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July 09, 2007

「拉致敗戦」という記事

■ 『中央公論』今月号で興味深かったのが、次の記事である。
 ○ レオン・V・シーガル 「拉致敗戦―日本は北朝鮮問題で致命的な孤立に追い込まれる」
 何やら、「マネー敗戦」、「金融敗戦」を思わせるタイトルである。
 シーガルは、「米国社会科学調査評議会北東アジア安全保障プロジェクト部長」(director of the Northeast Cooperative Security Project at the Social Science Research Council in New York)という矢鱈に長い肩書きを持つ人物であるけれども、国務省勤務、『ニューヨークタイムズ』勤務といった職歴、コロンビア・プリンストンといった大学やブルッキングスでの研究歴が示すように、典型的な「米国の知識人」という風情である。
 シーガルが以前に発表した原稿は、こちらのサイトで読める。中々、読んでいて楽しいものである。

 シーガルの発言で興味深かったのは、下の通りである。
 ① ジョージ・ブッシュ政権の対朝政策には、「体制変更」という選択肢は当初からなかった。政策目的は、あくまでも「核の放棄」であった。
 ② ブッシュは、一貫して対中関係を重視してきた。対中関係の維持のためにも、北朝鮮ファクターに対処する必要がある。
    ブッシュ自身は、「金正日」嫌いであるけれども、対朝「強硬派」ではない。
 ③ 安倍晋三は、訪米時、自らのの対朝強硬姿勢への同調をブッシュに求めたけれども、ブッシュは応じなかった。
 ④ 対朝政策の「変更」は、ニクソン、キッシンジャー、先代ブッシュ、ベーカー、スコウクロフトに連なる伝統的な共和党主流の現実主義への「回帰」である。
 ⑤ 「とにかく拉致を解決せよ」という姿勢では、何も得られない。前回会合の膠着の理由一つは、「拉致が先だ」という日本の姿勢にあった。
 ⑥ 次回会合の議題は、「テロ支援国指定」の解除であろう。北朝鮮が「テロ支援国」に指定されているのは、「よど号」ハイジャック犯を保護しているという一点に拠っている。故に、北朝鮮が「よど号」犯を国外送還すれば、北朝鮮が「テロ支援国」と指定する米国国内法上の根拠は消える。「テロ支援国」指定は、米国国内法上、「拉致」とは無関係である。
 ⑦ ブッシュ政権は、早期の日朝交渉再開を望んでいる。それが実現しなければ、厄介なことになる。
 さて、ここからが雪斎の所見である。
 シーガルの議論は、多分、柔軟な「現実主義者」の発想を反映したものであろう。雪斎には、こういう「現実主義者」の議論が好きなので、シーガルの議論が澱みなく理解できる。「何が米国の利益か」という発想に立てば、確かにシーガルの議論は、無理の少ないものであろう。雪斎も、「拉致」は米国にとっては利害に関係のない案件であると判断したから、『中央公論』や『論座』で、「拉致と核の分離による議論」を唱えてきた。シーガルの議論は、雪斎には自説の正しさを感じさせるけれども、その反面、もし事態がシーガルの議論の通りに動けば、日本の置かれた立場は容易ならざるものになるのであろう。
 ブッシュ政権下の米国の「対朝強硬姿勢」に期待して対朝強硬姿勢で突っ走ってみたものの、肝心のブッシュ政権それ自体は、「対朝強硬姿勢」を元から取る気はなかった。これが今の日本の姿ならば、ソ連に和平交渉の仲介を依頼しようとした戦時中の日本政府の姿を思い起こさせる。相変わらず、「右派」勢力には、「対朝圧力を強めよ」と唱えている向きがあるけれども、それは、現状では戦時中に「本土決戦」を叫んでいた人々と同じ雰囲気を感じさせるのであろう。
 故に、次回の「六ヵ国協議」の注目点は、シーガルが指摘したように、北朝鮮の「テロ支援国」指定解除に向けた動きが、始まるかということであろう。米国国内法上、「拉致はテロではない」以上、北朝鮮が「よど号」犯を追い出せば、米国がこの議論を始めることには、何の制約もないわけである。もし、これが本当に始まるようならば、日本は、「拉致はテロである」という姿勢を取り続ける限り、次々と「梯子を外される」羽目になりかねないということであろう。
 案外、「拉致」案件で恃みにできるのは、対日「従軍慰安婦」決議や対中「ウイグル」非難決議の採択を主導した米国国内「人権派」の人々かもしれない。こうした人々は、米国の対外「利害」を怜悧に観るというよりは、素朴な「正義感」で動いてくれそうである。だが、そうした人々を今まで不用意に敵視してきたのが、日本の「右派」勢力なのである。
 それにしても、シーガルの議論からは、ブッシュ政権における「小泉純一郎」と「安倍晋三」に対する扱いの差が垣間見ることができるようである。こちらが変わったのか。それとも、先方が変わったのか。

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Comments

雪斎さん

私の好きな、現在、ジョージタウンで、教鞭をとっている、ヴィクター・D・チャ氏も、(私の修士論文も彼の著作のしょぼい版でしたがw)、アメリカの対北朝鮮政策の意図(狙い)は、変わっていない、そのアプローチが、変わっただけだと述べています。

シーガル氏の仰る通り、6カ国協議では、日本の存在感は、このままだと、ますます希薄になりますね。

また、雪斎さんの御説にもあるとおり、「拉致」と「核」は、わけるべきなのですが。。。

Posted by: forrestal | July 09, 2007 at 03:24 AM

 北朝鮮問題に関する限り、アメリカの政策は、あまり変わってないと思います。1993年以来の動きをきちんとフォローすれば、その核心が封じ込めにあることが理解されます。米国は朝鮮半島に死活的な利害は持たないという判断は、ケナン以来一貫しているのではないでしょうか。それでもって、日本人が失望したり裏切られたと考える必要は毛頭ないと考えます。アメリカにとって、日本の持つ重要性は、大陸・半島とは比較にならないのですから。アメリカの動向(それは多層的多元的が故に表面的には変わりやすく見える)にいちいち一喜一憂するのは左派右派ともいい加減卒業すべきでしょう。

Posted by: M.N.生 | July 09, 2007 at 04:16 PM

太平洋戦争の本土決戦なら、無条件降伏して戦争を止めてしまえば済んだのでしょうが、同じような無条件降伏の理屈を拉致問題に当てはめると、北朝鮮側の主張を受け入れて、これ以上の拉致被害者の帰還要求はしないということになってしまいます。さすがにそれで良いとは思えないのですが。そういう意味では強硬派の主張にも理がないわけではないんですよね。
気長に北朝鮮の民主化か崩壊を待つしかないんでしょうか。その前に家族の方々は亡くなってしまうのかもしれませんが。

Posted by: Baatarism | July 09, 2007 at 06:28 PM

迂闊でした。テロ支援国指定とはよど号ハイジャック犯保護が理由でしたか。道理で最近犯人がのこのこ帰国してそのまま本邦警察に逮捕されているはずです。まだ何人か残っているようですが、いずれ全員帰国したら時間の問題で解除になりますね。横田さんはじめ、家族が高齢化して残された時間が少なくなってきています。本当に拉致問題の解決を願うのであれば、かつて野中さんが小沢さんに土下座したように、保守派の面々が米民主党の人権屋に頭を下げて動いてもらうことを視野に入れる必要があるでしょう。政治は結果責任と常々主張している方も多いので、その点は柔軟に動いていただけることを期待しますが、どうなりますか。

Posted by: M | July 09, 2007 at 11:50 PM

民主国家である以上政治家に支持基盤は必要なわけですし、所謂右派議員が他国の左派議員と親しい関係になるのは些か難しいでしょうね。(敵対しない程度の知能は重要ですが)

しかし本来そういうところでバランスを取るために、同じ党、場合によっては野党の左派議員が他国の左派議員との仲介を果たし、右派議員はそれらの行動を黙認することによって結果としての利益を得るものだと思うのですが…。

残念ながら所謂左派議員で日本の国益のために米国、欧州の政治家と太いパイプを持ってる人が少ないのは困ったことですね。

Posted by: やま | July 10, 2007 at 12:58 AM

日本にとっての北朝鮮問題は、アメリカにとってのキューバと同様でしょう。
他国にとっては、それほど問題ではない。

北朝鮮問題で日本が孤立して、何が問題なのでしょうか?
相手は貧しい小国にすぎません。関係が途絶していても、デメリットはほとんどないでしょう。

Posted by: K | July 10, 2007 at 07:06 AM

雪斎さん こんばんは。

安倍首相は、長州山口県選出ですね。吉田松陰を尊敬する彼は、幕末の志士のように攘夷論で世論を引き付けるという戦略が見え隠れしています。まず人気を自分に集め、首相になり指導力を確保する。その上でなら朝鮮攘夷に舵を切ろうが宥和に切ろうが、自分の自由にできる。しかし、見かけ強硬な態度を固定化すべく「梯子を外しに」かかっている右派勢力もいて、彼自身が情の脆さ、思考の未熟さから揺れて現実主義から離れ対処に失敗すれば、単なる未成熟な政治家という烙印が押されてしまうでしょう。
来日するヒル氏の扱いがその判断のキーポイントになると思われます。

Posted by: minow175 | July 10, 2007 at 11:31 PM

ブッシュ政権の北朝鮮政策は、
国内政治と国際政治のその場その場のシチュエーションと感情に流されて右往左往しているだけのように見えます。
アメとムチ、といいますか、武力攻撃の可能性を遠ざければ遠ざけるほど、北朝鮮との「約束」は無意味なものとなり、交渉など徒労以下のものでしかなくなる・・・。
「中国との関係が大事だからアメリカは北朝鮮を攻撃できない。少なくとも今しばらくはできない」との確信を北朝鮮側が抱いてしまったら、そもそもからして交渉など成立しないでしょう。
アメリカの北朝鮮政策は「さほどよく考えていない。忙しい。後回し」これだけのように思えます。

Posted by: 妖怪 | July 11, 2007 at 01:21 AM

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Tracked on July 12, 2007 at 02:04 AM

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