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December 17, 2005

産経「正論」欄原稿/皇位継承論

■ 世の中には、書く度ごとに、「もう、これ以上は…」という気にさせられる話題がある。雪斎にとっては、皇位継承もまた、そうした話題の一つである。「これは、吾輩の論ずる話題ではない」と思う。
 何故、雪斎がそのように思うのかといえば、雪斎が「何処ぞの馬の骨」に過ぎぬ身上であるからである。雪斎は、摂関家や清華家といった朝廷上流公卿層の末裔ではなく、近代宮中重臣層に連なるわけではない。そうした身上の分際で皇室の有り様を論ずるとは、率直に畏れ多いという想いがある。今、皇位継承の有り様を巡って色々な議論が成されているけれども、考えてみれば、「有識者会議」答申に反対する「男系男子」論者もまた、その多くが「何処ぞの馬の骨」に過ぎないのは、明らかである。雪斎は、そうした「何処ぞの馬の骨」に過ぎぬ人々が、何故、偉そうに振る舞っているのかと訝る。
 下掲の原稿は、昨日付『産経新聞』に掲載されたものである。この原稿には幾分かの原稿料が支払われるはずであるけれども、皇室をネタにして稼いだ原稿料それ自体も、自分の懐に入れてしまってよいものかと迷ったりする。

  □ 皇位継承は「熱い議論」に相応しいのか。
 「皇室典範に関する有識者会議」(吉川弘之座長)が、「第一子優先による継承」を中身とする答申を提出して以降、皇位継承に関する議論が日増しに熱を帯びたものになっている。現行憲法典上、皇室典範は「国会の議決した」法律と位置付けられ、その改正は国民各層の「公論」のの結果に決することになっている建前である以上、筆者を含め「公論」を先導する責任を持つ多くの論者には、それぞれの所見を示すことが要請されている。「有識者会議」答申は、そのような皇室典範改正に絡む「公論」に一応の形を付与したものと評価されるべきであろう。
 しかし、「有識者会議」答申提出以降の議論の進められ方を前にして筆者が懸念を覚えるのは、こうした案件それ自体が「熱い議論」の対象とするに相応しいものであるかということである。たとえば、女性・女系による継承を容認した「有識者会議」答申の方向で皇室典範の改正が成されれば、早晩、皇統が断絶するという議論が仰々しく行われている嫌いがあるけれども、「有識者会議」答申の意味は、「次の次」の皇位が愛子内親王殿下によって継承されると位置付けたことにある。「次の次の次」の皇位が誰によって担われるかは、現時点では誰にも判らないのである。従って、「有識者会議」答申に難色を示す人々は、今後十年の歳月の中で、世に広く受け容れられる「男系男子による継承」の理論の構築を成し遂げなければならない。それは、「伝統」の価値を大上段に振りかざす議論に拠るものであってはならないし、Y染色体云々といった珍奇な議論に走るものであってはならない。そうした議論は、「男系男子による継承」論が受け容れられる余地を明らかに狭めているからである。
 もっとも、筆者は、率直にいえば、皇室の有り様について、あれやこれやと議論することには躊躇いを感じている。筆者は、「何処ぞの馬の骨」に過ぎぬ身上であるので、「皇位継承」を論ずることには誠に畏れ多いという想いを禁じ得ない。前に触れたように、今は、偶々、皇室典範それ自体の改正が「公論」の結果として決する建前である以上、「公論」を担う責任を有する筆者も、それを畏まりながらでも論じなければならない。けれども、皇室典範は、本来は皇室の「家法」なのであれば、それは、「民主主義の手続」から超然としたものであるべきものなのではなかろうか。「国会の議決した」法律という皇室典範の現在の位置付けこそが、きちんと検証されるべき事項なのである。
 筆者は、皇室が、男系男子による継承を維持することに決めたならば、それを尊重すべきであるし、女性による継承、あるいは女系による継承も排除しないと決したならば、それもまた尊重されるべきであろうと思っている。「臣」や{民」の立場からすれば、そうした決定の暁には、財政上、その他の制度上の手当てが適切に講じられるように取り計らうだけである。無論、こうした仕方には、皇室の恣意が働くのを懸念する向きがあるかもしれないけれども、そうした懸念には余り積極的な意味があるわけでもない。
 事実、昭和二十一年元旦に昭和天皇が発した「新日本建設に関する詔書」には、何と記されているのか。「朕ト爾等国民トノ間ノ紐帯ハ、終始相互ノ信頼ト敬愛トニ依リテ結バレ、単ナル神話ト伝説トニ依リテ生ゼルモノニ非ズ」。皇室と国民の「相互の信頼と敬愛」の意義を説いた昭和天皇の言葉は、どのように受け止められるべきなのか。そして、今上天皇陛下や皇太子殿下が「相互の信頼と敬愛」に実を与えるべく続けてこられた努力は、どのように心得られるべきなのか。こうした経緯がある限り、皇室がどのような決定を下そうとも、その決定は、国民意識の大勢から乖離したものとはならないし、諸外国に対しても奇異な印象を与えるものにはならないのであろう。
 筆者は、皇室の有り様について、「皇室は、かくあらねばならない」といった窮屈な議論の仕方を歓迎しない。三島由紀夫は、自らの小説の中で「などてすめらぎはひととなりたまひし」という嘆きの言葉を発したことがあるけれども、「天皇は『ひと』であってはならない」と言外に匂わせた三島に類する硬直した姿勢こそは、皇室に相対するに不適切なものであろう。静かに淡々と。そうした姿勢で臨めば十分である。
  『産経新聞』(2005年12月16日付)掲載

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「新聞に寄稿した論稿」カテゴリの記事

Comments

「士」の世界は厳しいなあというのが第一印象です。庶民、あるいは自由人である私はこの問題に触れる必要がありません。畏れ多いことですので、沈黙していればよい。

それにしても、「・・・皇室典範は、本来は皇室の『家法』なのであれば、それは『民主主義』の手続きから超然としたものであるべきものでなかろうか。『国会の議決』した法律という皇室典範の現在の位置付けこそが、きちんと検証されるべき事項なのである」という問題を設定できる士は雪斎先生において他にいないでしょう。喧しい議論の中でこのような腹の据わった方が本当に少ないことに寂寥と不安を覚えます。

Posted by: Hache | December 17, 2005 at 11:55 PM

男系支持の方々の主張はは具体的にどうしろって
事なのか正直よく分かりません。
セーフティネットとしての旧宮家の皇族復帰を
言いたいなら、直接そう言えばいいのに、
と思ってしまうのですが・・・
(私は旧宮家の皇族復帰はありだと思ってますが)

Y染色体云々の話は疑似科学っぽくて
拒否感を覚えてしまいます。

Posted by: 飯研住人 | December 18, 2005 at 12:02 AM

私も、皇位継承の在り方の議論については、皇室の方々の境遇に深く関わる問題であるにも関わらず、当事者である皇室の方々が関与できないという不条理さを感じております。
そこで、男系維持にしても女系容認にしても、自らの考えが絶対に正しいという態度で論じるのは、やはり大事なものを見落としているように思っており、記事を拝読いたしまして、大いに共感いたしました。

Posted by: 西田瓜太郎 | December 18, 2005 at 01:17 AM

・HACHE殿
まぁ、我が身大事ならば、「男系男子」論の牙城のような産経新聞に、あんな原稿は書かないでしょうな。予想した筋から予想したような批判が飛んできてますし…(苦笑)。
・飯研住人殿
Y染色体云々という話は、遺伝学上は、どう説明されるのでしょうか。遺伝学者方面の論評が聞かれないのも、不思議な気がします。
・西田瓜太郎殿
貴ブログも拝見しました。朝日新聞・中野氏も来ていたようですね。

Posted by: 雪斎 | December 18, 2005 at 01:55 AM

超法規社会規範が実在している。
http://www13.ocn.ne.jp/~hidemasa/ihounokakusin.html
「超法規社会規範が実在」をお読みください。
法律で書かれてるのです。国家憲法、国際法なども適用されないのが超法規的規範です。「ローマ法王と日本の天皇は超法規的存在」だと世界から認められてるのです。だから有識者会議の馬鹿が集団で日本国憲法や訳の分からない文献を引いて演説して論理的に喚いて無駄。触れてはいけない事柄です。法律は、超法規社会規範を守ること、より具体的には、危難の予防を目的とした政策規範である。したがって、危難からの救出に当たって当該法律を踏まえる、という意味で根拠にする・適用する場合には、その法律を、そのようなものとして解釈によって調整ないし見直して、「形式的適用による不都合」を回避し、超法規社会規範から見た「合理的で妥当な結論」を導かなければならない道理である。
これらも絶海の孤島での出来事など法律で判断できない事もあるのです。高さが5000m越す山岳の飛行機事故など何が起きてるかわからなのです。正義の判断が無理。(人肉食いもありえるし、生きて帰った人はそれで罪は問われないし聞かれない)極端な事例ですが・・。救助が1月も2月も出来ないでも人里はなれた場所からでも生きて帰る人間は居たのです。

Posted by: ようちゃん | December 18, 2005 at 04:28 AM

サンケイ新聞掲載の文読みました。朝から顔写真付きでヘビーなものを載せるものだなと見たとき感じましたが。竹田がTVや文でいろいろ意見表明されておりますが、議論が深まるのはこのましいことかと。国民投票などもよいかもしれないと思ったりもしますが。
日本の皇室と欧州の王室との温度差を考慮しながらですが。

Posted by: 星の王子様 | December 18, 2005 at 07:06 AM

当ブログにコメントをお寄せいただきありがとうございます。ご返事が遅れまして申し訳ありません。

 「正論」拝見いたしました。問題提起に深く共感する次第です。ただ、私自身は皇室典範や皇位継承のあり方についても、国会の関与する法律事項という現在の位置づけは守るべきであると考えます。「皇室典範」を天皇家の家法という位置づけとすると「財政上、その他制度上の手当てが適切に講じられるよう取り計らう」ことは難しいでしょう。国法上の位置づけが無い君主制というのは制度としての不安定要素を抱えることを否定できません。皇室の尊厳と立法府の策定する法律の尊厳は十分両立するものと考えています。

Posted by: 治部少輔 | December 18, 2005 at 09:43 PM

・ようちゃん殿
この件は…。
・星の王子様殿
拙者は、この件については、もう敢えて議論する気もないですが、どこかに落ち着けば、それでいいのではないでしょうか。
・治部少輔殿
皇室は憲法典上に裏付けを持てば、いいのではないでしょうか。

Posted by: 雪斎 | December 20, 2005 at 02:41 AM

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