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September 24, 2006

政権の「若さ」

■ 安倍晋三氏は、戦後最年少の若さで宰相の座に就く。
 ところで、次のような名簿を見てみる。

ジョン・フィッツジェラルド・ケネディ  大統領 43歳
リンドン・ベインズ・ジョンソン 副大統領 52歳
デイヴィッド・ディーン・ラスク 国務長官 51歳
クラレンス・ダグラス・ディロン   財務長官 51歳
ロバート・ストレンジ・マクナマラ  国防長官 44歳
ロバート・フランシス・ケネディ  司法長官 35歳
マクジョージ・バンディ 国家安全保障担当大統領補佐官 41歳

ライマン・ルイス・レムニッツァー 統合参謀本部議長 61歳
アレン・ウェルシュ・ダレス    中央情報局長官 67歳
セオドア・チェイキン・ソレンセン 大統領特別顧問 32歳

 1961年1月、ジョン・F・ケネディの政権が発足した折の米国政府要人の職階と年齢である。
 この中でも、大統領特別顧問であるテッド・ソレンセンの段違いの「若さ」が眼を惹く。ソレンセンは、ケネディの「スピーチ・ライター」として、かの「諸君が国のために何ができる|かを問い給え」の名文句で知られる就任演説の草稿を書いた人物である。ソレンセンは、32歳で歴史に残る仕事をしたことになる。ソレンセンは、ケネディ逝去後に、『ケネディ』という伝記を残した。だが、その後のソレンセンの「公職」での足跡は、精彩を欠く。上院議員選挙に立候補するものの、落選した。ジミー・カーター政権期にはCIA長官に指名されるものの、上院の承認を得られなかった。もっとも、ハーヴァードやプリンストンのような大学で研究できているのだから、「知」の世界の人物としては、それなりに恵まれた生涯であろう。

 ソレンセンの起草によるケネディの就任演説は、それこそ名文句の連続である。
 「われわれは今日、われわれが最初の独立革命」の継承者であることを忘れはしない。今、この時、この場所から,味方にも敵にも、松明はアメリカの新たな世代に引き継がれたのだという言葉を届けようではないか」(We dare not forget today that we are the heirs of that first revolution. Let the word go forth from this time and place, to friend and foe alike, that the torch has been passed to a new generation of Americansthe torch has been passed to a new generation of Americans)
 「世界の長い歴史の中で、自由が最大の最中にある時には、ほんの僅かな世代だけが、自由を守る役割を与えられてきた。私は、この責任にたじろぐことはない。私はそれを歓迎する」(In the long history of the world, only a few generations have been granted the role of defending freedom in its hour of maximum danger. I do not shrink from this responsibility--I welcome it. )
 安倍新総裁は、「改革の松明を引き継ぐ」と語ったようである。まさしくケネディ―ソレンセンの言葉そのままのイメージである。安倍総裁が「戦後生まれ最初の宰相」になるように、ケネディも「二十世紀生まれ最初の大統領」であった。ファースト・レディも、アッキーこと昭恵さんとジャクリーン・ケネディとでは、だいぶキャラクターが似ているような気がする。実弟にしても、ロバート・ケネディのように、岸信夫参議院議員が傍らで兄貴を支えるのであろう。「安倍晋三―オクタヴィアヌス」というのが雪斎の見立てであるけれども、「安倍晋三-ケネディ」という類推もあるであろう。一般的には、この「安倍ーケネディ」の類推のほうが受け容れやすいであろうし、もしかしたら、安倍総裁も、ケネディを意識しているのではなかろうか。
 こうして考えると、安倍晋三内閣の閣僚・補佐官人事、党三役人事は、確かに注目に値する。雪斎は、五人の補佐官枠に誰を入れるのかを注目している。雪斎は、三十歳代の補佐官起用というのをやらないかなと想像する。たとえば小渕優子議員や杉村大蔵議員辺りを持ってくると、かなりインパクトはあるだろうと思う。こうした議員を閣僚に起用するのは、党内も納得しないであろうけれども、補佐官として内閣と国民をつなぐ「メッセンジャー・ガール」、「メッセンジャー・ボーイ」の役割を請け負わせるのであれば、内閣を浮揚させる「力」にはなるであろう。「9・11」選挙で自民党に大挙して票を投じたのは、「三十歳代以下の若年層」と「女性層」である。こうした層を徹底して大事にする姿勢が、安倍次期内閣の命運を左右することになるであろう。
 ところで、雪斎は過日、「安倍晋三-オクタヴィアヌス」説に沿って、次のような原稿を書いた。安倍次期総理には、手堅い仕事をしてもらえれば、それでいい。

 □ 後任宰相の「統治」は手堅く
 本稿が掲載される時点では、小泉純一郎総理の後任が誰になるかは既に決しているのであろう。終始四〇パーセントを超える支持率を保ったまま、戦後三番目の長期に渉った小泉総理の執政は、以前の小泉総理に与えられた「変人」の評に倣えば、「変」の一字を以て表すべきものであろう。小泉総理の後任が誰であれ、その「変」の「統治」の後を襲うのは難しい。「変」が「変」である限りは、小泉総理の後任宰相は、「変」の「統治」をそのまま踏襲することができないであろうけれども、それから大幅に逸脱するということもできない。小泉総理における「変」の「統治」への距離感の保ち方が、後任宰相に問われることになるであろう。
 振り返れば、古代ローマ時代、「稀代の英雄」であったユリウス・カエサルの後を継いだオクタヴィアヌスの「統治」は、誠に手堅いものであったと評されている。ユリウス・カエサル以前、版図の拡大に関心が向けられてきた古代ローマでは、共和制から帝政への移行期において国家の領域防衛という方針が前面に出てきた。オクタヴィアヌスは、常備軍の設置と軍団配置を進め、それに応じた軍制改革を断行した。カエサルに比べれば誠に地味にして平凡であったオクタヴィアヌスの「統治」は、その後の「パックス・ロマーナ」の基盤を作った。
 小泉総理の後任宰相に期待されるのは、カエサルの後のオクタヴィアヌスに類する役割である。小泉総理は、「失われた十年」と呼ばれた一九九〇年代以降の政治上の混迷と経済上の停滞に終止符を打つことを要請され、それに応えた宰相であった。たとえば金融機関の不良債権処理や郵政三事業民営化の断行に象徴されるように、「小泉劇場」と評された華々しくも激越にして冷徹な「統治」の手法は、その政治混迷と経済停滞を終わらせるためにこそ、必要とされたのである。小泉純一郎という宰相は、二〇〇〇年代前半における「時代に招かれた宰相」であったのである。翻って、後任宰相には、小泉総理と同じことが要請されているわけではない。後任宰相が、どのような政策の構想を抱いているかはともかくとして、その際には次の二つの点が留意されるべきであろう、
 第一に、後任宰相の「統治」は、小泉総理が終止符を打った政治上の混迷と経済上の停滞の歳月の風景を再び出現させないことを眼目とすべきである。小泉総理の執政下において、経済上の停滞からの脱却に道が開かれたとはいっても、その流れが完全に定着しているわけではない。「一代の傑物」の後を継いだ政治指導者は、その「一代の傑物」の業績を乗り越えようとして、往々にして新奇な政治事業に乗り出そうとするものであるけれども、後任宰相には、そのような「色気」は要請されていない。
 第二に、そのためにこそ、後任宰相の「統治」は、できるだけイデオロギーの色彩を排除したものでなければなるまい。オクタヴィアヌスが「帝国」の基盤を創ったように、日本の「普通の国」としての基盤を完成させ、定着させる作業が小泉総理以降の数代の宰相の手に委ねられるとするならば、その作業において確実に越えなければならないのが現行憲法典改訂という「坂」であるのは、衆目の一致するところであろう。ただし、憲法典改訂という作業それ自体は、政策論争の題材ではなく、広範な国民的合意を形成する「縁」である。特に以前から憲法典改訂を唱導してきた「保守・右翼」知識層の一部には、憲法典改訂作業に自らの「イデオロギー」や「価値観」を反映させようと考える向きもあるかもしれないけれども、その作業の過程は、決して「イデオロギー」や「価値観」の相克の場であってはならない。自由民主党は、昨年十一月の段階で憲法典改訂案を発表しているのであれば、議論の叩き台は既に出来上がっているのである。小泉総理が手掛けた郵政三事業民営化が生じさせた政治紛糾は、結局は「利害」に絡むものであったのに対して、憲法典に関する議論は、「価値観」が反映されやすいものであるが故に、その紛糾は収拾が困難なものになるであろう。後任宰相にこそ、小泉総理以上に慎重にして細心な「統治」が求められているのである。
 「静かに、そして淡々と」。そうした「統治」の姿勢こそが、「小泉劇場」の後には相応しいであろう。
   『世界日報』(2006年9月22日付)掲載

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Comments

’政権の若さ’は、とても大切ですね。ケネディの取り巻き、いわゆるベスト&ブライテストは、みんなIQ200を超えるといわれる、才能の集まりでしたね。ただ、ベトナム戦争をはじめ、これは、後世からの評価ですが、その執政の失敗は、彼らがベスト&ブライテストだったからです。つまり、その優秀さゆえ、盲目的に閉じこまってしまい、グランドな視点から見ることを忘れたしまったみたいですね。そういう意味では、若手のメッセンジャーの起用は重要ですね。民主国家である以上、国内世論を無視することはできませんから。それゆえ、安倍氏には、国際情勢のグランドな認識から、小さなことを基盤を固めてほしいと願っております。
そうすれば、おのずと何をすべきか、日本がどうなるべきかが見えてきます。まず、普通の国にならないといけませんね。

ケネディは、今でもアメリカでは、非常に人気のある大統領です。
そのケネディに幼少期、握手をしてもらい、政治家を志したのが、ビル・クリントンです。彼は、兵役についてません。しかし、そのことが、大統領選には、影響しなかった。

安倍氏も同様、戦争を知らない世代です。ただ、そのことは、もう影響ないことが、すでに証明されています。

私も当然、戦争など知らない世代の親の子です。ようやく、日本が新しい局面に、政治がよりみじかになったと感じている次第です。

Posted by: あいけんべりー | September 24, 2006 at 11:07 PM

 二階氏のような「媚中派」と罵られるような人はどういう扱いを受けるんでしょうか?。小泉首相は有能な人材なら使いこなす柔軟性があったと思いますが、安倍氏にはそれが出来るでしょうか?。そういった観点からも明日、明後日の人事は要注目ですね。

Posted by: ささらい | September 25, 2006 at 12:17 AM

利害よりも価値観の調整が難しいというのは、痛感いたします。小泉政権よりもはるかに名を捨てて実をとる手腕が要求される課題が山積しているだけに、安倍総裁は総理なってから相当、厳しく自制することが要求されると思います。

失礼ながら、この記事でまた雪斎先生が「権力に媚びている」と評する御仁がでそうな気がいたします。安倍総裁に関する批評は、絶賛か全否定ばかりで飽き飽きしました。論稿を拝読して安倍総理を鼓舞しながらも、厳しいことを上手におっしゃっていて感心しました。先生のような方は、稀有な方だとあらためて思います。

Posted by: Hache | September 25, 2006 at 02:30 AM

http://blog.goo.ne.jp/nagashima21/e/60ebc961d369a4e44f82fa4b8f235717

民主も、一枚岩ではないようです。
しかし最初から判っていることですし、まずは第1関門であることには
相違ありません。

Posted by: るびい | September 25, 2006 at 01:00 PM

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