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March 06, 2007

参議院の攻防

■ 安倍晋三総理のエキサイトぶりを初めて眼にしたような気がする。

□ 慰安婦問題「狭義の強制性なし」と安倍首相=予算案、参院で審議入り
3月5日13時1分配信 時事通信
 参院予算委員会は5日午前、安倍晋三首相と全閣僚が出席し、2007年度予算案の基本的質疑に入った。首相は従軍慰安婦問題に関し、同問題を謝罪した1993年の河野洋平官房長官談話を「基本的に継承する」と重ねて表明。米下院に提出された日本への謝罪要求決議案については「事実誤認がある」とし、採択しないよう働き掛けを強める考えを示した。さらに、決議が採択された場合の対応について「(日本政府として)謝罪することはない」と強調した。
 民主党の小川敏夫参院幹事長への答弁。首相は「(日本の)官憲が家に押し入って人さらいのごとく連れて行くという強制性はなかった。狭義の強制性を裏付ける証言はなかった」と指摘。一方で「進んでそういう道に進んだ方は恐らくいなかったが、当時の経済状況や、間に入った業者が事実上強制していたケースもあっただろう。広義の解釈で強制性があったということではないか」との認識を示した。 

 ところで、雪斎の故地でもある青森県八戸市を中心とする南部地方は、古くから冷害の常襲地帯であった。夏には海から冷たい「ヤマセ」が吹き、冬には八甲田山系から「ニシ」と呼ばれる凍てつくような風が吹き降ろすのである。農民は貧しく、度重なる飢饉に苦しめられた。特に昭和初期には、凶作が相次いだ。往時の八戸市役所の掲示板には、「娘の身売りを考えている方は、申し出てください」という趣旨の告知が出されていたそうである。今なら、「役所が売春の斡旋をするのか」と非難されそうな話である。昭和初期には、年間数千人単位で「娘の身売り」が行われた。故に、往時の品川、川崎といった東京近郊の「遊郭」では、三分の一以上の娼妓が八戸界隈の出身だったそうである。
 ところで、たとえば昭和5年前後に15歳くらいの娘さんが身売りに出されたとして、その娘さんが終戦の年には30歳になっている。この娘さんたちは、戦時中に何をしていたのであろうか。戦時中には、平時とおなじように日本国内の「遊郭」が繁盛していたとは思えない。多分に、「需要」のある軍隊の派遣地に回されたのであろう。そして、朝鮮半島でも、八戸一帯と同様に「娘の身売り」が行われた。「従軍慰安婦」と呼ばれるものの実態は、そうしたものではなかったのではないかと想像する、そういえば、雪斎が幼少の頃、農家の「出稼ぎ」、「中学卒業時点での集団就職」は、まだ行われていた。こうした「貧しさ」の意味が判らなければ、この問題の本質はつかめないのではないか。
 無論、娼妓として外地の兵士の相手をした八戸一帯出身の女性は、戦後、無事に生き延びていれば、その過去を表向き語ることはなかったはずである。今でも、風俗嬢であった女性が、後日、そのことを大っぴらに語るとは考えにくい。故に、韓国人「従軍慰安婦」の証言だけがクローズアップされて、往時の日本の「非道」を象徴する材料として語られるのである。
 こうした話は、「性」が関わる話であるが故に、まことに語りにくい。先刻の柳沢伯夫大臣の発言もまた、「性」絡みであったが故に、かなりデリケートなものになったのである。雪斎は、こういう話を「反省」や「謝罪」の文脈で議論するのは、おかしいと思っている。
 因みに、こういう話を聴くたびに、雪斎は、映画『動乱』を思い起こす。これに描かれているのは、途方もない貧しさがあった日本の風景だと思う。「東北の貧困農家の娘で、身売りされて娼婦に身を堕とす」という役柄を演じた吉永小百合さんには、哀しさを感じた。そうした農村の窮状に義憤を感じて二・二六事件に加わり処刑される若手将校を演じた高倉健さんには、「男」を感じた。これは、映画というフィクションであっても、往時の日本の一断面を表している、こういう「貧しさ」は、日本にとって、「反省」や「謝罪」ではなく、「記憶」の対象とする過去なのではないか。

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Comments

重いテーマが続きますね。

1955年に厚生省が発表した「売春白書」によれば、全国の公娼人口は推定50万人。当時の日本の人口は8927万人ですから、実に女性人口の1%以上に相当します。売春防止法はその3年後です。こういう話、上の世代は子供たちに教えません。当たり前ですけどね。

Posted by: かんべえ | March 06, 2007 at 09:28 AM

はじめまして。

今回の件での安部首相の慰安婦理解は支持します。

ただ、国際的な影響も考えると、賢い答弁だったとも思えません。諸外国は被害を訴える側に同情します。今回の河野談話の一部修正は、加害責任の否定と取られるでしょう。

質問に対しては、
・すでに謝罪している。
・事実認識に関する論争は歴史家に任せる。
と答えるだけで十分だったのではないでしょうか?

首相の答弁は、いらぬ衝突を巻き起こすものだと思います。

Posted by: akijunshin | March 06, 2007 at 11:14 AM

かんべえ殿
 往時の日本人女性の100人に一人は「公娼」ですか。これは驚きの数字ですけれども、さもありなんという気がします。
 確かに、「重い」話を続けました。朝から、ブルックナーなどを聴くもんじゃないないなと思います。

akijunshin殿
はじめまして。
貴殿の「安倍」評には、全面的に同意します。
安倍総理は、政策の中身よりも、政策を打ち出すスタイルのほうに、かなりの不安を感じさせるのですな。こういう答弁のスタイルは、彼を支持する「保守」層の感情を満足させるかもしれないけれども、対外関係の上では軽率でしょう。

Posted by: 雪斎 | March 06, 2007 at 11:52 AM

あーあ、安倍さんマジレスしちゃったよ…という感じがします。あの人の悪いところが出てしまいましたね。
こうなったら、日韓米三カ国の学者による慰安婦問題調査でも提唱しないと、アメリカも収まらないかもしれませんね。少なくとも、日本にこの問題の真実を隠蔽する意図がないことは、はっきりさせないとまずいでしょう。

Posted by: Baatarism | March 06, 2007 at 12:43 PM

「やられた」サービス提供側の情報より「やった」サービス享受側の情報が少ないですね。さすがに「やりました」「どうでした?」とはいえないのでしょう。私も戦後2世代目なので、所詮「伝聞」でしか語れないです。

Posted by: 通りすがりの勘助 | March 06, 2007 at 09:37 PM

baatarism殿
これは、間違えば日米関係に影響を与えかねないでしょうな。憂慮しています。

勘助殿
おそらく、「相手にしてもらった側」も、戦後、そのことには口をつぐんだと思います。「相手にした側」も「相手にしてもらった側」も、同じような境遇の身の上だった可能性があります。だから、いえないのでしょう。
「女は娼婦、男は兵士」。貧しい土地の若者の行く末でした。

Posted by: 雪斎 | March 06, 2007 at 09:51 PM

「俺たちはとんでもない勘違いをしていたようだ 。安倍の看板は拉致問題。そして日朝国交正常化交渉が始まったばかり。これは安倍の北朝鮮へのメッセージだったんだよ。『国家機関が直接関与した狭義の拉致はこれ以上存在しないが、私的団体が身柄を確保した人間を北朝鮮で働かせた広義の拉致は存在した』と言えばいい、ということなんだ」
「な、なんだってー(AA略」

Posted by: 通りすがり | March 07, 2007 at 07:57 AM

この問題について、コメントしようと考えていたら、溜池通信でかんべえさんが書いていた。私の言いたいことが、上手く書かれているので、あまり付け加えることは無いんですが、二つだけ。一つは、アメリカ議会は大昔から唯我独尊なんです。それにいちちち反応するだけ、消耗します。昔、プライスという高名な英国外交官がいましたが、彼いわく「米国議会の決議には理不尽なものが多いが、それにいちちち対応しないのが英国の基本政策だ」
 もう一つ。従軍慰安婦問題は、靖国問題と共通で、一見日本と中韓の歴史認識の形をとりますが、実は日本国内の(一部の)加害妄想が好きな方の問題なんです。つまり、本質は、国内問題。この二つを押さえておけばいいです。

Posted by: M.N.生 | March 07, 2007 at 09:20 AM

通りすがり殿
此度の「慰安婦」発言を北朝鮮が逆用する可能性がありますな。

M.N. 生殿
だとすると、安倍総理周辺に、「受け流しましょう」と献言する人物がいなかったのかということが、気になります。

Posted by: 雪斎 | March 07, 2007 at 09:05 PM

雪舟様、初めまして。

トラックバックをさせていただきたかったのですが、
期限切れのようでしたので、コメント欄から失礼させていただきます。

勝手ながら恐縮ではございますが、
記事のリンクを貼らせて頂きました。
また、重ね重ね恐れ入りますが、
記事中の文章につきまして、一部引用させて頂きました。申し訳ございません。
http://nankurukuru.blog81.fc2.com/blog-entry-71.html

Posted by: nankurukuru | March 11, 2007 at 04:59 PM

とにかく慰安婦問題については、小林よしのり著「戦争論2」の「総括・従軍慰安婦」を読んでみてほしい。
あらゆる関連本の中で一番良い。
この問題の全容も把握できる。

Posted by: a | March 20, 2007 at 01:51 PM

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