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September 23, 2005

十年一昔

■ 第一衆議院議員議員会館内の愛知和男事務所は、まだ、がらんとした空間である。愛知代議士の蔵書も運び込まれている。高坂正堯、村上泰亮といった今は亡き碩学の著書である。
 十年前、愛知代議士は、『ここを変革すれば日本は必ずよくなる』(かんき出版 1995.9.16第1刷)という書を刊行していた。久しぶりにページをめくって見た。

 この書は、十年前の愛知代議士の「マニフェスト」である。刺激的な項目が続く。
 ○ 郵貯は民営化、あるいは廃止せよ。
 ○ つぶれるべき銀行はつぶせ。
 ○ 農協を解体せよ。
 ○ 霞が関の行政官僚の内、法案起草に関心のある者は、立法府に移す。
 ○ 環境を軸に産業革命を起こせ。
    … などである。
 雪斎も、あらためて苦笑する。「代議士も、十年前には、かなり、ぶっとんだことを書いていたのだな…」と思う。しかし、その「ぶっとんだこと」が続々、実現されているのが、この数年の風景である。愛知代議士は、小泉総理並みの「構造改革論者」である。その愛知代議士に長年、雪斎は仕えていた。「反・小泉」感情で凝り固まった保守論壇方面には、「○○(雪斎の本名)は自民党執行部に擦り寄った」と漏らす向きもあるようであるけれども、どこに眼をつけているのであろうか。
 政策担当秘書が十二分に活躍できるための条件は、仕える議員と政策志向が相当な程度まで重なり合っていることである。「将帥は参謀を選ばなければならないけれども、参謀も将帥を選ばなければならない」のである。

■ 下掲の原稿は、『月刊自由民主』10月号に掲載されているものである。雑誌中には、かんべえ殿が書評原稿を寄せておられる。それにしても、この原稿を書いていた先月20日頃時点では、今の状況を予測できなかった。

  □ 『月刊自由民主』寄稿原稿 「都市型政党」としての自民党の岐路

 自由民主党という政党は、従来、面妖さを発揮し続けた政党である。郵政民営化関連六法案の参議院本会議での否決は、即日の衆議院解散と九月十一日投票の総選挙実施という事態を招いた。少なくとも昨秋の参議院選挙以降、「当面、重要な国政選挙は行われないのだから、小泉純一郎内閣は内外の政策課題に腰を据えて取り組むことができる」というのが、大方の見方であった。しかも、戦後、八月から九月中旬にかけての炎天下の時期に総選挙が実施された事例は、一つもない。此度の事態は、幾多の人々にとっては明らかに「想定の範囲外」の出来事であり、そうした「想定の範囲外」の出来事を出現させることを躊躇しなかったことに、郵政民営化法案成立に向けた小泉純一郎(内閣総理大臣)の決意が表されていたといえよう。
 世上、此度の総選挙に際しての自民党の「分裂」が指摘される。しかしながら、それは、何を巡っての「分裂」であったのか。
 後世の史家が自民党の歴史を研究し、小泉の自民党総裁としての事績を評価したとするならば、それは、「自民党を都市部でも勝てる政党に変貌させた」というものになるはずである。事実、過去十数年、自民党は「都市部では全然、勝てない政党」であり続けた。二〇〇〇年六月の総選挙では、大都市圏のみならず地方主要都市の選挙区でも有力議員が続々と落選し、そのことは「一区現象」と呼ばれた。自民党の手法は、久しい間、田中角栄が象徴的に体現したように、中央政府の「富」を地方に還流することによって地方の振興を図るというものであったけれども、その過程では、特定の層との間に「特別な利害関係」が生じた。しかしながら、地方でも都市化が進み、幾多の市民が「無党派層」と化していく中では、このような自民党の手法は、都市層には受け容れ難いものになっていた。特定の地縁や血縁、あるいは利害関係を持たない都市層にとっては、自民党の手法は特定の層の利害にばかり眼を向けるものと映るようになっていたのである。河野洋平の「新自由クラブ」に始まり、細川護煕の「日本新党」、武村正義を中心にした「新党さきがけ」、あるいは小澤一郎や羽田孜が率いた「新生党」に至るまで、昔日、以前には自民党に籍を置いた政治家が旗揚げした政治集団は、そうした都市層の不満を吸収しようとする試みに他ならなかったけれども、自民党それ自体が都市層に眼を向けた政党になるための動きは、遅々として進まなかったのである。
 小泉の自民党総裁としての登場は、自民党が都市層に背を向けてきた流れを明らかに逆転させた。小泉麾下の党執行部が民営化法案「造反派」議員を徹底して干し上げる姿勢を鮮明にしたことを前にして、「これで自民党を支持しやすくなった」と漏らす声は、都市層には少なくなかった。事実、小泉内閣支持率は現時点でも四十パーセントを越えているし、衆議院解散直後に行われた各種世論調査の結果が示したのは、内閣支持率と自民党支持率の上昇であり、過半数の層が郵政民営化と解散・総選挙に賛成しているということであった。ここで支持率が上昇した自民党とは、特定の層ではなく広く無党派層の支持に立脚した政党である。自民党の「都市型政党」化は、都市層からは歓迎されているのである。しかも、現行の小選挙区制は、誰であれ、無党派層からも票を得なければ、当選が覚束ない仕組になっている。「造反派」議員は、そうした現実をどのように把握していたのであろうか。その意味では、此度の総選挙は、表向きは郵政民営化の是非を争点にしているけれども、小泉麾下の自民党の「都市型政党」化への評価もまた、隠れた争点になっているのである。
 本稿を執筆している八月下旬時点では、此度の総選挙の結果を予測することはできない。自民党の「都市型政党」への脱皮を加速させようとする小泉の実験が、実を結ぶことになるのか。小泉の実験に対する「造反派」議員の疑念が、世の人々の共感を集めることになるのか。それとも、「本家・都市型政党」を自称するかもしれない民主党が、そうした自民党内対立を尻目に「漁夫の利」を得ることになるのか。何れにせよ、自民党が今後も政権を担う政党であり続けるためには、「都市型政党」への脱皮を進めるしかない。周囲の変化に対応できない存在は、死滅する他はないのである。■







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Comments

銀行は完了形。郵貯・役人の登用は進行中。
農協はこれから大騒動。環境はキーワード
ではあるが、産業革命までにはまだいたら
ない。
ってなところでしょうか。また10年もすれば、
大きく状況が変わっており、環境以外は全て
完了形。環境がキーワードな産業構造の変化が
進んでいても驚きではありません。

Posted by: おおみや%NEET | September 24, 2005 at 12:24 AM

ここに書くのが妥当かどうかわかりませんが、愛知さんのHPがリニューアルされていましたね。これからの更新が楽しみになりそうです。

Posted by: 宵の明星 | September 28, 2005 at 11:17 PM

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