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January 04, 2006

正月休みプレミアム

■ 世の大勢は、本日四日を以て「仕事始め」とするけれども、雪斎の「仕事始め」は、明日である。従って、本日は、正月休みの「プレミアム」の一日である。エンジンの試運転を始めねば…。

■ 正月三箇日中、雪斎にとって大恩ある人物から、賀状が届く。賀状には、「最近の政界や保守陣営の品性の欠如は、まことに困ったものである。雪斎は、ぜひとも中庸の立場を貫け」との文言が記されていた。この人物も、以前は「保守」傾向の論客として高名な方であった。雪斎は、この賀状に深く感謝した。

■ 昨年大晦日までの三日間、箱根で温泉に浸かりつつ読んでいたのが、ジョージ・F・ケナンのナショナル・ウォー・カレッジ時代の講義録であった。ケナンにとっては、この時期は、いわゆる「長文電文」を打ったモスクワ大使館参事官勤務の後、高名な「X論文」を発表した国務省本省政策立案室長勤務の前である。要するに、、それは、ケナンが「封じ込め」政策立案の最前線に立つ直前の「充電期間」にあたる。
 一読して、「これは、興味深い講義録だ」と思った。確かに、そこには、「X論文」よりもヴィヴィッドに「封じ込め」の論理が表されている。ケナンによれば、「封じ込め」の目的とは、「ヨーロッパからソヴィエト共産主義の影響力を排除すること」であったのである。
 ケナンの展開した「封じ込め」の論理が現在でも参照されなければならないのは、現下の我が国が明らかに対中「封じ込め」の論理を徐々にではあっても確実に展開しつつあるからである。東アジア共同体にインドやオーストラリアを巻き込もうとした我が国政府の努力は、多分、「東南アジア地域から中国の影響力を排除する」という「対中封じ込め」の論理からは、誠に理に叶ったものであるであろう。
 ただし、「封じ込め」の論理が想定する目的は、その「影響力の排除」という水準までである。保守論壇誌には、「中国の崩壊」を期待するかのような議論が雨後の筍の如く出現しているけれども、そうした議論の多くはは、「中国の崩壊」以後の状況に何の展望を示していないという意味では、誠に無責任極まりないものである。一例としては、中国国内に存在する「核」の管理の問題がある。中国共産党政府が瓦解した後に、誰が「核」の管理を引き受けるのかという仮定の話は、それを考えれば考えるほどに憂鬱になる。当面、上海総領事館の外交官の自殺の一件によって、我が国における対中感情の悪化も加速しそうな雰囲気であるけれども、我が国の対中政策の文脈では、中国共産党体制の不安定化を促すような施策は、採りようがない。
 今年九月以降の小泉純一郎総理の退陣は、我が国の対外政策の一つの「転機」になるであろう。対ソ「封じ込め」政策が展開された冷戦期ですら、一面においては「長い平和」であり、その期間には「デタント」と呼ばれる時節があったことは、きちんと確認されなければならない。国際場裡における影響力の削ぎ落としを狙った「友好芝居」を、どれだけ上手くできるかが、今後の対中政策の眼目であろうし、雪斎は、その「友好芝居」を折に触れて提案しようと思っている。もっとも、この「友好芝居」の提案も、特に文学・思想畑の保守層からは「媚中派の議論だ」などという短絡的な反発を受ける公算が、小さくないであろうけれども…。

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「学者生活」カテゴリの記事

Comments

さぁて、「相手の影響力排除をねらった友好芝居」や
「デタント」を演ずるのに必要なのは何か?

それは「相手を上回る力」の存在な訳で、今の日本にはその手の剥き出しの力は無い、
すなわちそれを整えるにしても、危険な「時間差」をくぐり抜けねばならず、北京がそれを赦さないかもしれない、という危機意識が必要かな、と。

また北京が「外交上の屈服」を今現在狙っている以上、彼らに友好芝居が誤ったシグナルを送る可能性も排除出来ない、と。

案外、小泉内閣の外交スタンスは妥当なのかもしれあせんな。

Posted by: ペパロニ | January 04, 2006 at 09:19 PM

さて,私にとって,保守というものは,分別ある見方を提供してくれるものというイメージでしたが,現在のいわゆる保守派において,そのような分別を示してくださる方いうのは,あまり居られなくなったようにも感じます。
その点,このブログに来ますと,ホッとするような,希望を見出すような気持ちになったりもいたします。
それに,何とも言えない人間的魅力というか,磁力というか,ほんわかとした楽しい気持ちにさせる力が,このブログにはありますね。
今年も,楽しみつつ,閲覧させていただきます。

Posted by: 西田瓜太郎 | January 04, 2006 at 10:47 PM

日本の教養主義には、おかしなバランス感覚ある。
中国に対する敵対的態度は5年は維持しないといけない。
なんで今、猿芝居をする必要があるのか?
5年経って、中国がダメージを受けたところで、猿芝居をしなさい。
大都市の周りで、民工の2世達が犯罪に走っていると聞く。
これは、反中派が予測していた変化の一つだ。
腐敗官僚の国外逃亡(着服金の持ち逃げ)
不良債権処理など、まだまだ混乱の初期に過ぎない
相手がテーブルにつこうという時期には来ていない
まだ、全然早いじゃないか。

Posted by: 反中派 | January 05, 2006 at 12:28 AM

日本が積極的に中国の崩壊を誘うのは無責任な話だと思いますが、日本が何もしなくても中国が勝手に不安定化してしまうリスクは小さくないと思います。そのような可能性を論じることは、僕は無責任だとは思わないのですが。
中国が統一した権力を維持していれば封じ込め政策は有効だと思いますが、内部がバラバラになってしまった場合に封じ込め政策が有効かどうか、効果がないならばどのような政策が必要かは、議論する必要があるでしょう。

Posted by: Baatarism | January 05, 2006 at 12:36 AM

その手の雑誌も最近は、「何かを目指す議論」から「議論の議論」になってしまって先鋭的な感じがしてしまいます。
「0」か「1」を基準にガーガーやっているように見受けられます。先鋭化し「0or1」を進めれば戦後の反戦平和主義の如くになっていくでしょうね。誰からも相手にされなくなるという姿に。ミイラ取りがミイラにという感じでしょうか。

日米同盟をさらに強固なものへと昇華させる事が大切な事であって。「対中強硬」は、二の次でしょう(いや・・三の次か?)。「まぁまぁ・・・」の勢いで無視する、正確には喧嘩せずでしょうか。
大切なのは、日中関係よりも日米関係ですので。

Posted by: spqr | January 05, 2006 at 03:30 AM

・ペパロニ殿
 ケナンの「ナショナル・ウォー・カレッジ講義」の中で特徴的であるのは、「米国はソヴィエト共産主義との政治闘争をやるには、余りにも不慣れである」というケナンの認識ですね。
 「友好芝居」は「芝居」である以上、当然のことながら「観客」がいる訳です。その「観客」には、「日本は中国に対して何ら敵対していない」という演技を見せる必要があると思っています。対中外交の相手は、中国一国ではないのですな。
・西田瓜太郎殿
どうもありがとうございます。拙者のスタイルも、好悪分かれるものらしいので、参考になる程度にお使い下さい。
・反中派殿
まともな大人なら初めから敵対意識をむき出しにして他人に接するということはしませんな。それと同じ理屈ですよ。これは、主義主張の問題ではなく、礼儀の問題です。
・Baatarism殿
「封じ込め」の対象は、実は「中国の混乱」であるという指摘もあります。中国の工場爆発でアムール川が汚染された一件が示すように、「締まらない」中国も困った存在ですな。日本というのは、本当に「厄介な隣人」を抱えているのだなと思います。
・spqr殿
今年は、在日米軍再編絡みで日米関係が難しくなりそうな雰囲気です。高坂正堯先生は、「米国とは仲良くせよ。中国とは喧嘩するな」と仰っていたそうですが、その扱いの「差」が総てであると思います。

Posted by: 雪斎 | January 05, 2006 at 04:19 AM

新年、明けましておめでとうございます。
本年もまた、宜しくお願いいたします。

昨年は、自分の政治的スタンスが「保守中道」であることを確認した年でした。
Baatarismさまご指摘の
「日本が積極的に中国の崩壊を誘うのは無責任な話だと思いますが」
でありますが、よくお邪魔していたブログで例の中国反日デモの際、「この混乱に乗じて中国自体を破壊させる工作活動が出来ない日本政府はだらしない」という趣旨のエントリーがあった時、はっきりと「保守の分裂」を実感しました。
そして自分が、「自虐史観は真っ平だが、選民意識はもっと嫌だ」というスタンスに至ったわけです。(まあ、そこへのプロセスの記載を、かなり端折ってますが)
現実から乖離した、勇ましい主張は、初めは世間の耳目を集め人も寄ってくるのでしょうが、最終的には常識人は離れて行き、一種カルトに近くなっていくような気がします。

Posted by: るびい | January 05, 2006 at 10:14 AM

反中派は、日本国内の親中派の存在に対応しているのであって、別に中国に対して反中なのではない。
根拠の無い中道や穏健や宥和がいかに危険か知った方が良い。
また、中国の分裂工作をする能力を持つことも普通の国の一つだ。日本は、隣国に対してあまりにも甘すぎる

Posted by: 反中派 | January 05, 2006 at 11:36 AM

・るびい殿
おめでとうございます。
今年も、あくまでも「参考」としてお読み頂ければと思います。「保守中道」ですか。それよりも、「大体、保守中道」ということにしておきましょう。余り自分の立場を固定的に捉える必要もないと思います。柔らかく伸びやかに物事を考えれば、それでいいと思います。
・反中派殿
 中国研究の権威である中嶋嶺雄先生が拙者に仰ったことがあります。「雪斎君は大陸に足を踏み入れることができるのかね…」。要するに、拙者は中国共産党政府から「要注意人物」に認定されているかもしれないということだったわけです。
 貴殿の判断からすれば、拙者は「親中派」ですかな。それとも「反中派」ですかな。余り単純に物事を考えると判断を誤ると思いますが、いかがですかな。

Posted by: 雪斎 | January 05, 2006 at 04:50 PM

中国も米国も国土も大きくて多民族国家だと言うことを忘れたら、どうしようもなくなる。各種の意見が分かれて対立してる価値観があるが、当面、中国の人民は強力な共産党によって縛られてる状態なので、中国政府の態度で対応する事になるけれど、中国共産党は自己の歴史を正当化させるために、又中国人民を掌握させるためにも、嘘で固めたままに将来も変わらないとするのが正解です。それならば、飽きないで根気よく他の外国への日本の立場や日本の見解も過去の歴史の真実も宣伝するべきです。言論も表現も自由を保障されてるなら堂々と左翼の言い分だけを放置してる政府が悪い。小泉氏の言う通り、中国から何か言うまで待てば良いのですが、新春早々、遺棄化学兵器処理に関してとんでもない請求が来ています。何故か国内問題の
耐震問題の豆腐マンション詐欺事件ばかり取り上げる報道の態度も問題です。重大なお金の支払い問題で国民が負担させれる中国問題が隠蔽される事が大問題です、面と向かい国民に説明も出来ないで高額な賠償を実行しようとする政府に何も出来ない状態が何時まで続くのか・・。
日本を抑えて財布にしてれば中国が安泰で日本の大企業が設けれる事が国益かどぷかすら判断できません。
国内の溝鼠に制裁を加えて財政状態を健全にする方が緊急問題です。

Posted by: ようちゃん | January 05, 2006 at 07:13 PM

雪斎先生が「媚中派」というのは、正月ではなくて4月1日あたりのネタにとっておいて欲しいなあと思います。「対中封じ込め」に関しては異論がございます。

まず、対中政策で安全保障上の問題として優先順位が最も高いのは台湾海峡だと考えます。台湾に対して中国側に軍事的オプションを断念させるだけでも、大変でしょう。台湾への影響力を「排除」することは非常に難しいと思います。言葉遊びかもしれませんが、影響力を「排除する」と言ってしまうと、日本の負担があまりに大きくなってしまうでしょう。

東南アジアは、さらに複雑で西欧のような一体感を感じません。したがって経済的相互依存のような明確な実利を顕在化させて領土問題のように妥協が困難な問題をだましだまし調整してゆくしかないだろうと思います。幸い、東南アジア諸国とわが国の間に領土問題が存在しないことは、日米共同で対処する上で好材料だと考えます。経済的相互依存という点では中国にもチャンスがありますが、領土問題では公正な立場を期待する国はほとんどないでしょう。中国の影響力を排除するのは困難だと思いますが、限定的にするのは現状ではアジアというのは地理的な用語に過ぎず、ヨーロッパのような価値観や文化などの一体性がこれから生じてくるかもしれないけれども、現在はバラバラだという現状をしっかり抑えて日米と一つ一つの国との利害を辛抱強く調整してゆけば(日米+α)、それほど困難ではないと思います。

それにしても、米国務省もそれ相応に人が悪いので感心しました。あたしたちは、その気じゃないけれど、あたしたちの言うことをのまないと、こわーい二人を抑えられないかもよ。そろそろ降りどきじゃない、グッドラック、グドラックなどとのたまわっていたとは・・・。どこかの独裁者が気もち悪い演技(閣下とお呼びしましょうか)をしていたのはこういうことですかと思いました。同盟国でよかったと思う反面、足元をしっかり固めないとまずいなあと思います。

Posted by: Hache | January 05, 2006 at 09:59 PM

まず、現実認識として、日本は利用されたのだという
自己認識をしないといけない。
それを国民や関係者に周知徹底しないといけない。
(1)中国の日中友好政策は、中国が弱く、日本が強い状況で提唱されてた戦略的なものだ。
(2)天安門事件での国際的孤立から脱出するために
日本と天皇を利用した(当時の首相が回顧録に書いている)
(3)現在の中国は、日本と同等の力をつけたと考えている(東シナ海の開発に手をつけたこと、国家主席が訪問しないことで象徴される)
(4)アジア全体のことを考えれば、国際的な発言力を持つ常任理事国が増えることは望ましいが、拒否した。(日本が逆の立場であれば、中国の常任理事国入りを受け入れたであろう)
(5)歴史的にみても、新興国の台頭は、相当な圧力をかけて抑制してやら無いと、暴走する。(第一次大戦ドイツの経験、戦前日本の経験

これから起こることがどういうことか予測し、対処しないと取り返しのつかないリスクを自ら呼ぶことになる。
宥和的な思考をする人たちの言葉からは、全く気迫が感じられない

Posted by: 反中派 | January 06, 2006 at 10:04 AM

おくればせながら、あけましておめでとうございます。
司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」で読んだ記憶だと思うのですけど、日露戦争当時の外務大臣小村寿太郎さんの外交方針は正直であったそうです。
「友好芝居」の中にも、正直と言うか、誠実さとでも言うべきものは必要ではないかと愚考します。
それは、もちろん、ご機嫌取りで有るわけではなく、ライバルに対する誠実さとでも言うべきものなのでしょう。
もっとも、その誠実さに答えてくれそうもない相手ですけどね。
中国に対しては、時には強く出たり、時には退却したりを、延々と繰り返して行くことになるのでしょうね〜。

Posted by: T君 | January 06, 2006 at 08:58 PM

・ようちゃん殿
・hache殿
・反中派殿
・T君殿

 議論が拡散してきたので、この件、別のエントリーを用意しましょう。

Posted by: 雪斎 | January 07, 2006 at 03:17 AM

どうでもいいが、根拠・論理立ての無い対中外交はやめろ。
中国の出方・方針は、はっきりしている
日本を消滅させることだ。
これを馬鹿げていると笑う限り、日本は終わるぞ。
それから、米国は、必ず半端な支援しかしない。
ベトナムでも朝鮮でも、このために総崩れになった。
日本一国で戦線を支える準備をしないと対等な外交はできないぞ。

Posted by: 反中派 | January 07, 2006 at 03:25 PM

・ 反中派殿
 貴殿は現実の世界でも、そのような粗い言葉遣いをされておるのかな。

Posted by: 雪斎 | January 07, 2006 at 05:17 PM

反中派殿のしゃべりかたや議論の展開のやりかたを見ていると 大学のキャンパスで拡声器を使って授業中もどなっていた学生運動家たちを思い出しますね
どこかで「日帝」という単語が飛び出さないかと わくわくしています

Posted by: 通りすがり | January 09, 2006 at 12:53 PM

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