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September 12, 2006

「9・11」の「『自由』の歌」

■ 「9・11」の夜に聴くようになったアルバムがある。
 レナード・バーンスタインが振った「第九」である。
 昨年は、流石に聴かなかった。
 オーケストラの布陣は、「バイエルン放送SO」、「ドレスデン・シュターツカペレ」、「ニューヨークPO」、「ロンドンSO」、「レニングラード・キーロフ歌劇場管弦楽団」、「パリ管弦楽団」の混成である。
 演奏されたのは、1989年12月25日の東ベルリンである。
 「ベルリンの壁」の崩壊一ヵ月半後に、東西両ドイツ、米ソ英仏の六ヵ国の人々が、ひとつの輪になって行った演奏である。
 この演奏では、第四楽章の合唱の冒頭の「歓喜」(Freude)の言葉が、「自由」(Freiheit)に差し替えられている。「冷戦の終結」を象徴するイヴェントであった。

 「第九」が全人類の和解を願った楽曲として語られるのは、第四楽章の合唱の次の一説によるものであろう。

Deine Zauber binden wieder, was die Mode streng geteilt,
あなたの神秘的な力は再び結び合わせる。この世の時勢が厳しく分け隔てたものを。
Alle Menshen werden Brüder, wo dein sanfter Flügel weilt.
全人類は兄弟となる。あなたの優しい翼がとどまるところで。

 確かに、誠に理想主義的な詩句である。「9・11」の後、「全人類が兄弟になる」風景は、絵空事に感じられても、それは、仕方のないことであろう。だが、国際法学にせよ国際政治学にせよ、「戦争と平和」を扱った学問は、「平和の希求」という動機を原点に置いている。フーゴー・グロティウスは、三十年戦争の陰惨な日々があればこそ、『戦争と平和の法』を書いたし、ハンス・ヨアヒム・モーゲンソーの『国際政治』も、二度の世界大戦の経験がなくして成立し得なかった。雪斎を含む安全保障研究者の多くは、その意味では平和と、それが実を与える自由を尊重しているのである。
 だから、「歓喜」を「自由」と替えた一九八九年暮れの「第九」を「9・11」の夜に聴く。
 ベートーヴェンの音楽を生涯、愛し続けたロマン・ロランは、次のような言葉を残している。雪斎の信条である。再び掲げることにする。
 ● 「理想主義のない現実主義は無意味である。現実主義のない理想主義は無血液である」。
 ● 「英雄とは自分のできることをした人である。ところが、凡人はそのできることをしないで、できもしないことを望んでばかりいる」。
 結局、「できること」をやり付けるしかない。政治の世界にも、「できることをしないで、できもしないことを望んでばかりいる」政治家は要らない。「できることをする」政治家だけが居ればいい。

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Comments

雪斎様ほどのお方が・・
我がブログにもコメントいただきありがとうございます。雪斎ファミリー?のみなさんと、バーベキューできたら楽しそうですね。

 「歓喜」(Freude)、「自由」(Freiheit)となる第9番が、このアジアで高らかに演奏される日を待ち望んでおります。しかしそれは「先生」の受難を示すことかも知れません。

 どうやら、原油・金属類の相場が下落の模様・・イラン情勢といいますが、中国での需要減(原油)の影響かもしれません・・

Posted by: SAKAKI | September 12, 2006 at 01:42 PM

拙ブログに起こしいただき、まことにありがとうございます。光栄です。
一国の宰相たる者、決して媚びる必要はありませんが、他国民にファンがいるくらいでないといけないのかもしれません。
小泉首相の場合、強烈なアンチもいたでしょうが、同程度かそれ以上のファンも獲得していたのではないでしょうか。
卑近な例で申し訳ないですが、私の韓国人の友人も小泉ファンでした(わざわざ日本に留学してくるくらいですから親日なのは当然かもしれませんが)。

Posted by: talleyrand | September 12, 2006 at 06:54 PM

「歓喜」を「自由」に替えた1989年暮れの「第九」については、お恥ずかしながら初めて聞きましたが、替え歌の真髄を見た思いが致します♪

Posted by: ・・・みたいな。 | September 12, 2006 at 07:30 PM

訂正です。
1行目
×起こしいただき
○お越しいただき
です

Posted by: talleyrand | September 12, 2006 at 11:23 PM

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