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November 14, 2005

「陰謀論」の錯誤

■ 政治評論の世界における「鬼子」の一つが、「陰謀論」である。「ウィキピディア」では、最も一般に知られたフリーメーソンとユダヤの「陰謀論」について、次のような紹介がされる。
  □ フリーメイソン陰謀論
 石工ギルドから発展した親睦団体フリーメイソンが、実は世界中の戦争を引き起こしていたり、政治権力を操っていたとする考え。歴史上の重要人物にフリーメイソン所属者が多いため、最も人気の高い陰謀論である。
  □ ユダヤ陰謀論
ユダヤ人が秘密結社を通じて手を結び、世界(ことに経済)に影響力を及ぼしているとするもの。昔から存在した陰謀論であり、日本ではユダヤ=フリーメイソンの陰謀が説かれることが多く、ユダヤ陰謀論を説いた本が海外で問題にされたこともあった。偽書とされる「シオン賢者の議定書(プロトコール)」が有名。

 最近の日本政治でも、こういう「陰謀論」が示される、曰く、「小泉純一郎の郵政民営化は、日本の資産を外資に譲り渡そうとしたものだ」。「小泉は、安倍晋三の擡頭を抑えようとして、解散・総選挙に打って出た」。こういう具合である。

 ところで、何故、こうした「陰謀論」が蔓延るのであろうか。それは、単に「判りやすい」からである。特に「陰謀論」に走る知識人に特徴的なのは、「自分こそが事の真相を知っている」という姿勢で物事を語ることである。人間の世界は複雑なものであるけれども、その複雑な世界の様相は、「陰謀論」に走れば一挙に簡単に説明できることがある。第一次世界大戦後のドイツでは、「ドイツの苦境の理由はユダヤ人の陰謀によるものだ」という雰囲気が、ナチスを培養した。そして、そうした「解」を見つけたという想いは、少なくない知識人には途方もない快感を与えるものなのである。
 しかしながら、凡そ政治を語る際の準則は、「『結果』から『意図』を逆算することはできない」ということである。
 マックス・ウェーバーの著書『職業としての政治』には、次のような記述がある。
 「善からは善のみが、悪からは悪のみが生まれる」という心情倫理家の議論は、人間の行為にとって決して真実ではなく、しばしばその逆が真実であり、これが見抜けないような人間は、政治のイロハもわきまえない未熟児である」。マックス・ウェーバーの議論の本質は、「人間の世界では『意図』と『結果』は乖離する」ということである。従って、現実にある「結果」が何らかの「意図」によるものだと直接に断ずることは、できないのである。
 雪斎は、政治評論の真贋を見極める最も手っ取り早く、かつ確実な方法は、その評論がそうした「陰謀論」の傾きから免れているかどうかを判断することだと思っている。そうした「陰謀論」の色彩を持つ政治評論などは、ウェーバーの言葉を借りれば、「政治のイロハもわきまえない未熟児」の議論と呼んで差し支えない。この種の政治評論は、「話半分に聞いて済ませればよい」代物なのである。
 こうした「陰謀論」は、昔日は進歩・左翼系知識人の専売特許であった。曰く、「世界平和の実現を阻んでいるのは、武器で儲ける軍需産業が強い影響力を持っているからである」。「ジョージ・ブッシュは、石油業界の意を酌んで、石油利権確保のためにイラクに攻め込んだ」。万事、この調子である。そして、今や、保守・右翼系知識人の中にも、「陰謀論」に走る御仁がいる。曰く、前にも紹介したように、「小泉の郵政民営化は、日本の資産を外資に譲り渡そうとしたものだ」。「小泉は、安倍晋三の擡頭を抑えようとして、解散・総選挙に打って出た」。よくもまあ、これだけ想像力をたくましくできるものである。雪斎は、拙ブログでの「遊び」ならばともかくとして、実際に原稿料が支払われる活字メディアでは、このような憶測と思い込みだけの文章を書く気にはならない。
 それならば、雪斎も「陰謀論」に走って、「お噺」を作ってみよう。次のようなものは、どうであろうか。

   ◇ 宰相・小泉純一郎の陰謀
 平成17年6月、総理官邸に中曽根弘文、平沼赳夫の二人が極秘に呼ばれた。小泉は中曽根に告げた。「中曽根君、今の郵政法案を参議院で否決してくれないか…」。中曽根は青ざめた表情で答えた。「否決…ですか」。小泉は、冷然と言い放った。「解散の名分を必要としているのだよ。郵政法案成立の後にも求心力を維持しようと思えば、何時かは解散をしなければならない。そのタイミングが今なのだよ…」。そして、小泉は平沼に告げた。「平沼君には、『ヒール』役を引き受けてもらおう。そして、暫く『地下』に潜ってもらう。今度の選挙では、民主党の存在感は徹底して消さなければならない」。選挙の推移は、小泉の狙い通りになった。その選挙では、小泉「構造改革派」と「造反派」の対立構図だけが強調されて、演出された。結果は、286議席獲得という空前の大勝であった。
 選挙後、「ヒール」役を演じた平沼は、当然のことながら将来の復党含みで党紀委員会から「離党勧告処分」を受けて、暫く「地下」に潜った。「本当に大事な人材は、裏に隠しておく」。その原則が平沼にも適用されたのである。
 数年の歳月が経ち、小泉が既に退陣した「永田町」では、中曽根は参議院自民党の首領としての立場を青木幹夫や片山虎之助から引き継いだ。平沼は、当初の手筈通り自民党に戻り、今は麻生太郎総理後継の一番手と目されている。そして、平沼の後には安倍晋三が「真打」として控えている。郵政政局の折、自ら「ヒール」役を引き受けて「造反派」として振る舞った中曽根と平沼の「忠誠心」は、このようにして報われたのである。ある日、今は政界からも引退し音楽(オペラ)評論家としても活動している小泉のところに、新聞記者が訪ねてきた。「あの郵政政局の時に平沼氏との間に密約があったという噂が流れているのですが…」。小泉は答えた。「ん。何の話かね…」。
       … end
 「陰謀論」で物事を考えれば、この程度の噺は、簡単に「捏造」できるのである。「陰謀論」の馬鹿馬鹿しさを体験するには、丁度良い噺である。あーあ、書いていて馬鹿馬鹿しかった。この噺を「そうかもしれない…」と思って読んだ方々は、気を付けましょう。そういう方々は、「M資金」などという与太話に騙されやすい性質かもしれない。
 そこで一首を詠んでみる。

 陰謀の 絡む噺に 実はなし 先の事など 誰も判らぬ
                              ―雪斎

■ 諸般の事情により、エントリーの更新は今週後半まで中止です。

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「学者生活」カテゴリの記事

Comments

>この噺を「そうかもしれない…」と思って読んだ方々は、気を付けましょう。
そうかもしれない・・・と思ってしまいました(笑)
気を付けたいと思います(汗)

私は幸いなことに「反小泉」ではありませんが、一種の陰謀論(中韓朝の)めいたことを語っていることは自覚しています。今回の雪斎さんのエントリを常に念頭に置きつつ、暴走しないように自制したいと思います。

Posted by: まったり | November 14, 2005 at 12:48 AM

「この話を本当かもしれないと思って」云々を読み、むしろある種洒落た政治エンターテイメント小説の一説みたいに思いました。「小説とは、根も葉もある嘘である」とは、佐藤春夫の言葉だそうですが、私は文章で食べている人の中で「陰謀論」に夢中になる人に、「文芸評論家」が見られることを大変面白く思うものです。

「事実は小説よりも奇なり」。
巷に溢れる小説、芝居のどれよりも今の政局は面白い。
プロの文芸評論家たちも、フィクション相手より、政治に、よりドラマ性を感じてしまうのではないでしょうか。
感じても勿論結構ですが、そこに自分たちのフィールドでしか通じない「文学的な」分析方法だけは、持ち込まれないほうが賢明かと、そう思っておるところです。

Posted by: るびい | November 14, 2005 at 07:09 AM

 私も「ありうるなぁ」と読んでしまいました。そして、だったら次に騰がる(下がる)株は何だろうと勝手に想像してました。
 郵政民営化はユダヤに金をくれてやるためってのは、ほとんど妄想と思ってましたが、新生銀行のケースを見ると・・んーー、やっぱりそうか??とフラフラになっちゃいます。やっぱり未熟者ですね・・・

 

Posted by: SAKAKI | November 14, 2005 at 03:52 PM

「小泉は、安倍晋三の擡頭を抑えようとして、解散・総選挙に打って出た」という主張を陰謀論風に読み解いてみます。この主張を書いた人が安部氏のシンパとしてふりをして評判を貶める工作員だと仮定します。このような一瞥して荒唐無稽な論理をもてあそぶ安部支持層は、いわゆる「B層」に属し、碌でもない連中が安部人気にあやかってたかっているという印象を与えることによって安部氏を貶める策略とでも解釈すべきでしょうか。郵政民営化が外資ないし英米の陰謀という主張の震源地の一つは、「小泉改革」の「受難者」(公社や次にくる政府系金融機関およびその広い意味での利害関係者など)だという風聞を耳にしたことがあります。風聞ですので裏づけはまったくありませんが、そんなこともあるのかなと思ったりします。

本題からそれてしまいますが、小泉→麻生→安部という流れは統治の継続性という点で悪くないと思いました。

Posted by: Hache | November 14, 2005 at 08:59 PM

これ、誰か先に書いてそうな気がします。
念のため検索をかけておいたほうがよろしいの
ではないかと(笑

Posted by: おおみや%バイト君 | November 15, 2005 at 01:07 AM

すみません、現在の韓国を見ていると
「盧武鉉は北朝鮮の工作員だ!!」
という与太話を信じたくなってしまうのですが・・・

Posted by: 飯研住人 | November 15, 2005 at 03:17 AM

森ビル株式会社は六本木ヒルズを開発・建設する為に、20年以上前から同地域に空家が出ると社員にそこへ引越しをさせ続け、社員には身分を伏せさせて、地域住民と交流を深めさせ、最終的な地上げで反対運動を起こされないように工作活動を行いました。

与太話のような実話です。

陰謀論で括るのは簡単ですが、想像を超えるような事実も世の中にはあると言う認識が無いと、自分の思考の限界が世界の全てになっている事に気づかなくなります。

Posted by: 通りすがり | November 16, 2005 at 06:47 PM

はじめまして。リジーと申します。

「陰謀論」といえば、「郵政民営化はアメリカのため」というのがありますよね(違うでしょうか?)。

でも、小泉さんは20年以上も郵政民営化を唱えていました。アメリカとの関係なんて首相になって以降のことです。

それに、もし仮に民営化以降の郵貯・簡保のお金が外資に流れたとしても、それは(地の利があるはずの)日本企業の実力がなかったという単純な理由なのではないでしょうか。もちろん、これは郵貯・簡保の利用者に民営化以降、どの会社を利用するかの選択権があることが前提ですが。

それとも、そのようなことを心配しなければならないくらい、日本の保険業界は実力がないのでしょうか?そうは思えないのですが…。そのような業界を保護していては、日本経済全体にも悪影響を及ぼしかねないと思います。

初めてなのに、長々とすみません。このようなことにお詳しそうなので…。

Posted by: リジー | November 18, 2005 at 07:01 PM

>通りすがりさま、

ここで雪斎さまが取り上げていらっしゃる陰謀論とは、自分の想像力の範囲内で「結果」から「意図」を逆算するというものですから、たぶんあなたがお考えの「陰謀論」とは少し切り口が違うのではと思いますよ。
例えば「マスメディアには出てこない裏の人脈が日本社会に大きな影響を与えている」というようなことはあなたがお使いの意味での「陰謀論」に入るのかと思いますが、雪斎さまはリンク先のblogのコメント欄でこの種の認識を示されています。

Posted by: mitsu | November 18, 2005 at 09:59 PM

・まったり殿
・るびい殿
・hache殿
・おおみや殿
恐縮です。
・飯研住人殿
キム・デジュンにも、そういう噂がありましたね。
・リジー殿
その話は、かなり怪しいです。そういう議論は、「郵政民営化で儲けるのはアメリカだ」というのを当然の前提としていますが、本当でしょうか。拙者ならば、民営化後の「郵政銀行」には、アメリカ辺りの銀行や証券会社の一つや二つを買ってもらいたいと思っています。
・通りすがり殿
その話は、「後から真相はこうだと判った」という趣旨ですから、陰謀論とはニュアンスが違います。
・mitsu殿
フォローをありがとうございます。

Posted by: 雪斎 | November 20, 2005 at 01:43 AM

もちろんわたしだって、フリーメーソンが世界を支配しており、あまたの大事件の陰にいる、という説にはちょっと眉唾なほうです。
探偵小説を読むようなわくわくを覚えるけど、じゃあほんとうに「フリーメーソン」のような存在を信じているかというとUFO並みの疑わしさとしかいえない。

ただ、「陰謀論」を否定する人たちに共通するのは、陰謀的なニュアンスのすべての事象を頭から否定する傾向だ。これがいかにも「陰謀論」者的なのですね。(笑)

つまり「陰謀論」者もそれを否定する「反陰謀論」者も、ともに単純すぎるきらいがある。
どちらも「陰謀」という言葉にとらわれすぎているのじゃないかな。
陰謀というのは、つまりは「裏工作」のことであり、政治の世界ではあたりまえに行われていることなんですがねえ。

政治、とくに外交とは、裏工作の由です。
陰で謀議を重ねてなんらかの政治的意図を現実にする。これ、「陰謀」以外の何物でもありません。

戦後の米国が日本に行った裏工作の数々をみればよくわかる。
たとえば終戦直後に突然、日本人のほとんどが口にするようになったのが
「白米は頭に悪い」
という意見。そういう見識が突如、世間に蔓延した。
現在では裏工作=陰謀があったということでよく知られている。
これは、米国政府が、米国で在庫過剰になった小麦粉を日本に売却するために
「白米は頭を悪くする」というマスコミ・キャンペーンを学者を使って行わせたのが原因なんですね。
また、パン食を宣伝するためにキャンペーンカーが全国の田舎を回ってパン食の無料試食会を開いた。それから米国は小学校の給食にパンを持ち込んだ。
当時は「陰謀」だったのですが、数十年たったいま、NHKのドキュメンタリーが真実を明らかにするまでになった。

「陰謀否定論」者のおかしなところは、それがフリーメーソンの陰謀論と同じく、あまりにも単純、単細胞なことにある。
さらには、陰謀論の範囲を拡張して、小泉の郵政民営化が米国の金融資本を利するという説まで「陰謀論」だと断じて否定するという味噌も糞ものやり方も「陰謀論」者と似ている。

つまるところあまりにも単純すぎる「陰謀論」も「陰謀否定論」も、現実に裏工作をして国民を煽動する権力体制を利することになるでしょう。

こういう連中はセットで否定するべきです。

Posted by: 門前の小僧 | February 05, 2007 at 10:18 AM

911のテロ捏造という陰謀はどうですか?

3分ビデオ見ましたがが私は陰謀と思います。
http://www.teamrenzan.com/archives/writer/nishida/post_190.html
ベンジャミン・フルフォードが熱弁中です。

皆さんの感想が欲しい。(私の目と頭がおかしいのかどうかのチェックの為)

Posted by: シャー | March 04, 2007 at 04:31 AM

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