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June 04, 2006

「愛国心」論

■ 雑誌『論座』今月号が届けられる。「私と愛国心」という特集が組まれている。執筆陣は以下の通りである。

 ●青木冨貴子 ●赤瀬川原平 ●石田 雄 ●石破 茂 ●猪瀬直樹 ●入江 昭 ●岡留安則 ●奥 武則 ●小倉紀蔵 ●粕谷一希  ●加藤 節 ●鎌田 慧 ●上坂冬子 ●萱野稔人 ●香山リカ ●姜 尚中 ●呉 智英 ●小山 晃 ●佐伯啓思  ●桜井哲夫 ●櫻田 淳 ●三遊亭金馬 ●志位和夫 ●篠原 一 ●朱 建栄 ●杉田 敦 ●鈴木邦男 ●鈴木宗男  ●関川夏央 ●仙谷由人 ●多田富雄 ●立松和平 ●中島 梓 ●中島岳志 ●成田龍一 ●橋本 治 ●原 武史  ●平山郁夫 ●藤井誠二 ●船曳建夫 ●保坂展人 ●保阪正康 ●堀田 力 ●本田由紀 ●道場親信 ●目取真 俊 ●毛利嘉孝  ●森 達也 ●森 千香子 ●山内昌之 ●山折哲雄 ●梁 石日 ●吉田 司 ●王敏

 一読者として読んでいて興味深かったのは、石破茂、入江昭、堀田力、山内昌之の各氏の論稿である。
 中でも、石破茂元防衛長官が「軍事オタクの左翼に過ぎない」と批判されたことを告白した件には、結構、身に詰まされた。石破氏を批判した記事を載せたのは、別冊『正論』だったようであるけれども、保守論壇という空間は、もはや少しの違いも容認できない狭隘な空間になっているのであろうか。雪斎もそうであるけれども、今では、石破茂、岡本行夫の各氏も、「左翼」と認定されているのである。オヨヨ…と思う。
 雪斎が寄せた原稿は、下掲の通りである。実際に載った原稿は、これに若干の修正が加わっている。

  □ 「苦み」と「甘み」への感性
 日本でナショナリズムを語る際に抜け落とすことができないのは、近代以降の日本の歩みへの評価である。日本の歩みの「光」の側面に真っ先に眼を向ける人々は、ナショナリズムと呼ばれるものを概ね肯定的なものとして受け止めるかもしれないけれども、「陰」の側面を強調する人々は、そのようにはしなかった。しかし、日本の足跡は、そのように、「光」なり「陰」なりだけを取り上げて解釈するに相応しいものであろうか。
 たとえば司馬遼太郎が『坂の上の雲』で叙述したような「明治国家」の「光」としての成功の裏には、新田次郎が『八甲田山死の彷徨』で描き出したような「陰」としての愚行の風景がある。その愚行は、後のノモンハン事件やインパール作戦に象徴される「昭和の愚行」の原型を思わせるものであるけれども、紛れもなく司馬が描いた「光」の直前の出来事なのである。故に、「明治日本は立派であったけれども、昭和は…」という議論は、実際には誤ったものなのであろう。近代以降、明治、大正、昭和、平成といった時代には、それぞれの時代の「光」と「陰」があり、人々は、その「光と「陰」の中で様々な「甘み」と「苦み」の感情を抱きながら生を送っていたはずである。
 筆者は、パトリオッティズムと呼ばれるものの基盤を支えるのは、そのような「甘み」と「苦み」の双方をどれだけ愛しく思えるかという感性であろうと考えている。大体、一人一人の個人の領域でも、「光」一色の生涯がなければ、「陰」一色の生涯もない。そうした「光」と「陰」が綯い交ぜになった自らの祖先からの来歴、さらには「甘み」と「苦み」の入り混じった感情の総てを受け継いでいくのが、「国を愛する」ということの基本的な作法である。無論、そこでは、他国との比較の上で、「世界に冠たる…」という言辞を振り回すのも、他国との関係の上で、「○○(特定の国名)、何するものぞ…」といった感情を先走りにさせるのも、不健全なものであろう。

 雨に濡れてる 焼け跡の 名も無い花も ふり仰ぐ
 青い山脈 輝く峰の 懐かしさ 見れば涙が また滲む
 父も夢見た 母も見た 旅路のはての その涯の
 青い山脈 みどりの谷へ 旅を行く 若いわれらの 鐘が鳴る

 おそらくは、日本の「戦後」は、この歌謡曲『青い山脈』の歌詞に埋め込まれた気分とともに始まった。「旅路のはての その涯」を目指した人々が辿り着いた「みどりの谷」が、現在の日本である。父祖以来の諸々の「甘み」と「苦み」の感情を抱え込んで、自らの行く末を見定めようとした『青い山脈』の歌詞にこそ、「国を愛する」ということの感性が伝えられている。
    雑誌『論座』(2006年7月号)掲載

 「青い山脈」の作詞は、西條八十である。西條は、戦時中は、昭和軍歌の最高傑作(…と雪斎は思っている)「同期の桜」を作詞したけれども、戦後には、こうした普通の人々のための応援歌を作った。そして、戦時中には一編の軍歌も作曲しなかった服部良一は、この「青い山脈」を「戦後の軍歌」と位置付けて作曲したのだそうである。
 因みに、小説「青い山脈」を書いた石坂洋次郎が物語のモデルにしたのは、青森県立弘前中央高校であったと伝えられる。「青い山脈」の元々の風景は、この津軽富士の「輝く峰」の風景であったのである。である。それは、「涙が滲む風景」である。

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Comments

>保守論壇という空間は、もはや少しの違いも容認できない狭隘な空間になっているのであろうか

なっているのでしょうね。場所にもよりますが。
「新しい歴史教科書を作る会」の内紛が、それを理解するための判りやすいテキストになっているかと思います。

意見の相違から殺し合いをした極左よりは人が死なないだけ少しマシ、といったところでしょう。
「自虐史観に依らない歴史教科書」の作成普及を期待する人達を真に裏切っていることが見えているんでしょうか。

…しかし所詮は「世間知らずの学者さんたち」に怒って見せても馬鹿馬鹿しいだけ(念のため申し添えますが、雪斎先生は入りませんから)、一週間で良いから居酒屋やファーストフード店やコンビニでバイトさせるとかして、世間を見せる研修をさせたら良いんだ、こんな連中には、と自嘲的笑いに逃げる私です。

ま、夢と理念に敗れて、東京は中央線沿線にて自然食品店を営む元活動家あたりにでも弟子入りさせたらいかがでしょう。

Posted by: るびい | June 04, 2006 at 09:31 AM

・るびい殿
おはようございます。
これは、わさびの効いたコメントですこと。
拙者も、その何とやらという会のゴタゴタには、もはや全く関心がございません。勝手にすれば・・・という感じです。
まぁ、浮世離れした人々が浮世の世界で何かをしようとするから、こうなるのでしょうな。
 田中角栄の政治技術のイロハのイは、「他人の悪口を言わない」ですけれども、こういう基本さえ弁えていない人々が、「政治」もどきをやっているのですから、話になりませんな。

Posted by: 雪斎 | June 04, 2006 at 10:01 AM

「甘み」と「苦み」とは,確かにそうなんだなと思います。
ただ,私の場合,感覚の鈍さ故か,リアルタイムでの国への感性というのは難しくて,後になってから,あの時代はああいう感じだったなと,そんな感じですね。
青春時代が夢なんて・・・,そんな感じです。

Posted by: 西田瓜太郎 | June 04, 2006 at 11:40 PM

雪斎氏をはじめとして、岡本氏は隠れ左翼でしょう。
石破氏は、左翼とは思えない。

Posted by: 反中派 | June 05, 2006 at 01:22 AM

石破先生の愛国心論、ぜひぜひチェックしなきゃです☆
最近石破先生は、「党内で戦争責任の総括の議論がしたい」と思いつめておられるので、とても気になります。

石破先生のこの教育についてのコラムもよかったですよ!今週の風はいい風でした♪
http://www.nnn.co.jp/rondan/nagata/060604.html

Posted by: さくら | June 05, 2006 at 06:46 PM

札幌でミニコミな世界にどっぷり浸かる毎日を過ごして世事に疎くなってましたが、いつの間にか雪斎師は左扱いされるようになってしまったんですね・・・・。正直、Wikipediaなどを見た時は、何の冗談かと思ったくらいですよ。

若い頃は総評左派で天皇制廃止&社会主義政権実現を訴えてたのに、北海道特定郵便局長会で役員になって自民党支持になり、園遊会で今上帝にお言葉をいただいて感動して帰ってきた当方の父とか、思想はかなり右なるも、目的のためなら平気で左とも握手を厭わぬ当方(師にモノポリーでリアリスト鍛錬を受けましたからね・・)、などから見たら、師をそのようにしか扱えぬ人達は笑止の極み。まさに「浮世離れ」ですなぁ。

まぁ、かく言う当方も、8月15日の「ひけらかし参拝」な一部の方々と同列に扱われるのが嫌で9月2日参拝を始めたら、右な知合いから「自虐史観者」扱いされるし・・・。

Posted by: 桜新町長五郎 | June 07, 2006 at 05:53 AM

・西田殿
後から振り返れば・・・で構わないし、それが大事なのではないでしょうか。
・反中派殿
「隠れ左翼」とは、どういう意味ですかな。
・さくら殿
朝日新聞関係者にも、あの石破長官の原稿が面白かったという声があります。
・桜新町長五郎殿
よぉ。ひさしぶり。「まさに、目的のためなら…」ですわな(笑)。

Posted by: 雪斎 | June 07, 2006 at 06:55 AM

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