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November 15, 2005

政治家の「冷血」とは…

■ 暫く、エントリー更新を控えるつもりであったけれども、事情が変わったので執筆する。
 「雪斎というのは、『銀河英雄伝説』に登場するオーベルシュタインのような人物ではないか…」。このように書いた方がおられる。雪斎は、「オーベルシュタインって、誰よ…」と思った。実は、雪斎は、『銀河英雄伝説』というアニメーション・シリーズを観たことがない。そこで、調べてみた。

 パウル・フォン・オーベルシュタイン
Paul von Oberstein R.C.452-N.R.C.003
 ◇ 「『あのオーベルシュタイン』。半白髪、薄茶色の目(両義眼)。長身。権謀術策に長け、自らの目的達成のためにはなんでも、ラインハルトですらも利用する、極めて合理的・論理的な男。私情を全く挟まないその言論と行動は、全く正しいが何故か共感を呼ばない。そのため同僚の諸提督たちからも嫌われており、ビッテンフェルトなどは『オーベルシュタインの犬』などとまで言い放つ。しかし、自らを決して過大評価せず、その立場を完璧にわきまえていた人物は彼ぐらいではなかったろうか」(。第1巻・第3章)
 ◇ 帝国軍ラインハルト陣営の謀略担当の軍官僚。先天的に盲目で義眼を愛用。障害者を差別する帝国の思想と社会制度に怨念に近い憎悪をいだき、ラインハルト新体制の樹立に尽力する。目的のために手段を選ばない冷血漢で、謀略に長ける。そのため、敵よりも味方に恐れられている嫌われ者。素直にヤンの方には気持ちがいけないひねくれ者に人気があったキャラクター」。

 …ということである。
 似ていますかね。当エントリーをお読みになった方々に、伺ってみたいものである。

■ しかし、どうしてもエントリーを書かねばという気にさせたのは、『溜池通信』で紹介された武貞秀士先生の話である。
 「中国経済の影響が急速に浸透し、北朝鮮は今や“東北3省の4番目の省”になりつつある。そのうち韓国は、北朝鮮を中国に取られてしまったと気づくだろう。彼らの面目は丸つぶれ。中韓対立が始まるかもしれないけど、今さらアメリカに泣きついても遅過ぎる」。
 実は、雪斎は6月21日付エントリーでも、次のように書いていた。
 雪斎は韓国国民の「感情」よりも日本の「国益」に立脚して議論するので、朝鮮半島の「統一」と「分断」のどちらが好都合であるかという議論は、早々に始められるべきであると思っている。
 一般論としていうならば、隣国が「統一」の結果として権勢を大きくする事態を歓迎する国は、ほとんど皆無である。大体、昨今の韓国での「反日」感情の沸騰を前にすれば、多くの日本人は、統一韓国が日本の「友好国」たり得るのかに不安を覚えるであろう。それならば、朝鮮半島の「分裂」を維持した上で、金正日体制後の北朝鮮を「中国の衛星国」にし、韓国は引き続き日米両国とは「自由と民主主義」の価値を共有する同盟国として振る舞ってもらうという有り様が、日本にとっては無難である。

 日本が意図しようと意図しまいと、北朝鮮の「中国の衛星国」化が進んでいるという武貞先生の観測は、二つの点で誠に興味深い。第一は、「カネの縁は血縁よりも強い」ということである。中国の経済的な実力が北朝鮮に一定の程度までの「恩恵」を北朝鮮に被らせているならば、北朝鮮の対中傾斜は従来以上jに加速するであろう。第二は、北朝鮮の「衛星国」化は、中国の国内治安の維持からも当然のように要請されるということである。北朝鮮の「崩壊」は、東北三省に居住する朝鮮族の動向に影響を与えるであろうし、そのことによって招かれる国内秩序への衝撃を中国政府が懸念しているというのは、既に幾度も指摘されたことである。そうした論理からすれば、中国にとっては、北朝鮮は「生きもせず死にもせず」という状態で自分に従属しさえすれば、それでいいということになる。
 こうして考えれば、雪斎は、かの「ポーランド分割」のことを思い起こす。ポーランドは、その領土が1772年、1793年、1795年の三回にわたって周囲の国に奪われた。21世紀には、そうした露骨な領土分割など行われるはずはないけれども、たとえば北朝鮮で通貨(元)が実質的に流通するようになれば、それで「分割」は完成する。その暁には、朝鮮半島の「統一」という話は、絵空事になる。韓国が中国批判を始めても、時は既に遅しである。その際、韓国政府は、対日関係と対米関係の改善を怠った代償の大きさを痛感することになるのであろう。
 もっとも、雪斎は、そうしたことが判れば、中国に手を回して中国による北朝鮮の「衛星国」化を加速させるように仕向ける方策を考えたい気がする。やはり、雪斎は、オーベルシュタイン並の「冷血漢」だった…のか。しかし、それは、国際政治を語るに当然の作法であろう。振り返れば、明治初年、福地源一郎は、大久保利通を評して、「大久保は政治家に必要な冷血があふれるほどあった人物である」と語った。この福地の大久保評の意味が、理解されなければならない。

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Comments

ここのところの北朝鮮の不可解ともいえる行動にはやはり中国の影があったのかと思うようになりました。先月、北朝鮮はWFPの援助を断り、援助のモニタリングをする国連職員やNGO関係者を退去させようとしています。(外国人向けに開放していたWFPでの国連専用インターネットアクセスも制限しようとしています)これを受けてアメリカも食糧支援停止に。そのように国際社会からの援助や情報に背を向ける一方、中国は経済援助を増やす状況になってきています。6カ国協議で「北朝鮮は中国の元に」という枠組みに対する(米中での)裏合意があったと推察できませんかねえ?実際はどうなのかわかりませんが。

Posted by: アビ | November 15, 2005 at 07:44 AM

かんべえさんのエントリですが、私は逆の見解を持っていまして、このまま北朝鮮が中国の属国になった場合、韓国も嬉々として中国の衛星国として加わると思います。そうなると、釜山が中国潜水艦の寄港地になって、一番、あわてるのは日本でしょうね。

よく、韓国は日米同盟から切り離されると経済的に崩壊すると言われますが、中国が韓国救済のために自国の市場を提供してあげれば、それほどダメージはないでしょう。ちょうど、第二次世界大戦後、アメリカに日本に市場を提供してあげたのと同様です。また、日米に比べて二流とはいえ、韓国の先端技術と工業力は中国にとって、十分魅力です。

じゃあ、裏切り者韓国をかばった中国に、日米が制裁できるかというと、いまの拝金主義では無理でしょう。ますます、体力を強めた中国に日米はどう対応するのか。やはりいろいろな可能性を検討する必要はあります。

Posted by: タカダユウジ | November 15, 2005 at 10:16 AM

雪斎さんをオーベルシュタインに例えたブログはたまたま僕の巡回先だったので、すぐ分かりました。(笑)
最近感じることなのですが、サブカルチャーと政治・経済の距離が近づいているように思います。
経済学者でも田中秀臣さんのように冬ソナを取り上げた本を出す人もいますしね。
先の総選挙で若い世代の投票率が上がった裏には、このような動きがあるのかもしれませんね。

Posted by: Baatarism | November 15, 2005 at 10:30 AM

あと韓国については、親日米派と親中派が政争を繰り広げて国内が大混乱するというシナリオが一番ありそうな気がします。19世紀末の朝鮮半島の混乱の再来ですね。
そして、日米と中国のうち生き残ったほうに吸収されていくのでしょう。
ただ、中国は実質的に沿海部が内陸部を植民地として支配する構造になるでしょうから、やがては植民地帝国の崩壊と同様の現象が起こると思います。
だからどっちが生き残るかといえば、日米がお生き残る可能性が強いでしょう。

Posted by: Baatarism | November 15, 2005 at 10:42 AM

初めて書き込みさせていただきます。
北朝鮮に関する非常に興味深い話なので自分でいろいろ想像してみました。
まず、人民元ですが、これが流通するようになるのは簡単にできるでしょう。と言うか、100万人も餓死した国の通貨など信用がゼロですから、すでに、通貨として使えるのは闇を通して入って来た人民元のみでは無いでしょうか?
WFPの援助も打ち切って、中国からの援助とかに切替えると言うことは、経済を完全に中国へ明け渡すと言うことになるでしょう。
後は政治の実権を握ることですが、金正日は後継者を指定しておらず、今はつけ入るすきが一杯あるように見えます。後継者争いで不利な方へ、資金を提供しててこ入れすれば、簡単に落ちませんかね?ちょっとしたクーデターでも起こして、傀儡政権を打ち立てるのは、以外に簡単かもしれません。
あとは、そうするメリットが中国にあるかどうかです。
6カ国協議でさんざん問題に成っている朝鮮半島の非核化は簡単に実現できるでしょう。
強制収容所を開放して西側ジャーナリズムへアピールすれば、人権問題で得点をかせげるかもしれません。
拉致問題を解決すれば、日本へも恩を売れるでしょう。その上、北朝鮮再建のための援助を引き出せるかも知れません。
上記のようなことと、北朝鮮を背負い込むことのディメリットを天秤にかけて、中国がどのように判断するか興味深いです。

Posted by: T君 | November 15, 2005 at 11:15 PM

韓国に金正日ファンが多いとはいえ、現在の韓国人が統一後に北朝鮮の専制政治を選択する可能性はないといってよろしいのではないかと思います。若しくはそういう分析を北朝鮮政府はすると思います。したがって北朝鮮政府にとって平和的な朝鮮半島統一など自らの首を絞めることにつながりかねないことです。しかしながらこの数年、中共政府が綱渡りするように経済自由化路線へ舵を切っているように、北朝鮮も緩やかに自由市場化を行わないと貧困はますます進み、近隣国との経済格差に耐え切れず内部崩壊してしまいます。ですので、北朝鮮の中国スタイル寄りは自明なことだと思います。

Posted by: ちびた | November 16, 2005 at 02:27 AM

初めて書き込みさせていただきます。中国政府の行動は基本的に「自分達の利益になること以外絶対にしない」であると考えます。となれば、まさに北朝鮮は「生きぬように死なぬように」という状態に置かれ続けると思います。そして鉱物資源は中国のものになる可能性が高いでしょう。といってもインフラがあまりにもないので中国といえども資源採掘には苦労すると思いますが。

Posted by: Susu | November 16, 2005 at 04:35 AM

雪斎さんをオーベルシュタインに例えたブログも、オーベルシュタインの説明(2項目の方)の引用先のサイトも自分が足繁く通っている先です。ネットの世界も意外と狭いようで......
北朝鮮という国は時折「親の心子知らず」というようなことをやらかして、中国の思惑から外れることがあるので、仮に中国に北朝鮮の「衛星国」化を仕向ける際には、「どのようにして衛星国化させるか・どのような衛星国にするか」という視点が重要だと思います。

Posted by: yu_19n | November 16, 2005 at 09:17 AM

ここのサイトでしか存じ上げておりませんが、似ていないと思いますよ>オーベルシュタイン

Posted by: 妖怪 | November 17, 2005 at 01:08 AM

お久しぶりです。雪風です。
このネタ、半年ぶりに第2ラウンドですね。

やはり中国による北鮮の併呑というプランが浮上してきましたか。
もしかしたら、金王朝による中国への身売りなのかもしれません。魔都上海にお気に入り美女群をひきつれて爛れた余生を遊び暮らす将軍様。
こりゃ、絵になりすぎですね(^^;

いずれにせよ、「敵性隣国が合併して強大化する」なんて悪夢、中国が許すわけはありません。中国にとって最悪のシナリオは、鴨緑江で米韓軍と直接対峙すること。これだけは何が何でも避けるでしょう。

ここはまず、中国の立場になって考えましょう。

1)米中は将来激突する可能性が高い
2)金王朝の崩壊は不可避である

ならば、金王朝崩壊後の半島情勢によって、米中激突の前線が決まるわけです。

①北を親米韓国が併合すれば前線は鴨緑江。

これは中国にとって最悪のシナリオ。敗北すれば本土が危うくなり、米露挟撃の事態ともなれば東北3省をも諦めることになりかねない。

②北を中国自身が併呑すれば前線は38度線。

次善の策。ただし、緩衝地帯(バッファー)はなくなるため、自ら直接手を下す必要があり、北朝鮮を楯にも矛にもできる現在よりは状況は悪くなる。

③米韓を離間させ、親中韓国に北を併合させれば、前線は対馬海峡。

これが中国にとって最良のシナリオ。現在の倍近い広大なバッファーを得るばかりでなく、統一韓国軍による日本侵攻まで期待できる。(反撃のリスクは統一韓国が負う)


となると、中国の戦略として最上のものは
1)米韓、日韓の離間策と、中韓の同盟工作。
2)その仕上げは韓国が中国に「恩義」を感じ、感謝する形で北を併合させること。

ではないでしょうか。

統一の折には、北は完全に中国の勢力圏に入っており、韓国は北の領土を得たつもりが、実質、中華圏に自ら併呑されてしまった、という結果になりかねません。

そう考えると、近年の韓国外交の迷走は、どうも中国に「してやられている」としか言えないのではないでしょうか。


もっとも、同様の対米離間策と、親中取り込み策は、日本に対しても伝統的に行われてきたはずで、日本の一部政権はうかうかと乗ってしまった部分も大きいと思います。
ならばこそ、猛烈な反日感情を「煽った」小泉さんは、なかなかどころではない卓見の持ち主なのかもしれません。

Posted by: 雪風 | November 19, 2005 at 07:05 AM

追記。

「冷血」について。

まあ、教養の問題なんだと思います。アニメを馬鹿にするつもりはないのですが、マキャべリの肖像画ですべてを語らせる雪斎先生を、この上、何に例えてもねえ。


ところで、警察官だって、消防団員だって、許されるなら寝て暮らしたいでしょう。でも凶悪犯がいるから、火の粉が飛んでくるから、仕方なくまなじりを決して危険に飛び込むのです。

ひるがえって、わが日本国。

中、北、韓、露。放火魔や凶悪犯が、向こう3軒と両隣に住んでるような、世界でも稀に見る危険地帯にいるんです。

本来ならイスラエルなみの防衛体制が自然でしょう。少なくとも、寝言を言ってる暇はないのですよ。

Posted by: 雪風 | November 19, 2005 at 07:19 AM

 皆さん、有難うございます。
 この話は、金正日体制が終わったときがターニング・ポイントだなと思います。色々とシミュレーションをやっておく必要があります。

Posted by: 雪斎 | November 20, 2005 at 01:49 AM

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