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March 24, 2007

「北」の国の噺

■ 昭和三十年前後に歌われた歌に次のような一節があった。

 星影冴かに光れる北を 人の世の 清き国ぞとあこがれぬ

 なるほど、当時は、北朝鮮への帰還事業の最盛期であった。「地上の楽園」という宣伝に惑わされ、北朝鮮を「人の世の清き国ぞとあこがれた」人々が、続々と彼の地に渡った。そうした人々のその後の運命を考えれば、この歌の一節も、罪深い役割を果たしたといえるであろう。

 …というのは、真っ赤な嘘である。

 これは、北海道帝国大学予科寮歌『都ぞ弥生』第一番の一節である。第一番の全節は次の通りである。

都ぞ弥生の雲紫に 花の香漂ふ宴遊の筵
尽きせぬ奢に濃き紅や その春暮ては移らふ色の
夢こそ一時青き繁みに 燃えなん我胸想ひを載せて
星影冴かに光れる北を
人の世の 清き国ぞとあこがれぬ

 要するに、東京で酒宴を開きながら、これから往く北海道の大地への想いを込めた一節である。「北」というのは、北朝鮮ではなく、北海道のこととなのである。
 何故、こういうふざけた話をしたかとえば、北朝鮮を「北」と呼ぶ最近の傾向に違和感を覚えればこそである。昔は、北朝鮮だけを「北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国」と呼ぶ過剰配慮が目立ったけれども、今は、「北」の一字で済ます無作法が公然と行われてぃる。この落差は、一体、何なのであろうか。雪斎は、北朝鮮を「朝」と略記するのは認められるけれども、「北」と呼ぶのは受け容れられない。「NORTH KOREA」は、あくまでvも「NORTH KOREA」、場合によって「DPRK」であって、「NORTH」では何のことかが判らない。だから、「『北』を制裁せよ」などという言辞を聞くと、「北海道が何かの問題を起こしたのか…」と反応する。「北」などという曖昧な言葉で、何かを語ったような気になってはならないのである。無論、新聞の見出しでは、字数の関係上、そうした短縮も仕方がないという事情があるにしても、記事本文でそういう短縮をやる神経は、雪斎にはない。.
 そういえば、自分にとって好ましい人物には、「○○さん」、「△△氏」と敬称を付けるのに、自分にとって好ましからざる人物には、「○○」、「△△」と敬称を外して呼び捨にして、平気で文章を書いているような御仁たちがいる。雪斎が学生の頃には、そういう使い分けをするのは、質の悪い左翼系宣伝ビラの特徴であったけれども、今では、「愛国」、「憂国」を標榜する御仁たちが、そういうことをしている。滑稽な光景と呼ぶしかない。

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Comments

酷い場合には自らの望まない報道を行ったNHKをハンギョレなどと呼ぶ輩などもおりますしね。まったく醜悪です。
品性を失いたくないものです。

Posted by: Foch | March 24, 2007 at 10:14 AM

これは同感ですね。
昨日の友は今日の敵なのですから、いつでも友と呼べるくらいのしたたかな愛国の情が必要なはずで、国の選択肢を減らすような愛国心は愛国心ではない。

本来「全方位外交」とかいうのもおかしな理想主義などつけず、国益の範囲から論じられるべきなのに、イデオロギーが恐ろしく優先している。この点は左翼のがわも右翼のがわも同じで相手にべったりになることでしか出来ないというのはまったく芸が無い。

始めドイツと組み、その後さっさとアメリカと組んだ旧ソ連のように大国ですらこれくらいの寝返りが出来るのですから、日本のような小国はもっと慎重であるべきです。

Posted by: ペルゼウス | March 24, 2007 at 01:36 PM

>自分にとって好ましからざる人物には、「○○」、「△△」と敬称を外して呼び捨にして、平気で文章を書いているような御仁たちがいる

うっ、耳が痛い。石原慎太郎、大嫌いなので、慎太郎、って呼び捨てです。

Posted by: うみおくれクラブ・ゆみ | March 24, 2007 at 08:45 PM

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