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October 04, 2005

Where have you gone, Joe DiMaggio,

■ Simon and Garfunkel の曲を初めて聴いたのが、高校生くらいの頃である。当時、八戸市内の映画館で『卒業』が公開されていたので、それを観たときに、曲が頭に入ってきたのであろう。しかし、このエントリーで書きたいのは、S&Gのことではない。『卒業』でも挿入曲として使われた〈Mrs. Robinson〉には、次のような一節が最後に付されている。

Where have you gone, Joe DiMaggio,
Our nation turns it's lonely eyes to you.
What's that you say, Mrs. Robinson.
Jotting Joe has left and gone away,
Hey hey hey.

 「ジョー・ディマジオは、どこに行ったのか。われらの国があなたに寂しい眼差しを向けている」。長い間、〈Mrs. Robinson〉の歌詞に、この一節が唐突に現れる意味が、雪斎には理解できなかった。後で知った話であるけれども、作詞したポール・サイモンは、この一節に、「米国における純粋性の後退と英雄の退場」を込めたのだそうである。なるほど、S&Gが世に出た一九七〇年前後の時期の米国は、「迷いの季節」であった。『卒業』という映画それ自体が、ダスティン・ホフマン演ずる「大学卒業生」(the graduate)の確信を持てない日常を描き出したものであったのである。そうした時代にあって、ジョー・ディマジオは、「確信を持った米国」を象徴する人物であったのである。
 10月1日、ジョー・ディマジオが所属していたニューヨーク・ヤンキースは、ボストン・レッドソックス戦に8―4で勝ち、アメリカン・リーグ東地区で8年連続優勝を決めた。松井秀喜外野手は、この試合に「5番・左翼」で出場し、今季23本目のホームランを含む4打数2安打1打点と活躍した。松井外野手は、翌日の最終戦でも活躍し、渡米後三年で最高の個人成績を残した。松井外野手は、米国では「日本のジョー・ディマジオ」と呼ばれているらしい長島茂雄氏の弟子である。「ジョー・ディマジオの後輩群像」に日本人が名を連ねるようになったのは、率直に感慨深い。
 こうして考えると、ベース・ボールという球技が日本と米国につなぐ紐帯は、だいぶ、太いのではないかと思われる。「ラスト・サムライ」ことケン・ワタナベの映画初出演作品が、『瀬戸内少年野球団』だったのは、この点でも興味深い。戦前期から準備されていた「野球人気」という土壌があればこそ、「鬼畜米英」と観念的に叫ばれた時代の後で、世の人々は、「占領者」として米国をすんなりと受け容れることができたのではなかろうか。その意味では、阪神タイガースという球団に対して、あれだけ熱狂的に応援する人々の存在は、貴重である。もしかしたら、そういう人々が、次なる観念的な「反米」論に対する強烈な防波堤になりうるのではないかと思われる。阪神ファンに「神様、仏様、バース様」と呼ばしめたランディ・バースは、牧場経営に乗り出した生粋の米国人気質の人物であったし、今季の優勝の立役者を表記した「J・F・K」は、そのまま米国史上最も人気のある大統領の名前を連想させる。こうした事情は、観念的な「反米」論者には不興を覚えるものであろう。しかし、「野球が楽しい」という実感を前にしたとき、そのような観念など、いかほどの価値があるというのであろうか。
 因みに、『瀬戸内少年野球団で、夏目雅子さん演じる国民学校教師・駒子先生が「私たち野球をやりましょう」と子供たちに呼びかけたシーンは、印象深い。そして、駒子先生が子供たちと作ったチームの名前は、「タイガース」であった…。

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Comments

雪斎さま、

バース大明神は昨年秋にオクラホマ州の州議会選挙に民主党から出馬し晴れて上院議員に当選されたとのことです。ぜひ着実に政界でステップアップされて今まで以上に日米の掛け橋になっていただきたいものです。

Posted by: mitsu | October 04, 2005 at 02:15 AM

豪州生まれのウィリアムズが優勝インタビューで、「JFKの一員であることを誇りに思う」と言っていたのは可笑しかったな。まあ、彼もアメリカでプレーした経験があるわけですが。

Posted by: かんべえ | October 04, 2005 at 09:40 AM

主題からは外れますが、少年時代に『卒業』を初めて観たとき、結果的には妻も娘もさらわれたロビンソン氏や、新婦をさらわれた新郎が憐れで、素直にハッピーエンドだとは思えなかった記憶があります・・・。
S&Gの曲は好きですけどね。

Posted by: としひこ | October 04, 2005 at 10:54 PM

雪斎殿
おー、さすがに深い洞察でらっしゃいます。
私もたかが、野球とおっしゃる方にはいつも「されど野球ですぞ」と申し上げておりして、特にウォールストリート(つまりNYK)で働いている人間にとって松井選手の活躍は大変な潤滑油の役割を果たしている事を否定できる人はいないでしょう。確かに今年の松井選手の成績はそのままチームの成績に連動しておりまして、「クラッチ・バッター」として第2のジョー・ディマジオという呼び声は高くなってきましたよ。ではまた!

Posted by: ぐっちー | October 06, 2005 at 08:53 AM

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