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September 14, 2006

日中の「雪解け」

■ やはり風向きは変わりつつあるといったところか。「読売」記事である。
 

□ 日中首相の握手写真、ASEMのHPに…中国の要望で
 小泉首相が出席したヘルシンキでのアジア欧州会議(ASEM)首脳会議の公式ホームページに、首相と中国の温家宝首相が会場内で笑顔で握手した瞬間をとらえた写真が11日、掲載された。
 両首相は、靖国神社参拝問題をめぐって関係が冷え切っているが、10、11両日の会議期間中は場内で非公式に何度か軽くあいさつした。各メディアは握手の瞬間を撮影していなかった。
 ところが、11日は、中国政府の公式カメラマンが至近距離で両首相の握手の瞬間を撮影していたという。ASEM議長国のフィンランド政府によると、同日午後、中国政府から「日本の首相との握手の写真を撮ったので、ASEMホームページに掲載してほしい」と写真提供があり、掲載を決めた。同日、フィンランド政府からヘルシンキ市内で連絡を受けた日本政府筋は「日本との関係改善に意欲を示す中国からの明確なメッセージだと受け止めている」と語った。

 韓国紙「朝鮮日報」も、次のような記事を配信している。
 

□ 韓国との対立よそに日中は雪解けムード
 小泉首相の靖国参拝問題で悪化の一途をたどっていた中日関係が、今月26日の「安倍晋三政権」誕生を前に雪解けムードを呈している。次期首相就任が確実な安倍官房長官は、中国との関係改善のため今年11月にハノイで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議前に中国と首脳会談を行う方針であることが明らかになった。
 安倍官房長官は11日の自民党総裁候補の公開討論会で、中国との首脳会談再開に関する質問に「この場で詳細な内容は明らかにできない」と答え、両国が外交チャンネルを通じて水面下の調整を行っていることを示唆した。日本の政界消息筋は「 “安倍首相”がAPEC首脳会談前の適切な時期を選んで日帰りで中国を訪問、胡錦濤主席と首脳会談を行う案を検討している」としている。こうなれば、韓日首脳会談前に中日で首脳会談が実現する可能性がある。
 安倍官房長官は「首相に就任したらアメリカとの同盟関係を重視した外交を展開する」と明言しながらも、靖国参拝問題により悪化した中国・韓国との関係改善の必要性も力説してきた。安倍官房長官は今月9日の記者会見でも「日本側の門戸はいつでも開かれている。問題があるから会わないというのは逆ではないか。両国の首脳が胸襟を開いて話ができる環境を作る努力をしていきたい」と意欲を示した。
 中日間の交流もこれまでになく活気を呈している。国際交流基金が主催する「日中21世紀交流事業」の一環として、中国の高校生37人が日本の高校に1年間留学するため、今月7日に訪日したのは、両国の関係改善のスタートを告げていると受け止められている。日本も高校生1,000人を中国に留学させる計画だ。
 また、9日には東京で2年半ぶりに両国次官級経済協議が開かれた。年1回ずつ開催されていたこの協議は、2004年4月を最後に両国関係の悪化で中断されていた。
 中国も安倍政権発足を前にあからさまな対日批判を自制し、間接的な表現で首脳会談に意欲を示している。中国の温家宝首相は6日、日本経団連の御手洗富士夫会長が率いる日中経済協会訪中団と北京で会談、「両国が努力し合い、できるだけ早い時期に障害を取り除く必要がある」と述べ、中日関係改善に期待を示した。
    …後略
 
 雪斎は、「対中デタント」への転換を説いた論稿を書いたし、現在発売中の雑誌『論座』でも、対中関係という「抵当」の解除が次期政権の最初の課題であると書いた。別段、こうした議論は、真面目な政治学者ならば誰でも口にしそうなことである。だから、日中関係の「雪解け」の兆しを伝える報道を前にしても、「持論は正しかった」などと舞い上がる感覚は、雪斎にはない。「常識的な話」が進んでいる。それだけのことである。
 それにしても、雪斎が、この「日中関係雪解け」ネタを取り上げたと思っていたら、かんべえ殿も同じネタで書いていた。「安全保障政策コミュニティ」の住人が考えることは、大概、同じものであるらしい。だけど、一部には、雪斎とかんべえが示し合わせて、日中関係雪解けムードを煽り始めた…」などと反応する人々もいるのであろう。そのようなことは、あるわけがない。
 ところで、日中「雪解け」は、韓国のノ・ムヒョン政権には、嫌な話かもしれない。前の「朝鮮日報」記事には、日中両国に「梯子を外されること」への焦慮が滲み出ている。ワシントンでの米韓首脳会談それ自体、共同声明の発表すらもない「お寒い」ものになるようである。雪斎は、十八世紀のヨーロッパでポーランドが普墺露三ヵ国に分割され地図上から消えた事態が、朝鮮半島でも起こるのではないかという「思考実験」を始めている。もし、金正日体制以後の朝鮮半島北部が中国に吸収される事態になれば、韓国が半島南半分だけで独立を保つのは、険しい話になるであろう。その折、日本や米国に接近しようとしても、かなり条件が悪すぎる。「反日」、「反米」といった「反」の論理で対外政策を展開したノ・ムヒョンの負債は、韓国にとっては大きい。暫く、韓国の出方を観察するのが、面白いであろう。


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Comments

中国が、交渉のテクニックとしての「反日」をやっていることを直視せず(或いは見抜けず)
民族の誇り、自尊心、アイデンテティを賭けての反日を展開してしまった韓国ですから、引っ込みようがないような…。

「アジアで孤立する国」は、間違いなく韓国だと思います。

Posted by: るびい | September 14, 2006 at 08:09 AM

御意。

どうでもいいことですが、韓国はやっぱり「バランサー」にはなれませんよね。

Posted by: かんべえ | September 14, 2006 at 09:43 AM

ノ・ムヒョン政権は元々親北勢力が韓国民の恨感情を煽って成立した政権ですからね。ヒットラードイツやミロシェビッチユーゴと同じで民族主義感情に任せて成立した政権は、碌な結果を残せないようですね。むべなるかなとも思います。もって他山の石とせよという事でしょうか...。

韓国にとっての救いはこの政権があと一年半で終わる事ですが、それまでの間にノ政権が何をするか注目です。ノ政権側からすれば韓国を後戻りが出来ない位、北に接近させたい訳ですから、ウルトラCですが、北とのゆるやかな連邦制合意までいくのではないかと期待?しています。
可能性としては、国民の反日感情に基づいて支持を集めるという事で日本との武力衝突での韓国勝利というシナリオもあるかなと思いますが、日本側が無抵抗だと大して盛り上がらない可能性もあります。

Posted by: ysaki | September 14, 2006 at 10:16 AM

>可能性としては、国民の反日感情に基づいて支持を集めるという事で日本との武力衝突での韓国勝利というシナリオもあるかなと思いますが、日本側が無抵抗だと大して盛り上がらない可能性もあります。

そんな話は「可能性ゼロ」ですよ(笑
中国の衛星国として生きるという決断をするなら多少の可能性も出てきますが、失うものが大きすぎます。

Posted by: ぺパロニ | September 14, 2006 at 10:39 AM

 雪斎先生は怖い「思考実験」をしますなぁ。でも面白そう(笑)。しかし北も南も急速に当事者能力を失いつつあるようですので、色々な「思考」はしておかなくちゃいけませんね。韓国は「バランサー」論を掲げた昨年あたりから急激におかしくなっちゃった気がします。

 ところで中国は
 「中国、外国通信社の国内配信を規制・新華社に許可権限」
http://www.nikkei.co.jp/china/news/20060911d2m1101d11.html

 なんていう、五輪開催前に何やってんだか・・・、という事をしているんですが、この問題欧米からは早くも批判の声が上がっていますが、日本からは聞こえてこないです。
 安倍氏は米国、欧州、豪州や印といった国々との民主主義等の「価値観」の共有を謳っていますが、安倍政権になればこういった問題にも声高に批判をするのでしょうか?。

Posted by: ささらい | September 14, 2006 at 04:10 PM

韓国がバランサーを目指すこと自体は、日本にとって望ましいと思いますが如何でしょうか?

口先だけでなく本気でバランサーを目指すなら、ヨーロッパで中立を維持しているスイスなどの歴史や外交戦略を真面目に学んで実践してほしいものです。実際にバランサーになれるのは、多大な努力と多くの僥倖があっても、ずっとずっと先のことになるでしょうし、国家の存亡を賭けた果てしなく厳しい道のりが待っているでしょう。

あんな出鱈目が許されるのだから、韓国は幸福だという気もします。日本の指導者があんなことをしたら、政権崩壊どころか国家の存亡に直結するのではないでしょうか。

Posted by: 木星人 | September 14, 2006 at 07:03 PM

岡本と申します。国際関係論を専門にしている無名大学教員です。
「日中デタント」や「日中雪解け」という語句を前にして、IRをやっている者としては強烈な違和感を感じます。「デタント」も「雪解け」も、冷戦期の米ソの一時的な緊張緩和を指す言葉だからです。
戦後の日中関係に、一度でも、米ソ冷戦のような本格的な対立が存在したことがあったでしょうか。首相の靖国参拝を理由に、中国が日本に経済制裁を課した(or vice versa)ということがあったでしょうか。あるいは、日本が中国との全面的な対立関係に入るという覚悟を持ったことが(or vice versa)、今まで一度でもあったでしょうか。
本気の対立がないところに、デタントも雪解けもありません。
私見としては、日中のデタントが不可能なのは、二国が未だに本格的な冷戦関係に入っていないからだと思います。

Posted by: 岡本至 | September 14, 2006 at 08:22 PM

皆さん、ありがとうございます。
個別のコメントを一つ。

・岡本至殿
御指摘の点は、そのとおりです。
拙者も、学術論文を書く気ならば、「デタント」「雪解け」という言葉は使いません。ただし、一般の人々が眼にする論考では、こうした人口に膾炙した言葉を使ったほうが、理解を促すことがあります。
 学術論文  - 燕尾服
 雑誌論文  - 背広・平服
 新聞コラム - クール・ビズ・スタイル
 ブログ    ー 浴衣
 多分、こういう感じで書き方は変わってくるのだろうと思います。

Posted by: 雪斎 | September 15, 2006 at 01:25 AM

ペパロニさんへ
>>可能性としては、国民の反日感情に基づいて支持を集めるという事で日本との武力衝突での韓国勝利というシナリオもあるかなと思いますが、日本側が無抵抗だと大して盛り上がらない可能性もあります。

>そんな話は「可能性ゼロ」ですよ(笑

本格的な衝突ではなく、前回の竹島調査騒ぎの様な「武力衝突」を考えています。あの時、海自は無抵抗で拿捕される事を考えていましたし、韓国は海上警察に加え海軍もサポート位置につけていた訳ですからちょっとした抵抗でも武力行使されていた可能性はあると思います。勿論、それが本格的な武力衝突に発展する可能性は殆どありませんが、日本の調査船を拿捕する事で、韓国民は溜飲を下げ、ノ政権の支持率一時的にジャンプする可能性はあろうと思います。ノ政権や左翼陣営にすれば、選挙に勝てればよいのですから一時的な支持率上昇でもOKと思います。
但し、その後が大変と思いますが...。

Posted by: ysaki | September 15, 2006 at 09:13 AM

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