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November 07, 2006

ワシントンの「告別の辞」

■ The great rule of conduct for us, in regard to foreign nations, is, in extending our commercial relations, to have with them as little political connexion as possible. So far as we have already formed engagements, let them be fulfilled with perfect good faith. Here let us stop.
   ―GEORGE WASHINGTON'S FAREWELL ADDRESS
 ジョージ・ワシントンが1796年9月に発表した「告別の辞」には、このような一節がある。雪斎の訳でいえば、次のようになろう。「海外の国々に関していえば、われわれを導く大なる規則は、われわれの商業関係を拡張するときには、できるだけ外国との政治上の連携を持たないということである」。

 後世、このワシントンの「告別の辞」は、モンロー・ドクトリンに象徴される米国の「中立主義・孤立主義」路線の下敷きとなる一方で、国内で浮上しつつあった党派対立に警鐘を鳴らした文書と評されている。本間長世先生の著書『共和国アメリカの誕生―ワシントンと建国の理念』は、この「告別の辞」の意義を解説している。
 本間先生の解説で印象深かったのは、「告別の辞」に込めたワシントンの意図が、「対外政策に結び付いた党派対立」を戒めることにあったという指摘であった。建国期の米国では、独立戦争直後でさえ対英関係を重視する層と対仏関係を大事にした層との間には、深刻な対立があり、その対立が「国民統合」と国家の存続を危うくしかないと懸念されたのである。ワシントンにしてみれば、特定の国々対する親近感や嫌悪感といった「感情」の虜になってしまえば、総ての国々と円滑な関係を紡ぐのは難しくなる。故に、特に英国やフランスのような旧大陸の国々とは、一旦、距離を置いておこうというのが、ワシントンにおける「中立」の趣旨であったのである。
 米国連邦議会中間選挙直前の情勢では、上下両院での共和、民主両党の「勢力逆転」が成る雰囲気である。ただし、こういう時期だからこそ、本間先生の著作を通じてでも、米国の「建国の理念と創業者たちの足跡」に触れてみるのは、楽しい。ワシントンが懸念した「対外政策に結び付いた党派対立」は、実は現在の米国にも顕著に見られるものである。「米国の旅」は終わらないということであろうか。

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「国際情勢」カテゴリの記事

Comments

雪斎殿
微妙な時期にタイムリーなエントリーですね。米国中間選挙結果のインプリケーションは、かんべえ殿の溜池通信でも若干触れられていて、なるほどと感じたんですが、どうなりますか。
アメリカは、党派対立が嵩じると、いったんこもる傾向があると思うんです。それが次の発展につながってきた。孤立主義と拡張主義の繰り返し。ひょっとして、今日の選挙は、その流れの転換点かもしれない。日中、日韓、対北朝鮮。みんな重要ですが、対米関係は磐石か。これが安倍内閣の最大の課題かもしれない、雪斎殿のエントリーのインプリケーションはそう読めますな。

Posted by: M.N.生 | November 07, 2006 at 11:47 AM

 アメリカの場合は特に国内問題(階層間であったり、業界間であったり人種間であったり)での対立が、対外政策に基づく党派対立にいつの間にかリンクしている度合いが高いのでは?
 リンクはするのが当然なのかも知れませんが、すり替えになるというか。その結果、積極介入に出るか、引きこもるかという振幅が大きいのではないかと。なにぶん振幅が大きいだけに、対米関係を基調にしてる国はこういった時期はしんどいんじゃないかなー。
 私は前首相の評価については雪斎殿とはだいぶ見解が異なるのですが、トップ間の「うまがあう」といった個人的なつながりはこの点で非常に有効な保険だったような気がします。

Posted by: ぷらなりあ | November 08, 2006 at 10:40 AM

雪斎さん

こんにちは

TBさせて頂きました。すいません。

本間先生の本は、正直、不勉強で、『アメリカ史像の探求』しか読んでいないのですが、早速、『共和国アメリカの誕生』も購入しました。といっても、アマゾンで、配達待ちなのですが。

G.W.ブッシュ政権は、あと2年あるのですが、段階的に対話路線へと、傾斜していくのではないでしょうか。

雪斎さんがコメントを下さった通り、安倍総理周辺の民主党人脈が気がかりです。

Posted by: あいけんべりー | November 09, 2006 at 11:05 AM

・あいけんべりー殿
もっといえば、ブッシュ自身が「豹変」する可能性もある。
たとえば、北朝鮮絡みで、ブッシュの「強硬姿勢」を当てにしていた人々が、梯子を外される可能性もある。
色々な場合を想定する必要があると思います。

Posted by: 雪斎 | November 10, 2006 at 05:04 AM

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