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January 26, 2006

清く正しく美しく…じゃないよ。

■ 寒い毎日である。こういう時期に、「冬の日の鍋料理」の意味合いで聴いているのが、ロシア民謡の数々である。「トロイカ」、「カチューシャ」、「赤いサラファン」、「カリンカ」…。確かに、「鍋」である。とてもではないが、夏に聴く気にはならない。


雪の白樺並木
夕日が映える
走れトロイカほがらかに
鈴の音高く

響け若人の歌
高鳴れバイヤン
走れトロイカ軽やかに
粉雪蹴って

 ところで、この広く歌われている『トロイカ』の歌詞は、ロシア語原詞「の趣を全然、伝えていない。原詞の趣を伝えているのは、次の歌詞である。

走るトロイカ一つ 雪のボルガに沿い
はやる馬の手綱取る 御者の歌悲し

何を嘆く若者 たずねる年寄り
何故にお前は悲しむ 悩みはいずこに

去年のことだよおやじ 好きになったのは
そこへ地主の奴めが 横槍を入れた

クリスマスも近いが あの娘は嫁に行く
金につられて行くなら ろくな目にあわぬ

鞭を持つ手で涙を 御者はおしかくし
これで世も末だと 悲しくつぶやく

 要するに、『金色夜叉』の間貫一の心境をロシア語で歌えば、「トロイカ」になるわけである。

 ホリえもんの「人の心はカネで買える」発言は、身も蓋もないものであろうけれども、「トロイカ」における「地主の奴め」と『金色夜叉』における「銀行家の息子・富山」の話からすれば、別に奇異なものとはいえない。にもかかわらず、ホリえもん逮捕のような事件が起こると必ず出てくるのが、「金儲け優先は良くない」といった議論である。しかし、「カネ」がなければ何も始まらないことぐらい、誰でも判っているではないか。何を「かまとと」ぶっているのであろうかと思う。
 雪斎は、こういう道徳家的な議論が嫌いである。雪斎は、「カネの使い方」の方が何よりも議論されるべきだと思っている。しかも、こういう道徳家的な議論からは、「カネの使い方」に関するまともな思考など出てくるはずもない。
 雪斎が大学に入りたての一年生を相手に課しているレポートの課題には、例年、次のようなものが混じっている。
 「ある日、ある富豪が貴君に十億円提供すると申し出てきました。ただし、次のような条件が付いています。①貯金に回してはいけない。②○○を買うという使い方をしてはいけない。さて、貴君は十億円をどのように使いますか」。
 日本では、「カネの使い方」の教育は、何故か貧弱である。二十歳前の若者には、十億円というカネのイメージなど沸かないであろう。ただし、この十億円が全然、縁のないものであると断ずることもできない。普段から、「カネの使い方」を考えていなければ、実際に手にしたときには、ろくな使い方をしないのではないかと思う。さもなくば、投資にまわして、あたかも「使った」ように錯覚するのが落ちであろう。雪斎は、ホリえもんは、「カネの使い方」に関しては余り考えていなかったのではないかと推察する。カネを稼ぐ論理とは、「○○をやるためには、これだけのカネが要る。だから、稼ぐ」というものであろうけれども、この前段が抜け落ちれば、「稼ぐ」ことが自己目的になる。
 雪斎が十億円を自由に使える立場ならば、「財団」を作って若い学者・芸術家を支援するだろうなと思う。当たり前であるけれども、どういうジャンルの学者・芸術家を育てようとするかで、その人物の価値観が反映される。ホリえもんは、美食家だったらしいから、「若いシェフやパティシェをフランスに行かせるために、カネを使う。帰ってきたら、一度だけお礼の意味でただで食わしてくれ…」とでも語っていれば、彼に対する印象は変わっていただろうなと思う。ホリえもんは、やはり、教養という点では幼稚さを払拭できていなかったのかと思う。

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「学者生活」カテゴリの記事

Comments

おっしゃる通りと思います。お金は無きゃ困る。先のコメントにも書いたように「額に汗して働くのが大事」とか、こうなると必ず出てくるのだが「お金もだいじだよ~」と言わざるを得まい。お金の使い方がへたくそなのはホントに日本人の不幸。金儲けて、家かって、フェラーリ買って、わかいねーちゃんと付き合う・・・・てな使い方しかしてこなかった先人も悪い。もう少し・・・・志を持って使って欲しいと思います。「雪斎アカデミア」、設立の際は微力ながら資本拠出をお約束させて頂きます。是非やりましょう(笑)。

Posted by: ぐっちー | January 26, 2006 at 09:50 AM

『トロイカ』の原詞、初めて知りました。

確かに日本人は、私も含めて、お金の使い方が下手なようです。
10億あれば何に使うか、見当もつきません。

Posted by: あくてぃぶ・そなあ | January 26, 2006 at 03:37 PM

はじめまして。
10億円の使い方ですが、若輩者ながら私も雪斎さんと同じロマンを想像しました。
実際はお金どころか時間の使い方も下手くそなのですが……。

ちなみに、日本人の金銭センスが貧弱なのは、先の大戦とその後の財閥・地主解体で、金持ちとその生活モデルの多くが消失してしまったことが大きな要因ではないかと考察致します。

Posted by: heehohou | January 26, 2006 at 06:40 PM

財団、良いですね。
私なら、現在の価値観では数年で散逸してしまうで
あろう「サブカル」系や「おたく」系の色々の
収集、整理分類、発売時期の様々な情報を添付、する
財団を作りたいです。
いい年して「オタク趣味」の人間ですが、道楽と
いうのは、本来、傍目から見ればくだらない事を
楽しむというのが本質だと考えているので。
海洋堂コレクションではないですが、莫大な自コレクションの散逸や廃棄を避けたい「中年・老年オタク」
からの、膨大な現物や浄財の寄付で凄いものが出来そうな気がします。
そして、それらは日本の一時代の記録としての価値も
持つと思うのです。

ところで、副会長さんのところでコメントした
「ライトノベル」ですが読まれましたか?

Posted by: TOR | January 26, 2006 at 08:14 PM

10億円の使い道、考えてみました。優下さい(笑)。

努力して集めた金を政府が搾取するというやり方はやはり良くないですね。ホリエモン問題の周辺部分と本質部分は分けて考えなければならないと考えています。

Posted by: 副会長 | January 26, 2006 at 09:46 PM

・ぐっちー殿
いえいえ。貴殿なら、きちんと使えるというのは判っていますので…。カネも、持つべき人が持つべきなのであろうと思います。
・あくてぃぶ・そなあ殿
これは、考えないと駄目だと思います。
10億円に縁がなくても3億円なら誰にでも縁があります。宝くじが当たれば一発ですな。
・heehohou殿
御意。「稼ぐことを考えなくてもいい人々」を退場させたのは、不味かったとおもいます。
・TOR殿
 道楽も豪快にお洒落にやりたいものです。
 ノベルは未読です。忙しいもので。
・服会長殿
お見事。これは「a+」を付けます。

Posted by: 雪斎 | January 26, 2006 at 11:42 PM

トロイカ、歌詞もそうですし、そもそも演奏テンポは非常にゆっくりとしたものですね。あの日本独自の快速な演奏で慣れている人も多いようですが。
「月の砂漠」などもそうですが、遠い外国の厳しい自然とその生活の様相を美化する傾向が日本の楽曲にはあるような気がします。自然に恵まれた日本人のお気楽な面といいますか。

10億円とは微妙ですね。その金額だと、社会的に何か意味のあることをと思うと、すぐに使い切りそうです。私も「人を育てる」発想になりそうです。通貨価値の違う海外で日本語関連の教育とかどうでしょう。ちょっと利己的ですかね。

Posted by: カワセミ | January 26, 2006 at 11:47 PM

大学一年生相手のレポート課題の件。
私は,おそらく赤点になりそうです。
ところで,この話,あるキリスト教の説話の中に,似たようなものがあったのを思い出しました。うろ覚えですが。
こういうのを聞かされて育つ文化圏の人々もいるわけですね。

Posted by: 西田瓜太郎 | January 27, 2006 at 01:53 AM

十億円をどのように使いますか?

食客三千人は無理でも、何かやらかしたい、と思っている面白そうな人間集めて、好きな事やらせてみたいです。
で、そのイべントなり商売なり、映画づくりなり私塾なりに、ちょい役でお邪魔させてもらって手伝って廻って過ごすと、よい暇つぶしになるでしょうね。

志のないこと書いて、スミマセン~~)

Posted by: KU | January 27, 2006 at 01:32 PM

私のやりたいことには10億だってまだ足りない。
今や化石となりつつある邦楽を立て直したい。
とりあえずローザンヌバレーコンクールとかチャイコフスキーコンクールの和楽器版をやりたいなあ。

Posted by: 笛吹童爺 | January 27, 2006 at 09:29 PM

わはは(笑)
こういった事を考えるのは、趣味が収集癖と重なる
人間でしょう。書籍や絵画なら寄付先が複数ありますし。

冗談はさておき、本気で上記の条件が為されるのであるなら、私は、総合的な犯罪研究に助成します。
最近、一部の学者が、犯罪者の脳に対する医学的な
解析を主張していますが、それ以外にも総合的な社会学の一環として個人ではなく研究者を継続して養成する組織を作りたいですね。
もちろん、たかが10億程度で満足な結果が出るとは
思いませんが、世界的な「脳」の研究や思春期以降の
内分泌腺の変化、そして性衝動や暴力衝動等のハードウェアとしての人体研究の進展に対する、後天的な
社会的ソフトウェアの一部の研究を現在から進めておくことは必要だと考えます。
人類社会における損失コストの許容範囲は全面戦争を
回避するくらいまでには狭まりましたが、社会的人間一名を作り出すのに要するコストの増大からも被害者だけでなく、犯罪者の発生も抑制する為の予備的な研究が必要な時期にきていると私は考えます。

Posted by: TOR | January 27, 2006 at 09:33 PM

10億あったら…そうですねえ。
呉善花、鄭大均、金完燮といった、韓国のナショナリズムに反する言論を行っている人の著作を英訳して刊行するか、ネットで公開したいですね。
10億じゃ無理かもしれないけど。

Posted by: Baatarism | January 27, 2006 at 11:39 PM

ここはやはり我が故郷の教員志望者対象の
奨学金でしょうね。彼等の力で、我が故郷
から我が国を支える人材を多数輩出したいと
思うのですよ。

Posted by: おおみや%バイト君 | January 28, 2006 at 01:47 AM

TORさん>
個人的には、脳の研究で犯罪抑止に繋がっていくかは懐疑的ですが、「犯罪摘発」から「犯罪予防」に視点を移すことはとても大事だと思います。

Baatarismさん>
10億あれば十分プロパガンダできますよ。英訳して関係者に献本して、まだお釣りが来るから大丈夫です(笑)

おおみやさん>
おおみやさんに乗っかって(w、私も10億あれば奨学金が良いなと思います。この手の助成を民間団体が担う姿は、アメリカっぽい感じですね。

Posted by: やすゆき | January 28, 2006 at 02:45 PM

・カワセミ殿
10億というのは、一つのプロジェクトを考えるには、ちょうどいいあたりかと思っています。
・西田殿
このブログでも「10億円の使い方」に関する色々な考え方が出るのですから、大丈夫だと思います。これなどは、「観念ではなく具体的に物事を考える」練習台なのだと思います。
・ku殿
居ましたよ。うちの学生にも。自分が主演の映画を作りたいというのが…。拙者は、成績aを付けたはずです。
・TOR殿
大学の冠講座に資金を出すというやり方もあります。
たとえば「東京大学法学部TOR記念犯罪研究講座」という按配ですか。ハーヴァードにも、よくあるパターンです。
・baatarism殿
翻訳家へのギャラとして一作あたり一千万円を提供すれば、諸経費含めても、十億で五十作品は確実に英訳できるでしょう。意外に。安くできそうですな。何故、誰か、やらないのでしょうか。
・笛吹童爺殿
邦楽専門のコンクールとは、素晴らしい。
多分、既存のコンクールに邦楽部門を作って、そこに、「笛吹童爺記念賞」というものを設けられれば、貴殿の名前は永遠でしょう。
・おおみや殿
それが「米百俵」の清新だったはずです。
・やすゆき殿
フォロー多謝。

Posted by: 雪斎 | January 29, 2006 at 03:17 AM

鉄趣味者としてはこういう所に出したい所です。

たった鉄橋2本が流されたばかりに廃線に追い込まれかけている宮崎のローカル線を引き受けようという試みなのですが、やはり資金的に苦しいようでして…

徒然なるままに・・・: 「神話高千穂トロッコ鉄道」設立への道―Step1―
http://n-tsuru.cocolog-nifty.com/blog/2006/01/post_2057.html

がんばれ! 高千穂鉄道!と沿線の町!
http://hinokage-ouen.fruitblog.net/

…なんというか、不可がもらえそうな気が…
収益に比べて固定経費が大きいのが泣きどころですね、ローカル鉄道は… _| ̄|○

Posted by: あっとさせぼ | January 30, 2006 at 10:46 PM

同じく鉄道好きな私も、日本の鉄道救済に投資するかなぁ。。。
あとやるとすれば、Baatarism氏と同じく、論文の英訳をお願いします。
ただ私がやるとすれば「アンチ反日」ではなく「日本のいいところ」を世界に発信するという趣旨でやると思います。

Posted by: 佐倉純 | February 01, 2006 at 09:07 AM

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