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September 02, 2006

政治の世界に「○○主義者」は要らない。

■ フランスAFP通信から取材を受けた。『産経』に八月十五日付で載せた原稿に引き付けて、「日本人と皇室」について所見を示してほしいとの趣旨である。「フランスの通信社とは、意外なところから引き合いがきたものだ…」と思う。

■ 昨日、安倍晋三氏が自民党総裁選挙に立候補を表明した。「時化た選挙」の体裁が整ったことになる。
 雪斎の観測は、安倍氏が新宰相になった場合、その執政は、小泉総理に比肩する長期のものになるか、それとも意外に短期のものとして失速するかの極端に割れるであろうというものである。前にも書いた通り、安倍氏に期待されているのは、「小泉が吹かせた風を止めないこと」なのであるけれども、「小泉が吹かせた風」と「安倍に吹いている風」は、似ているようで、かなり違うものであると思われる。その点を安倍氏周辺がきちんと認識しているかが、問題である。
 最近、オットー・フォン・ビスマルクの評伝『ビスマルク伝』(全8巻)を一通り読んだのであるけれども、誠に示唆深いものであった。
 ジョージ・フロスト・ケナンは、ビスマルク外交の研究書を著しているけれども、「ビスマルクは、広く人口に膾炙した印象とは対照的に、厳密にいえば、ドイツ民族主義者ではなかった」と説明する。ケナンは、ビスマルクが、樹立されたばかりの帝国の護持を第一に考えた「有能にして権限を伴った忠臣」であったと指摘する。実際、ビスマルクの政治指導にイデオロギーはない。ビスマルクの対外政策の中では、「フランスの孤立化を徹底して図った」というのが教科書的な理解であるけれども、イギリスが1880年代にエジプトを占領した折には、対英牽制の意味合いで対仏接近を図っている。こうした機会主義的な側面がなかれば、まともな政治指導は機能しないのである。
 もし、安倍氏が新宰相になるのであれば、これからの時間は、その保守主義・民族主義のイデオロギーの色彩を徹底して消し去る過程でなければならないであろう。少なくとも、昨日が安倍氏における「保守主義イデオロギー」の頂点であったということにしてもらわなければ、この先は危ういであろう。宰相は、「民族主義者」や「保守主義者」ではなく、「天皇陛下の忠実な臣下」でありさえすれば、それでいい。

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「永田町の話」カテゴリの記事

Comments

政治家というのは、きっと“感情や本音を表に出さず冷静にふるまえる”能力が必要とされる反面、“譲れない点があり、熱い情熱、強いポリシーも持っているふり”も必要なのでしょう。立ち位置をある程度明確にされている安倍氏がこれからどのようなバランス感覚と熱さを両立させて演じていくのか、注目していきたいと思っています。

Posted by: 酒乱童子 | September 02, 2006 at 01:11 PM

真面目な記事に恐縮なのですが、今回の総裁選の候補者を見ていると、見事に「チ○、デ○、○ゲ」が排除されていて、時代の流れを感じます。とりあえず、第1段階はクリアーしたような気がします。コアな自民党支持層は、森政権末期に政権を支持した10%ぐらいでしょうから、小泉総理がぶち壊した自民党臭さ(露骨に言えば加齢臭)が元に戻れば、「コレデオシマイ」でしょう。「次の次」はないという勢いを全体として感じないのが不満です。民主党がああなのでたかをくくっているのかもしれませんが。

「天皇陛下の忠実な臣下」は卑賤な私の手にあまりますが、世俗のことに皇室を巻き込まないでいただきたいと思います。気がつくと、地雷がまだまだあるので、意外と怖いなあと思います。

Posted by: Hache | September 02, 2006 at 05:40 PM

 政治の世界に「○○主義者」は要らない、とは、まことそのとほりであると存じます。政治家をはじめ、政治に関はるものにとつては、「○○主義」に浸らない、といふ自らにたいする戒めが大切だと思ふのですが、さういふことについて無意識・無自覚な人達があまりに多い。意識や自覚がなくとも、さういふ戒めを結果として成してゐるやうな人がゐればよからうが、ゐないのが今の日本でせう。

 そしてまた、雪斎様をはじめ、数少なくして、さういふ戒めを持つていらつしやる方に、お願ひ申し上げたいことがあります。もう既にある人が云つてゐて、その受け売りになるのですが、T.S.エリオットによれば、政治家や政治思想は、政治に先行する倫理の領域についてよくよく考へ、栄養を取らねばならない。

 政治や法は道徳や倫理に等しくありませんし、等しくあるべきでもないでせうが、エリオットの云つたことを忘れ、政治主義に浸ること、これが危険な愚行であると、エリオットを信じて思つてをります。たゞ一つ、政治の世界に「○○主義」がありうると敢へて考へるとすれば、それは則ち、「『○○主義』に浸らず、倫理を忘れぬ主義」である、さう思つてをります。さういふ「主義者」でゐてほしい、これがお願ひです。

Posted by: マロン=ナポレオン | September 02, 2006 at 08:43 PM

私なりに考えれば「政治家に必要なのは、熱い心と、冷静な頭」になるかと、そう思っています。
しかし昨今、頭が冷静なのは、情熱が足らないのだと
解釈する向きも、多く存在していることも判りました。

安倍晋三氏に熱い期待を寄せる人たちの中には
雪斎先生の危惧する心情の持ち主が、相当数含まれていて
中には「安倍氏が全てを解決してくれる」と単純な期待をして
安倍氏が現実を踏まえバランスよく事を運べば運ぶほど
「熱意が足らない、品格が足らない、日本は少しも美しくならないではないか」と言い出す人間が出没する気がしています。

「結局は政治には期待できない」と考える先鋭化した愛国主義者、民族主義者が増えていくこともあるのだろうかと、勝手に心配してますが…杞憂だと良いです。

Posted by: るびい | September 02, 2006 at 10:46 PM

日本の保守・リベラルの立ち位置は、海外とは違うような気がします。
日本の保守主義・民族主義で問題となる政策とは何ですか?

また、保守主義者・民族主義者をどうやって区別するのですか?差別的なレッテル張りのようで、好きになれない言い方です。

それに、○○主義者というだけで批判するのは、おかしくありませんか?個別の行動や発言について批判すべきでしょう。

Posted by: K | September 03, 2006 at 03:08 AM

酒乱童子殿
そのバランス感覚が発揮できれば、安倍新政権下で「憲法改正」も実現できるでしょう。
Hache殿
小泉以後には、竹下さんも宇野さんも総理にはなれないということですね。時代は変わったなと思います。
マロン・ナポレオン殿
エリオットを持ってくるとは、いいですね。有り難うございます。
るびい殿
「頭の中にある世界」を:実現させようとするのであれば、共産主義者も変わりませんな。
K殿
政治はイデオロギー・フリーでやるというのが拙論の趣旨ですが、ご理解頂けませんでしたか。

Posted by: 雪斎 | September 03, 2006 at 09:07 AM

保守派の悲願は、憲法と教育基本法の改正だそうですが、何があっても実現させるという風には見えません。
保守化したと言っても、徴兵制が復活したり、言論・メディア・インターネットの検閲がされたり、妊娠中絶が禁止されるわけでもないでしょう。
逆に、某野党が政権取ったら、自衛隊が一夜にして合法になりました。
日本の政治家は、あまりにも機会主義的です。もう少しイデオロギー的になっても良いのではないかと思えます。

Posted by: K | September 03, 2006 at 10:22 AM

K殿
誠に有益な御指摘です。
拙者も、十数年前には、貴殿と同じことを言っていたのですよ。
「理念不在の政治は嘆かわしい」ってね。

Posted by: 雪斎 | September 03, 2006 at 10:35 AM

勝手ながらトラックバックさせていただきました。
私のブログは、留学生活の記録と興味ある問題に対する頭の整理のために書いているものです。

安倍氏の著書をたまたま読む機会に恵まれ、「いやぁ、勘弁してくれ。思想面が強すぎる。」と改めて感じた次第です。

しかし、それにとって代わる政治のあり方について、私自身が何か持ち合わしているわけではないのです。
「他人に考え方を押し付けず、淡々と実務をこなしてほしい」と思ってはいます。
また、右の人たちの主張は明らかに行き過ぎて、外交で他国の考え方を読めずに失敗する心配をしています。
でも、何か具体的に「こうだ」といえるわけではない。

私は更なる勉強と頭の整理が必要なようです。

Posted by: kazutaka525 | September 03, 2006 at 03:52 PM

こんにちは。いつも楽しく拝読させていただいております。
小泉首相が絶妙なバランス感覚を持っておられた分、次期首相にもそれを切に期待してしまいますね。

ところで、フィンランドでの小泉首相の「内政懇」全文をある記者の方がテキストにしてくださっていました。
ttp://abirur.iza.ne.jp/blog/entry/37472/
--引用--
>それぞれ、それは批判する人、評価する人、思いこみでやって気をつけないといけない。具体的なケースによって非常に違ってくる。そういう点もわかりやすく、冷静に検討していけばいいと思う。最初からだめだという論評と、認めていいという論評、思いこみでしすぎる。新聞の論調は。そうじゃない。実際のケースを冷静に、こういう場合はどうなのか検討してもいい。
--引用--

これはとても大切なポイントを語っておられるなーと思いました。
こういった姿勢で臨むことでひとつの主義あるいは考え方にとらわれぬ現実に沿った言動ができるようになるのかもしれません。

Posted by: ringo | September 12, 2006 at 12:42 AM

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