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March 04, 2007

「丸山眞男をひっぱたきたい」…

■ 『論座』編集部の企画は、ヒットしたのであろうか。3月2日付『東京新聞』「筆洗」欄の記事である。

□ 近ごろこんなに刺激的で、考えさせられた論争はない。『論座』…
 近ごろこんなに刺激的で、考えさせられた論争はない。『論座』四月号(朝日新聞社)の“「『丸山眞男』をひっぱたきたい 希望は、戦争。」への応答”だ▼最初に同誌一月号に「丸山眞男をひっぱたきたい」という挑発的なタイトルで論文を寄せたのは、三十一歳のフリーター、赤木智弘さんだった。結婚どころか、親元に寄生、月収十万円で自分一人も養えない“ポストバブル世代”の窮状を代弁▼その“右傾化”の背景には、「平和な社会の実現」の名の下に、経済成長の利益を享受してきた先行世代への不満があり、「左傾勢力が擁護する労働者の利権を奪い取っておれたちに分けてくれと期待」しているという。それには「極めて単純な話、日本が軍国化し、戦争が起き、たくさんの人が死ねば、日本は流動化する。若者は、それを望んでいる」と言い切る▼かつて三十歳で二等兵として召集された東大エリートの丸山眞男氏が、学歴もない一等兵にイジメられたことを例に、戦争とは現状をひっくり返して、イジメられてきた私たちが丸山眞男の横っ面をひっぱたけるかもしれない、逆転のチャンスだ、という論法になる▼これが多くの論者の心の琴線に触れたようだ。同誌四月号では評論家の佐高信さんや映画監督の若松孝二さん、森達也さんらが厳しい批判や助言を寄せる▼だが鶴見俊輔さんは、インタビューの中で「民衆の底に隠された問題を提起している」と受け止め、吉本隆明さんはかつての自分と重ねながら、不平不満にとどめず、自問自答を続けよとアドバイスする。


 雪斎は、確かに、この赤木論文は面白いと思った。「戦争は革命の揺籃である」という歴史的な真理もあるから、赤木論文は、その好戦的な体裁にもかかわらず、ウラジーミル・レーニン辺りの「革命家」の発想を極めて正統的に継いでいるといえるかもしれない。雪斎が面白いと感じたのは、その正統的な「左翼」革命家のスタイルの故である。赤木論文は、表面的には、昨今の日本社会の「右傾化」を弁護しているようであるけれども、その思考のスタイルにおいて完全な「左」なのである。平成の御代に至って、こういう古色蒼然としたものを見るとは思わなかったけれども…。逆にいえば、赤木論文に批判を寄せた人々は、世間では「左」と認識されているにかかわらず、実際には「左」ではない。結局、彼らの多くは「現状に少しばかりの不満を持った人々」なのであろう。
 ただし、赤木論文それ自体の中身は、余り真面目に論評するに値しない。
 雪斎は、幼少の頃、父親から、「五体満足なら土方をしてでも食っていける。お前は、身体が利かないのだから、頭で食っていくしかない…」といわれた。政治学者、言論家、投資家…。雪斎の今の姿は、ある意味では、「頭で食うしかなかった」結果の産物でしかない。
 そうした雪斎の「感情」からすれば、赤木智弘という人物の議論には、「五体満足な若い奴が、何を寝ぼけたことを言っているのか。土方をしてでも食ってけるのであろう。俺は、ちゃんと日本の平均以上のお税金を支払っているのだよ」と一蹴したくもなる。ただし、こういう「感情」を露わにした議論は、このブログならばともかくとして、表の活字メディアでは到底、展開することはできない。こういう議論を示してしまえば、後の議論は続かなくなる。こういう議論の仕方には、「問答無用だ」と一括するのに似た狂暴性があるからである。
 加えて、雪斎は、今では、相応の社会的な地位や名声、あるいは一定の資産も手にすることができた。昨今の「格差」論の文脈では、雪斎は確かに「勝ち組」であろう。だが、そうであっても、日々の生活に他人の手を煩わせなければならない「現実」は何ら変わらない。「三千万円くらいを支払えば、五体満足な状態で過ごせる時間を一週間でも手に入れられる」というサーヴィスが提供されるとするならば、雪斎は、おそらく、それを受けようとするであろう。たとえばイタリアン・レストランで他の人々の手で食わしてもらっている料理を自分の手で食すことができたならば、さぞかし旨いに違いないと想像する。一番、やってみたいのは、一人でふらっとラーメン屋に入ってラーメンを食することだが、そうしたことは雪斎には「実現不能な夢想」の類でしかない。故に、雪斎には、「カネが幾らあっても、自分には、できないことのほうが多い」という感覚がある。「五体満足である」ということは、それだけで明らかな幸運を意味している。「丸山眞男をひっぱたきたい」と書いた31歳フリーターは、そのことの意味を判っているであろうか。
 雪斎は、幾度も論じてきたように、1980年代に隆盛したフリードリッヒ・フォン・ハイエク流の「自由の哲学」の信奉者であり、小泉純一郎前総理が激化させた「構造改革」路線の支持者である。そして、雪斎は、安部総理が「構造改革」路線の継承者である限り、その内治の方向性を支持する。雪斎の視点からすれば、「ニート」であれ「フリーター」であれ、その大勢は「五体満足な連中」である。その「五体満足な連中」が「弱者」を僭称することには、骨の髄からの「反発」を感じざるを得ない。「構造改革」路線への半ば原理主義的な支持への背景には、そうした「弱者を僭称する人々」を甘やかす思潮への嫌悪感がある。雪斎は、元々は「瞬間湯沸器」と渾名された程の「短気な男」であるので、国内統治、特に社会福祉関連政策を語る際には、どうしても自分の「「感情」が反映されてしまう。赤木論文のような議論に雪斎が冷淡であるのは、雪斎が「五体満足な奴が何を言っているのか」といった「感情」を克服できていない故である。もっとも、こうした物事の言い方は、間違いなく少なくない人々の反感を買っている。「傲慢」、「冷酷」とは、常に雪斎に付きまとっていた評である。
 雪斎の政治学者としての主戦場は、「対外政策」である。「対外政策」ならば、自分の「感情」とは無縁の議論ができる。「丸山眞男をひっぱたきたい」赤木論文への反響を尻目に、今は、「六ヵ国協議」以後の安部晋三内閣の対朝政策について、雑誌『論座』に寄せることになる原稿を執筆中である。自分の「感情」が入らないだけに、こういう執筆は何時も楽しい。

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Comments

文中の「弱者を僭称する人々」という言葉で、ふと横井英樹という人物を思い出しました。彼の場合は多くの犠牲者を出したホテルニュージャパンにおける加害者(防火責任を怠る)であったにも拘らず、「ホテルを燃やされた私も被害者」という僭称でしたが、通じるものがあると思います。以上

Posted by: pukadon | March 05, 2007 11:42 AM

正直私も瞬間湯沸かし器ですので、構造改革論者の人たちになぐりこみをかけさせていただきましょう。

一つの記事をあげて、構造改革に反対するものの代表例としてあげるのは明らかにファシズムでしょう。ウサマ・ビンラデインはテロリストだ。だからイスラム教徒はテロリストだとかいう発言と同じで、異端者悪魔であり、排除せよという発想が「論座」も雪斎さんも同様に抱えているという事です。この文を読むとそう解釈する他は無い。

申し上げておきますが、そういう考え方は構造改革派のためにもならない。構造改革派の人たちの書いたものを読んでいるとむしろ「国民党政府を相手とせず」と発言した昔の某政治家に通じるものを感じる。

かつて「バスに乗り遅れるな」と発言した人たちは最終的に日本をどういう方向に持っていったのでしょうか。

先の戦争への反省が足りないのは構造改革派の方ではないでしょうか。

Posted by: ペルゼウス | March 05, 2007 12:10 PM

そもそも親元に寄生して月収10万円で自分が養えないというあたりが変。
家賃がいらない、おそらく光熱費払わない、かかるのは食費だけであれば資産形成すら可能。戦争とかいう前に、まずは無駄遣いヤメレということかと。

Posted by: MAT.N | March 05, 2007 02:41 PM

雪斎さん

私も、この赤木論文は読みました。仰る通り、真剣に論評するには、値しないと思います。もちろん、多くのフリーター、ニートがこのように思っているわけではないでしょうから。

ただ、赤木さんとは、歳が近いこともあるのか、このようなフリーターをしている友人がいるせいか、共感を感じるところもあります。

一般化は、もちろんできませんが、まだ、赤木さんのように、社会や政治に目が向いているだけ、マシなのかもしれません。

このような論文が出る、若者の精神的問題、構造的問題を再考する上では、この赤木論文は、意味があったのではないでしょうか。

ちなみに、私なら、丸山真男先生に一度、ご教授して頂きたいですね。もう無理なんですが。

Posted by: forrestal | March 05, 2007 06:55 PM

pukadon殿
「勝ち組」も「勝ち組」に相応しい振る舞いをしないという点mも、きちんと追求されるべきでしょう。

ペルゼウス殿
拙者は。「書いていないこと」には責任は持てませんな。

MAT.N殿
結局、そういう話になるのでしょうな。

forestal殿
御意。だから、拙者も「面白かった」と書いたわけです。

Posted by: 雪斎 | March 05, 2007 08:10 PM

>「五体満足な若い奴が、何を寝ぼけたことを>言っているのか。土方をしてでも食ってける>のであろう。
ゆみ:全く仰せの通り。
>雪斎の視点からすれば、「ニート」であれ>>「フリーター」であれ、その大勢は「五体満>足な連中」である。その「五体満足な連中」>が「弱者」を僭称することには、骨の髄から>の「反発」を感じざるを得ない。
ゆみ:わかる、わかる。
>雪斎は、元々は「瞬間湯沸器」と渾名された>程の「短気な男」であるので、国内統治、特>に社会福祉関連政策を語る際には、どうして>も自分の「「感情」が反映されてしまう。
ゆみ:雪斎さんは、正直ですね。
自分の「感情」が入らないだけに、こういう執筆は何時も楽しい。
>自分の「感情」が入らないだけに、こういう執筆は何時も楽しい。
ゆみ:そういうもんですね。
同じ障害者として、雪斎さんが、構造改革を支持する根拠が理解できました。心情的には、誠に納得できます。

Posted by: うみおくれクラブ・ゆみ | March 05, 2007 09:10 PM

私も障害者として、正直に書かせてもらいます。社会福祉基礎構造改革によって、障害者福祉が措置制度→支援費制度→自立支援法と移行し、ホームヘルパーなどの福祉サービスが負担無しからいきなり1割負担になってしまいました。私は重度の脳性麻痺を押して、出産、育児に励み、これからエンゼル経費がたくさんかかるのに、家のローンも払わなくてはならないのに、何故、普通の人にはない、障害ゆえの経済的負担を背負わねばならないのでしょうか。
あまりにも理不尽です!!!

Posted by: うみおくれクラブ・ゆみ | March 05, 2007 09:38 PM

ゆみ殿
 まあ、拙者も、障害者である故の「必要経費」があるということは、きちんと諒解してもらう必要があるなとは思います。拙者の場合は、交通費ですが…。
 たとえば所得税法では、障害基礎控除というのが38万円分、認められていますけれども、これには、拙者も不満ですな。この控除額というのは、どう見ても最低でも200万くらいにしてもらわないと割に合わないと思っています。

Posted by: 雪斎 | March 05, 2007 10:07 PM

主題と違うところに反応して恐縮なのですが、障害者の方々としては控除面を厚くしてもらう(究極的には非課税)ことと、インフラを整備し健常者と遜色のない社会活動を成立させることとどちらに重きを置いておられるのでしょうか。勿論両立させた上でのバランス感覚の問題だとは思うのですが、健常者にしてみれば自立と援助と言う逆のベクトルを同時に目指そうとする発想は出てきづらいと感じましたので。

Posted by: TIG | March 06, 2007 10:18 AM

 父がドカタ系の業界で働いているからよく聞くのですが、残念ながらドカタ業界ですらも派遣会社を通すことでピンハネ体制となっております。
 昔ならそれこそ中卒の若者が日当1万5千円でたものが、今では派遣会社を通して本人には6千円しかいかない状態です。

 ニートは兎も角、フルタイム近い仕事をするフリーターや請負会社の労働者が生活に困る現状はどうかと思います。
 大多数は大望を抱かずとも反乱を起こすほどの不満を抱かない、ほどほどともいえるし飼い殺しともいえる状態のほうが、それなりに国家の安定は保たれるのではないでしょうか?

 正しさで考えるならば頑張ったもののみが報われるのは正しいかもしれないですが、正しいことをすすめて国家を不安定にさせればそれこそ元も子もないと考えております。
 多少は正しくないことであろうとも、それで国家の安寧が保たれるのならば、所謂弱者救済も社会の必要悪として残しておいてもいいのではないでしょうかと愚考いたします。

 魚の釣り方を教えるやり方は同感ですが、釣り方を覚えても魚が既に絶滅していれば結局は餓死しか残っていません。

 以上長文失礼いたしました。

Posted by: ぬ | March 06, 2007 09:43 PM

「普段は「いじめられっこの味方」を僭称しているけど、実際には何もせず、たた恩着せがましいだけの連中こそが、本当に「いじめられっこ」であるオレからすると誰よりも憎いのだ!!」と。

現代においては、「左派」は、彼ら自身が社会にぶつけてきたのと同じ感情を、今度は彼ら自身がぶつけられる側に立たされている。

論理は反対のように見えても、通底する感情は同じ。

この矛盾を描いてみせることで、「左派」をおちょくることを(もしくは、相対化すること)を目的にワザとつくられた「仕掛け」なのか?などとかんぐったりもしました。

労働者の味方を気取ってきた連中が、いまや「王侯貴族」「知識階級」として定義され、ギロチンにかけられるべき「革命の敵」とみなされつつあるとしたら、あなたがたの答は何如?と。

Posted by: 妖怪 | March 07, 2007 03:25 AM

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