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February 05, 2007

北朝鮮の経済成長率

■ 少しばかり興味深いデータがある。「北朝鮮の経済成長に関する論争の一考察」と題された中国人(韓国人?)研究者の論稿で引用されていたデータである。

 □ 北朝鮮の経済成長率推移(単位:万ドル、%)
     (出所)韓国銀行「2004 年北韓経済成長率推移結果」
   、2005 年5 月31 日公報により。

       1990  1991  1992  1993 1994  1995  1996
北朝鮮  - 3.7 -3.5  -6  -4.2  -2.1  -4.1  -3.6  
韓国 9.2 9.4 5.9 6.1 8.5    9.2    7 

      1997  1998  1999 2000  2001  2002  2003  2004
北朝鮮 -6.3 -1.1 6.2 1.3 3.7 1.2 1.8    2.2
韓国    4.7  -6.9 9.5 8.5 3.8 7 3.1 4.6

 このデータが示すのは、次の二つである。
 ① 北朝鮮は、1990年から1998年までマイナス成長を続けてきた。
 ② 北朝鮮は、1999年に6・2%成長を記録したのを機に、2004年まで大体2%の成長を続けている。
 「北朝鮮は経済状態がガタガタである」。日本人の多くは、そう思っている。
 しかし、実際には、少なくとも2000年以降は、着実な復調軌道に乗っていることが判る。
 この時期の北朝鮮に経済成長率は、日本と比べても遜色ないのである。
 何故、持ち直したのか。
 前に触れた中国人研究者の論稿によれば、「1997年以降、金正日が進めている改革開放政策が成果を挙げている」というのが、その理由である。その成果の上に、隣国・中国の経済発展の余波が及んだことによって、北朝鮮は一九九〇年代の情勢から抜け出しているのである。
 こうして考えると、北朝鮮に対する「水攻め」(経済制裁)の効果も、冷静に見極める必要が出てこよう。
 日本では、「北朝鮮は、もっと締め上げれば、必ずや音を上げるであろう」という想定が、自明のものとして信じられている。しかし、対中交流の追い風を受ける形で経済復調が成っているのであるとすれば、日本の制裁の効果というのも、自明ではない。
 もっとも、この中国人研究者が依拠した韓国銀行のデータが誤りを含んでいれば、話は別である。北朝鮮政府それ自体が自国の経済データを公表していないのであるから、「二〇〇〇年代の北朝鮮経済の復調」を示した韓国銀行のデータですら、「他国の観測」である。「実際のところは、どうなのか」。北朝鮮に対する制裁にせよ支援にせよ、これを踏まえた議論でなければ、余り意味がないと思われる。だから、ウィンストン・チャーチルがソ連に関して発した「謎の謎の謎」という言葉は、そのまま北朝鮮にも当てはまる。。だから、対北朝鮮政策を考える際には、かなり複雑な思考を必要とする。だが、対外政策に関して、「単純な議論」が横行しているのも、北朝鮮関連案件なのである。

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Comments

>だが、対外政策に関して、「単純な議論」が横行しているのも、北朝鮮関連案件なのである。

核開発と北朝鮮の経済成長は何の関係もありませんが?

Posted by: ペパロニ | February 05, 2007 at 12:54 PM

もし自分が金正日なら日本に対してこう言うだろう:

・ 拉致問題:大韓航空機爆破事件、ああるいは韓国人・日本人の拉致は親父の金日成時代に行われたことだ。それでも拉致問題については小泉前首相にお詫びしたうえ、帰国できる方々については、家族も含めてお返ししている。これ以上どうしろというのか。出来ないものはできない。いない者はいない。

・ 北朝鮮が核兵器を保有してどうして悪いのか。すさまじい数の核兵器を保有する危険な大国に少しでも報復攻撃の恐怖を与えられればそれで良い。日本だってアメリカの核の傘に守られているではないか。

・ 自分の時代になって何とか北朝鮮を平和的に発展させ、ゆくゆくは南北朝鮮統一の悲願を達成したいと努力を重ねている北朝鮮をどうして日本は援助しないのか。日本にとっても北朝鮮は良いパートナーになれるではないか。日本企業が進出すれば、優秀な労働力を世界一安い賃金で雇うことが出来るではないか。

・ 人類学的にいえば、朝鮮は日本人のルーツの一つではないか。過去に朝鮮を併合していた日本であるからこそ、他国とは違う温かみのある対応が出来て当たり前ではないのか。

・ 我々も60年以上前の大日本帝国の悪行はつとめて忘れるように努力するから、日本人も拉致問題のことは忘れて仲良くしようではないか。北朝鮮の市民も自分も日本が好きなんだから。

Posted by: 赤堀篤良 | February 05, 2007 at 02:36 PM

雪斎殿にしては浅薄な議論である。

北朝鮮の経済が2,000年以降上向いている事、それが中国との貿易の拡大による事は、私のようなど素人の2chネラーであっても、北朝鮮情勢に興味を持つ者には常識である。

韓国銀行の統計は一般的な貿易統計であるが、北朝鮮の経済を考える時にはこれだけでは1/3にしかならないと言われている。残りの1/3は弾道ミサイルと関連技術の輸出であり、最後の1/3は犯罪収入である。

米国の提唱するPSIは弾道ミサイルと関連技術の輸出を阻むものであり、金融制裁は犯罪収入のマネーロンダリング防止が主眼である。

日本の経済制裁はどうか?

日本は北朝鮮の覚醒剤ビジネスの最大のマーケットであったようだが、北朝鮮貨物船の入港禁止は沖取りによる覚醒剤取引を難しくしたのは間違いない。報道によれば市中価格は1年間で4倍に跳ね上がっているという。
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20070201AT1G0100T01022007.html
> 警視庁などが昨年5月、北朝鮮から大量の覚せい剤を密輸していたグループを摘発したことなどから、昨年も覚せい剤の流通が引き続き減少。末端価格は1グラム15―20万円になり、年間でおよそ4倍になった。

万景峰号の入港禁止は、北朝鮮が日本の贅沢品を得る大動脈を押さえた事に等しい。イベント毎の将軍様からの下賜が順調にいっていない事は、この制裁が効果を上げている事を伺わせる。

水産物や松茸の購入が停止された事は、たとえ中国を迂回して物が入ろうが、北朝鮮が得るハードカレンシーがそれだけ減少するという事だ。

最後に、中国との貿易の増加で膨らむ経済は「元経済」であり、北朝鮮が喉から手が出るほど欲しがっているハードカレンシーの増収に繋がっているかどうかは甚だ疑わしい事を付け加えさせていただく。

Posted by: 電波小僧 | February 05, 2007 at 11:21 PM

 「冷戦時代ソ連、中国の援助だけが、北朝鮮の経済成長の見かけの数字を示していた」
 静岡大学(?)の先生の研究だったと思いますが、既発表の資料だけから、北朝鮮は自らの力で一度として富を生み出したことはないというのを、ネットで見たことがあります。私も素人北朝鮮ウォッチャーで、脱北者などから出てくる個々の証言からどんな社会でどんな生産活動をしているのかいろいろ想像してみるのですが、生産・成長とは程遠い社会だと考えています。
 ここ数年、この国について経済改革により成長している。鉱物資源を求めてイギリスの会社が資本を投資した。中国資本が流れ込んでいる。等々…情報が流れていますが、もともと確とした情報が出てこない国です。
 であれば、単純も複雑の思考も、現実に起きている事実(北朝鮮の要求と悲鳴)だけをたよりにしたほうが賢明ではないかと考えます。

Posted by: toshi | February 06, 2007 at 07:41 AM

いつも拝読いたしております。
北朝鮮については経済成長があるので効果がないという議論の一方で、例えばEconomistのように効果があるという分析( http://www.economist.com/world/asia/displaystory.cfm?story_id=8522386 )もあり、「本当のところ」がよく分からないというのはご指摘の通りだと思います。ただ、考えるに北朝鮮はもとより全体主義国家の実態は分からないのが常であって、個々の外交手法の効果が分からない状態で、政策判断を強いられるというのがこれまでの(そしてこれからも)現実なのではないでしょうか。とすれば、結局肝心のことが「分からない」場合にどのような政策決定枠組みが提供できるか、あるいは、提供されてきたかという点が政治学とりわけ現実を重視するコウモリ派に求められるアプローチだ、という話に帰着するように思えましたが、いかがでしょうか。
素人ゆえ雪斎先生の御主旨を誤読してる気もしますが,,,失礼になっておりましたらご容赦ください。

Posted by: こつこつ | February 06, 2007 at 08:37 AM

 皆さん、ありがとうございます。
 北朝鮮との交渉の前提として、北朝鮮政府に「経済データ」を出させることは、考えなければと思います。
 最大公約数的な議論でいえば、「1990年代に比べれば、ましである。ただし、中国などには到底、及ばない」という観測になるのかもしれません。それから、「格差」が甚だしいということも、そうでしょう。
 ただし、これも、「観測」でしかない。随分と厄介な国を相手にしているのだと思います。。

Posted by: 雪斎 | February 06, 2007 at 09:33 AM

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