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June 02, 2007

「鉄は国家なり」…か。続

■ 5月31日付韓国紙『朝鮮日報』は、下のような社説を配信している。同じ趣旨の記事が『東亜日報』や他の韓国紙にも出ている。
 

□ 【社説】世界の鉄鋼史を塗りかえたポスコ
 ポスコが1年で150万トンの生産が可能な世界最初のファイネックス工場を完成させ生産に入った。ファイネックス工法は粉状の鉄鉱石と一般炭をそのまま使用する方式で、これまでの溶鉱炉に代わる次世代の製鉄技術だ。
 製鉄所で鉄を生産する工法は1869年にドイツの企業が新しい製錬法を編み出して以来多くの技術発展を繰り返してきた。しかし鋼鉄の原料である銑鉄を作りだす技術は19世紀後半に英国で現在の溶鉱炉工法が登場して以来100年以上ほとんど変化がなかった。
 ポスコのハイネックス工法はこれまでの溶鉱炉の基本構造を画期的に進歩させた新技術だ。自然状態の鉄鉱石と有煙炭をそのまま溶鉱炉に投入できず、いったんは焼結鉱とコークスに加工しなければならない従来の製鉄技術の問題を克服したのだ。
 ファイネックス工場完成の最大の意味はポスコが日本など先進国の鉄鋼メーカーとの技術開発競争で初めて先頭に立ったという点だ。1987年に設立された浦項産業科学研究院と自社の技術研究所だけで製鉄分野の基本技術や独自技術を確保したのだ。ポスコは1973年の創業以来これまで世界最高の収益性を上げながらも技術力では先進国の技術を取り入れて改良するレベルにとどまっていた。ファイネックス工法では焼結工場やコークス工場が不要で設備投資がこれまでの溶鉱炉の80%にしかならない。低価格の鉄鉱石と一般炭を使用するので鉄鋼生産の原価も溶鉱炉の85%に抑えられる。硫酸化物や窒素酸化物などの汚染物質もそれぞれ溶鉱炉の3%と1%のレベルにまで大きく減らすことができる環境に優しい技術でもある。
 ポスコはファイネックス工法により価格競争力をより一層高めることができるだけでなく、海外においても世界のライバル企業に比べ有利な立場に立つと期待されている。ポスコが1968年に荒涼とした砂浜の上に製鉄所の建設を開始して以来夢見てきた製鉄強国としての夢がついに実現しようとしている。

 雪斎は、大手鉄鋼会社株のホルダーなので、この種の記事には真面目に反応してしまった。当然、「俺のところの会社の技術優位は、大丈夫であろうな…」ということである。「会社は株主のものである」という論理に従えば、そういう反応になる。日本の鉄鋼会社は、自動車や船舶に使う高級鋼材の製造に軸足を移したのが功を奏して、業績好調の時節が続いている。雪斎は、これを支える技術優位が揺らぐとすれば困ったことになると株主の一人として懸念したのである。
 ところで、韓国ポスコが開発したと報じられる「ファイネックス工法」は、本当に「世界の製鉄史を塗り替える」ものなのか。これほどのものならば、韓国だけではなく他の国々のメディアも、大々的に報じてもいいはずである。鉄と人類の関わりは、数千年の長きに及ぶのであるし、近代以降、それぞれの国々の産業力の象徴とされたのが、「鉄鋼」であった。おそらく、人類が「鉄」を必要とする限りは、この趨勢は変わらないのかもしれない。
 因みに、日本では、『日本経済新聞』だけが、この件を報じている。
 

□ ポスコ、低コスト新型炉・設備投資や生産費2割減
 【ソウル=鈴木壮太郎】韓国の鉄鋼最大手ポスコは30日、独自開発の新型製鉄炉を稼働させたと発表した。高炉を使った従来工法と違い、事前に鉄鉱石加工などの必要がないため設備投資や生産コストを約2割減らせる。長期的には高炉に代わり、自動車向けなどの高級鋼材への対応も視野に入れる中核技術と位置づけ、インドで計画中の一貫製鉄所でも採用する。世界的な鉄鋼再編が進む中、新型炉の技術で日本、ブラジル、欧州などの企業に先行し、競争力強化で生き残りを図る。
 製鉄工法を巡っては、神戸製鋼所も従来に比べて原料費を3分の1に抑えられる独自の製鉄法を開発し、2009年をメドにインドで実用化する方針。世界でも小規模の実験炉を稼働させた例はあるが、ポスコは他社に先がけて本格量産にこぎ着けた。李亀沢会長は30日「世界再編へ競争が激しさを増す中、ポスコの競争力向上に大きく寄与する」と強調した。(07:01)

 よくよく調べてみれば、ポスコが開発したという「ファイネックス工法」の類似の工法は、神戸製鋼が既に2005年段階で開発しているのだそうである。だから、『朝鮮日報』が伝える記事は、韓国メディアの何時もの「夜郎自大」的心性が反映されたものであるだろう。しかも、「溶鉱炉も要らない製鉄技術」がそれほどまでに凄いものであるならば、世界中の鉄鋼会社が技術開発競争に鎬を削りそうなものであるけれども、そうした話は聞こえてこない。多分、「ファイネックス工法」類似の工法は、だま採算性や技術的な安定性という点で、製鉄事業の主軸に据えるにはリスクが大きいものなのであろう。鉄鋼も商品である以上、「その商品は、どれだけの品質を持っているか」が「その商品はどのように製造されたか」に優先するのは、当然であるからである。
 もっとも、世界の鉄鋼業界は、戦国時代の最中である。日本の鉄鋼会社も、試練の時代であるであろう。雪斎としては、こういう「ものづくり」の世界では途端に民族主義的になるので、是非、日本の鉄鋼会社には奮励してもらいたいと思う。今月末には、「配当」も入るはずなので、楽しみである。

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Comments

その工法自体は私が鉄関係にいた10年以上前に聞いたことがあります。技術的な課題が多く実用になるかどうか、という話だったように記憶してます。けして韓国が発明したような技術ではないと思う。

Posted by: 笛吹働爺 | June 04, 2007 at 12:34 AM

 07年度の設備投資計画、8.7%増の28兆7788億円
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070528AT1D2205I25052007.html

 このうち鉄鋼は大手高炉4社だけで8600億円を設備投資に投じる予定のようです。業界再編の動きが囁かれる中で経営者の危機感もひしひしと伝わってきますし、ぬかりは無いように見えます。

Posted by: ささらい | June 04, 2007 at 09:19 PM

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