« 「遊戯」としての政治、愛知和男氏の出馬 | Main | 「怪情報」も踊る浜松 »

September 05, 2005

雑誌『論座』に寄稿した「9・11選挙」論

■ 朝日新聞社が発行する雑誌『論座』今月号は、「9・11」総選挙に関する特集を載せている。この雑誌は、今月号から表紙をリニューアルした。デザインを担当したのは、29歳の若手デザイナーのようである。「これはいい…」と率直に思う。こういうヴィヴィッドなレイアウトは、余り見たことがない。ただし、「何やら小泉総理が岡田代表を上から一喝している」ようなレイアウトには、思わず苦笑する。
 「9・11総選挙」特集のライン・アップは、下記のとおりである。
 ▽座談会:佐々木毅(学習院大学教授)×川本裕子(早稲田大学教授)×北城恪太郎(経済同友会代表幹事)
「古い政治にサヨナラしよう!」
 ▽論客10人が問う 総選挙の真の争点はこれだ!
①日本型社会民主主義の後にくるもの(筆者:山口二郎(北海道大学教授))
②社会上の「活力」を保つために必要な「構造改革」(筆者:雪斎))
③「小泉イシニアティヴ」は実現するか(筆者:野中尚人(学習院大学教授))
④待ったなしの外交問題をどうするのか(筆者:姜尚中(東京大学教授))
⑤靖国参拝合憲化が進む危険性(筆者:高橋哲哉(東京大学教授))
⑥内閣・与党の一体化を実現できた党が創造者になる(筆者:岩本康志(東京大学教授))
⑦マニフェストの詳細比較を(筆者:松原聡(東洋大学教授、NPO法人マニフェスト評価機構理事長))
⑧戦後60年の「底力」が試される(筆者:永井愛(作家))
⑨だましたい政治家・だまされたい国民(筆者:辛淑玉(人材育成コンサルタント))
⑩民主党が示すべき政策は都市型弱者支援だ!(筆者:宮台真司(首都大学東京准教授))

 この特集に論稿を寄せた中では、雪斎が唯一の明々白々たる小泉「構造改革」擁護論者であるようである。他に野中尚人教授の論稿は、誠に興味深かった。「国政上の重要政策を第一院が通した場合、第二院はそれを覆さない」という諒解が破られたことが、此度の「郵政政局」に特徴的な風景であるけれども、野中教授は、此度の選挙が、衆参両院関係といった日本の統治構造の抱える問題を再考する契機になると展望している。雪斎の論稿はさておくとして、山口二郎教授と野中教授の論稿は、眼を通して置くべきものであろう。
 ところで、この特集には、佐々木毅先生と山口二郎先生が名前を連ねている。佐々木先生も山口先生も、雪斎にとっては「恩義」ある師匠である。お二方からは、「また、つまらぬものを書きおって…」と叱られるかもしれないけれども、雪斎は、二人の「師匠」と同じ媒体に論稿を寄せるようになったことを内心、うれしく思っている。

  □ 社会上の「活力」を保つために必要な「構造改革」
 郵政民営化関連六法案の参議院本会議での否決は、盛夏の衆議院解散・総選挙という異例の事態を誘った。小泉純一郎(内閣総理大臣)は、解散直後の記者会見の席で、「郵政民営化ができなくて、どのような公務員削減、行政改革ができるのか」と問い掛けた。小泉の問いが示唆するのは、郵政民営化が「改革の本丸」といった言辞とは裏腹に、自らが標榜する「構造改革」路線の「終着点」ではなく「通過点」に過ぎないということである。実際、英国紙『ザ・タイムズ』は、「日本における『真昼の決闘』」と題された記事の中で、「国会内での崩落は、小さな政府(smaller government)か旧式の費用が高く付く大きな政府(the old-style high-spending big government)かを選ぶ岐路に日本を押し遣った」と書いた。此度の総選挙の争点は、表面的には郵政民営化の是非であるけれども、本質的には「小さな政府」への歩みを速めるのを是とするか、あるいは非とするかということなのであろう。
 振り返れば、「冷戦の終結」以後の我が国の政策路線を提案したものとして最も人口に膾炙したのは、十余年前に小澤一郎(民主党副代表)が示した「普通の国」の概念であった。小澤が想定した「普通の国」とは、端的にいえば、対内的には「小さな政府」を指向する一方で、対外的には諸々の課題に対応する際に軍隊の使用を含めた積極性を示す「強い政府」への指向を中身にしていた。小泉が執政下に進めてきた諸々の施策は、道路公団民営化であれ自衛隊部隊のイラク派遣であれ、そうした「小さな政府」や「強い政府」への指向を具体的に表示するものであった。それ故、小澤と小泉は、それぞれ自民党田中派と福田派に身を置いた頃から政治家としての道程においては重なり合うところが少なかったかもしれないけれども、実際に指向した政策の色調においては相当に似通っていた。小澤と小泉の決定的な違いは、小澤が細川護煕・羽田孜の二代の政権下で与党最高実力者として政権の背後から影響力を行使する手法を採ったのに対して、小泉が現時点ですら四十パーセントを越える支持率を背景にして自ら宰相としての権力に拠りながら諸々の施策を進めていることにあろう。そして、多くを成し遂げたのは、小泉であったのである。
 ところで、郵政民営化法案審議から衆議院解散・総選挙に至る政治過程の中で小泉に投げ付けられたのは、「強引な手法」、「強権的」、「独裁的」といった類の批判であった。しかし、そうした批判は、十余年前には小澤に向けられていたものではなかったか。一九九〇年代の我が国の政局を突き動かしていたのが、小澤に対する「反」の感情であったとするならば、二〇〇一年以降の政局を動かしてきたのは、小泉に対する「反」の感情である。たとえば、郵政民営化法案に反対した自民党「造反派」議員は、この法案に代わる郵政事業の「青写真」を示していたであろうか。「造反派」は後に造反の理由を説明したけれども、その理由が多岐に渉っていたという事実は、造反という政治選択の核にあったものが、小泉に対する「反」の論理や姿勢に他ならなかったことを示している。そして、現在の小澤が最高幹部として身を置いている民主党が「造反派」とともに郵政民営化法案に反対したという事実は、民主党もまた結局のところは小泉に対する「反」の論理や感情でしか動いていなかったことを示している。ただし、そうした「反」の論理や感情は、それに拠る人々に何らかの正義を背負っているかのような錯覚を与えるものであったとしても、何ら積極的なものを生み出せるわけではない。もし、民主党
が綿貫民輔〈元衆議院議長〉らの国民新党や田中康夫〈長野県知事〉らの新党「日本」のような「造反組選挙互助会」新党との提携を実現させたとしても、その提携によっては、何らかの政策の指向が打ち出せるわけでもあるまい。「反」の論理や感情が持つ限界は、そうしたものなのである。
 筆者は、小澤の「普通の国」路線と同様に小泉の「構造改革」路線を一貫して支持してきた。小澤と小泉の政策路線には、「小さな政府」を標榜し、たとえば「自助努力」の意義を強調する余りに、「格差」を容認し「平等」の価値を軽視するという批判が向けられた。しかし、我が国の本質的な課題は、現在の我が国が持つ経済上の実力や社会上の活力を、どのように保つかということに他ならない。そうした社会上の「活力」を前提にしてこそ、我が国は、どのように対外的な影響力を発揮し対内的な「公正」を確保するかということを議論できるのではなかろうか。此度の総選挙に際して下されるであろう「構造改革」路線への評価は、この社会上の「活力」の維持という観点からも判断されるべきであろう。
  雑誌『論座』(二〇〇五年十月号)掲載

|

« 「遊戯」としての政治、愛知和男氏の出馬 | Main | 「怪情報」も踊る浜松 »

「国内政治」カテゴリの記事

「雑誌に寄稿した原稿」カテゴリの記事

Comments

対外政策においても対内政策においても雪斎
先生とは相容れない人々が読者の中心な雑誌で
ある以上(ちょうど小泉自民対公明の関係に
なってますね)、この雪斎先生の文章はかなり
異質なものとして受け止められることは間違い
ないと思います。
読者が雪斎先生の文章をどう受け止めるかで、
文壇における「戦後民主主義者」の勢力の消長が
見えてくるのではないかと思います。今世間様の
流れは、確実に彼等のいうところの「保守反動化」
なわけですから。
また許容ではなくて反発の態度を彼等がとったと
しても、その反発の言葉が雪斎先生ならびに
C象限に属する人々(σ(^_^;を含む)の心をどれだ
けとらえられるかも興味深いところであります。

Posted by: おおみや%NEET | September 05, 2005 at 07:07 PM

雪斎殿・ぐっちさん・かんべい先生のご意見・ご見識ほとんど全て納得です。が、しがない団塊の小父さんからすると、小泉さんが何故「国会議員の削減」に言及しないのか?郵便屋の小父さんをリストラする前に、国の借金(750余兆円)をなんとかすることが「改革の本丸」ではないでしょうか?すべての国民を納得させる術は「まず隗より始めよ」つまり、国会議員数の3分の1カットか、議員歳費の3分の1カットを国民に「政権選択」させるのが、「本当の改革者(織田信長を気取るなら)」のなすべき、国民への真摯な態度では?あらゆる既得権益の権化は、永田町の「先生集団」であることは、「議員年金の存在」で明らかなのだから?国会議員(地方議員も含め)のカットの賛成か、反対か?この民意を問い、50年後には、「無借金国家日本」を造るのが、政治の最優先課題と考えます。将来の取得年金見込み額5万円前後の、やせ衰えた「犬の遠吠え」ですが?

Posted by: 団塊のやせ犬 | September 06, 2005 at 10:29 AM

雪斎様、いつも更新を楽しみにしております。
今日は初めてコメントをさせて頂きます。

小泉首相は8年前、国会議員永年在職(25年)表彰を
「自分が国会議員をやってきた25年のうちに国の財政も悪化してきた。
その責任を担っている自分が表彰を受け、特典を得るのはおかしい」
と辞退されたそうですね。
どの党の政治家も例外なく恩恵を預かってきた特典とは、
100万円の肖像画、
特別交通費として年額360万円(非課税)、
これについては引退後も終生だそうです。
そしてこの制度?は後に小泉さんによって廃止されたとか。
雪斎様、この情報は信じて宜しいものでしょうか。
事実であれば、是非団塊のやせ犬様にも知って頂きたいと思います。
小泉首相はこの3年間の成果をみても、出来る事ならやっている、
と私は思っているものですから。


Posted by: ポルタ | September 06, 2005 at 04:50 PM

・おおみや殿
「論座」に書くのは、目下の拙者にとってはエキサイティングなことです。次は、「世界」だなと思っています。
・「団塊」殿
拙者は、衆議院定数300、参議院定数100にすべきだと考えています。ただし、議員を支えるスタッフは、公費で今の倍ぐらいは賄うべきであろうと考えています。今の議員の立法・政策立案活動は、一人の政策担当秘書に支えられています。これでは、「行政官僚主導打破」を口で唱えても、駄目なのです。日本は、立法府には金を掛けていませんのでね。
・ボルタ殿
御指摘の件は、拙者は承知しておりません。「そんな話があったかな…」という反応しかできません。ただし、拙者は、議員年金廃止云々という話は、本来は瑣末なことと思っています。拙者は、「重い責任を伴う仕事をしている人々には、相応の報酬が与えられるべきである」と唱えていますので、その議員年金云々が「相応の報酬」の範囲である限り、何ら受け取ることに不合理性はないと心得ます。もっとも、そのためにも、議員の「選別」は徹底して厳格にすべきでしょう。


Posted by: 雪斎 | September 06, 2005 at 06:10 PM

>ボルタ様
http://www.sankei.co.jp/pr/seiron/koukoku/1998/9801/interview.html
「正論」編集長によるインタビューのなかでそのことに触れています。

Posted by: がり | September 06, 2005 at 07:00 PM

雪斎様、
つたないコメントに応えて下さりありがとうございました。
これからも陰ながら応援させて頂き、勉強もさせて頂きます。

がり様、
事実と確認出来て嬉しいです。ありがとうございました。

Posted by: ポルタ | September 06, 2005 at 09:04 PM

雪斎氏にこのような事を言うのは、釈迦に説法かと思いますが、小沢氏は「キング・メーカー」となり影響力を長期間保持できるようにしようと考えたのに対し、小泉首相は「指揮官先頭」で反対勢力に対して切り込んでいった。この差が結局は両政治家の差となってしまったのではないか、と思います。
古来、日本では、天皇や将軍のようなトップははほとんどの場合お飾りであり、実権を握っていたのは、藤原家であったり、執政であったり、家老団であったりしました。そして、緊急事態にはこうした権威を錦の御旗として、一致団結して事に当たりました。
自民党でも、中曽根首相以降は似たような事態に陥っていたように思います。つまり、実権を握るのは党執行部であり、首相はあくまで対外的な顔に過ぎない。それ故、1990年代にあれだけ首相が変わったにも関わらず、自民党は安泰でした。
小沢氏はこの状況を確固たるシステムにし、自らが「キング・メーカー」として長期間君臨できるようにしようとして失敗したように感じます。
それに対して、小泉首相は「指揮官先頭」を率先して行う事によって、この国の政治伝統ではほとんどなかった(精々戦国時代の武将の一部くらいでしょうか)「トップ・ダウン」による政策運営機構を構築しようとしているように感じられます。内閣機能の強化はその一環と思われます。
この選挙で、小泉自民党が勝つ事の意味は、実は郵政をはじめとする諸課題の解決を促進する以上に、日本の政治伝統を変えるきっかけになるのかもしれないと、考え始めています。
この選挙の持つ本当の意味は、しばらく時を経たないと理解しきれないのかもしれません。

Posted by: とのじ | September 07, 2005 at 05:23 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/71618/5775287

Listed below are links to weblogs that reference 雑誌『論座』に寄稿した「9・11選挙」論:

» 歴史を繰り返すだけか [Hotta World:: 「活・喝・勝」]
1980年5月16日、衆議院が解散された。いわゆるハプニング解散である。 現在、テレビタックルなどの出演している浜田幸一代議士のラスベガスカジノ疑惑などのスキャンダルに対し、当時の日本社会党などの野党が、大平内閣不信任決議案を提出した。 その時、自民党の福田派、三木派などが造反して欠席し、予想に反し...... [Read More]

Tracked on September 05, 2005 at 06:16 PM

» [時事評論] 9.11総選挙と「その後」に向けて [ピョートル4世の「孫の手」雑評]
[http://d.hatena.ne.jp/Pyotr1840/20050905/1125916305:title] [http://d.hatena.ne.jp/Pyotr1840/20050905/1125916306:title] [http://d.hatena.ne.jp/Pyotr1840/20050905/1125916307:title] [Read More]

Tracked on September 06, 2005 at 01:37 AM

» [politics][economy]再び雪斎さんへ [bewaad institute@kasumigaseki]
「論座」2005.10号における選挙特集に雪斎さんが寄稿された論考が、ご本人のblogに再掲されています。つい先日も雪斎さんのエントリへの反論をさせていただいたところですが、ネットでも公開されたことに甘えて、この論考について思うところを述べたいと思います。このような機会を与えていただき、雪斎さんには心より感謝申し上げます。 拝読してwebmasterが最も異議を申し上げたいのは次の部分です(強調... [Read More]

Tracked on September 07, 2005 at 04:37 AM

» お粗末な歴史認識と、不可解な「小泉」郵政民営化貌 [log]
 今回の選挙で、拉致問題が全く争点になっていないことは、本当に、心から憤りを感じている。二年前の参移�任聾�篌圓�蕷�膂様蠅�蠎,い世箸いν�椶気鵑慮耄梢討砲癲∈G�論爾垢薐櫃�蕕覆ぁA芦鸛�鵑任�巴很簑蟆魴茲悗琉婬す�澆魘�瓦掘�稿�蘋發僕�椶気鵑領..... [Read More]

Tracked on September 07, 2005 at 06:52 AM

« 「遊戯」としての政治、愛知和男氏の出馬 | Main | 「怪情報」も踊る浜松 »