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November 29, 2005

三島由紀夫自決から三十五年

■ 松本健一先生から新著『三島由紀夫の二・二六事件』が贈呈される。早速、読了する。興味深かったのは、書が次のような記述で閉じられていることである。
 「天皇は三島由紀夫の名を公には、生涯口にすることはなかった。その沈黙こそが、天皇の三島事件についての拒絶の強さを物語っていた」。
 雪斎は、三島由紀夫という作家には、相反する二つの評価を与えている。雪斎は、「日本の美」を描き出した文学者としての三島の業績は誰にも否定できないであろうと思っている。実際、雪斎は、一時期、三島の作品を集中的に読んでいたのである。だから、最近、『春の雪』が初めて映画化されたのには、雪斎は率直に驚いた。とうの昔に映画化されていると思ったからである。
 ただし、雪斎は、自衛隊・市ヶ谷駐屯地で自決した「政治活動家」としての三島には、徹底して冷ややかな眼差しを向けてきた。雪斎は、以前のエントリー^にも次のように書いたことがある。
 雪斎が幼少の頃、自衛官だった父親が三島由紀夫のことを罵っていたことがあった。雪斎の父親にとっては、三島とは、「総監部に乱入して割腹して果てた馬鹿」に過ぎなかった。雪斎の父親が奉職していた頃の自衛隊は、現在とは異なり国民的な共感が乏しい「日陰者の存在」としての軍隊であった。そうした「日陰者の軍隊」の中で「使うことのない一剣」を磨き続けた雪斎の父親にしてみれば、三島は、江藤淳の言葉を借りれば、「『ごっこ』の世界」で軍隊を語ろうとした輩であったのであろう。

 雪斎は、「文学」ではなく「政治」の徒である。そうであればこそ、憲法改正への三島の「思想」に同情的でありながら、三島の自決の報に接して「気でも狂ったか…」と反応したとされる当時の佐藤栄作総理にこそ、雪斎は共感を覚える。佐藤栄作は、政治の師である吉田茂が「臣・茂」と自称したことに倣って、「臣・栄作」と自称したという逸話が残っている。現在の小泉総理もまた、「臣・純一郎」という感覚を持っているはずである。宮内庁幹部や侍従職を除けば、「内奏」などの機会を通じて最も頻繁に天皇陛下と接しているのが、小泉総理である。総理大臣とは、「筆頭の臣」(prime minister)なのである。当然のことながら、天皇陛下と小泉総理の間には、様々な御下問と奉答の遣り取りがあるのであろうけれども、そうした遣り取りの中身は、世に伝わってこない。雪斎を含む外部の者には、そうした中身を知る必要はない。
 日本の「保守論壇」に身を置く多くの人々は、三島の思想的な後嗣である。そのことは、『憂国忌』に発起人として名を連ねる人々の名前を眺めてみれば、かなりはっきりする。そうであるならば、また、松本先生が書いたように「昭和天皇は三島事件を気にしたが、事件を強く拒絶した」のが真実であるならば、三島の後嗣とも呼ぶべき「保守」言論家は、昭和天皇の「拒絶」をどのように理解しているのであろうか。「皇室典範有識者会議」の答申が出された今、「男系男子による継承」を唱える「保守」論客の多くが三島的な匂いを拭えていないのは、誠に気になることである。彼らは、半ば独善的な「美しい天皇」のイメージと心中して果てた三島と同じ匂いを持ち続ける限り、昭和天皇の「拒絶」と同じ体験を経ることになるのであろう。「保守論壇」は、余りにも長い間、「時代への反逆者」を偶像にし過ぎたのである。
 雪斎は、二度も大臣を務めた政治家に仕えている以上、天皇陛下の「陪臣」たろうという自覚は持とうと思う。「臣」、あるいは「臣」に連なる人々は、三島の匂いを持つ人々からは、「君側の奸」と「売国奴」と呼ばれる宿命なのであろう。それもまた、覚悟の上である。
 昨日、西村真悟代議士が逮捕された。西村代議士は、誠に愛すべき性格の持ち主であり、雪斎も度々、西村事務所に出入りさせてもらっていたので、此度の一件は誠に残念というほかはない。西村代議士は、結局、「臣」の立場に撤し切ることができなかった。それが、雪斎の感想である。

 

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