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December 11, 2006

人間にとっての「高貴」と「下賎」

 雪斎が最も大事にしている映画『炎のランナー』 (Chariots of Fire、監督/ヒュー・ハドソン)には、主人公であるユダヤ人青年、ハロルド・エイブラハムズの親友として由緒ある貴族の青年、アンディが登場する。アンディは、広大な屋敷の庭にハードルを並べて練習する折、執事に命じてシャンパンを満たしたグラスを各ハードルの端に置かせ、「シャンパンをこぼしたら教えてくれ」と伝えるのである。このシーンは、映画全編の中でも最たる高雅さを漂わせるシーンである。
 ハロルドは、英国社会で絶えず差別される立場にあったユダヤ人青年であった。だから、彼は、走ることで自分の存在を証明しようとした。そして、彼は、1924年パリ五輪で国旗掲揚台の中央にユニオン・ジャックの旗を揚げるのである。陸上競技引退後のハロルドは、弁護士、ジャーナリスト、陸上競技界の重鎮として活躍し、尊敬される人生を送った。英国社会で恵まれない立場、差別される立場であったハロルドが、それにもかかわらず英国社会のために貢献する人生を送ったのである。貴族であったアンディがハロルドの葬儀の後にもらした言葉は、示唆深い。「あいつは勝った…」。
 ハロルドは、雪斎にとっては、「かくあるべき人生」を体現している。

 人間にとっての「高貴」の「下賎」の序列は、次のようなものになる。^
 1、それぞれの社会で恵まれない立場、差別される立場の人物が、それにもかかわらず社会のために貢献する。
 2、それぞれの社会で恵まれた立場の人物が社会のために貢献する。
 3、それぞれの社会で恵まれない立場、差別される立場の人物が、社会のために貢献しないで自分のことを考える。
  これにも二種類があって、
  a ひたすら自分の「独立自尊」を図ろうとする。
  b 他人に平然と「寄生」しようとする。
 4、それぞれの社会で恵まれた立場の人物が、それにもかかわらず社会のために貢献しない。
 人間の「高貴さ」を実感させるのは、おそらく1、2、,3a、であり、人間の「下賎さ」を実感させるのは、おそらく3b、4である。「1」は、ハロルドの軌跡であろうし、第二次世界大戦中の米国陸軍442日系人部隊の活躍も、その事例である。「2」は、「ノブレス・オブリージュ」という当然の作法として語られたものである。「3a」は、福澤諭吉の精神である。「3b」は、戦後の「福祉」が実質上、養った人々である。「4」は、あらためて論ずるまでもない。
 昨日は、午前中は、奈良での「同和利権」に絡む報道番組があって、夜には「ワーキング・プア」の問題を扱ったドキュメンタリー番組が放映されていた。この国は、うっかりすれば、「3b」に属する人々を増やす構造を内包させている。「2」の人々は、どこに行ったのであろうか。「4」の人々が矢鱈に目立っているのではないであろうか。「1」は本当に稀有な事例なのではないであろうか。
 「格差」云々を語るよりも、日本社会の今後を語る上では、こちらの方が余程。大事なものだと思うけれども…。

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Comments

雪斎さん

こんにちは、ご無沙汰してます。

雪斎さんのタクスノミーをみて、アメリカの規範倫理学、ジョン・ロールズやロナルド・ドォーキンは、どの類だろうと考えてしまいました。

特に、この2者については、日本の再分配・福祉政策に、アカデミックな影響力が強いですから。ノージックあたりは、3aに近いんでしょうか。

前者2人は、2→(1)なんて、構図になるんでしょう。

Posted by: forrestal | December 11, 2006 at 12:38 PM

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