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July 14, 2007

「拉致敗戦」という記事 続

■ 「拉致敗戦」という記事を紹介したエントリーの翌日に書くつもりだったエントリーである。
 次の報道には、誠に奇妙なものを感じさせられた。
 「何故。この時期に…」と思った。 
 

□ めぐみさん目撃の北朝鮮元工作員、覚せい剤密売容疑で逮捕
   7月9日22時29分配信 読売新聞
 【ソウル=中村勇一郎】韓国のソウル地方警察庁は9日、北朝鮮製とされる覚せい剤を密売したとして、ソウル在住の元北朝鮮工作員、安明進(本名アン・ミョンジン)容疑者(38)を麻薬類管理に関する法律違反などの疑いで逮捕した。
 安容疑者は北朝鮮の工作員養成機関に在籍中、横田めぐみさんら日本人拉致被害者を目撃したと証言し、日本のメディアにも数多く出演していた。
 調べによると、安容疑者は今年2月、ソウル市内の飲食店などで覚せい剤12グラムを密売するなどした疑い。安容疑者自身も同居の女性(33)と一緒に覚せい剤を使用していたという。警察当局は、安容疑者がソウル在住の脱北者らに覚せい剤を密売していた疑いもあるとみて、追及している。

 この報道が事実であるとすれば、「拉致」案件に対する日本の取り組みには、明らかな逆風になるであろう。
 麻薬売買は国によっては死刑を科せられることもある重罪であるので、極めて印象が悪い。「拉致被害者生存情報」が、この元工作員の証言に依拠したものである限り、その信頼性が揺らぎかねない。「そういう輩の言い草など本当に信じられるのか」という声は、間違いなく出てくるであろう。無論、「それとこれとは別だ」と唱える向きがあるかもしれないけれども、こうした説明が受け容れられるかは、かなり険しいのではないであろうか。
 そういえば、ニコロ・マキアヴェッリの『君主論』にも、「亡命者は信用してはならぬ」という意味の記述があったはずである。同じ発言を阿南前中国大使が披露し、「右派」勢力の袋叩きに遭っていたようであるけれども、そもそも、この元工作員証言には、きちんとしたダブル・チェックが入れられたのか。この工作員証言を裏付ける「別の証言」について、雪斎は寡聞にして知らない。「人間は見たいと思う現実しか見ない」というユリウス・カエサルの言葉の通りならば、件の工作員も証言もまた、「観たいと思う現実」を見せようとしたものであった故に重用されたということは、ないのであろうか。
 それにしても、「拉致」案件をフェード・アウトさせる効果を持つ話が、このところ連続している。日本以外の国々は、「拉致」案件などは眼中にないはずであろし、米国からの「拉致敗戦」の警鐘は、その「拉致」フェード・アウトを促す一例である。また、現下の安倍晋三総理には、「拉致」に構っている余裕はないであろう。一般国民もまた、「自分の生活」が掛かってくれば、「他人の不幸」に関心を向けてもいられなくなる。「拉致」案件というファクターによって総理の座に達した安倍総理にとっては、「生活」がかかった話というのは、もしかしたらウィーク・ポイントであったようである。
 これに関連して、中山恭子補佐官が参議院議員選挙で議席を取れるかは、「拉致」に対する日本国民の「熱気」の度合いを占うものになるはずであるけれども、その「熱気」が続いているかは甚だ疑わしい。中山補佐官が議席を取れなければ、日本国民の「熱」それ自体に疑問符が付く。そのことが及ぼす外交上の効果は、決して小さくないのである。おそらく、「中山参議院議員」の登場は、安倍総理にとっては規定方針だったはずであるけれども、それにも暗雲が漂っていることは間違いない。 だから、「拉致」案件に関わった人々は、中山補佐官を落選させてはならないのである。
 さらにいえば、安倍晋三という政治家は、日本政界における「拉致」案件対応の「切り札」であるので、この「切り札」を以ってしても「拉致」案件が落着しないということになれば、あとが続くかも危うい。安倍総理以外の政治家は、誰であっても、安倍総理を越える熱心さを以って「拉致」案件に取り組むとは考えにくい。だから、「拉致」案件に関わった人々は、どんなことをしても安倍政権を継続させなければならないということにもなる。
 故に、雪斎が注目している点の一つは、自民党比例代表当選者の中に「中山恭子」の名前が出るかということである。「たかが一議席、されど一議席」である。「拉致」案件も「剣ヶ峰」である。

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Comments

おはようございます。
このブロブは、左右のバランスの取れた内容が多く、政治的思考の参考には、最適です。

さて、「拉致敗戦」と「続」を読んでの感想と言うか教えていただきたいことがあるのですが、

米国を含めて世界中の国が北朝鮮と融和して、濃淡はあるにしても外交関係を樹立したとして、日本だけが、北朝鮮と断絶し、効果がなくなったとしても、経済制裁を続けている状況になった時、日本にとって何かまずいことがあるのでしょうか?

最近、加藤紘一氏や山崎拓氏らが、「バスに乗り遅れるな」論を言っておりますが、私などは乗り遅れるなでなく、乗らなければ良いと思っているのですが、何か国益上、損失があるのでしょうか?

私は、「拉致」は、思想の左右ではなく、「日本人」であるか否か の問題だと思っています。
自分の家族が外国の国家権力によって誘拐され、今になっても返してもらえない。だから、返してくれ!! と訴えている。
本当は軍隊を派遣して取り返せばよいのですが、それができないから、せめて日本人として「拉致家族」を応援する。
ただそれだけの当たり前のことなのです。

ですから、慰安婦という外国人の人権には異様に熱心でありながら、「拉致」と「拉致被害者」には冷淡な政党、新聞社、テレビ局、コメンテイターを、私は、日本法人とも日本人とも考えておりません。

Posted by: MI-6 | July 14, 2007 11:22 AM

拉致で孤立しても何も恥じ入る必要は無いと思います。(イスラエルのように、武力行使する訳でなし。)
しかし、マスコミはまた孤立すると大騒ぎをするのでしょうな。
過去のトラウマか、「孤立」という言葉に感情的になり過ぎです。

日本人には、「拉致被害者」を見捨てないでほしいと思います。

Posted by: K | July 15, 2007 09:00 PM

こんなにシンプルな問題がここまでこじれるわけで、国際政治というのは難しいものだとほとほと感じます。
マスコミにも工作があるのは明らかで…。
乗り遅れようが孤立しようがかまいませんよ。
それがきっかけで日本が没落するというのなら、それでもいいじゃないですか。
拉致された人たちを見捨てるような国なら、存在する価値もないんですから。
そんな国ならアメリカの一州や中国の一省になったとしても惜しくもありません。

あと、当時は工作員の出入りが自由だったわけですから、国内に武器を持ち込み放題だったわけです。
持ち込まないわけはないし、当然、今もどこかに保管されているでしょう。
そのあたり、騒ぎすぎると人権問題になるのでしょうが、誰も何もいわないというのもどうなんでしょうか?

Posted by: HOMERUN | July 16, 2007 02:56 AM

私も、拉致問題で日本が孤立した処で、何が問題なのか良く理解できません。日本が北朝鮮の主張を受け入れた段階で経済協力資金(あるいは強制連行の慰謝料?)として数兆円を支援せざえを得なくなります。レーニンの言った如く、日本を日本を死刑にするロープを提供する事になる訳ですから、ここは如何に粘っても北朝鮮の主張を受け入れる事はできないし受け入れる必要もありません。米国が何と言おうと日本は日本のタックスペイヤーの意見を受け入れる必要があるでしょう。現状では日朝国交回復と経済援助をやった内閣と政党は、消滅必至です。マスコミによる情宣工作が行われる様になったら要注意かも知れませんね。

Posted by: ysaki | July 17, 2007 11:41 AM

核交渉は進めたいが、拉致事件では[交渉することも憚られる]というジレンマが、今の安倍政権にはあります。では、六カ国協議で日本が孤立しないために、また、拉致事件で対決姿勢を鮮明にするために、核交渉と拉致事案の分離をすればよいのですが、それを五年前強硬にロビー活動で一体化させたのが、救う会と家族会でした。核交渉のベクトルは180度反転したのですから、核を切り離せば六カ国で孤立しないで、日本は面目を保てるのですが、そのようなことを提案するタカ派の論者は、居ませんね。

Posted by: minow175 | July 18, 2007 01:16 AM

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雪斎先生のブログで拉致敗戦というテーマのエントリが書かれている。これに関しては日本が孤立しかけてるよという主張がごもっともなもので、かんべえさんも7月13日付のDiaryで持ち上げているのだが、当のブログのコメント欄には何か勘違いしている人がうじゃうじゃ。 「... [Read More]

Tracked on July 16, 2007 07:49 AM

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