこれとは別問題だ」というのが国民からの回答でした。

911圧勝と小泉氏の人気終了とで、自民党は精神的に弛緩し、我が身にばかり甘い独り善がりの幻想を抱き、第三者の目にはどう映っているのかを意識することができなくなりすぎましたね。

もっとも、単に小泉政権が例外だっただけであり、自民党の本来の姿はそういうものだということなのかもしれませんけど。

Posted by: 妖怪 | August 22, 2007 at 07:53 PM

× 人気
○ 任期

です。失礼しました。

Posted by: 妖怪 | August 22, 2007 at 07:56 PM

御指摘のように経済外交では活躍なさってますね 中間選挙たる参院選の結果はあまり上々ではありませんでしたがこの際国家にとって必要な施策をこなすことが保守本流の統治態度でしょう 瑣末にして世論向けの人事からはなれ仕事のできる第二次内閣の布陣をのぞみます

Posted by: Ld.Ryu | August 22, 2007 at 09:07 PM

外務大臣は小池女史のようですね。
彼女の後ろ盾は小泉氏で、いよいよ政権操縦に乗り出すとのこと。

Posted by: arano | August 23, 2007 at 12:50 AM

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