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February 20, 2007

アイディア・ブローカーの肖像

■ NHK大河ドラマ『風林火山』は、久し振りに硬質のドラマを見せてくれる。
 一昨日放送分では、松井誠さん演じる北条氏康の「恨みでは大望はならぬ」という台詞が印象に残った。
 「恨み」」という「感情」に囚われている限りは、大局を見るのは難しい。
 最愛の女性を殺された「恨み」、さらには異形な姿の故に世に容れられない「ルサンチマン」という自分の「感情」に囚われていたらしい内野聖陽さん演じる山本勘助には、ずしりと響く言葉であったかもしれない。
 

 ところで、国際政治を語る折には、そして特に民主主義体制の下では、この「感情」をどう扱うかが難しい。
 「民主主義国家は怒り狂って闘う」とは、ジョージ・F・ケナンの有名な言葉である。
 ケナンは、この言葉によって、民主主義国家・米国の抱える危険を示した。
 要するに、「利害の調整」という「勘定」ではなく、「悪を懲らしめてやれ」という「感情」で動きやすいのが、民主主義国家の危険なのである。ケナンが「ネオコン」を嫌ったのは、「ネオコン」において「悪を懲らしめてやれ」という発想で対外政策を語る傾向が顕著であったからである。
 だから、北朝鮮に対する政策を考える折にも、この「感情」の部分をどのように削ぎ落とすかが大事になる。米国の場合、対外政策に「感情」が作用することはあるけれども、その危険が薄められているのは、マサチューセッツ・アヴェニューに陣取る数多くの「アイディア・ブローカー」が「勘定」に徹した多彩な議論を展開しているからである。
「アイディア・ブローカー」というのは、シンクタンクなどを拠点にして文字通り「政策アイディアを売って身を立てる人々」である。,『ジ・アイディア・ブローカーズ―シンクタンクと新たな政策エリートの興隆』という書もある。こうした人々にとっては、「問題解決のために有効な処方箋を示したか」が自身の仕事への評価の基準である。小説の世界では武田信玄の軍師となっている山本勘助は、四百数十年前の「アイディア・ブローカー」であるといえなくもない。
 先刻、発表された「アーミテージ・ナイ・レポート2007」も、そうした「アイディア・ブローカー」の議論の成果の一つである。北朝鮮関連でいえば、このレポートには次のような記述がある、
 ① 2020年までに朝鮮半島統一が成る可能性は高い。
 ② 北朝鮮の核開発は、ソ連崩壊後のウクライナと同じように、朝鮮半島再統一(という政治変動)によってしか最終的な解決はないであろうという公算は大きくなっている。
 ③ 金正日体制は、鄧小平流に心を開くリスクをとるよりは、二千百万国民の将来が悲観的なものであるにもかかわらず、(今のままで)何とかやっていくほうを選ぶであろう。
 このレポートのとおりならば、「拉致」は、どうなるのか。雪斎が解釈するところでば、少なくとも日朝関係の劇的な進展がない限りは、その解決も金正日体制下では無理だということなのであろう。だとすれば、金正日が齢六十五を迎えたことから勘案すれば、確かに二〇二〇年前後が「真実の瞬間」を迎える時節になりそうである。これは、拉致被害者家族の「感情」からすれば、「あと十数年待てば…」なのか、それとも「あと十数年も待たなければならないのか…」なのか。何れにせよ、そうした「感情」とは余り縁のないところで書かれているのが、こうしたレポートなのであろう。
 雪斎は、何時も「薄情な男」と評される。ブロガーの世界でも、「非道」という称号を頂いている。だが、それもまた、対外政策を「感情」ではなく「勘定」で語ることに徹したいからに他ならない。故に、雪斎は、拉致被害者救出運動を含め一切の政治「運動」には、関わりを持たないことにしている。こういう運動にかかわって「情」が移ってしまえば、政策判断の「眼」が曇る。雪斎は、純然たる「アカデミズム」の世界よりも、そうした「アイディア・ブローカー」の世界に憧れた。そうした「アイディア・ブローカー」の作法を踏まえているに過ぎない。

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Comments

日本と北朝鮮に関する限り、北朝鮮問題は遠からず解決すると思います。

各国が援助を実行すれば日本単独の経済制裁など全く意味がなくなります。日本側で北朝鮮との交易に関わっていた国民の仕事を減らし続ける結果しか生みません。日本は拉致問題を6カ国協議に持ち込むこと以外には動きが取れない状態になり、結局そうしたのですが、その6カ国協議で日本の代表も賛成して今回の同意を得たのですから、この取り決めを実行しないと今後はどんな道も閉ざされることになります。拉致被害者を守る会の発言も大きくトーン・ダウンし、諦めの様子が見えます。

しかし、各国の支援が開始され、北朝鮮との交流が盛んになれば、拉致被害者を現地で調査するようなことも可能になるでしょう。

小生はこの夏頃までには事態は進展すると観測しております。

ただ、それは、金正日政権が崩壊するとか、隠匿した核兵器が無くなるということではありません。もちろんですが、それらは当分続くでしょう。日本は北朝鮮と旧ソ連とは平和条約を締結しておりません。広義の戦争状態は続いているのです。こうした問題も解決し、南北朝鮮も平和裏に統一されるのは今世紀中掛かるのではないでしょうか。ただ、北朝鮮が核兵器と高速ボロ漁船のテロによる脅しを韓国にかければ南北統一も早期に実現するでしょう。長い目で見るとその方が良いのかも知れません

Posted by: 赤堀 篤良 | February 20, 2007 at 10:59 AM

南北統一など絶対にさせてはなりません。

彼らには「反日」しかない。南北統一とは巨大な反日国家の設立に他ならず、アメリカがそれを承認しているという事は、日米安保で日本を縛り付けるネタとするために他ならない。雪斎さんは、感情で動いてはイカンというが、感情こそ勘定の国が世界の大半であり(そうでない国があるというなら説明してください)、そういう世界では非情などなんの意味も持たない。

日本の戦争責任を問うやからがまだまだ多いアメリカをただ支えるだけでは、最終的に日本が始末されるだけであり、たとえ各国の支援が開催され、経済制裁が無意味だと言われても、朝鮮民族の、それを支える中国の戦争責任とも言うべき拉致問題での断罪は絶対に必要です。勘定が感情に勝るとどうして言い切れましょうか。

東条英機首相が断罪されたように北朝鮮が断罪されてこそ、日本の戦争責任も断罪された東京裁判も意味を持つはず。

それが拉致問題の解決に他なりません。
拉致被害者たちはみな殺されている。だから北朝鮮は拉致被害者を返せない。だから彼らは拉致問題は解決済みと言っている。統一朝鮮半島は反日以外に道は無いのですから、彼らをどれだけ援助しても、カネを送っても無駄です。

彼らには反日という感情こそ勘定なのです。

Posted by: ペルゼウス | February 20, 2007 at 02:35 PM

歴史感覚に乏しい方ですね。戦国時代の人間が現代人のような自意識のお化けだと素朴に考えている。歴史小説は所詮現代小説だという自明の前提を知らない。ユナイテッド・ステイツの学者ばかりでなく、連合王国の歴史家の歴史書もお読みなさい。Simon Schamaの Embarrassment of Richesなどお勧めします。

Posted by: 臥猫窟 | February 20, 2007 at 05:10 PM

 チェイニー米副大統領が来日、日米豪の連携確認へ
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070220i212.htm

 日豪の外務・防衛閣僚が定期協議へ、米国含め連携強化
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070220i201.htm

 北朝鮮との外交、豪が修復検討
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20070220id22.htm

 色々と動きが出てきていますね。日米豪3カ国の連携には今後も要注目ですね。

Posted by: ささらい | February 21, 2007 at 12:27 AM

雪斎先生・・・。
拉致被害者家族のご高齢を考えれば
あと十数年というのはとてつもなく長く遠く、
もう待てないというほどだと思いますよ。

非情なればこそ、非情な政策の非情さを、
ズバリ直視するべきではありますまいか。

Posted by: 妖怪 | February 21, 2007 at 01:34 PM

もう一点は「道義の追求と権力政治とは明確には分離できない」という点にも注意を払っていただきたく思います。
道義の追求は権力の追及と分離できませんが、逆に権力の追及においても道義への考慮は不可分であると思います。
主権を侵害されているのに愛想笑いをしているようではナメられてしまいますから、単に道義の問題というだけではなく、国家としての威信の問題でもあり、権力政治上の力関係に影響するという側面があるかと思います。

もっとも、このような話は釈迦に説法であることは自覚しております。

失礼いたしました。

Posted by: 妖怪 | February 21, 2007 at 01:48 PM

一つだけリプライを。
 妖怪殿
 仰せの通り、「拉致」は「待てない」案件です。
 その「待てない」案件に、今のやり方が果たして有効かどうかは、冷静に考える必要があります。
 拙者などは、「拉致被害者の帰国が即時、実現するのであれば銭ぐらいはくれてやれ」と思っています。「金正日を懲らしめる」という感情を満たすのと「邦人を帰国させる」という実践的な解決を導くのとで、「二兎を追う」状態になっていないかと危惧するものです。
 

Posted by: 雪斎 | February 21, 2007 at 08:35 PM

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Tracked on February 20, 2007 at 01:59 PM

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