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December 22, 2005

「正論新風賞」のこと

■ 一昨日夕刻、自民党本部で国防部会が開催される。議論の焦点は、来年度予算の話である。なかなか緻密な議論である。「これは、頭が疲れるな・・・」と思う。
 部会終了後、党本部の広報担当セクションで『月刊自由民主』担当のN氏と会話する。政権を握った政党の機関誌に、もう六年近くも原稿書いている以上、雪斎は、完全な「御用学者」と評されても、おかしくない。ただし、1930年代以降の英国では、かのハロルド・ラスキですら、「労働党のパンフレット・ライター」と揶揄されたし、ラスキの後任であったマイケル・オークショットは、「俗流バーク」と罵倒された。ラスキせよオークショットにせよ、政治学に触れたことのある人々なら誰でも知っている政治学者である。現実の政治を扱っている政治学者にたいして、「御用学者」云々の批判くらい馬鹿馬鹿しいものはない。村山富市内閣の折、雪斎の師、山口二郎教授は、村山内閣の下に馳せ参じた。山口教授は、雪斎とは政治的な立場を明らかに異にしているけれども、久々の社会党首班政権の「権力」には接近したのである。雪斎は、傍観者たることを潔しとしなかった山口教授の姿勢には敬意を払っている。
 夜、かんべえ殿を中心とする安全保障研究会に加わる。研究会での「中国原論」は誠に有意義だった。後の忘年会では…。「有馬記念」の日の中山競馬場の16万人分前売り券は、既に完売だそうである。これは凄い。

■ 昨日午前、自民党本部で外交部会が開催される。今の時分は、「予算の季節」である。午後、自主憲法制定国民会議の会合に加わる。「憲法改正」を旗印に掲げて活動してきた団体としては、最古参のものである。
 夕刻以降、産経新聞を訪れ、年末の挨拶をする。話題となったのは、やはり、雪斎が「正論」欄に載せた「皇位継承」論であった。あの論稿は、保守論壇の大勢の神経を逆撫でしたには違いないけれども、産経新聞にとっては、「有り難い論稿」であったようである、新聞は、機関紙や同人誌ではないのだから、多様な意見を意見を載せるのが、建前である。「男系男子」維持論一色で塗り固まるのも、その建前からは問題があるので、毛色の違う原稿を待っていたら、届いたのが雪斎の原稿だったわけである。「この毛色の原稿を今までに誰が書かなかったのですか」と尋ねたら、「雪斎さんが初めてですよ…。他の人々は書いてくれないのだから…」だそうである。結局、雪斎は、「保守論壇リングに乱入した「ザ・グレート・ムタ」をやってしまったわけである。他のレスラーは怒り心頭に達し、観客はブーイングの嵐になり、興行主は大いに喜ぶという具合である。
 もっとも、雪斎は、保守論壇には何の義理もないけれども、産経新聞には、過去八年近く「言論の場」を提供してもらった義理がある。「正論」欄原稿は、その産経新聞の論説委員長以下、数名の論説委員の人々の眼を経なければ、紙面に載ることはないのだから、それなりのハードルを経ているのである。こうしたハードルを経て載った原稿が、百十数編である。

■ 最近でも、かなり失望したニュースを紹介する。17日付「サンケイ・スポーツ」が配信した記事である。
 □ 「正論大賞」に藤岡信勝・拓殖大教授…歴史教科書作りに尽力
 フジサンケイグループは16日までに、自由と民主主義を守る最も卓越した言論人として、第21回正論大賞に藤岡信勝・拓殖大教授(62)を選んだ。第6回正論新風賞は該当者がなかった。

 雪斎が失望したのは、藤岡教授のことではなく、「第6回正論新風賞は該当者がなかった」という件である。というのも、雪斎が「第1回正論新風賞」受賞者なのだから、こういう企画の存続を願っているからである。ただし、こういう現状を見ると、「保守論壇」若手の発掘という作業は、難しいことなのではないかと思えてくる。
 産経新聞サイトによれば、 「正論新風賞」は、「2000年(平成12年)に制定され、21世紀の日本を担う新進気鋭、あるいは躍進著しい言論人を見いだし、顕彰するために設けられた年間賞です」と記されている。
 今年は、顕彰するに値する「新進気鋭、あるいは躍進著しい言論人」は、見出せなかったということである。

 ただし、これは奇妙な光景である。今は、雪斎それ自身が「左翼」、「リベラル」と呼ばれるほどに、世の中が総じて右に寄ったのだとすれば、それに応じて「保守論壇」若手は続々と登場しているはずではなかろうか。誰も該当者がいないというのは、どういうことなのであろうか。候補者が多過ぎて収拾が付かなくなって贈賞が見送られたということではなさそうだから、結局、「誰もいなかった」のであろう。
 今、保守論壇は威勢がよいように見えるけれども、実際には「空洞化」が進行している模様である。威勢のよさに釣られて定型的な議論がはびこるようになれば、そこでの言論の質は低下する。こうした空気の中では、オリジナリティを持つ保守系の若手言論家が、育つはずもない。「正論新風賞」に該当者が居なかったのが、今年だけの特殊事情であると即断するわけにもいかない。
 ところで、副会長殿のブログで紹介されていた岡本行夫氏の言葉は、誠に身に詰まされた。
 私は自分をチャキチャキの保守だと思っていた。強固な日米同盟の支持論者、強い防衛力・抑止力の信奉者、自衛隊の海外での活動の支持者で、「右」だと思っていたら、このごろは私は左寄りに見られるらしい。
 岡本行夫氏といえば、外務省北米第二課長(だったと思う)を務めた後に退官し、橋本龍太郎総理や小泉純一郎総理の下で補佐官を務めた人物である。雪斎は、「何と。岡本さんもかよ…」と思う。昨日、偶々、「赤旗」記者の某氏と立ち話をしていたら、氏の口から、「岡本行夫さんも最近は『左』といわれているそうで…」と全く同じ話が出てきたには、率直に驚いた。「実は私もなのですよ…」。「えぅ、雪斎さんもなの。どうしたのでしょう」。「本当に、どうしてしまったのでしょう」。苦笑するしかない。

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「学者生活」カテゴリの記事

Comments

私もどういうスタンスで右左を決めているか訝しく思う事があります。自主国防を標榜し、海軍大拡張を行い、核武装を推進する、とまで主張しなければ右とか
保守ではないのでしょうか。
私自身は、右翼でも左翼でもない「垂直尾翼」な人間でして、それらは、それなりに豊かで犯罪発生率が低く、法と税の公平が維持されている、未来に希望の持てる社会を構築する為の方便であるべしと考えている人間です。
しかし、最近の論調の一部には景気のよさだけが目立つ様に見えます。ある種、日本の組織では周囲と調子を合わせていないと浮き上がったり、最悪旧軍のように、叩き切られるという部分もありますが、冷静な視線の持ち主が沈黙してしまう事が無いことを願います。
ただ、2チャンネルの膨大な書き込みが庶民の本音の発露として機能しているのを見、また多くの人気Blogの論調を見ていると、「戦後」という時代の気分が完全に過去のものとなっていると感じるのです。

Posted by: TOR | December 22, 2005 at 02:44 AM

・TOR殿
>私自身は、右翼でも左翼でもない「垂直尾翼」な人間でして…
 うまい。おーい山田君、座布団三枚、やってくれ。

Posted by: 雪斎 | December 22, 2005 at 04:07 AM

 「正論新風賞」の該当者がいないというのは、本当に残念なことですね。
 ただ、blogで非常に説得力のある、面白いエントリーを連発している方が沢山いらっしゃると思います。おそらく年齢的にも若い方が多いでしょう。フジサンケイグループさんも「blogから新人を発掘する」という視点を持ってもいいんじゃないかなと思います。

Posted by: 藤田 | December 22, 2005 at 04:38 AM

「正論新風賞」ですが、かんべえさんとか、切込隊長とか、古田博司さんとか、新進気鋭で良い本を書いている人はいると思うんですけどね。
産経新聞の視野にはこういう人たちは入らないんでしょうか?

Posted by: Baatarism | December 22, 2005 at 10:59 AM

あと、今年の保守論壇で最も大衆に影響力があった書物は間違いなく「嫌韓流」でしょう。だからどうせ威勢の良さを売り物にするのなら、山野車輪氏に「正論新風賞」を与えても良かったかもしれませんね。内容的には藤岡教授と同程度の確からしさはあるんだし。w

Posted by: Baatarism | December 22, 2005 at 01:33 PM

 こんばんは。
 いつもグッとくるお話をありがとうございました。文章に力をカンジます。
 クリスマス、お正月と忙しい時期ですが、一足先に冬眠させていただきます。良いお年を・・

Posted by: SAKAKI | December 22, 2005 at 06:20 PM

座布団をどうも。
ただ、こういう言い回しをすると、むっとする人も
いるようですね。
垂直尾翼のように、進路が右や左に向かっても、社会
の安定を維持し、できれば、その為に進路に干渉でき
る人材となりたいものです。

Posted by: TOR | December 22, 2005 at 11:27 PM

ご無沙汰しています。
『正論新風賞』です。「切込隊長」さんはともかく、「かんべい」さんや古田博司さんに「新風」は失礼なのでは。古田さん辺り、二十年前位から主張されてますよ。五十歳過ぎて「新風」と言われても…。知らんかったんかい! ではないでしょうか。古田さんより若いけど小倉紀藏さんが仰っていることも、スタンスは多少違うけど共通の事柄を述べています。
「かんべい」さん。ホームページ何年も前から愛読しています。彼ほどのベテランに「新風」は失礼かと。
韓国などでもそうでしょうが、世代間の経験や知識の断絶は強いと思います。日本もそうです。ネットは知識・資料が偏っています。ネットに頼みすぎるのは禁物です。大体、ネットには本当に大事な資料・史料が抜けている場合が多いのです。それをベースに形成される「ネット世論」。「右」であろうと「左」であろうと不確かなものだと思います。
しかし、ネットで「保守」を初めて知り、熱烈な「保守主義」なんてこともあるようで、うーん。
肉体も呼吸もないようで……。〔老骨の嘆きです!〕
「保守」も危ういですね。
失礼しました。

Posted by: さぬきうどん | December 23, 2005 at 08:48 PM

・藤田殿
ブロガーの人々は、表に出て書き続けられるのか。そこが問題でしょう。
・Baatarism殿
かんべえ殿や古田教授は、もう「ジュニア・ヘビー」級ではないでしょうね。
・SAKAKI殿
来年も、よしなに。
・TOR殿
御説。同意。
・さぬきうどん殿
 今の若い人々は、「質の悪い酒」に酔っていないだろうなと心配になることはあります。今まで、「酒」(ナショナリズム)を禁じられてのが、それが堂々と飲めるようになったのは、いいのですけれども、その「酒」の質は、どのようなものなのでしょうか。そこが問題ですな。

Posted by: 雪斎 | December 24, 2005 at 02:19 AM

>さぬきうどんさん、雪斎さん

なるほど、かんべえさんや古田さんについては分かりました。
ただ、だったら古田さんに正論大賞を与えて欲しかったですね。
あと、切込隊長に正論新風賞を与えていれば、ネット発の保守論壇の最良の部分を評価したことになったと思うのですが。あの人は一見風変わりな酒ですが、飲んでみると良質の酒ですから。

Posted by: Baatarism | December 24, 2005 at 09:55 AM

・Baatarism殿
ご指摘の話が、「ブログ」と「活字媒体」の壁なのですな。「活字媒体」の活躍実績がないと、賞の授与はちょっと…という空気はあると思います。尚、古田教授は、「読売・吉野賞」のホルダーですから、こちらの印象が根強いでしょうな。

Posted by: 雪斎 | December 25, 2005 at 04:40 AM

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