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August 10, 2005

見果てぬ夢…

■ 一昨日夜、小泉総理の記者会見は、途中から見た。会見での発言の全文は、既に官邸のウェブ・サイトに公開されている。
  □ ガリレオ引き合い…首相、是非を国民に聞きたい
 「ガリレオは、それでも地球は動くと言った」――8日午後8時半から首相官邸で会見に臨んだ小泉首相は、地動説を唱えたイタリアの物理学者ガリレオ・ガリレイを引きあいに出し、衆院解散の正当性を強調した。
 ガリレオは天動説が「常識」だった時代に1人地動説を唱えたために宗教裁判にかけられた。首相はその境遇を、自らに例え、「国会で郵政民営化は必要ないという結論を出されたが、もう一度、国民に聞いてみたい」と訴えた。その上で、「なぜ郵政だけ公務員でないといけないのか」「反対勢力は公務員の特権、身分を守ろうとしている」と強い口調で持論を繰り返した。
 総選挙の行方に関しては「やってみなければ分からない」とも。また衆院本会議の法案採決の際、棄権したり欠席したりした議員についても「(郵政民営化に)賛成するなら公認も考えたい」と話すなど胸の内もにじませた

 この『読売』の記事を読んだとき、雪斎が考えたのは、「何故、小泉総理が言及したのは、ガリレオ・ガリレイだったのか」ということである。昨日夕刻以降、かんべえ殿が「顔役」になっている研究会の席で、尊敬する「政策知識人」の一人であるW氏と話をした折に、「何故、小泉さんは、自分の首を差し出す代わりに、法案を通すことを考えなかったのか」という疑問が出た。雪斎は、「小泉総理がやりたいのは、郵政民営化ではないのかもしれない…」という見方を示したけれども、小泉総理の「ガリレオ・ガリレイ」は、そうした想いを強くさせる。

 松本幸四郎さん主演のミュージカル『ラ・マンチャの男』では、有名な『見果てぬ夢』が歌われる。郵政法案審議の最中、「あなたはドン・キホーテだ」と揶揄された小泉純一郎総理は、『見果てぬ夢』の一節を引用しながら、法案成立への意志を語ったのだそうである。なるほど、この『見果てぬ夢』の世界は、小泉総理ならば好みそうだなと思う。


夢は稔り難く
敵は数多なりとも
胸に悲しみを秘めて
我は勇みて行かん
道は極め難く
腕は疲れ果つとも
遠き星をめざして
我は歩み続けん
これこそは我が宿命
汚れ果てし この世から
正しきを救うために
如何に望み薄く 遥かなりとも
やがて いつの日か光満ちて
永遠の眠りに就く時来らん
たとえ傷つくとも
力ふり絞りて
我は歩み続けん
あの星の許へ

  ―福井峻訳「見果てぬ夢」騎士遍歴の唄

 ガリレオ・ガリレイも ミゲル・デ・セルバンテスも、「ルネッサンス人」である。そして、この二人の偉才の歩みを阻んだのは、中世という「旧時代」の価値観を体現する「宗教裁判」であった。拙ブログの「御本尊」として扱っているニコロ・マキアヴェッリもまた、その著『君主論』は長い間、教会から公開禁止処分の対象になっていた。
 もしかしたら、小泉総理は、自分のことを「ルネッサンス人」だと思っているのかもしれない。もし、そうであるならば、「郵政民営化」なるものは、「日本ルネッサンス」を到来させるに至るまでの「序二段」、「三段目」の段階でしかない。総ての人々が活力を保って生きている社会を実現するためには、「既得権益に胡坐をかいている層」は、できるだけ削いでいかなければならない。、「既得権益に胡坐をかいている層」は、郵政関係以外にもあるのである。小泉総理が「郵政民営化」を「この程度の改革」と評した意味は、誠に深いのである。
 これは、小泉総理のことを買い被った見方であろうか。ただし、雪斎は、小泉総理や竹中平蔵氏と同様、「独立自尊」教徒であるから、こうした考えに至るのは当然であろう。

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Comments

小泉首相の「この程度の改革」、平沼議員の「こんな小さなテーマで自民党をつぶし」、この二つの表現に興味を持っています。

前者は「大きな街道の一里塚」、後者は「大きな街道の脇の小道」、との認識でしょうか。

平沼議員や反対派にとっての大きな街道とは何なのでしょう? 

本日のアメリカ有力経済紙 ウォール・ストリート・ジャーナルの記事が、冴えていました。

「選択肢は明確! 親米か親中か。」、「国家の魂に対する戦い」、との論評。

小泉首相にとっての「街道」とは、国家観だと思います。それを、アメリカの新聞は正確に理解しています。日本の新聞も、ゴチャゴチャした記事を並べず、ズバッと、この論点に着目して欲しいものです。

Posted by: 自由の女神 | August 10, 2005 at 02:44 AM

初めて投稿します。雪斎さんの見事な分析をいつも楽しみにしている者です。

今回の「郵政は第一段目」という分析は、多くの人が薄々感じていることなのでしょう。実際、歳出削減をメインにした財政再建の方が成功する可能性が高い、という経済学の実証研究もあります(ある日本経済研究者によれば、これが橋本内閣のアンチョコになったとか)。もちろん、日本の税収のGDP比率はOECD諸国でも最も低い水準にあり、増税の余地はあります。しかし、財政再建の主戦力が政府支出の削減になるのは避けられないわけでして、、、小泉さんの打ち出している「小さな政府」路線は「時代の要請」であると考えます。その文脈において「郵政は一里塚である」となるのは自然な流れです。

私は、海外に在住(早くも7年目に突入しました)しているため、今回の解散総選挙について日本国内の状況がどのように報じられ、それがどのように受け止められているのか、ということについて生で体験しているわけではありません。しかし、今回の総選挙、小泉さんの自民党は結構もちこたえるのではないのかな、と個人的には考えています。国民の民意云々(小泉改革に基本的賛成だが、今回の造反議員に代表される「古い」自民党にはノーである。民主党には期待しているが、政権獲得までは時期早々である、等々)もさることながら、今回に関しては、小泉さんは「主導権を握り続ける」べく徹底的に攻めに出ざるをえない、と考えるからです(本当は、亀井氏サイドが先手を打つ必要があったのですが、彼らの政治センスの欠如には呆れてしまいました。まあ、そんなセンスがあれば賛成しますか。因みに、私も「僅差で可決」派でした<笑>)。私も昨日の小泉さんの会見の動画を見ましたが、少なくとも、緒戦においては主導権を握るのに成功したようですね。民主党も郵政について対案を出していたならばまた違った展開になったかもしれませんが、、、まあ、官公労がバックにいる限り無理ですね。

恐らく、これからの1ヶ月、主導権を握り続けるために、小泉さんは考えられる限りの手を打ってくるでしょう。そして、主導権を手放さないならば、近年稀な本格政権となった宰相小泉純一郎の一世一代の大勝負、彼が勝つような気がします。

Posted by: 東行 | August 10, 2005 at 03:11 AM

昨晩はお疲れ様でした。

Wさんの言うとおり、郵政民営化法案の成立を確実なものにするためには、退陣と同時に自分が信用できる後継者を選び、最後まで見届けるのが得策でした。ただしそれは竹下流の政治術というもので、本来不器用な小泉さんには思いもよらない手法だったのではないでしょうか。

小泉さんの不器用さは、従来の永田町の常識から見ると「変人以上」あるいは「温かみがない」と映ります。他方、国民から見れば「分かりやすい」「潔い」となり、人気の源になる。
ただし、かかる小泉流が、無用の政治的資源の浪費を招いていることも忘れてはならないでしょう。

Posted by: かんべえ | August 10, 2005 at 05:54 PM

小泉首相が会見でどういう例えを引いて
くるのか興味深く聞いていたのですが、
ガリレオ・ガリレイの名が出てきたときに、
総理の覚悟のほどを悟りました。ご自分の手で
この国のここ数十年ほどの流れを決定づける
つもりなんだなぁ、と。

>かんべえ先生
紫の袱紗を見た瞬間「国民投票の制度」が
あれば、と思った私は間違ってるでしょうか?

Posted by: おおみや%NEET | August 10, 2005 at 10:14 PM

不器用ですか。なるほどと思いました。古い話で申し訳ないですが、田中外相更迭のタイミングの悪さは驚くというより不可解でした。不器用だと言われれば合点がいきます。「無用の政治資源の浪費」も同感ですね。

ただ、小泉首相が「大人の解決」ができる方だったら、そもそも現政権はなかったと思います。さらに言えば、ブッシュ大統領は不器用さでは小泉首相よりも一回り大きい。中東が難しいから六ヶ国協議なんて筋悪もよいところでしょう。案の定、足止めを食らっている。他方で、日米の両首脳がナイーブでなかったら、現在の日米関係はなかったかもしれない。単にナイーブなだけではなく「独立自尊」という点では両者が共感するところが大なのでしょう。

今回の政局が4年前、あるいは3年前だったら、雰囲気がまるで違ったでしょう。やはりタイミングが悪い。選挙はやってみなければわからない。ただ、「大人の解決」は無筋だと思います。郵政で解散なんてバカバカしいとは思いますが、この後に控えている課題を考えると、政権がいくつ潰れもおかしくない。「大人の解決」で成立した政権では到底無理でしょう。

首相は畳の上で死ねない人生を選択されたように見える。何を求めたかといえば、自分の信念が時代の要請にこたえるのか否かということでしょう。おそらくこのような機会に恵まれること自体が幸運なのでしょう。それが日本人にとって幸いか否かは別の問題ですが。

Posted by: Hache | August 10, 2005 at 11:35 PM

 なぜガリレオなのか?

 私は瞬間、少々の違和感を覚えました。

 ガリレオの逸話は中学生でも知っています。ですので、例のポピュリズムかなぁ?とまず思いました。郵政改革につき国民投票を行うつもりなのでしょう。

 ガリレオは宗教裁判で火あぶりの刑を回避するため持論を撤回したのです。しかし「それでも地球は動く」とつぶやいたと・・・。
 
 少々深読みかもしれませんが、小泉さんは政局はめっぽう強く、勝てるという見込みもあるのでしょうが、一方では「こりゃ民主党にもってかれるなぁ?」と思っているのかもしれません。

 小泉さんは世論に埋もれる国民の「声なき声」を確実に意識しているから、自信が孤立しているとは思っていません。ですから、解散に踏み切った。

 しかし、2期目に入った彼はまた歴史もを意識している。時が経てば必ず自分は評価されると思ったのでしょう。しかしそうならわざわざそんなこと言わなくていい。黙って短陣しても良かったのです。

 きっと、不安なんだと思います。

 総選挙は、郵政改革を問う国民投票なら小泉さんの勝ち。しかし、通常の政権選択選挙であれば、民主党の勝ちでしょう。

 個人的には、岡田民主党には、この総選挙の性格を前者と位置づけ、今回は小泉さんに譲るだけの「よみ」が欲しかったです。それは民主党が次の総選挙で政権を獲って、国政を運営する上でもそうあるべきだったと思ってます。

Posted by: ちびた | August 11, 2005 at 10:53 AM

雪斎さんのエントリーや、皆さんのコメントでは、小泉首相の度重なる「自民党をぶっ壊す」発言に触れていませんが、このキーワードはもう少し重いのではないでしょうか?

首相の中では、「(抵抗勢力を)いつか壊さなきゃ」という使命感や切迫感が脈々と流れていたはずです。不器用というよりは、対立や抵抗を座視して「ぶっ壊す」環境づくりをしていたフシもうかがえます。

ただ、党をぶっ壊して政権を失うよりも、民主に勝ちながらぶっ壊す方が都合がいい。だとすれば、郵政法案否決は千載一遇のチャンスかも知れません。

もし郵政法案が可決されて解散に至らなかったと仮定しても、その後に別の機会でトリガーは引かれただろう…と想像しています。

Posted by: sasaki | August 21, 2005 at 04:39 AM

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