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January 07, 2007

 「豊かな社会」と「知恵」

■ 「豊かな社会」を生き抜くには、余程の「知恵」が要る。
 新春の巷を賑せているのは、渋谷の歯科医の家庭で次兄が妹を惨殺した一件の顛末である。
 その家庭は、祖父以来、歯科医を開業していた「裕福な家庭」であったらしい。その「裕福な家庭」で、大学受験生活三年目の次兄が妹を殺めたのだから、ちょっとしたニュース・ヴァリューがあるのであろう。、

 ただし、雪斎は、「これは、親の怠慢ではないのか…」と思う。雪斎が歯科医である親の立場ならば、「二年浪人して歯学部に行けなかったら、別の道を考えろ」と引導を渡すようなことは口にするであろう。自分の息子が本当に歯科医としての適性を持つのかは、歯科医である自分こそが見極めなければならない。歯科医の親は、そうしたことを怠ったまま、息子に惰性的に三年も浪人生活を続けさせたのであろう。しかも、普通の家庭ならばともかくとして、歯科医の家庭には、それを許す「裕福さ」があったのである。他人の悲劇を云々するのは気が引けるけれども、その歯科医の家庭に「知恵」はあったのであろうか。
 加えて、その次兄が本当に歯科医になりたいと思っていたかは定かではない。「親が歯科医だから、俺も…」という固定観念に囚われていただけではないのであろうか。
 雪斎も大学浪人生活を二年、経験した。「三年目」はないと思っていた。色々なことができるはずの時期に、「浪人生活」ぐらい非生産的な時間もない。もっとも、雪斎は、浪人生活二年目は、受験勉強を一切やらずに、政治学関連の書を読み漁っていたのである。高坂正堯、永井陽之助、中嶋嶺雄、木村汎…。雪斎における「現実主義」の基礎工事が行われた時期である。そういえば、受験のために乗り込んだ札幌のホテルで読んでいたのは、永井先生の『現代と戦略』であった。ふざけた浪人生活である。だから、浪人生活は「二年目以降」は意味がないのである。
 ところで、元々、歯科医になるという固定観念から無縁でいられた妹の方は、女優を目指していたようである。報道が伝えるところによれば、何度もオーディション落選を繰り返しながら、漸くビデオ・シネマで端役をもらえるという状態であったらしいけれども、「まともな育ち方」をしていたのは確かであるらしい。「裕福な家庭」が恵まれているとされる所以は、「色々な生き方の可能性を考えることができる」という点にあるけれども、そうした傾向は、次兄ではなく妹のほうにこそ現れていたのであろう。
 誰でも、「裕福な生活」をしたいと願うものである。日本の昔話は、男子ならば「長者」に成り上がり、女子ならば「長者の嫁」になるという大団円を迎えるパターンが多い。それは、そのまま日本の庶民の願望を反映しているのである。ただし、そうした昔話は、「裕福な生活」のなかで生きる「知恵」を何ら教えてはいない。
 雪斎は、昨年末、「ミリオネアになってみたい…」と書いたことがある。ただし、「ミリオネアになった後にこそ、知恵を大事にしなければならない」のであれば、その「知恵」を磨くことも今から一生懸命にやらなければならない。「少くして学べば壮にして成すあり。壮にして学べば老いて衰えず。老いて学べば死して朽ちず」である。気合を入れて、精進しなければなるまい。

■ 発注していたベートーヴェン作曲『ミサ・ソレムニス』(カール・ベーム/ウィーン・フィル)が届く。さて、聴こうか…。

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Comments

同意です。
ただ、十代で読書をしたり友人達と馬鹿な事をやったり
(これは、ただ溜まり場でマッタリすることも含みますが)
一見くだらない趣味に没頭したりしない「一見よい子」の視野は
とんでもなく狭いのではないでしょうか?
これらを普通にやっていたのは、雪齋先生の言うように
妹の方だったようですが(特に役者は膨大な読書と経験の足りない部分の引き出しへの蓄積は不可欠です)
次兄は、親の言うとおり「将来への裕福さの維持の為に現在を犠牲」する事以外、考えが及ばなかったのかもしれません。

彼に、周囲からどれ程の抑圧が加えられていたかは判りませんが、「お前には夢が無い」と、女であるために「家の期待」から
自由で要られた妹になじられたあげくの凶行と言うところに
救いのなさを感じます。
もし、家庭内で同じスタンスに位置する弟であったなら、こうはならなかったのではと。

私は、知恵とは膨大な見えない蓄積が土台にならなければ
存りえないと考えています。
そう言う意味で、彼の親は彼に受験に必要なもの以外の読書を
教えなかったのだろうと思いますし、彼自身も影響を与えられる
集団に属していなかったような感じを受けました。

Posted by: TOR | January 07, 2007 at 12:41 PM

この事件の加害者は精神疾患があったのではないでしょうか。
殺害方法が異常です。家庭環境が間接的な影響を与えたとは推測できますが、直接的関係は無かったと思います。
去年の奈良県進学校高校生の家族殺害といい、医者に関係する事件が色々ありますね。医療現場の40歳位の世代に問題があるのかもしれません。

さて、雪斎さんの資産運用エントリーを読んで、私も老後を考え資産運用を始めました。日本では過去に年率15%位で株価は上昇したんですね。
また、アクティブ運用よりインデックスファンドの方が長期では上昇率が高いので、模索しながら始めています。

Posted by: biaslook | January 07, 2007 at 12:48 PM

>上の方
異常なのは殺人という行為であって、その方法ではないと思いますよ。疾患が殺人を引き起こす例のほうが稀です。たかだか二つの事件で妙な決め付けはどうかと。

金持ちが賢者であれば、もしくは賢者が金持ちになるんで有れば世界の行く末も随分違うはずですね。

Posted by: lee | January 07, 2007 at 04:42 PM

あ~、上の事件ですが「日本一賢い妹」という題材で
類似例がネタにされております。
http://blog.livedoor.jp/kangaeru2001/archives/50871287.html
地力で頭が良いと言うのはこういう人を言うのかもね

Posted by: TOR | January 08, 2007 at 10:23 AM

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