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August 04, 2005

学者とカネ

■ 先般、本多静六博士の二著『私の財産告白』、『人生計画の立て方』を詠む機会を得た。本多博士は、次のような人物である。
 1866(慶応2)年、埼玉県菖蒲町(当時は河原井村)生まれ。苦学の末、84(明治17)年に東京山林学校(のちの東京農科大学、現在の東大農学部)に入学。一度は落第するも猛勉強して首席で卒業。その後、ドイツに私費留学してミュンヘン大学で国家経済学博士号を得る。1892(明治25)年、東京農科大学の助教授となり、「4分の1天引き貯金」と1日1頁の原稿執筆を開始。1900年には教授に昇任し、研究生活のかたわら植林・造園・産業振興など多方面で活躍するだけでなく、独自の蓄財投資法と生活哲学を実践して莫大な財産を築く。1927(昭和2)年の定年退官を期に、全財産を匿名で寄付。その後も「人生即努力、努力即幸福」のモットーのもと、戦中戦後を通じて働学併進の簡素生活を続け、370冊余りの著作を残した。1952(昭和27)年1月、85歳で逝去

 「学者はカネにならない商売である」というのが、世間の共通認識である。雪斎も、その共通認識は正しいと思う。雪斎は、政策担当秘書から現在の大学教員としての立場に転身した折に、年収ベースとして二割減と相成り、酷くショックを受けたことがある。もっとも、代わりに手にしたのは、途方もなく自由に使える「時間」であった。雪斎の学者としての日常は、かなり忙しいのであるけれども、それは、色々な仕事を自ら引き受けたが故のことである。
 本多博士の足跡は、そういう「学者とカネ」にまつわる共通認識を一掃してくれる。本多博士は、定年退官時に全財産を寄付するまでは、別荘地六箇所、金融資産数百万、山林田畑一万町歩を手にしたのだから、恐れ入る。これが、帝国大学卒初任給80円といわれた時期であるから、現在で云えば数十億というイメージになるのであろうか。博士は既に40歳になった頃には、株式配当・利子収入が大学からの給料を上回っていたのだそうである。確かに、凄い富を蓄えたものだと思う。
  『私の財産告白』の書の帯には、次の言葉が抜き出されている。「いまここに、長い過去をかえりみて、世の中には、余りにも多くの虚偽と欺瞞と御体裁が充ち満ちているのに驚かされる。財産や金銭についての真実は、世渡りの真実を語るに必要欠くべからざるもので、最も大切なこの点をぼんやりさせておいて、いわゆる処世の要訣を説こうとするなぞは、およそ矛盾も甚だしい」.。確かに、特に学者の世界では、カネのことについて語るのは、意地汚いと思われる雰囲気はある。日本では、明治以降、アカデミズムの基本的な精神を造ったのは、明治の「藩閥」に属することのできなかった幾多の士族である。たとえば、日本の政治学の祖、小野塚喜平次は、旧長岡藩出身、明治末期の東京帝國大学総長、山川健次郎は、旧会津藩出身である。伝統的に日本のアカデミズムに支配的なのは、禁欲的な「武士のエートス」である。しかし、こうした雰囲気は、たとえば英国などでは、考えにくいものかもしれない。そのことは、ジョン・メイナード・ケインズが朝方、起床したばかりのベッドの中で株取引をやるのを日課といたというエピソードに触れてみれば、明らかであろう。
 本多博士の場合、カネを持っていることは「自由の担保」と考えていたようである。なるほど、学者は、「時間」に関しては、誠に自由な存在であるけれども、「カネ」からも自由になれれば、本当に「やりたいこと」に没頭できる自由を手に入れられる。学者にも、カネが要るのである。
 『私の財産告白』で興味深いのは、人生の段階、段階ではやることが違うという指摘である。
 25歳から40歳までは、勤倹貯蓄
 40歳から60歳までは、勉学著述
だそうである。25歳以降、自分の給料の4分の1を最初から天引きして貯蓄に回し、それを種銭にして投資する。投資するのは、不景気の時期であり、好況の時期には現金にして持っている。それを繰り返せば、自然に富は増えるのだそうである。そして、40歳くらいにカネの気を煩わせることもなくなったら、遠慮なく「勉学著述」だそうである。いやはや、参考になりました。雪斎は、そう思う。政策秘書時代の給料は銀行に放り込んだまま何も考えなかったのは、本当に愚かであった。少なくとも10年前に、本多博士と同じことを始めていれば、今頃は…と思うが、反省するしかない。
 本日、日経平均株価は、12000円の大台に到達できずに急落した。「♪よく考えよう。お金は大事だよ-」というCMソングがあるけれども、その通りだと思う。

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Comments

早い話、株・投信・債券あたりの配当だけで
(日本の預貯金の話をするのは現実味がないですが:笑)
食べていければ給料のことを気にしなくても、
自らの良心に従って著述できるわけです。
雪斎先生のご専攻の場合、それはかなり
魅力的な立場なのではないかと思うの
ですが。
σ(^_^;の場合狸系ですからポストがないと
仕事にならんのですが。
どうにもならんのですが。

Posted by: おおみや%NEET | August 04, 2005 10:12 PM

学者残酷物語ですね。収入2割減というのは過酷です。私みたいに学生の頃から貧乏暮らしに慣れてしまうと、まあこんなもんかなと悪慣れしてしまいます。

あまり書くべきではないでしょうが、日本の大学の方が報酬という点では英米の研究者よりも恵まれています。イギリスに行ったときに薄給さを聞いて日本でよかったと思いました。

医者の不養生、経済学者の不経済、あとは何も申しますまい。

ケインズの方が経済畑以外の方には知られているのでしょうが、フリードマンはもっと強烈です。私は才覚がないのでどうにもなりません。

>>おおみや様
理系のポスドクの厳しさは半端ではないと思います。文系では"public or perish"だったのが今では"public and perish"になりつつあります。私も何度もあきらめかけました。おおみや様のHNから%NEETがとれる日を早く見たいと思っております。

Posted by: Hache | August 05, 2005 05:19 AM

>Hache先生
 ありがとうございます。何とか仕事を見つけられるよう
私なりに努力してみます。

Posted by: おおみや%NEET | August 05, 2005 08:23 PM

今日はご馳走様でした、そして良い話を聞かせてもらいました、ありがとうございます。
私は、私と子供の未来の為に金持ちお父さんになります。
また、アドバイス下さいね!

Posted by: 三浦 泰造 | August 05, 2005 10:49 PM

誤字脱字の類はネットでは放っておくたちですが、あまりに失礼なので訂正いたします。
誤:pubic 正:publish

Posted by: Hache | August 06, 2005 01:11 AM

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